コラム

-14℃の冷気で体を冷やすリュック型空冷ウェア

工具・アウトドア製造30年のプロが仕掛ける「人を冷やす」プロダクト

近年、地球温暖化による酷暑が常態化し、日本国内でも最高気温が40℃に迫る日も珍しくなくなった。2025年6月からは改正労働安全衛生規則が施行され、職場での熱中症対策が義務化されるなど、産業界でも暑熱対策が重要視されている。

こうした背景から、日本国内における「電動ファン付きウェア」の市場規模は出荷金額ベースで240億円(2025年予想)に到達するほどの巨大市場へと急成長しているという。そんな熱い視線が注がれる暑熱対策市場において、全く新しいアプローチのリュック型空冷ウェア「COOLER MASTER S26」を開発した株式会社メカリンクに話を聞いた。

「COOLER MASTER S26」は、2025年6月に応援購入サービス「Makuake」で先行販売が開始され、応援購入総額1,000万円を突破するなど発売前から大きな反響を呼んだ。建設・物流・農業などの現場を主軸に置いた製品であり、カメラやレンズといった撮影機材の収納を想定したバッグではない点にはご留意いただきたい。

従来の空調ウェアとは根本的に思想が違う

「従来の空調ウェアとは根本的に思想が違う」と語る同社。COOLER MASTERの特徴は、汗の気化熱に頼らない、独自の深部体温コントロールにあるという。

市場にある多くのファン付きウェアは、外気を取り込んで「汗の気化熱」で涼しさを得る仕組み。しかし、人間の皮膚の表面温度は約32℃と言われており、外気温がそれを超えると汗が気化できず、ただ熱風が体を包み込むだけという限界を迎えてしまう。

COOLER MASTERは、汗をかかせるのではなく、独自の冷送風システム「TorCosys」によって作られた冷たい空気を直接体に当てるアプローチをとる。

人間の脳は体重のわずか2%ほどの重量だが、全身の血液の約20%を消費する。つまり、首元を走る頸動脈を効率よく冷やすことが、肉体的・思考的なパフォーマンスを維持する上で最も効率的なのだという。顔面を開放して視覚や聴覚の情報を遮断せず、首元や後頭部へ冷風を上昇させる設計こそが、このプロダクトの核となっている。

氷と空気の熱伝導システム

では、どのようにして冷気を生み出しているのか。そのメカニズムは極めてシンプルだ。

本体下部のファンから吸い込んだ外気を、内部の収納室にセットした「凍らせたペットボトル(または保冷剤)」に直接触れさせることで一瞬にして空気をミックスし、最大-14℃の冷風を作り出す。

本体下部のファン
内部の収納室に冷却材をセット

大風量によって力まかせに汗を気化させる従来のファン付きウェアとは違い、冷たい空気を作って効率よく頭部へ送り届ける設計のため、風の力はほとんど必要としない。大量の電気を使って強風を送る必要がないため、省エネ性能も両立しているのだとか。

「潰れないエアダクト」と「染み出すマット」の構造

ここで考えられる懸念としては、荷物にリュックを入れれば、風の通り道がつぶれてしまうのではないかという点だ。

この問題を、COOLER MASTERは堅牢なハードウェア構造で解決した。作られた冷風を首元へロスなく届ける経路には、金属製の構造体「エアダクト」が内蔵されている。これにより、ダクトが押し潰されることなく100%の冷風が首元へ供給され続けるとしている。

首元の穴から冷風が送られる
内部の様子。“潰れない”ダクトによって、確実に冷風が首元に届く

さらに、背中が当たる面と、ストラップ部分には通気性に優れたスポンジ状の「エアクーリングマット」を採用。作られた冷気がメッシュからじんわりと染み出す構造になっており、夏場にバックパックを背負った際の宿命である「背中の不快な熱蒸れ・発汗」を根本から抑え込んでくれる。

COOLER MASTERの背面部。背中からショルダーストラップにかけて、メッシュ構造になっている

汎用パーツへのこだわり

従来の空冷・水冷ウェアの多くは、高価な専用バッテリーや独自のACアダプターを必要とし、これが買い替えや管理のボトルネックになっていた。

しかし、COOLER MASTERは、市販されている一般的な10,000mAhのモバイルバッテリー1個で、最大20.5時間の連続稼働(弱モード時)が可能という。「スマホが普及している国なら、世界中どこでも安価に手に入る汎用バッテリーで動くようにしたかった」(同社)

左肩にリモコンを装備。この内部にモバイルバッテリーをセットする

使い勝手と静音性

本体重量はファンを含めて約750gと軽量。ワンタッチベルトの採用により、煩わしいジッパーの開け閉めなしに、わずかな時間でパッと着脱できる。

さらにメンテナンス性にも配慮されており、ファンユニットとUSBケーブルを取り外せば、リュック本体はネットに入れて洗濯機・乾燥機でそのまま丸洗いできる。

また、ファン特有の駆動音についても、47~58dBAという「図書館レベルの静音性」をクリアしている。

右肩部には、スマートフォンの収納スペースもある

汗の気化熱に頼らない理由

このプロダクトの背景には、5年という開発期間と、200点を超える試作品の山がある。

創業メンバーは、工具やアウトドア・レジャー用品の設計製造に30年以上携わってきたプロフェッショナル集団。当初は「冷たい保冷剤を直接肌に密着させるベスト」を試作したという。

しかし、冷たい異物が肌に直接触れると、人間の防衛反応で逆に血管が収縮し、深部体温を下げる効果がほとんどないという生体システムの壁にぶち当たった。そこから「人間の体は空気でしか効率よく冷やせない」と気づき、現在のTorCosysの特許構造へとシフトしたのだとか。

動きやすさという点で、この形状もこだわりのポイントだという

さらに、開発にあたっては現場の職人たちの生々しい声が反映されている。

「従来の空調服はパンパンに膨らんで車移動のときに邪魔」「ひと夏乗り切るのに何枚も高価な専用ジャケットを買い足すからランニングコストが最悪」といった不満を、リュック型への割り切りと市販バッテリー対応によって解決した。

購入層の広がり

当初はプロの建築・物流現場を主軸に展開していたが、現在は一般市場(B to C)へも広がりを見せている。その点において同社が重要視しているのが、スタイリッシュなデザインであること。日常に溶け込むリュック型デザインに仕上げたことで、一般層への普及も進みつつあるという。

現在、女性ワーカーや一般層が夏の屋外を歩く際の暑さ対策は「日傘とハンディファン」が主流だが、このCOOLER MASTERがあればその両方を手放せる。同社はそのような全く新しいライフスタイルを提案していきたいとのこと。

横から見ると、リュック本体がコンパクトである様子がうかがえる
チェストベルトも備えている

カメラユーザーとの親和性

一方で、カメラユーザーとの親和性はどうだろうか。

取材の中で、実際にこのプロダクトが特定のプロフェッショナルから高く評価されている実例を伺うことができた。その代表例がドローンパイロットだ。

ドローンの操縦は極めて精密な作業であり、一瞬の判断ミスも許されないため、過酷な暑さのなかでも高い集中力を維持し続けなければならない。しかし、どんどん汗が出てくるとどうしても集中力が削がれてしまう。

実際に使用したパイロットからは「暑い環境下でも集中力を維持するのにすごくいい」と絶賛されているという。

筆者も実際に着用してみたが、意外にもフィット感が良く、肩や腕など体の動きを阻害することがないように感じられた。そしてなによりより首元にあたる冷風がとても心地よく、その冷感効果の高さにも驚いた。カメラバッグとしての使用は今の時点では見込めないが、夏の撮影時にも味方になってくれそうだと感じた。

本誌:宮本義朗