写真展告知

トミオ・セイケ写真展:Street Portraits London Early 80s

ここ数年、ブリッツはセイケが1980年代初めに英国で制作した初期作品を集中的に紹介しています。2016年に、リヴァプールの若者グループを撮影した「Liverpool1981(リヴァプール1981)」展、2017年には、ロンドン在住の若きストリート・パフォーマーの生き方をテーマにした「Julie-StreetPerformer(ジュリー・ストリート・パフォーマー)」展を開催。本作は、若かりしセイケが前2作に続いて1983~1984年にロンドンで取り組んだプロジェクトです。本作の一部は、1984年にツァイト・フォト・サロン(東京)で発表。今回は約34年ぶりの日本での公開です。

80年代の初頭、セイケはロンドンのストリートでファッションを通して自らのアイデンティティーを探し始めた若者たちに興味を持ちます。戦後から70年代後半くらいにかけて、英国を含む西洋先進国の個人は、かつての因習やタブー、家族や他人の期待から自由になります。常に階級と深く関連していたファッションも激変します。一般大衆向けの実用的な様々なストリート・ファッションが普及していきます。しかし80年代前半は、まだ複数の価値基準が混在している状況でした。多くの人は何を着て、どのように暮らせばよいかの拠り所がなく、自らのスタイルを探し求めていました。この時代、ファッション写真も一般大衆のスタイル構築に重要な役割を果たすようになります。

セイケは、このような状況下でファッションに目覚めたロンドンの若者たちの姿を的確にドキュメントしています。彼らは、いままでのファッションのルールを無視して、いま流行りの服、古着、安物アクセサリー、小物などをごっちゃに取り入れます。いろいろな時代のファッションを組み合わせ、独自にコーディネートしているのです。彼らの洗練されたファッション・センスは現在でも十分に通用するでしょう。本作は、被写体のファッションと、その背景のストリートシーンを通して、80年代初めのロンドンの気分や雰囲気を私たちに伝えてくれます。これらは、時代性が反映された優れたドキュメントであるとともに、アート作品になりうる広義のファッション写真ともいえるでしょう。

本作は、ちょうどセイケが代表作「ザ・ポートレート・オブ・ゾイ」に取り組み始めた時期でもあります。セイケといえば、ライカ・カメラを使用していることで知られています。しかし、本作では、6X6cmのスクエア・フォーマットの2眼レフカメラ、ローライフレックスを使用しています。70年代後半から80年代にかけては、フリークスのドキュメントのダイアン・アーバスや有名人ポートレートのリチャード・アヴェドンのように、ローライフレックスでの作品制作がブームでした。キャリア初期のセイケも、様々なフォーマットのカメラを使用して、自らの作品スタイル構築を模索するとともに、様々な創作の可能性を探求していたことがわかります。本展では、セイケの初期作約22枚が展示されます。すべてが貴重な、撮影当時に制作されたゼラチン・シルバー・プリントとなります。

写真展情報

会場

ブリッツ・ギャラリー
東京都目黒区下目黒6-20-29

開催期間

2018年10月12日(金)~12月16日(日)

開催時間

13時~18時

休廊

月曜日・火曜日

作者プロフィール

1943年東京生まれ。欧米の主要アート・ギャラリーのハミルトンズ(ロンドン)などと契約し写真展を定期的に世界中で開催している数少ない日本人作家。

会社員を3年経験後、1970年に日本写真学園を卒業。アシスタントを経験後、1975年からフリーランス写真家、その後イギリスに渡り1987年以降は東京とブライトンに居を構えている。現在は写真展、写真集を通しての作家活動を中心に行っている。

1982~1987年に取り組んだ「The Portraits of Zoe」シリーズで作家として注目され、ロンドンのフォトグラファーズ・ギャラリーで初公開されて以降、ハミルトンズ(ロンドン)、ウェストン・ギャラリー(カーメル)、ツァイト・フォトサロン(日本橋)、コウジ・オグラ・ギャラリー(名古屋)、ギャラリーf5.6(ミュンヘン)など世界中で個展を開催。

その後、「Paris」(1992年)、「Waterscapes」(2003年)、「Glynde Forge」(2006年)を相次いで発表し作家の地位を確立。欧米写真の伝統を踏まえた上に日本文化のエッセンスも感じさせる優れた作家性、卓越した撮影テクニック、自らがプリントする高い完成度の銀塩写真で世界中のコレクターを魅了し続けている。

また、ほとんどの作品がライカで撮影されていることからカメラファンからも熱烈な支持を得ている。2011年秋にはデジタル作品による「Overlook」をハミルトンズ(ロンドン)で開催し、アート写真の新しい可能性にも挑戦している。

作品は、ヒューストン美術館、サンタバーバラ美術館、ヨーロッパ写真美術館、フランス国立図書館、英国テイト、ラザール・ナショナルバンク、エルトン・ジョン・コレクション、エルメス財団パーマネントコレクション等に収蔵されている。