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【フォトキナ】「D600」投入で厚みを増したニコンのFX戦略


 フォトキナ2012の前には、一通りの新製品発表を終えていたニコン。このフォトキナにおける話題は、会期初日には会場近くのカメラ店で販売が開始された、軽量コンパクトのFXフォーマット(35mm判フルサイズ)採用のD600だ。

 DXフォーマット(APS-Cサイズ相当)のミドルクラス一眼レフカメラ同等の小型軽量化を果たしながら、ニッコールレンズの描写を本来の35ミリフィルムと同様の画角で楽しめる。詳細はすでに記事が多数あるので、そちらに任せたい。

 今回のインタビューでは、ニコン映像カンパニー 開発本部・本部長の山本哲也氏に、ニコン製カメラにまつわる様々なテーマについて話を聞いた。山本氏はスマートフォンの普及、Nikon 1の欧米における存在感、それにD800Eで挑戦したローパスフィルタの廃止、それに4K2Kテレビに対する期待などについて話していただいた(聞き手:本田雅一)。


ニコン映像カンパニー 開発本部・本部長の山本哲也氏

D600は独立した企画。D700後継ではない

--- D600の追加によって、FXフォーマットのカメラが3モデル揃うことになりました。D800との画素数の大幅な違いを考えると、意外に実勢価格は(会場近くのカメラ店において)近いという印象を受けましたが、どのように使い分けを意図していますか?

「D600の商品企画は、実はかなり以前から計画がありました。少し前から、手頃な価格のFXフォーマット機だったD700の後継は出ないの? という問い合わせは多かったのですが、D600はその後継ではなく、完全に独立した企画です。D700は、D3という高感度撮影におけるエポックメイキングな進化を、アマチュアの方々にも是非、楽しんでいただきたいと企画したものでした」

「一方、D600はFXフォーマットのパフォーマンスを、もっと小型・軽量のボディで実現したいというのが意図です。D3の低価格版として企画したD700とは、そこが一番の違いですね。アマチュアで趣味の作品作りに使うカメラとしては、D300と同等か少し軽いぐらいが欲しいと考えていました。そこで、D300クラスの一眼レフカメラをベンチマークに小型・軽量化に挑戦したのです。もちろん、高感度撮影も可能です」


FXフォーマット最小最軽量のD600。発売は9月27日。ボディのみでの実勢価格は22万円前後

--- D800シリーズとのコンセプトの違いをもう少し掘り下げていただけますか?

「開発時に想定していたのは、D600はカメラを趣味として楽しむ人たちに向けたもので、D800は4×5や中判カメラを好んで使ってきた、同じ趣味としてのカメラでも画質指向が強い方々、アドバンストアマチュアに適したカメラという位置づけですね。価格やサイズといった制約を超えて、何よりも良い画質を求める方にはD800シリーズの方がいいでしょう。もちろんプロでも十分活用いただけると考えています」

--- 約2,400万という画素数を採用しました。この画素数を採用した意図はなんでしょう?

「D800、D800Eは質感の表現や情報量の多さといったところをとことん重視しましたが、D600は階調表現の滑らかさに、フォーマットの大きさを使う意図があります。また、プリントする場合に、ひとつの基準として350dpiでどこまでの大きさをカバーできるか? という考え方もあります。約2,400万画素であれば、A3に引き延ばしても、さらに余裕が十分です」


多画素化で得られる表現

--- これからの一眼レフカメラの画質を考えるとき、D800、D800Eの画質というのは、ひとつベイヤー配列のカメラとしては突き抜けた、まったく違うという感覚を感じます。画素ピッチを考えると、FXフォーマットならばまだ増やすことができそうですが、今後の画素数トレンドと画質について、どのように考えていますか?

「“画素数=解像度”ということではなく、多画素を高精細や階調表現、S/N比などトータルで得られる画像を、デジタル一眼レフカメラの付加価値として評価するとき、D800の約3,600万画素では色の乗り、空気感、被写体素材の艶めかしさといったものが表現できます。A3ぐらいまでのプリントで、そこそこの画の良さを出せればいい、というのではなく、現実感をきちんと引き出したいと考えたとき、約3,600万画素に大きな意味があります」

「さらに事実上ローパスなし(実際にはローパス効果をキャンセル)としたD800Eになると、たとえば紅葉を撮影していると、1枚づつの葉にある葉脈が立体感を伴って描写させる圧倒的な情報量が出てきます。この表現力の違いこそが、画素数という”数字”を越えて大きな意味を持つものだと思います」

--- D800Eはユーザー自身が選択しての、“ローパスなし(相当)”でしたが、ユーザーの反応はいかがでしたか?

「ネガティブな反応はほとんどありませんでした。あのぐらいの画素数になると、基本的にはローパスフィルタなしでもいいのでは、と個人的には感じています。すでに高画素化や狭画素ピッチの進んだのコンパクトカメラにはローパスフィルタが入っていませんが、将来は一眼レフカメラでもローパスの有無はあまり議論されなくなるかもしれません」

「D800Eの場合、画素ピッチは5ミクロンぐらいのところなんですが、ここではまれに偽色が出る場合もあります。程度の差はありますがD800でも偽色はありますが両機種とも気にはならない程度です。D800Eでは高周波域を伸ばすことで、微細構造の情報量(色数、階調)が豊富になり、一層の高精細感を楽しむことができ、また、少し絞ってみることで光の回折効果を利用してモアレを緩和することもできます。目的に応じてレンズの種類を選択したり撮影方法で画の表情が豊かになるので、撮影テクニック、カメラの使いこなしとして面白いという声もあります」

「ユーザーが、D800Eは、ローパスなしのカメラを使いこなす、ということを理解していただければ、センサー本来の解像度を活かした画を楽しんでいただけます」


ローパスフィルターを無効化したことで話題になったD800E。実勢価格は34万8,000円前後

--- FXフォーマットで2.5ミクロンぐらいの画素ピッチを想定すると、1億2,000〜4,000万画素ぐらいでしょうか。CMOSセンサーにオンダイで事前処理回路を搭載しておき、実画素は1億数1,000万、マルチタップ参照で3,000万〜4,000万画素程度でデモザイクしてから出力といったようなことをすれば、クロマの解像度もグッと上がって来そうですがどうでしょう?

「今後、画素数がもっと多くなってくると、(オンダイで回路搭載するかどうかはともかく)マルチタップ処理で出力画素と実画素が一致しないケースも出てくるかもしれませんね。また、富士フイルムさんのフィルムの発想を取り入れた画素レイアウトも面白いですし、今までとは異なる発想の画像処理が使われるようになると思います。また、画素数がそこまで増えれば、ベイヤー配列以外の画素配列も検討し直す価値があるでしょう」

「確かにクロマ(色)の情報密度が上がってくると、映像の質感が大きく変化します。D800の約3,600万画素で得られる感覚も、画素数というよりは色情報の密度が向上することによる違いの方が大きいかもしれません」

「カメラとして考えるとき、もっとも大きな問題は光の回折なので、そこを超高画素、狭画素ピッチのセンサーで上手に処理する方法論が確立すれば、さらなる高画素化には大きな可能性があるでしょうね。2〜3ミクロンといっても、画素ピッチとしては以前のコンパクトデジタルカメラと同じぐらいですから、同じぐらいの信号品質はFXフォーマットでも出せると思います」


「フルマニュアルFX機」の可能性は?

--- 今後、ニコンのハイアマチュア向け一眼レフカメラの主軸は、FXフォーマットに移っていくのでしょうか?

「ニコンの場合、世の中にFXフォーマット対応のニッコールレンズがたくさん出ています。それらのレンズを使いたい、フルサイズの画角で楽しみたいというお客様からの期待があるので、今後もFXフォーマット対応機を充実させていけば、市場はきっと伸びていくと思っています。しかし、それではFXにDXが喰われてしまうかというと、DXフォーマットのカメラもそれはそれでバランスのいいカメラです」

「FXフォーマットカメラが充実してきたことで、従来のDXフォーマット機を使っていたお客様がFXとの間でクロスオーバーしていると思いますが、DXのちょうどいいユーザーというのは、やはりいらっしゃいますよね」

--- フォーマットという意味では、もうひとつCXフォーマットがあります。

「CXフォーマットを使ったNikon1は、それらとは全く違うカメラに仕上げたいですね。モーションスナップショットとか。毎日持ち歩くための、日常の道具としてのカメラで、レンズ交換式の楽しみを得られる。これは一眼レフとは全く異なる世界です」


9月6日発売のNikon 1 J2。レンズキットの実勢価格は7万5,000円前後

「他社の場合、たとえばミラーレス機と一眼レフで、同様のフォーマットサイズを採用し、画質面でふたつを並び立てているところもありますが、新しいレンズ交換式カメラが基本的な方針です。最近はフルマニュアル操作のカメラを作って欲しいとか、コンパクトで趣味性の高い製品をという声もありますが、Nikon1はあくまでカジュアルさを追求していきます。もちろん、撮る道具としての性能は追求をしてまいりますが」

--- フルマニュアルのデジタル一眼レフ機をニコンから、という声はそれなりにあるようですね。FM3aのような「マニュアルフォーカス、連写なし」のカメラでも、ニコンならば成り立りそうに思えますが。

「完全なマニュアル機となると、露光先がフィルムのような完全にアナログなものではなく、電子的なセンサーになりますから、全く同等の機能とはいかないのです。作ろうと思うと、そこには越えるのが難しいハードルもあります。また、ファインダースクリーンも、すでに各社生産しているものがオートフォーカス前提になっていることもあって、実際に作るとなれば工夫が必要でしょう」

「従って製品化はどうか? というと難しい、との回答になりますが、マニュアル操作を楽しみたいといったご要望も確かにあります。ここに関しては、どんなニーズがあるのかを確認しながら、様々なアプローチから解決策を考えて行きたいと思います」


スマホは日常、カメラは非日常という違い

--- コンパクトデジタルカメラの方向を向くと、このところ高級機が流行している背景に、低価格コンパクト機のスマートフォンとの競合という話がよく出てきます。この点についてどうお考えですか?

「それはよく話題になるテーマですし持論でもありますが、そもそもカメラという機器は、日常的に持ち歩いて使う道具ではないですよね。自分で意思を持って持ち歩く、非日常の道具です。何か特別な時間を過ごすときに使う道具がカメラではないでしょうか。一方、毎日持ち歩くのが当たり前の日常であるスマートフォンは、カメラとは別の利用シーンで日常の映像を撮るために使う道具なのだと思います」

「禅問答のようになりますが、そうした日常の中で撮影される写真を、高画質やモーションスナップショットといった非日常的映像として残したい。そんな時に使うのがNikon 1というイメージですね。別の切り口で言うと、スマートフォンのカメラはベストエフォートです。可能な限り、良い絵で撮ろうと努力するけれど、でもベストな写真を得られるかどうかはそのときの条件次第です。しかし、カメラはその場面において最高の写真を撮れることをギャランティする。シャッターを押せば、だれでも一定以上の品位の写真を得られる」

「そういったことを考えてみて、やはりスマートフォンはカメラへの入り口なのだと思うようになってきています。スマートフォンのSNS系アプリで写真をシェアという世界は、もちろん否定しませんが、そうしたスマートフォンの世界に対して、良い写真をどんどん送り込むのがNikon 1であり、ニコンのコンパクトデジタルカメラというイメージです」

「携帯電話、スマートフォンの市場は、コンパクトカメラ市場のざっと10倍あります。これからも市場は伸びていくでしょう。もし、スマートフォンを使っている人を例えば10億人とすると、10人に1人が“写真って面白い”と思ってくれれば、それだけで現在のデジタルカメラ市場相当になります。写真を楽しみ、好きになる場として、むしろスマートフォンは貢献してくれています。さらに、そのさらに1/10の人たちが、レンズ交換で遊んでくれればいい。カメラ市場にまだ伸びる余地がある、と考えている背景には、カメラ文化のない地域において、スマートフォンがカメラ文化の伝道役として根付き始めていることがあります」


Android OSを搭載したCOOLPIX S800c。9月27日に発売。店頭予想価格は4万8,000円前後の見込み

--- スマートフォンも一部ですが、なかなかバカにできない画を出すものもありますよね。

「確かに画質は良くなってきていますが、最後はスマートフォンの形状、すなわち薄型化という方向での進化が、カメラとの決定的な違いになっていくでしょう。このデザイントレンドが変わらない限り、棲み分けはうまく進むと思います。同時にスマートフォンの進化が早く、カメラも撮る道具としての機能を一層洗練化するとことは必要と思います」

--- スマートフォンとデジタルカメラが仲良くなる方向は、やはり無線LAN内蔵での連動でしょうか? 山本さんは無線LAN内蔵カメラ開発の草分けでもありましたよね

「ネットとの融合はキーワードと思います。ただし、無線LAN内蔵の機種もやっていきたいとは思いますが、すべてのカメラに内蔵させようと思うと、無線LANの認定を各国で取る必要が出てきます。ニコンの場合、9割以上が海外での売上げになってきています。さらに今後、アジア各国でデジタルカメラの普及が見込まれていますから、そのすべてで別々に無線装置の認可をもらっていくのは大変な面もあります。ですから、今後はFlashAirなど既存の規格を上手に活用することを考えていきたいと思っています。それから、無線LAN以外の接続手段もあわせて考えていきます」

--- 4Kテレビでの展示も行なっていましたが、カメラの楽しみ方のスタイルはどう変化していくでしょう?

「従来は紙でしか表現しなかった写真が、4K2Kテレビが登場することで、大画面に高精細な写真を出せるようになりました。フルHDの世界とは、パッと見でまったく違う世界観です。以前は“テレビに映している”ことを意識させる映像でしたが、4K2Kテレビでの写真は、まさに写真の世界観をそのままディスプレイ上に再現できる。タブレットの解像度も高くなっていますし、そうした写真の楽しみ方、さらには写真文化の変化が進んでいくと、新しい写真の見せ方ができるようになると思います。




(本田雅一)

2012/9/26 12:40