リコー「CX6」に“レフレックス・ディフューザー”を装着する

Reported by糸崎公朗

自作の「レフレックスタイプ・ディフューザー」を装着した、リコーCX6。内蔵ストロボの光をディフューザー内部で反射させ、レンズ上下の開口部に導いている。これにより、リコー独自の「1cmマクロ」を活かしたストロボ撮影が可能になる

リコー独自の「1cmマクロ」機能を活かす工夫

 前回に続いてリコーCX6ネタだが、このカメラはもともと多機能で、いろいろなアイデアが盛り込まれている。だから工夫して使う側の立場としても、刺激を受けていろいろなアイデアが浮かんでくるのだ。

 さて、CX6をはじめとするリコー製コンパクトデジカメは、どれも「1cmマクロ」を売りにしている。しかし、実際に「1cmマクロ」で撮影しようとすると、これがなかなか難しい。

 レンズ前に被写体が1cmまでに近づくと、まずカメラの内蔵ストロボの光がどうしてもケラレてしまう。そしてストロボオフで撮影すると、マクロだけにどうしても手ブレしやすくなってしまうのだ。

 そこで今回は、CX6の「1cmマクロ」で確実に撮影が可能な、内蔵ストロボ用のディフューザーを製作してみた。ぼくはこの連載で、さまざまなタイプのディフューザーを試みてきたが、その進化の最新版と言えるだろう。

 理屈としては、内蔵ストロボの光を反射させ、レンズのすぐ脇に導くのである。そのための基本構造は、内部に反射板を仕込んだ“箱”を作り、その箱に2カ所の開口部を作る。という構想のもと、あれこれスケッチしながら考えてみた。

 その結果、できるだけシンプルに小型化したつもりが、手作り品としてはけっこう複雑な形状になった。そこで素材はプラ板などではなく、厚手のケント紙を使ったペーパークラフトにすることにした。ぼくは自分の作品「フォトモ」の経験があるので、紙工作はお手の物なのだ(笑)。

―注意―
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初っ端は、こんな雑なスケッチからスタート(笑)エンピツを重ね描きした線を辿ると、いくつかの形状を検討した痕跡が見えるスケッチをもとに、こんなパーツを製作。Adobe Illustratorで図面を引き、プリントアウトして組み立てている。素材はケント紙で、裏にアルミホイルを貼っている。構造としては開口部のある紙箱で、内側が鏡面になっている
さらに2カ所の開口部に、トレーシングペーパーを被せるかたちで接着する。これによりストロボ光の拡散効果が高まる裏側には、CX6の内臓ストロボの位置に合わせ、四角い穴を開けている(その脇の小さな穴はAF補助光用)。さらにカメラに取り付けるためのマジックテープを、3カ所に貼り付ける
CX6本体にもマジックテープを3カ所に貼り付ける。これで今回の工作は終了である
完成したディフューザーをCX6に装着したところ。レンズの上下に2カ所の発光部がある。昔からある一眼レフ用の「2灯式マクロストロボ」と同じだが、内蔵ストロボの光を内部の反射板で導いているのが、ミソ。つまりこのカメラのセットは“ノンフレックス”ではない(笑)ディフューザーを装着したCX6を、別角度から見てみる。カメラとしては異常な形状だが、“ミサイルランチャーを装備したモビルスーツ”みたいな趣があって、なかなかマニアックでカッコイイ(笑)

テスト撮影

 テスト撮影はディフューザーのある・なしで比較を行なった。

 CX6本体は「ステップズーム」に設定し、マクロモードの広角端31mm相当~望遠端300mm相当(35mm判換算)まで、各ステップの焦点距離で撮影した。

 実はCX6のレンズは、31~50mm相当の焦点距離域で、レンズバリアに接する「0cm」までピントが合ってしまう。しかしそれは実際的ではないので、この範囲に限り、レンズ前約1cmの位置でピント合わせ(AFモード)した。85mm相当以上の焦点距離では、それぞれの最短撮影距離(MFモード)で撮影した。

※共通設定:CX6 / 約3.7MB / 3,648×2,736 / 0EV / ISO100 / プログラムAE / WB:太陽光

ディフューザーあり
ディフューザーなし
31mm相当
35mm相当
50mm相当
85mm相当
105mm相当
135mm相当
200mm相当
300mm相当

 さて、結果はご覧の通り歴然としている。31~105mm相当にかけて、ノーマルのCX6はフラッシュ光が大きくケラレているのに対し、ディフューザー付きではいずれも見事に照明が回っている。

 135~300mm相当では、ノーマルのCX6でもストロボ光のケラレがない。しかし10円玉の影に注目すると、ノーマルのCX6では不自然な濃い影が出ているのに対し、ディフューザー付きでは自然で柔らかな影になっている。

 いずれの焦点距離でも効果の高いことが判明し、今回の“実験”は大成功だと言える。前回の記事は実験としては失敗だったので、その埋め合わせができたと言えるだろう(笑)。

実写作品と使用感

 作品撮影は、近所の雑木林とその周辺で行なった。冬はあらゆる生き物が冬眠しているイメージだが、実際にはよく見ると、いろいろな植物や昆虫類の姿を見ることができる。マクロ撮影の被写体は、基本的には365日ネタが尽きることはないのだ。

 今回自作したレフレックス・ディフューザー付きCX6は、我ながら非常に便利で、広角マクロでも望遠マクロでもキレイにストロボ光が照射される。

 CX6はコンパクトデジカメでありながら、露出補正のほかに、内蔵ストロボの調光補正機能も備えている。だから“レフレックス・ディフューザー”の効果と相まって、クリエイティブな撮影が可能なのだ。

 撮影モードは、CXシリーズとしての新機能の「A/S」モードを試してみた。このモードでは2段階の絞りが選べるが、このうちの「小絞り」は絞り穴とNDフィルターを併用しているため、表示された絞り値の割りには、被写界深度はそれほど深くならない。あくまで「オマケ機能」として楽しむのが良いだろう。

雑木林の脇に咲いていた、ヒメオドリコソウ。春の花として知られているが、一部ではもう既に咲いていた。CX6の広角マクロ機能を活かし、背景の雰囲気を入れて撮影。露出補正と調光補正を組み合わせて調整しているが、CX6はコンパクトデジカメでありながら、そのような機能を備えているので便利だ。CX6 / 約3.6MB / 3,648×2,736 / 1/540秒 / F7.6 / -2EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:太陽光 / 5.4mm同じく雑木林の脇に咲いていたハコベの花。小さくて目立たない花だが、拡大すると清楚できれい。花粉も確認できる。CX6の最大倍率、85mm相当の最短撮影距離で撮影した。当然MFで、カメラを前後に動かしてピント調整した。CX6 / 約3.4MB / 3,648×2,736 / 1/84秒 / F9.3 / -1EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:太陽光 / 14.8mm
道ばたで咲いていたオオイヌノフグリを広角マクロで撮影。これも春の花の定番だが、冬でも少し咲いている。拡大すると花が土埃で汚れているが、それもまたひとつの趣ではないかと思う。CX6 / 約3.6MB / 3,648×2,736 / 1/203秒 / F7.6 / -1.7EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:太陽光 / 5.4mm1月に満開だったロウバイの花はもうほとんど終わりで、この一輪だけが咲いていた。下向きの花に広角マクロで大接近して撮影。奥の花芯にピントを合わせた。CX6 / 約1.3MB / 3,648×2,736 / 1/380秒 / F7.6 / -0.7EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:太陽光 / 5.4mm
雑木林で見つけたシャクトリムシ。コナラの枝にピッタリしがみついている。体調1cmくらいと小さく目立たないため、見つけるのは至難のワザだ。CX6 / 約3.5MB / 3,648×2,736 / 1/440秒 / F7.6 / -0.7EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 5.4mm同じく、雑木林のコナラの枝先にいた、ハエトリグモの一種。成虫で越冬するが、冬でも暖かい日には活動するようだ。拡大すると正面の単眼に、ディフューザー発光部が写っているのが分かる。CX6 / 約3.5MB / 3,648×2,736 / 1/330秒 / F7.4 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 4.9mm
ハナミズキのつぼみを撮影しようと思ったら、枝にガの卵が産み付けられているのを発見! ガの種類は分からないが、規則正しく交互に2列並べられているのが面白い。CX6 / 約3.2MB / 2,736×3,648 / 1/440秒 / F7.6 / -1.3EV / ISO100 / プログラムAE / WB:太陽光 / 5.4mm夜中にシラカシの樹液を吸う、ヨスジノコメキリガ。ご覧の通り真冬に活動する不思議なガ。拡大すると毛がモフモフと暖かそうだが、それは夏に見られるガも同じなので、保温とは関係なさそうだ。CX6 / 約3.5MB / 3,648×2,736 / 1/104秒 / F4.8 / 0EV / ISO100 / プログラムAE / WB:太陽光 / 18.3mm

告知

 糸崎公朗写真展「反-反写真」が4月3日からTAPギャラリーで開催されます。

  • 会場:TAPギャラリー
  • 住所:東京都江東区三好3-2-8
  • 開催日:2012年4月3日~2012年4月15日
  • 時間:13時~19時
  • 休館:月曜

 また、ギャラリートーク「写真とは何か? とは何か?」を4月6日の18時30分から開催します。ゲストは山方伸氏です。







糸崎公朗
1965年生まれ。東京造形大学卒業。美術家・写真家。主な受賞にキリンアートアワード1999優秀賞、2000年度コニカ フォト・プレミオ大賞、第19回東川賞新人作家賞など。主な著作に「フォトモの街角」「東京昆虫デジワイド」(共にアートン)など。毎週土曜日、新宿三丁目の竹林閣にて「糸崎公朗主宰:非人称芸術博士課程」の講師を務める。メインブログはhttp://kimioitosaki.hatenablog.com/Twitterは@itozaki

2012/3/12 08:57