コラム
フェイク情報に対抗する技術「C2PA」の現在地
アドビやソニーが牽引 ウクライナ放送局が語る報道の信頼性
2026年10月21日 07:00
画像などのさまざまなファイルに来歴を含むメタデータを付与してフェイク情報などに対抗しようとする技術「C2PA」が広がり始めている。主に静止画からスタートしたC2PAは現在、写真以外にも動画やPDFファイルへと広がり、さらにライブ映像に付与する技術も開発されている。
アジア太平洋放送連合(ABU)が主催し、アドビやソニーなどがスポンサーとして参加した「Media Provenance Summit Tokyo 2026」が東京都内で開催され、NHKやフジテレビ、ウクライナ公共放送「Suspilne」などがC2PAの現状を講演した。
C2PAによってコンテンツに信頼を
C2PAは、誰がそのコンテンツを作成したか、どのような機器(カメラなど)で撮影・生成されたか、その後どのような編集が行われたかといった「来歴情報(プロビナンス)」をデジタルコンテンツに付与する標準規格。データに電子署名を施すことで来歴情報自体の改ざんを防ぎ、出所の真正性を確認できるようにしたうえで、さらに、SNS投稿時などにC2PAのメタデータが削除された場合でも、電子透かし(ウォーターマーク)などをキーにして来歴情報を復元する技術も開発・実証されている。こうした埋め込まれるメタデータはコンテンツ認証情報(コンテンツクレデンシャル)と呼ばれている。
アドビやソニーなどが参画した業界団体が技術仕様を定めており、ソニーやキヤノン、ニコンらカメラメーカーも賛同して対応カメラを発売している。特にソニーは、多くのαシリーズですでに対応しているほか、カムコーダーの「PXW-Z300」でもC2PAをサポートしている。
主に報道写真、ニュース番組でのニーズが高い。その背景には、SNSの普及でフェイクニュースの広がりが加速し、生成AIの性能向上によってより精巧なフェイクコンテンツが作成されるようになったことが挙げられる。
特に正確な情報を伝えることが使命となるメディアは、「信頼」を損なうとして強い危機感を持っている。
そうした中で、「Project Origin」と呼ばれるプロジェクトからスタートしたC2PAは、標準規格化してC2PAとなり、次第に機能を拡張してきた。静止画から動画へ広げ、PDFにもコンテンツ認証情報が付与できるようになった。
コンテンツ認証情報が埋め込まれたコンテンツを対応ブラウザなどで表示すると、小さく「CR」のアイコンが表示される。これを選ぶと埋め込まれたコンテンツ認証情報が表示され、その来歴などを確認できる。
例えばソニーのα9 IIIで撮影され、撮影者はX社のAカメラマンであるといった情報が保存されている。Lightroomによってどのような編集が行われたか、という情報が付与されていることが分かる。ここで露出補正程度であればともかく、生成AIによる処理が加わっていると、その内容が問題となってくる。撮影時の元画像の情報があるため、どんな処理が行われたかは確認できる。これが来歴情報だ。
これがいくつかの講演で「Glass to Glass」と表現されていた。カメラのレンズ(ガラス)からスマートフォンなどのディスプレイ(ガラス)まで、一貫して来歴情報を維持・伝達する仕組み、という意味合いだ。
ここで課題となるのが、特にSNSでは画像のメタデータを削除してしまう点。一部のSNSがコンテンツ認証情報に対応して表示できる場合もあるが、削除されると来歴が失われてしまう。
例えばNTTドコモらは、携帯電話の基地局の位置情報とNTP時刻を活用して、既存の電子透かしと組み合わせることで検証と復元を実現しようとしている。
現在は、選挙・災害報道における画像や動画のスクリーニングとして実証を行い、高い偽情報の検出率を実現したという。今後は、専用のスマホアプリで撮影したコンテンツにコンテンツ認証情報と電子透かしを付与し、SNSへの投稿でコンテンツ認証情報が除去されても電子透かしから復元できる技術を実証しており、2027~29年に商用サービス化を目指している。
DigiCertの講演内にもあったが、「C2PAはディープフェイクの発見器ではない」。あくまで、「誰が作り、公開して、どんな変更があったか」を記録するメタデータだ。
とはいえそれにより、そのコンテンツに変更が加えられているか判別できるようになる。こうした点が、報道現場でのニーズの高まりに繋がっている。
ウクライナ、NHK、フジテレビ……各社が期待するC2PA
今回の各社の講演で共通していたのは、「報道の信頼性」だ。メディアがフェイクに騙されないだけでなく、メディアの報道を改変してフェイク映像を作ったり、メディアのように装ったSNSの情報が氾濫している点を懸念する声が多い。
実際にその脅威にさらされているのが、戦時下のウクライナだ。講演したのは、ウクライナ公共放送SuspilneのDmytro Khilchenko氏とKyrylo Iesin氏。Khilchenko氏によれば、ロシアはプロパガンダ予算として1,463億ルーブルをかけているという。これにはさらに海外への情報操作や干渉(FIMIキャンペーン)、BOTなどは含まれていないという。
その中には、「たくさんのウクライナ兵が自撮りをして戦争の士気を下げる言動を投稿している」というAIフェイク映像があったり、実際の放送映像に別の画像を差し込んだフェイク画像を投稿したり、といったAIによる偽情報があった。
英BBCの調査では、ニュースを信頼すると答えた人は37%しかおらず、62%はオンラインの情報は何が本当か分からないと回答していたという。Khilchenko氏は、「フェイクをすべて見抜くにはどうすればいいか?」ではなく、「何が事実であるかをどのように証明するか?」という点が重要だと指摘する。事実確認は偽情報を拡散するよりも難しいからだとKhilchenko氏は強調する。
ここでC2PAが重要な役割を果たすという。そこでSuspilneはC2PAの導入に至った。SuspilneではCMSシステムでC2PAに対応しているという。ソニー製のカメラ2台を使い、内製で開発したという。ウクライナではTelegramなどのSNSが主要な情報源になっているとのことだが、今回の開発によって撮影から放送まで来歴が記録されるようになり、SNSに対して信頼できる情報を示せるようになった。
NHKは、特に視聴者の投稿映像を使用する際にAI生成や改ざんをチェックしている負担について言及。そこで番組制作過程においてC2PAに対応して来歴情報の確認や付与などをできるようにした。NHKでは一連の開発成果を、今後オープンソース化して公開していく意向だという。
フジテレビも同様に、投稿動画のチェックの負担が大きいという理由から、映像ライブラリでC2PAの来歴情報が表示されるようにしている。加えて、デジタルテレビ広告への応用も語られた。付与されたコンテンツ認証情報はテレビのリモコンから確認ができる。
フジテレビはすでに120以上の番組で実証実験を行い、C2PAが付与された放送を行っているという。
C2PAは来歴を示すという基本的な知識だけでなく、「C2PAがあるからといって内容が真実であるという証明にはならない」という点も、視聴者側が理解する必要がある。今後はこうしたリテラシーの課題に加え、「非常口のピクトグラム」のような英語に依存しない直感的に理解できるシンボルマークの必要性も提案されていた。
コンテンツ認証情報による来歴は、「食品の栄養成分表示のようなもの」と説明したのはアドビのAndy Parsons氏。すべての食品の原材料を知る必要はないが、それを知りたいときや、誰が作ったのかを確認したいときにも対応できる。コンテンツ認証情報もそれと同じで、こうした「知ることができること」、これをParsons氏は「民主主義における基本的な権利」と表現している。
報道は信頼で成り立つため、その信頼を担保する技術の一つとして、C2PAの重要性が高まっている。参加した放送局からは、特にそうした考えを強く感じた。














