写真展告知

第47回木村伊兵衛写真賞 受賞作品展 新田樹作品展:Sakhalin(サハリン)

3月23日、第47回木村伊兵衛写真賞に新田樹氏がに選出された。その受賞作品展が4月28日からソニーイメージングギャラリー銀座で開催される。

「木村伊兵衛写真賞」は、日本の写真の発展に尽くした木村伊兵衛氏の業績を記念して、1975年に設けられた写真賞。朝日新聞社により開始されたが、2008年4月に出版部門が朝日新聞出版として独立した後は両社の共催となっている。

各年にすぐれた作品を発表した新人写真家を対象としており、受賞者は写真関係者からアンケートによって推薦された候補者の中から、選考会によって決定される。

第47回の選考委員は、写真家の大西みつぐさん、長島有里枝さん、澤田知子さんと、小説家の平野啓一郎さんの4名。

また、これまで作品展はニコンプラザで行われてきたが、今回はソニーイメージングギャラリー銀座(東京)での開催となっている。

日本統治時代に樺太とよばれたこの地には、1945年8月の日本敗戦時、約35万人の日本人と2万~4万3千人(諸説あるが正確な人数は把握されていない)の朝鮮人※が取り残されていた。戦後ソ連領となったこの地から日本人の多くは引き揚げたが、朝鮮人たちとその配偶者である日本人は、その後数十年にわたりこの地を離れることはかなわなかった。
(※サハリン残留韓国・朝鮮人。以後カレイスキーと表記)

1996年3月。私は、未だ混乱の続くロシアを写真家として最初の仕事にしたいと思い旅していた。その途上での出会いがサハリンとの始まりだった。

青く凍えた街の辻にろうそくが灯っている。木でこしらえた枠にはビニールが張られ、そのなかで生花がろうそくの炎に照らされ息をしていた。傍らには凍えた顔のおばあさんが座っている。

当時、ユジノサハリンスクのバザール(市場)や街で花を売るカレイスキーのおばあさんたちの姿があった。私が日本から来たとわかると、厳しい生活の様子を日本の言葉で話してくれた。路上での短いやりとりを交わしただけでも、彼女たちの背景に日本が大きく関わったことが色濃く感じられて、私は漠然としながらも鋭利な後ろめたさを感じずにはいられなかった。だからだろうか、彼女たちの心に触れることができればと願った。

私は街をうろつき、彼女たちの前に立つのだが、気持ちがこわばってしまい言葉が出てこなかった。なぜ彼女たちはこの地に残らざるをえなかったのか。それを知ることなしでは、彼女たちと正面から向き合う自信が持てなかった。あの時、私は一歩も踏み込めずにサハリンを後にした。それだけに今でも忘れられない出来事を思い出す。

街を歩いている時のことだった。思いがけず日本の言葉が聞こえてきた。私の前を歩く二人のおばあさんが話しているようだった。
「日本の方ですか?」それまでの旅の心細さに、私は思わず声をかけた。
「いいえ、私たちは戦争の前にここへ来た朝鮮人です」
戦後から50年、この地で日本の言葉が日常的に使われていることに驚いた。それは単に話せる事とは違う何か、その後何度も繰り返される問いの始まりとなった。

歴史が記憶の堆積物ならば、降り積もり埋もれてしまう。単純に割り切ることのできない思いを抱え生きる姿に今なら向き合えるのではないかと動き出したのは、それから14年後の2010年のことだった。

新田樹

写真展情報

会場

Sony Imaging Gallery
東京都中央区銀座5-8-1 銀座プレイス6階

開催期間

2023年4月28日(金)~5月11日(木)

開催時間

11時00分~18時00分

定休日

なし(銀座プレイス休館日を除く)

作者プロフィール

1967年 福島県出身
東京工芸大学工学部卒業後、麻布スタジオを経て半沢克夫氏に師事
1996年 独立

個展
2003年 「SURUMA」(コニカプラザ)
2007年 「樹木の相貌」(コニカミノルタプラザ)
2015年 「サハリン」(ニコンサロン)
2018年 「RUSSIA~CAUCASUS 1996-2006」(zakura)
2022年 「続サハリン」(ニコンサロン)
2023年 「Sakhalin 2010~2018」(古書ほうろう)

出版
2022年 「Sakhalin」(ミーシャズプレス)
2023年 第31回 林忠彦賞