リコーGXRで撮影した写真展「Sense - GXR12人の表現者たち -」

――写真展リアルタイムレポート

 写真家にとってカメラは商売道具に違いないが、それ以前に、最高の遊び道具なのだ。新しい製品が個性的であればあるほど、彼らの撮影欲を刺激し、創作のモチベーションを高める。

 本展では12人の写真家が、リコー「GXR」を使った作品4点ずつで自らの空間を構成した。今回はその出展者より塙真一さん、清水哲朗さん、小澤太一さんに話を聞いた。

 会期は2010年3月17日~28日。開場時間は11時~20時。火曜休館。会場のリコーフォトギャラリーRING CUBEは東京都中央区銀座5-7-2 三愛ドリームセンター8F/9F (受付9F)。問い合わせは03-3289-1521。

左から塙真一さん、小澤太一さん、清水哲朗さん会場の様子

依頼されての参加ではなく……

 こうした企画展の場合、写真家がメーカーに依頼されて撮影するケースが多いだろうが、塙さんと小澤さんは「依頼されて撮ったわけではない」と言う。

 塙さんは発売前の内覧でGXRを見て気に入った。その後、約1週間、スペインに行く予定があったので、借り出したのだ。

「僕はたくさん撮るタイプなので、カメラの使いやすさ、楽しさは大事。気に入ったカメラだとショット数が増えて、おのずと良いカットもたくさんできるからね」

 塙さんがスナップショットを撮る場合、その日、その場所から受ける気分を大事にして、感性で動いていく。バルセロナは初めて訪れた街で、最初はスペインっぽい色が気になった。

「その後、彼らの生活を楽しむための生き方に眼がいき始めて、僕もそれに合わせるように行動し始めた」

 スペインの人は朝早く起きて散歩をし、夜も遅くまで街で家族一緒の時間を過ごす。シエスタ(昼寝)で1日が倍になり、それを彼らは生活を楽しむために使っているのだ。

「日本とは全く違う、その時間の流れが面白くて、僕も一緒になってみようと思った」

(c)塙真一

 早朝の散歩を撮り、市場を巡り、宵闇の街をそぞろ歩いた。帰国後、その旅行でのカットの一部をリコー側に見せると、この企画の参加を打診された。

「スペインの色や自然なんかも撮っていたけど、4枚だからそこまでは入れ込めない。そこで、人の流れと、バルセロナ独特の時の流れを感じさせる4枚を組みました」

アフリカに2週間強滞在

 小澤さんはこの製品のカタログ撮影から関わってきた。当初、この企画にはそこで撮ったポートレートを使う予定だったという。

「GXRは早くも僕のメイン機種の一つ。自分の作品づくりでアフリカに行くことがあり、そこで撮ってきたものを見せたら、そちらでいきましょうということになりました」

 訪問先は南アフリカ共和国に囲まれたレソト王国の孤児院だ。2週間強、そこに滞在し、朝から晩まで彼らと生活を共にして撮り続けた。この国も植民地やクーデターなどの苦難の歴史を持ち、HIV感染の問題も長く続く。

「これまで僕は子どもたちの明るい面を多く撮ってきましたが、今回はシリアスなシーンもたくさん見てきました。撮影枚数はトータルで2万枚。笑顔もいっぱいありますが、今回はこの国の『重さ』を出したいと思いました」

 小澤さんが人を撮る時のセオリーは、距離を置いてコンタクトを取り、徐々に間を詰めていくそうだ。そして最終的には「相手の匂いが感じられるぐらいまで近づいて撮りたい」と話す。

「だから僕の場合、サムネールを見ると、最後の方のカットに良いものが多いんです」

(c)小澤太一

直感でモノクロを選択

 清水さんはこの企画展への依頼を受けて、即座に「モノクロでやろう」と直感したという。最近、モノクロをやっていなかったからというが、12名の中で唯一のモノクロ作品となった。まずは身近な日常や娘を撮りつつ、カメラと知り合っていった。

「今年は長野に行く機会が多く、雪でいこうとひらめいた。横浜生まれなので、雪にはなじみがないのですが、小学生の頃、一度、大雪が降った。その時、初めて家の庭でかまくらを作り、それが凄く楽しかった。長野でその時の記憶が蘇ったんです」

 長野の風景と雪をモノクロームで撮る中で、自分の過去の記憶をたどり始め、自分の記憶の中で見たかった風景を探すようになっていった。

「僕は撮影では連想ゲームのように、発想がつながって発展していきます。今回はモノクロームが僕の記憶をより引き出してくれたのかもしれない」

 モノクロームで始めたら、一切、カラーでは撮らないという。フィルム時代は、モノクロに変換されたイメージを後で見る楽しみがあったが、デジタルはその場で確認できることで「気持ちの入り方が違う」という。少ない撮影日数で、より深いイメージがつかみ出せるのだ。

(c)清水哲朗

カメラの好みは三人三様

 同じカメラを使っていても、カメラの好み、求めるものは三人三様違うようだ。塙さんはGXRを見た時、小ささと「合体ロボ的な楽しさ」を感じたという。

「僕は街のスナップでも、歩きながらレンズを交換するよ。だから歩きながらでも気軽にカメラユニットを交換できるGXRに快適さと楽しさを感じる。大体、海外ロケでもフル装備を揃えていきたい。以前、ニューヨークにバッテリータイプのモノブロックストロボを持っていって、バッテリーを空港で没収されたこともあるぐらいだから(笑)。フル装備で撮影するという意味ではGXRはもっともっと多くの交換ユニットが欲しいですね。」

 対して清水さんは、機材は少ない方が良く、カメラはシンプルなものがいいという。

「写真を撮り始めたのは7~8歳の時、祖父が通販のおまけでもらったカメラをくれたから。そんな時代が長かったので、押せば写るカメラが好き」

 それともう一つ、清水さんのライフワークであるモンゴル撮影では、野宿で長期間滞在するため、生活するための装備が多い。荷物は割り切らないと、命に関わることにもなりかねない。

「GXRはクオリティとサイズは言うことない。あとは厳しい向こうの生活で壊れないで使えるか。今年4月からもモンゴルに行くので、ぜひ、持って行ってテストするつもりです」

 そして、小澤さんが最も重視するのは画質だという。カメラのサイズは関係なく、コンパクト機でも高画質なモデルを選ぶ。

「パソコンで後処理をする楽しさもほしいからです。だから日記用の写真でもRAWで撮ります」

GR LENS A12 50mm F2.5 Macroを装着したGXR各自持参のGXRで互いを撮り合う一幕もあった

カメラが変える撮影表現

 撮影機材が発展することで、写真表現は徐々に変わってきた。高画質でコンパクトなデジタルカメラがもたらしたのは、ファインダーをのぞかない自由な撮影の仕方だ。

「雑踏の中でも手を伸ばして撮ると、誰も気にかけない」と清水さんが指摘すると、「観光客になりきれるからだね」と塙さんも納得。

 その話題で一致したのが、今回、前川貴行さんが出品した馬の顔をアップで捉えたものだ。

「50mmで撮っているけど、あの至近距離でファインダーをのぞいて撮ったら、多分、馬が興奮して鼻面で一撃されるはず。あれは前川さんならではの1枚だと感心しました」

 12の空間に並べられた4点からは写真家の個性と、写真表現の広がりなど、さまざまな要素が読み取れる、見応えのある企画展なのだ。





(いちいやすのぶ)1963年東京生まれ。4月某日、4回目になるギャラリーツアーを開催。老若男女の写真ファンと写真展を巡り、作品を鑑賞しつつ作家さんやキュレーターさんのお話を聞く会です。始めた頃、見慣れぬアート系の作品に戸惑っていた参加者も、今は自分の鑑賞眼をもって空間を楽しむようになりました。その進歩の程は驚嘆すべきものがあります。写真展めぐりの前には東京フォト散歩をご覧ください。開催情報もお気軽にどうぞ。

2010/3/25 17:19