【新製品レビュー】リコーCX5

〜AFが高速化した10.7倍ズーム機
Reported by 吉森信哉

 2010年9月に発売された「CX4」の後継モデルとなる「CX5」が早くも登場した。28-300mm相当F3.5-5.6の光学10.7倍ズーム(焦点距離は35mm判換算)や、有効画素数1,000万画素の1/2.3型CMOSセンサー(裏面照射型)、画像処理エンジン「Smooth Imaging Engine Ⅳ」など、基本的な仕様はCX4およびその前モデル「CX3」(2010年2月発売)から継承している。最高ISO3200、3型92万ドットの液晶モニターといった仕様も同じである。そのほかの撮影機能や操作性に関しても、多くの部分を継承している。

 外観に関しても、ボディの基本デザインやサイズがCX4とほとんど同じなので、パッと見ただけでは判別しにくいかもしれない。

 大きく変わったのはAF方式で、コントラストAFにパッシブAFを組み合わせた「ハイブリッドAFシステム」が採用されている(CX4はコントラストAFのみ)。これによってAF合焦時間が短縮化され、とっさのシャッターチャンスに強くなった。

 そして、リコー初の「超解像技術」を搭載。この技術を応用した「超解像ズーム」も装備している。画質の劣化を抑えながら、300mm相当までの光学ズームを最大600mm相当まで引き上げられる。

 新しい撮影機能としては、シーンモード(SCENE)が11種類から14種類に増えたことがあげられる。料理モード、ゴルフ連写モード、打ち上げ花火モード、の3つが新しく加わった。HD動画撮影の1,280×720ピクセル・Motion JPEGという仕様は同じだが、新たにHDMI端子が搭載されている。

 発売は2月10日。価格はオープンプライス。実勢価格は4万4,800円前後。


望遠側でのAFが高速化

 従来からのコントラストAFにパッシブAFを組み合わせた、独自の「ハイブリッドAFシステム」の採用により、広角28mm相当だけでなく望遠300mm相当でも「最短0.2秒」というAF合焦時間を実現……というのがCX5の大きなウリだが、実際にAFを作動させてみても、たしかに「かなり速くなったなぁ」と実感できる。

 CX4の場合、広角側のAF合焦は速いのだが、望遠側は測距を何度か繰り返すなど、合焦するまでモタついてしまう。結果、シャッターチャンスに間に合わないこともあった。しかし、CX5のハイブリッドAFシステムは、シャッター半押しの前から、パッシブ式AFセンサーが常時作動(距離を測定)しているため、望遠側での合焦までのモタつきが解消されるのである。

 さて、ここでCX5とCX4のAFレスポンスを比較をしてみる。条件は、焦点距離300mm相当、スポットAF、そのほかの画質設定などは初期値。SDHCメモリーカードも同じ製品を使用した。

 ピントを合わせる被写体は、カメラから約100m離れている並木(被写体A)と、約2m離れた場所で三脚に設置したカメラ(被写体B)の2種類。それらを交互に狙い、シャッター半押しでピント合焦の電子音が鳴った時点でシャッターを切る。その条件で、30秒の間に撮れた合計枚数を競ってみたのである。まあ、厳密な比較とはいえないかもしれないが、それなりに参考にはなると思う。

 CX4の場合は、被写体Bから被写体Aを狙う場合(近距離から遠距離)は問題ないが、反対に被写体Aから被写体B(遠距離から近距離)を狙うと、前述のとおり測距を何度か繰り返すモタつきが生じて、それによりシャッターのタイミングが遅れてしまった。結果は、30秒で10枚という成績。

 一方、CX5の場合は、被写体Bから被写体A(近距離から遠距離)も、被写体Aから被写体B(遠距離から近距離)のどちらも、モタつきナシで瞬時にAFが合焦する。結果は、30秒で14枚という成績だった。なお、通常撮影からマクロ撮影機能に切り換えると、CX4もCX5も近距離でのAF合焦の遅さが気になってくる。この場合は、ハイブリッドAFシステムの恩恵は受けられないようだ。

 CX5のもうひとつの大きなウリは「超解像技術」の搭載である。それによる解像感の向上については後述したい。超解像技術を活かした機能としては最大600mm相当の「超解像ズーム」が挙げられる。28mm相当から600mm相当というと「約21.4倍」という高倍率になるが、その数値の大きさも然ることながら、300mm相当と600mm相当とでは、遠方の風景や被写体に対する引き寄せ効果が大きく違うのだ。


グリップ形状の見直しでホールド性が高まった

 ボクが所有しているCX3のグリップ部は、表面にダイヤモンドパターンが施され、前面に適度な膨らみを持っている。それに対してCX4のグリップ部は、パターンが施されていないフラットな形状。だから、CX3と持ち比べてみると、手にした際の安定感が少しだけ劣るような印象を受けた。そして、CX4のスタイルを踏襲するCX5のグリップ部もパターンのないフラット形状なので、CX3のような安定感は得られない。だが、グリップ部にあるタテ長の突起(指掛かり)は、CX4よりも形状が工夫されていて、ホールド性が高まっている。細かい部分だが、うれしい改良点である。

 記録メディアは、SDメモリーカード、SDHCメモリーカード。そして、Eye-Fiカード(X2シリーズ)が使用できるようになった。なお、内蔵メモリの容量は、約86MBから約40MBに減少。使用電源はCX3と同じ「DB-100」。常時作動のパッシブAFの影響だろうが、撮影可能枚数はCX3よりも50枚少ない約280枚になっている(CIPA規格準拠。画像モニター節電ONに設定)。

バッテリーはリチウムイオン充電池のDB-100。撮影可能枚数は約280枚
CXシリーズで初めてHDMI端子(下)を搭載するHDMIケーブルの出力解像度をAUTO、1080i、720p、480pから選択できる

 「超解像」は、撮影設定メニューから設定(OFF、弱、強)するが、最大600mm相当までの「超解像ズーム」は、その設定とは関係なく機能する(セットアップメニューの「デジタルズーム切替」を「通常」に設定時)。この場合、望遠側にズームしていくと、通常の光学ズームの望遠端「10.7倍・300mm」で一旦ストップし、続いて超解像ズーム域へとズームしていく。この「一旦ストップ」の動作がけっこう微妙で、割とシームレスな印象が強い。だから、意識して操作(ズーミング)しないと、300mmで止めるつもりでも超解像ズーム域に入ってしまいやすいのだ。まあ、意識すればイイんだけどね……。

 あと、これはリコー製品全般にいえることだが、各種機能の呼び出しや設定など、カスタマイズ性の高さも大きな魅力である。ジョイスティック風の「ADJ./OKボタン」には、撮影設定メニューの中から4つの機能を選んで登録できる。そして、「Fn(ファンクション)ボタン」には、マクロターゲット、AEロック、AF/被写体追尾、AF/MF、ステップズーム……など12種類の機能の中から1つ選んで登録できる。

Fnボタンには、マクロターゲット、AEロック、AF/顔優先マルチ、AF/被写体追尾、AF/マルチターゲット、AF/MF、AF/スナップ、ステップズーム、AT-BKT、WE-BKT、CL-BKT、FOCUS-BKTからひとつを割り当てられる「ADJ./OKボタン」の中央部を押すと、事前に登録しておいた4つの撮影設定が画面上に表示される。ここでは露出補正を選択している。なお、右端の5つめの項目は「AE/AFターゲット移動」に固定されている
ズーム全域でマクロ能力が高いのもリコー製品の特徴。望遠端でも28cmまで寄れる。「スナップ」、「無限」といったMF系のモードも搭載している

好ましい解像感の「超解像」

 描写は広角域の周辺の一部や、高倍率マクロ域の周辺部などで、画像の乱れも確認される。だが、この手のスリムタイプの高倍率ズーム機としては、安定した描写が得られるズームレンズである。

 ただし、遠方にある木の枝や葉、足元の芝生、といった極端に細かい絵柄だと、少し緻密さに欠ける描写になりがちである。その原因には、レンズ自体の光学性能よりも、画像処理エンジンの絵作りの方が、より大きな影響を与えているように思える。

 CX5では、超解像技術がその不満を解消してくれる。通常撮影(超解像:OFF。初期設定)ではモヤモヤ不鮮明だった細かい枝葉や芝生などが、「超解像」を設定することで、かなり鮮明かつシャープな描写になる。とはいえ、「強」に設定して撮影すると、やり過ぎな描写になることが多い。輪郭部のエッジが立ちすぎて、全体にトゲトゲしい印象になるのだ。もちろん、作者の好みや被写体によっても変わるだろうが、一般的には「超解像:弱」で撮影すれば、適度なシャープさが得られるだろう。

撮影設定メニューから「超解像」を設定すると、通常の光学ズーム域(バーの白い部分)でも、緑色の「SR」表示が出る。ただし、撮影画面上では「弱」か「強」の区別はつかない

 「超解像ズーム」を使用した時の画質も気になるところ。最大の600mm相当で撮影した画像を100%に拡大してチェックすると、それなりに粗さが目につくものの、一般的なデジタルズームのような、気持ち悪い不鮮明な画像ではない。風景写真のように緻密な描写が求められる作品にはオススメできないが、近づけない動物やスポーツなどの撮影なら利用する価値はありそうだ。

光学ズームは300mm相当の「10.7倍」まで。そこから上の緑色のバーが「超解像ズーム」域になる。この領域までズームすると「超解像」設定とは関係なく、緑色の「SR」表示が出る

 高感度画質に関しては、ISO400や800といった高めの感度でも比較的ノイズ感の少ない好ましい描写が得られる。「裏面照射型CMOSセンサー」と画像処理エンジン「Smooth Imaging Engine Ⅳ」の組み合わせによるものだろう。また、ノイズリダクションも、OFF、AUTO、弱、強、MAX、から設定できる(超解像を設定しているときはAUTO固定になる)。

 ISOオート時の上限値は、ISO200から最高感度まで1ステップずつ設定できる。ボクの場合は、画質を重視する時には「200」か「400」に設定し、ブレ防止にを重視する時には「800」くらいに設定するだろう。

ISOオートの上限設定

まとめ

 CX3からCX4へのモデルチェンジでは、基本仕様は踏襲していても、外観や撮影機能の新しい部分も目立っていた(手ブレ補正の能力もアップされてたし)。だが、今回のCX4からCX5へのモデルチェンジは、前回よりも新しい部分が目立たない。外観の差も微妙だし、撮影機能もシーンモードが3つ増えたくらいである(細かい機能アップはほかにもあるが)。まあ、それは「CX4の機能や仕様が充実していた」という証なのかもしれないが、従来モデルのCX3やCX4を知る者にとっては、新鮮さが感じられないのも事実である(もちろん、ボク個人の印象だが)。

 しかし、新しく搭載された「超解像技術」は、予想以上に大きな効果を上げてくれた。前述のとおり「超解像:弱」に設定して撮影すれば、細かい部分まで緻密に見える「好ましいシャープさ」が得られるようになる。これは、雄大な風景や建造物などを撮るには、うってつけの機能と言えるだろう。初期設定が「超解像:OFF」ということもあり、今回のレポートではさほど利用しなかったが、積極的に活用したい機能(画質設定)の筆頭に挙げたい。

 「超解像ズーム」に対しても、事前の予想以上に使える機能…というか、使って楽しい機能に感じられた。従来モデルと変わらないスリムタイプのカメラで、あまり画質劣化を気にせずに気軽に600mm相当の超望遠撮影が楽しめるのだから。この機能も、被写体や状況に応じて上手に活用してみたい。

「料理モード」で撮影中、Fnボタンを押すと「詳細設定」に入る。縦のバーで露出補正、横のバー色調を調節できる。また、自動的にマクロモードに設定される
ゴルフのスイング確認などに使用する「ゴルフ連写モード」。Fnボタンを押すとグリッド設定画面が表示され、「ADJ./OKボタン」の上下左右でグリッド位置が変更できる
「打ち上げ花火モード」では、フォーカス無限遠、ISO100、ホワイトバランスAUTOに固定される。Fnボタンを押すと、露光時間を2秒、4秒、8秒に設定できる。シャッター音を「たーまやー」という掛け声に変える機能がユニーク
連写性能をいかした「ダイナミックレンジダブルショット」も搭載。ほかにもクリエイティブモードでは、ミニチュアライズ、ハイコントラスト白黒、ソフトフォーカス、クロスプロセス、トイカメラを選べる

実写サンプル

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。

・超解像

 超解像「OFF」だと、木の葉や植え込みの細かい部分が“のっぺり”とした描写になり、あまりシャープが感じられない。だが、「超解像:弱」に設定すると、その“のっぺり”した部分が、かなり緻密でシャープに描写されている。「超解像:強」に設定すると、シャープ感はさらに高まるが、椅子の金属パイプ部などを見ると、ジャギーが目立っており、やや過剰なシャープさである。

超解像:OFF / CX5 / 約3.8MB / 3,648×2,736 / 1/310秒 / F3.5 / 0.0EV / ISO100 / WB:オート / 4.9mm超解像:弱 / CX5 / 約3.8MB / 3,648×2,736 / 1/310秒 / F3.5 / 0.0EV / ISO100 / WB:オート / 4.9mm
超解像:強 / CX5 / 約3.8MB / 3,648×2,736 / 1/270秒 / F3.5 / 0.0EV / ISO100 / WB:オート / 4.9mm

・画角
広角端4.9mm(28mm相当) / CX5 / 約3.4MB / 3,648×2,736 / 1/5秒 / F3.5 / 0.0EV / ISO100 / WB:オート望遠端52.5mm(300mm相当) / CX5 / 約3.3MB / 3,648×2,736 / 1/2秒 / F5.6 / 0.0EV / ISO100 / WB:オート
超解像ズーム52.5mm(600mm相当) / CX5 / 約2.7MB / 3,648×2,736 / 1/2秒 / F5.6 / -0.3EV / ISO100 / WB:オート

・歪曲収差

 撮影前のスルー画面上では、広角域の歪曲収差がそれなりに目立つ。だが、撮影画像ではそれがうまく補正されている。望遠域の歪曲収差はあまり目立たない。

広角端4.9mm(28mm相当) / CX5 / 約3.4MB / 3,648×2,736 / 1/36秒 / F3.5 / +0.3EV / ISO100 / WB:曇天望遠端52.5mm(300mm相当) / CX5 / 約3.4MB / 3,648×2,736 / 1/16秒 / F5.6 / +0.3EV / ISO100 / WB:曇天

・感度

 細かい部分の細密感は、感度が1段上がるごとに低下していく。だが、ノイズ感、階調、色再現、などはISO400くらいまで良好。ISO800以上の感度になると、階調や色再現の低下が見られるようになる。ISO1600も似た傾向だが、最後(最高)のISO3200になると、さらに画質がワンランク低下する。ほかのコンパクトデジタルカメラと比較すると、全体的にノイズ感は少ない部類に入るだろう。

 なお、撮影時のノイズリダクション設定は、初期設定の「オート」である。

ISO100 / CX5 / 約3.6MB / 3,648×2,736 / 1/13秒 / F4.2 / 0.0EV / WB:曇天 / 7.5mmISO200 / CX5 / 約3.5MB / 3,648×2,736 / 1/24秒 / F4.2 / 0.0EV / WB:曇天 / 7.5mm
ISO400 / CX5 / 約3.4MB / 3,648×2,736 / 1/48秒 / F4.2 / 0.0EV / WB:曇天 / 7.5mmISO800 / CX5 / 約3.5MB / 3,648×2,736 / 1/111秒 / F4.2 / 0.0EV / WB:曇天 / 7.5mm
ISO1600 / CX5 / 約3.5MB / 3,648×2,736 / 1/217秒 / F4.2 / 0.0EV / WB:曇天 / 7.5mmISO3200 / CX5 / 約3.5MB / 3,648×2,736 / 1/410秒 / F4.2 / 0.0EV / WB:曇天 / 7.5mm

・作例
CX5 / 約3.4MB / 3,648×2,736 / 1/440秒 / F5.6 / 0.0EV / ISO100 / WB:オート / 52.5mmCX5 / 約3.7MB / 2,736×3,648 / 1/1410秒 / F10.1 / -0.3EV / ISO100 / WB:屋外 / 23.6mm
超解像ズーム(600mm相当) / CX5 / 約2.5MB / 3,648×2,736 / 1/153秒 / F5.6 / +1.0EV / ISO100 / WB:オート / 52.5mm超解像ズーム(360mm相当) / CX5 / 約3.3MB / 2,736×3,648 / 1/217秒 / F5.6 / +0.3EV / ISO100 / WB:オート / 52.5mm
CX5 / 約3.4MB / 2,736×3,648 / 1/143秒 / F3.7 / +0.7EV / ISO100 / WB:オート / 5.4mmCX5 / 約3.6MB / 2,736×3,648 / 1/217秒 / F3.5 / +0.3EV / ISO100 / WB:オート / 4.9mm
CX5 / 約3.6MB / 3,648×2,736 / 1/410秒 / F5.6 / -0.3EV / ISO400 / WB:オート / 52.5mmCX5 / 約3.4MB / 2,736×3,648 / 1/410秒 / F5.1 / +0.3EV / ISO100 / WB:オート / 23.6mm
ズームマクロ / CX5 / 約3.3MB / 3,648×2,736 / 1/68秒 / F4.5 / 0.0EV / ISO367 / WB:オート / 12.2mm




吉森信哉
(よしもりしんや)1962年広島県庄原市出身。東京写真専門学校を卒業後、フリー。1990年からカメラ誌を中心に撮影&執筆を開始。得意ジャンルは花や旅。1970年代はカラーネガ、1980年代はモノクロ、1990年代はリバーサル、そして2000年代はデジタル。…と、ほぼ10年周期で記録媒体が変化。でも、これから先はデジタル一直線!? 自他とも認める“無類のコンデジ好き”

2011/2/21 00:00