ライカレンズの美学

SUPER-ELMAR-M F3.4/21mm ASPH.

小口径でも味わい深い逸品

現行のM型ライカ用レンズの魅力を探る本連載。13回目となる今回はSUPER-ELMAR-M f3.4/21mm ASPH.について検証していこう。

レンジファインダーライカにおける21mmレンズの歴史などについては本連載8回目でSUMMILUX-M f1.4/21mm ASPH.を取り上げたときに簡単に述べているので、興味のある方はそちらも参照して欲しい。その時にも同じ事を書いたが、やはりライカファン、特に古くからのライカファンにとって21mmといえば1963年に発売されたSUPER ANGULON 21mm F3.4がもっとも印象深いのではないだろうか。鏡胴の中央がクビれた色気のある外観は見た目にも美しいデザインだったし、対称型の光学系ならではの高コントラストでエッジの立ち上がったシャープな描写は今でも語りぐさになっている。

というわけで、今回試用したSUPER-ELMAR-M f3.4/21mm ASPH.の「21mm F3.4」というスペックを初めて見たとき、SUPER ANGULON 21mm F3.4へのオマージュを強く感じると同時に「さすがはライカ、上手いところを突いてくるなぁ」と思った。今まであったELMARIT-M 21mm F2.8 ASPH.に比べてわずかに開放F値は暗くなっているものの、その「わずかな小口径化」の効果は歴然で、ELMARIT-M 21mm F2.8 ASPH.がフィルター径55mm、重さ300gだったのに対し、こちらはフィルター径は46mm、重さ279gとかなり小型軽量化されている。

絞り羽根は9枚。

デジカメ Watchの読者には釈迦に説法だろうが、レトロフォーカスタイプの光学系を採用する21mmレンズにおいて、フィルター径46mmというのは実は劇的に小さいわけで、レンズの大型化が着々と進行しつつある現在に於いて、携帯性を重視する人にとって非常に魅力的なポイントなのだ。

21mmレンズとしては驚くほど小型なので携帯性は非常に良好。常にライカを持っていたい人にとってはマストな21mmだ。LEICA M(Typ240)/ ISO200 / F8 / 1/350秒 / WB:オート
キレのあるピントと解像性能の高さはかなりハイレベルにあると思う。LEICA M(Typ240)/ ISO200 / F8 / 1/350秒 / WB:オート
今回はEVFとOVFを半々くらいで撮影。EVFは水準器を表示できるので、このような水平をちゃんと出したいときはやっぱり便利。LEICA M(Typ240)/ ISO200 / F8 / 1/1,000秒 / WB:オート

M型ライカとの魅力的なマッチング

SUPER-ELMAR-M f3.4/21mm ASPH.の外観デザインは最近のM型レンズに共通のシンプル基調なもので、SUPER ANGULON 21mm F3.4のようなグラマーな外観ではないが、小さくてカワイイ感じだ。もう1本の現行21mmレンズであるSUMMILUX-M f1.4/21mm ASPH.は大口径レンズだけあってダイナミックな外観だが、M型ライカに装着すると少しだけヘビーな印象なのに対し、こちらのSUPER-ELMAR-M f3.4/21mm ASPH.はMボディに装着したときのバランスがすごくいい。一体感のある角型フードを含め、Mボディとのデザインマッチングだけで語ってしまうならばSUMMILUX-M f1.4/21mm ASPH.よりも断然魅力的だ。

最近のMレンズらしいシンプルなデザイン。21mmは被写界深度目盛りを使った目測撮影もやりやすい。
レンズフードはお馴染みのネジ込み式。フック式に比べて装着時にもシンプルな外観が好ましい。

広角なのに浅い被写界深度で独特の立体感を表現できるSUMMILUX-M f1.4/21mm ASPH.の描写力は絶大だが、逆にそういう描写を求めないなら、SUPER-ELMAR-M f3.4/21mm ASPH.の方がいいかもしれない。ELMARの名称から想像できるとおり、絞り設定にかかわらず常に得られる力強い描写は、SUMMILUX-M f1.4/21mm ASPH.とはまた違った魅力だと思う。

画面中央と周辺部の画質差は最小限。LEICA M(Typ240)/ ISO200 / F8 / 1/500秒 / WB:オート
繊細さというよりは力強い描写だが、パサパサに乾いた描写にはならず、どこかウエットで粘りのある写りと思う。LEICA M(Typ240)/ ISO200 / F8 / 1/350秒 / WB:オート

基本的には現代の広角レンズに求められる要素はすべて満たしており、シャープで解像も出ており、フレアによるコントラスト低下も少ない。そうした基本要素を満たした上で、ライカレンズらしい立体感の演出を得られるのが本レンズの特徴だ。広角レンズの場合、あまりに過激にシャープ方向に画質を振ってしまうと、潤いのない、カサカサしたドライな印象の写りになってしまいがちだが、そうはならずにシャープでありながらもどこかウェットな描写なのだ。

どちらかというと絞って使われることが多い焦点距離レンジだが、絞り開放から合焦部の立ち上がりは完璧で、被写界深度を調節する以外の目的で絞り込む必要はまったく感じられない。

画面内に光源があってもフレアによるコントラスト低下はほとんどない。LEICA M(Typ240)/ ISO200 / F5.6 / 1/350秒 / WB:オート

しばらく前まではM型ライカ用21mmレンズはF2.8のELMARITのみという時代が長く続いたが、今はF1.4とF3.4の2本から選べるようになった。レンズの予算がいくらでもある人ならば両方揃えるのがもちろん理想だが、どちらか1本を選ぶのであれば個人的にはSUPER-ELMAR-M f3.4/21mmかなぁと思う。大口径らしい繊細な描写のSUMMILUX 21mmの魅力はもちろん絶対的にスゴいのだけど、小型軽量さやボディとのマッチングバランス、そしてELMAR系らしいしっかりとした写りも、やっぱりとっても「イイ」のだ。

一般的に小口径の広角レンズは「無味無臭」というか、ちゃんとソツなく写るけれど没個性、みたいなテイストのものが多いけれど、このSUPER-ELMAR-M f3.4/21mmは小口径でも味わい深いところが非凡だと思う。

現代レンズらしく、コントラストの高いメリハリのある写りを堪能できる。LEICA M(Typ240)/ ISO200 / F5.6 / 1/90秒 / WB:オート
個人的に気に入っているのがこの周辺光量落ち。ある程度絞っても残るのはそれこそSUPER ANGULON 21mmを彷彿とさせる。LEICA M(Typ240)/ ISO200 / F8 / 1/1,000秒 / WB:オート

協力:ライカカメラジャパン

河田一規

(かわだ かずのり)1961年、神奈川県横浜市生まれ。結婚式場のスタッフカメラマン、写真家助手を経て1997年よりフリー。雑誌等での人物撮影の他、写真雑誌にハウツー記事、カメラ・レンズのレビュー記事を執筆中。クラカメからデジタルまでカメラなら何でも好き。ライカは80年代後半から愛用し、現在も銀塩・デジタルを問わず撮影に持ち出している。