写真展レポート

これからのエンジニアに必要な感性とは――工学部女子大生が森山大道の写真を再構成

東京都写真美術館「複製される感性-森山大道」展より

森山大道氏の写真を大学生がセレクトし、再構成したユニークな写真展が東京都写真美術館で開かれている。TOKYOスマート・カルチャー・プロジェクト展覧会 奈良女子大学 長谷研究室「複製される感性-森山大道」だ。10月18日(日)まで。入場無料。

エンジニアに必要な感性

大学生といっても写真専攻でも、芸大生でもなく、工学部で学ぶ学生だ。

「最先端の技術と、芸術に詳しいアートコミュニーケーション人材を作ることを目指し、2020年、女子大で日本初となる工学部を新設しました」と同大の長谷圭城教授は話す。

芸術は自由な発想力や創造力が求められ、同時にイメージや考えを言語化し、伝える力も必要となる。そのクリエイティビティは、「これからの社会を切り開くエンジニアには欠かせない力となる」のだ。

長谷圭城教授(奈良女子大学)

参加した学生のほどんどが、このプロジェクトをきっかけに初めて写真集を手にした。普段、撮影はスマホで、カメラを使った経験もほぼない。

「学生が写真を知らない状態で作品を見て、そこから動き出してほしかった」と長谷教授。

本展は2025年に奈良市写真美術館で開いた展示を元に、再構成した約140点を見せる。

展示の対象とした森山氏の写真は写真集『にっぽん劇場写真帖』、『狩人』、『写真よさようなら』、『光と影』の4作。森山大道写真財団の協力で、全作のデジタルデータの提供を受けている。

展示の対象とした4作
学生のキュレーションで、東京都写真美術館の収蔵作品を展示

写真作品を独自の視点で再構築

F.Mさんは工業高等専門学校で建築を学び、同大に編入。視覚情報がどう処理されるかに興味を持ち、迷子になりやすい人となりにくい人の空間認識を研究したこともあるとか。今はアルミ素材などを使い立体物の制作も行なう。

本展では『光と影』から3点を選び、シートルーペでプリントのデティールが鑑賞できるようにした。ルーペを支える部材は3Dプリンターを使った自作だ。

「写真を見た時、作者の研ぎ澄ました感覚を感じました。風景の細部までを見て撮影しているのではないかと思い、この展示方法を考えました」(F.Mさん)

シートルーペを通して作品を鑑賞する

ルービックキューブに写真をはめ込んだのはI.SさんとH.Kさん。複製物としての写真と、コラージュに興味があった2人の合作だ。

3つのキューブにはそれぞれ人と、街の風景、都市の象徴としての乗り物を選んだ。

森山さんはマネキンや映画のポスターなどを数多く撮っているが、I.Sさんはその写真をリアルな人として見ていたそうだ。

「森山さんとの往復書簡で、『映画やポスターに愛着がある』と聞いてから、写真の見え方が変わっていきました」(I.Sさん)

「誰にも撮れそうだけど、撮れない。感覚的に被写体を選び抜いていることを感じます」とH.Kさん。

ルービックキューブに作品をはめこんだ

H.Mさんはブックデザインやポスターなど印刷物の表現に関心がある。配色やフォント、文字の配列で伝わり方が変わる。

森山さんの写真集からは「女性」の姿が強く印象に残った。そこには社会批判的な要素はなく、その存在が持つ本質的な美しさを捉えている。

壁面に展示したプリントを、写真を印刷した3面のアクリル板で囲った。

「いくつもの写真を同時に見ることによる複合的な見え方、美しさを表現しようと思いました」

見る角度によって見え方が変わる作品

写真の前後をAIで描く

生成AIを使った動画作品も制作されている。1枚の写真をもとに、その後のストーリーや、画角から外れた風景を映し出す。昨年の奈良市写真美術館で展示した約20秒のものと、新たに制作した約1分と約3分の作品を投影する。

海辺に立つ男の背後からは巨大なサメが現れ、トンネルからは電車が通過していく。

「生成AIにはテキストで指示しますが、上手く伝わらないことがある。最初、サメが男を襲うイメージを考えましたが、サメはどうしても言うことを聞かなかった」と作者の1人、T.Sさんは話す。

逆に予想外の展開も作り出す。「風が吹いている」との指示を出した時には、風にあおられた新聞紙が現れた。

サメが男を襲うイメージを生成AIで表現

1作目は写真に写っていない風景に興味が向かい、次は時間がどう流れていたかを見たくなったそうだ。

約20秒の映像は10分程度でたたき台となる流れが組めるという。そこから数日から1週間ほどかけて完成させている。

Tさんは建築やプログラミングを学び、今は学芸員の資格取得を目指しているそうだ。

静止画作品の時間の流れを、生成AIで動画にした

鏡や服への新たなアプローチ

森山さんの写真で学生たちが一様に感じたのは、街を歩く見知らぬ人たちが無防備に撮られていることへの違和感だ。今の若者たちには、他人からカメラを向けられることへの拒否感が感覚的に備わっているということだろうか。

Y.Kさんは、ストリートスナップに鏡を重ねるなどして、森山さんと鑑賞者がともにその人物を見つめる体験を提示した。

ストリートスナップに鏡を重ねた作品

また1枚の長いTシャツに何点もの写真を捺染した作品も制作。

服を支持体に考えた時、男性用と女性用の違い、定義が曖昧で、違いが分からなくなった。

「性差は地続きで、グラデーションがあるだけで、二分できない。そこで背中をひとつなぎの長い1枚にしました」

上下に花柄と風景の写真を配置し、トンネルや階段など奥行きを感じる写真が橋渡しする構成だ。

こちらのコピー機にカードをかざすと、森山大道氏の写真がプリントされる

本展では自宅のパソコンからも見られるデジタル展覧会も用意した。3Dで再現された都市を俯瞰しながら、森山大道の写真が撮影された場所へと降り立つことができる。

デジタル展覧会の様子。写真が撮影された場所にマッピングされている

イベント名

TOKYOスマート・カルチャー・プロジェクト展覧会 奈良女子大学 長谷研究室「複製される感性-森山大道」

会場

東京都写真美術館
東京都目黒区三田 1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内

開催期間

2026年9月5日(土)~2026年10月18日(日)

開催時間

10時~18時(木・金曜日は20時まで)
※入館は閉館の30分前まで

入場料

無料

(いちいやすのぶ)1963年、東京生まれ。コロナ禍でギャラリー巡りはなかなかしづらかったが、少し明るい兆しが見えてきた。そんな中でも新しいギャラリーはいくつも誕生している。東京フォトギャラリーガイドでギャラリー情報の確認を。写真展の開催情報もお気軽にお寄せください。