写真とAI
スマホのメモ写真がプロ級の1枚に。TOPPANのフードフォト特化型AI生成サービス「OISHICA」とは?
2026年5月8日 12:30
TOPPANが2026年1月にリリースした「OISHICA(おいしか)」は、フードフォトに特化したAI画像生成・クリエイティブ制作サービスだ。スマートフォンのカメラで撮影した普通の料理写真でも、AIが高品質なフードフォトを生成する。またレシピ情報のようなテキストから画像を生成することもできる。AIサービスだが、ユーザーがプロンプトなどを入力する必要はなく、料理を作って撮影するといった手間をかけずにフードフォトを生成できる。
そんなOISHICAについて、サービス開発を主導した同社情報ソリューションBU マーケティングDX事業部の小笠原玄氏、冨山慎一郎氏、松本高明氏に話を聞いた。
なお、このサービスの名称「OISHICA」は、「美味しそうに見える」の「おいし」に「カメラ」の「カ」を組み合わせた造語であり、福岡の方言である「おいしか」にもかけられているそうだ。
単なるメモ写真でも高品質なフードフォトに
OISHICAの開発の端緒となったのは、フードフォトが生成AIと相性が良いという点にあった。AIは様々なジャンルの画像を生成できるが、「料理の写真」は、「おいしいという表現さえできていれば、大きく外すことがない」というのが、その理由だ。さらに、料理は食材が同じであれば、多少見た目が変わっても違和感が生じにくいことも生成AIと相性が良い理由なのだという。こうした技術的な基盤により一気に事業展開ができるとの判断だった。
OISHICAでは、利用者から提供された素材をベースに加工・生成が行われる。例えば料理を試作したキッチンでの写真に対して、背景を家庭風やカフェ風に差し替えたり、白背景の画像があれば背景を設定したりできる。単に背景を加えるだけではなく、一緒に透明な瓶やグラスがあれば、背景を透過させて自然に見える処理もするし、器や小道具の変更、湯気などのシズル感の追加といった処理にも対応している。
TOPPAN側に提供する写真は、スマートフォンで撮影した写真で構わない。これまでのように、カメラマンが照明を設置して様々な角度から撮影するといった作業は不要で、写真の素人が料理写真をメモ的に撮影した程度でも利用可能というのが今回のサービスの特徴だ。
さらに、写真自体が存在しなくても、レシピなどのテキスト情報からAIが実際の料理写真を生成してくれる。特殊な盛り付けを想定していなければ、材料とレシピ情報から違和感の少ない料理写真が生成できる。生成された画像のアングル変更、調理工程の画像生成、ビジュアルコンセプトのコントロールまで対応可能なのだという。
具体的な用途としては、流通・小売の現場で、店舗スタッフが撮影したフード写真を販促物用に変換し、食品メーカーであれば同じ商品の画像の背景や小物などを変えて、ハロウィンやクリスマス、誕生日といったイベントに応じた展開を容易にする、といった使い方が考えられる。レシピサイトの運営会社であれば、具材の一部変更で再調理、再撮影するといった手間も不要になる。
なんといっても撮影に関わるコストと時間の大幅な削減が可能という点が大きなメリットだ。一般的には撮影に伴って商品やスタッフの手配、スケジューリング、現場の立ち会いといった業務負荷や見えないコストが発生していたが、OISHICAであればこれらをAI生成で代替できる。
また、「まとまった点数がないと撮影のコストメリットが出ない」という課題もあるが、OISHICAであれば「1点からでも必要なタイミングで発注できるため、撮影全体のスケジュールがボトルネックになることが防げる」というメリットもある。
時間のメリットでは、例えば1,000点の写真を撮影するには多数のスタッフと日数が必要になるが、OISHICAであれば1週間程度で納品可能になるという。TOPPANでも撮影スタジオを社内に保有しており、その観点でも「延べ100人はスタッフが必要」というレベルだが、OISHICAであれば、数人でできてしまう。
他の例では、「レシピサイトで過去15年分の古い写真をリフレッシュしたい」といった、物理的な撮影では不可能なニーズにも応えられるというのが、OISHICAのメリットだ。ちなみに費用については共通の一律料金は設けておらず、利用者側のニーズや求めるクオリティなどに応じた個別見積もりになるという。
実際の作業では、AI基盤がプロンプトの生成から画像の生成、画像の評価という一連のプロセスを自律的にループさせることで成り立っている。「最終的なプロンプトは数千行に及ぶため、人間が手作業で作るのは不可能」であり、AIが複数のパターンの生成と評価を何度も繰り返すことで自動的に品質を高める仕組みを採用している。画像読み取りAIモデルが「プロンプトと画像品質の評価・スコア化」を行い、目標スコアに到達しているかを基準に評価・最適化を繰り返す。
すべてAIに任せるのではなく、最終的な評価の段階ではフードコーディネーターやフォトディレクターがチェックを行う。画像がより自然に見えるか、アングルやライティング、シズル感が自然かどうか、レシピ情報に忠実かどうか、ブランドイメージに対して適切かなどを確認する。こうした評価結果もAIに対してフィードバックしていくという。
独自データベースを使った学習も強み。TOPPANの撮影部門が長年蓄積してきた1万点以上の画像データやノウハウが、資産としてAIの学習基盤に生かされているという。こうしたTOPPANならではの強みがその背景にあるサービスと言える。
カメラマンの仕事はどうなるか?
以前の生成AIは、ご飯粒や千切りキャベツのような、不規則性の再現が苦手だった。それが技術の進化によって、「自然な不規則性」を表現することが可能になったことで、人間が自然な料理写真として認識できるようなレベルに達した。
その結果、カメラマンにとってはフードフォトという仕事が奪われる可能性がある。これに対しては、「OISHICA自体はフードフォトのプロが運営・利用するサービスで、ライバルというよりも共存関係にある」という。
これは、生成される画像に対して、どの画像が1番人間が撮影したものに近いかといったフィードバックが必要で、プロがしっかりと見張っていい写真を選び、生成のループを回すことでより生成画像が高品質化していく。「短期的にはパートナーになる」というのが同社の判断だ。
長期的には、手間やコストを抑えて大量の画像が必要な場面では生成AIが使われ、「この人が作ったからこそ価値がある」という作家性や体験を求める場面ではカメラマンが求められるという、そんな将来を見据えている。もちろん、撮影現場でクライアントが立ち会い、合意を形成しながら撮影を行う場面も、今後なくならないとしている。
ただ、同社自身は今回のビジネスに関しては冷徹な目で判断している。「画像生成の技術自体は1年ほどでコモディティ化する」との考えで、その間の過渡期のサービスなのだという。そうしたことから、今後は料理の画像生成だけではなく、例えばレシピの開発、健康サポート、商品開発など、画像生成から波及した新サービスの構想を進めているという。先行したことで技術的なアドバンテージがあるとして、さらなるサービスの拡大に繋げていきたい考えだ。









