Reported by 桃井一至(2016/4/25 07:00)
PEN-F / M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO / 1/500秒 / F4 / ISO200 / 絞り優先AE / 62mm ゴールデンウィーク目前。帰省や旅行など、クルマで出かける機会の多いこれからの季節、クルマとパートナーを美しい風景を交えて、思い出を残したい方もいるだろう。そんな方々のために、状況を交えてワンポイントレッスンをしていこう。
旅のお相手は、2015年 SUPER GTで連覇を達成したMOTUL AUTECH GT-R。そのレースクイーンを今年も務める菅野麻友さん。
クルマはシルフィSツーリング。日産のミドルサイズセダン、シルフィにスポーティなフロントグリルやエアロバンパー&リアスポイラーなどの特別装備を加えたモデルだ。
筆者は仕事柄、荷物や人の移動が多いので、ミニバンを愛用しているが、実はセダンも好き。実用的な4ドアであると共に、独立したトランクルームを持つセダンは、積載機材が外から見えないのがお気に入り。
もちろん、降車時にカメラなど貴重品を下ろすのは大前提だが、現実的に三脚など撮影補助用品まで下ろすのは難しく、そのような気配が外から見えないだけでも安心だ。ただ今回は、ドライブの延長線程度に手軽な機材のみで撮るのを前提としている。そのため三脚、ライトスタンド、ストロボ、脚立、レフ板程度の、1人で頑張れる量の機材に留めている。
まずは海ほたるでポートレート撮影
早速、ステアリングを千葉・房総方面へ向けるが、なんとロケ当日は暴風雨。天気予報もあまり好転は見込まれない状況で出鼻をくじかれた感じだが「写真さえ良ければ雨は関係ない」という、応援にもならない言葉を担当から掛けられながら策を練る。――とは言え、それなりに楽しんだ。
まずはアクアラインの中間地点、海ほたるで休憩。雨は小降りだが、東京湾のど真ん中だけに横なぐりの風にあおられる。
幸いなのは曇天では、順光逆光があまり関係なく、どちらを向いてもフラットな光で撮れる。ここでは風上に顔を向けてもらい、髪が風下に向けて流れるようにしている。それでも、巻き上がる風で顔側にくることもあるので、多めにショット数を撮っておくのがおすすめだ。
写真の向かって右側から、小雨交じりの突風が吹いているので、顔の向きは右にして、髪が左側になびくよう調整。それでも時折、風を巻き込み、ロングヘアーが蛇女風になるときもあるので、なるべく多めにシャッターを切った。E-M1 / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO / 1/640秒 / F3.2 / ISO200 / 絞り優先AE / 38mm 大きな建物とクルマをカッコよく撮るには?
次に向かったのは、富津公園。ここには階段状の展望塔があり、三浦半島も見える夕陽スポットとして有名。悪天候で来場者はほとんどいないため、駐車場の一角を借りて、展望塔とクルマ、そして菅野さんを組み合わせて撮影した。
このような場所でとかく陥りがちなのは、クルマを背景(この場合、展望塔)近くにおいて撮るパターン。展望塔へのアクセスは最高だが、画面に収めるには建物が大きすぎて広角でも画角が足りず、当然、クルマも画面に収まることなく、人物のみがかろうじて全身入った状態。
このようなシーンでは、まず背景だけの構図を決めるのが鉄則。また望遠レンズだと、圧縮感も加わりクルマも堂々として見える。望遠レンズで展望塔を入れるには、撮影位置はかなり離れないとムリなので、クルマを動かして展望塔からおおむね50~60m離れた位置にクルマを置き、さらにカメラ位置は車から15mほど離れている。
展望塔から約50m離れた位置にクルマを移動。望遠レンズを用いて、展望塔を引き寄せたパターンだ。適度な圧縮感でクルマも堂々として見える。突風が吹くので、髪は手で押さえている。E-M1 / M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO / 1/250秒 / F8 / ISO200 / マニュアル / 62mm 展望塔、クルマ、撮影者の距離を離すことでカッコ良く写せる。次の写真では車のフロント側にスタンドでセットしたクリップオンストロボを発光させている ストロボ発光あり。体の右側の輪郭に光が入り、立体感が増す。人物の斜め後方から、ストロボを弱く発光。あまりにもフラットすぎる光のための苦肉の策だが、ストロボの使用可否は好みで決めればいいだろう。E-M1 / M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO / 1/250秒 / F8 / ISO200 / マニュアル / 67mm 応用編。展望塔の近くで広角で下から見上げ、看板も体で隠した構図。少し斜めに傾けているのは、画面で動きを見せるためだ。ただし広角レンズの特性上、展望塔は引き離されるためボリュームは減ってしまう。E-M1 / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO / 1/250秒 / F8 / ISO200 / 絞り優先AE / 12mm 陥りがちなNGパターン。建物の大きさも伝わらず、背景のカラフルな看板も目障り。とりあえず「撮りました」という感じだ。E-M1 / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO / 1/250秒 / F8 / ISO200 / 絞り優先AE / 16mm 被写体との距離とアングルが重要
クルマを走らせ、次は誓いの鐘(金谷)へ。駐車場の一角にモニュメントがあり、恋人の聖地にも認定された見どころのひとつ。近くにフェリー乗り場もあり、旅情感あふれるスポットだ。
空も少しずつ明るさを取り戻したので、クルマの特徴的な一部のみを取り入れたポートレートを試す。
何もない場所でのポートレートは案外難しい。菅野さんの様に仕事でポージングの基礎ができている人ならカタチになるが、不慣れな一般人ではかなりハードルが高い。
そんなときこそ、クルマの出番。クルマに寄り添うように立つだけで、自然な雰囲気に仕立てられる。ここでは状況を伝えるため、背景に誓いの鐘を入れたが、撮影地にこだわらないのであれば青空バックでもいい。テールライトの赤もアクセントになり、彩りも華やかになった。
展望塔と同様に望遠レンズを使用。背景をシンプルにするには、望遠のほうが扱いやすい。空は明るくなってきたが、相変わらず突風のまま。風上に顔を向けるようにして、風を味方に動きを盛り込んだ。PEN-F / M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO / 1/1,600秒 / F4 / ISO200 / 絞り優先AE / 85mm ここでも鐘、クルマ、撮影者の距離を離して望遠レンズで撮影 NGパターン。クルマ、人物、鐘のどれを見せたいのか明確に伝わらず、クルマを誓いの鐘の横に置いただけにしか見えない。パイロンや路面のペイントも原色だけに目障りだ。PEN-F / M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO / 1/1,600秒 / F4 / ISO200 / 絞り優先AE / 40mm クルマを鐘の近くに置いただけでは、散漫なカットになる さて、時間とともに雲の表情も豊かなってきたので、クルマを主題とする写真を狙う。
近くで見ると気づきにくいが、少し離れて冷静に見ると、フロントからリアに流れるボディラインやピラーの位置、ボディと窓の比率、クルマのフォルムは、計算された美しさを感じる。特にシルフィSツーリングはエアロパーツでより躍動感のあるフォルムが目を楽しませてくれる。
そこでカメラの設定を「モノクローム」に切り替えて、モノトーンで造形や風景の美しさをシンプルに伝えてみた。あえてカメラ位置はクルマの真横にして、サイドラインがよく見えるように配置。高さも車高の中心と海面のバランスを見ながら、クルマの奥行きを感じさせなくしている。
雲と海、そしてクルマのバランスを見ながら構図を決める。人物は小さく、シルエットになるが、表情が見えなくても雰囲気は十分伝わるはず。相変わらず風が強く、波しぶきが時々クルマにかかる。PEN-F / M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO / 1/2,000秒 / F5.6 / ISO200 / 絞り優先AE / 50mm 純粋にクルマのフォルムのみを狙う。シンプルな背景に置けば、シルフィの流れるようなフォルムや空がボディに写り込んだプレスラインなどに気付かされる。PEN-F / M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO / 1/2,500秒 / F4 / ISO200 / 絞り優先AE / 50mm こちらは上の写真よりもさらに低く、地面すれすれから狙った 背後に回り込んで撮影したパターン。とかくクルマだけを画面いっぱいに入れた構図になりがちだが、周辺の光景を取り入れたのもドラマチックな雰囲気に仕上がる。クルマのカタログなどを参考にしてもいいだろう。PEN-F / M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO / 1/4,000秒 / F4 / ISO200 / 絞り優先AE / 40mm エフェクト機能も積極的に活用しよう
ドライブの途中、桜の美しいお寺を発見。許可を得て参道にクルマを置かせてもらってのショット。参道はクルマ1台でいっぱいの幅。桜との距離も変えられないので広角を利用。桜と建物がクルマに重ならないスペースに配置できる位置へクルマを移動している。あとはカメラワークで微調整だ。
カメラ内蔵のアートフィルター「トイフォト」を使ってアレンジ。ノーマルのままでは、曇天の白い空が目立ち気味だが、周辺減光効果で視線を画面中央に引き寄せると同時に空の面積を減らせて一石二鳥。PEN-F / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO / 1/500秒 / F4 / ISO200 / アートフィルター:トイフォト / 12mm カメラ位置を上の写真よりも少し正面気味に持ってくれば、クルマの奥行きや人物の伸びやかな印象は若干スポイルされるが、背景の桜と人物の重なりが軽減される。優劣というよりも好みの問題。桜のように季節感のある写真は後から見るには楽しい。PEN-F / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO / 1/800秒 / F4 / ISO200 / 絞り優先AE / 13mm クルマが映える背景とは?
海沿いにクルマを走らせると印象的なS字カーブが見えてきた。写真は平面での表現だが、人の目は立体を見ているので、いかに平面を立体的に見せるかが腕の見せ所。このようなS字カーブは奥行きを見せるには恰好の撮影地と言える。
ただし道路上での撮影は危険がつきもの、周辺の交通状況に注意しながら、事故の無いよう安全な場所から撮影を楽しみたい。もちろん、駐停車禁止など、交通法規は必ず守ること。安全な位置にクルマを置き、背景とクルマのバランスを見ながら構図を決める。
道路のように高さのないものを背景にする場合は、カメラ位置は高くないと路面が見えない。幸いこの場所は起伏があって、高さはそれほど意識しなくてもよかった。望遠の圧縮効果でカーブを車体に近づける、広角で風景の一部のような撮り方など、両パターンで撮ってみた。
このような魅力的な風景には、なかなか巡り会えない。走りながらいつもアンテナを張って見つけたい。
35mm判換算、約200mm相当の望遠撮影。背景のカーブがクルマに近い印象に見える。カメラ位置はやや高めの目線程度。PEN-F / M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO / 1/800秒 / F4 / ISO200 / 絞り優先AE / 97mm 上の写真とほぼ同位置から、カメラを路面近くまで下ろした。路面が画面内に多くなり、走りの印象は強まるが、S字カーブの存在は薄くなる。PEN-F / M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO / 1/1,600秒 / F2.8 / ISO200 / 絞り優先AE / 110mm クルマの撮影ではローアングルをよく使う。その際、液晶モニターが可動する機種だと撮影しやすい 35mm判換算、80mm相当の中望遠で撮影。最初の写真に比べるとS字カーブは遠くに見えるが、レンズ効果が弱く、目で見た状態に近い自然な印象。迫力には欠けるがプレーンな写真としては悪く無い。PEN-F / M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO / 1/800秒 / F4 / ISO200 / 絞り優先AE / 40mm 35mm判換算、24mm相当の広角撮影とカメラ機能のアートフィルター「ドラマチックトーン」の組み合わせ。広角の伸びやかな遠近感に加え、曇天の雲や荒々しい海が、ドラマチックトーンによって描き出され、パワーやスピード感を感じさせる仕上がりに。劇画調でやり過ぎ感を感じなくもないが、力強さや迫力が魅力的だ。PEN-F / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO / 1/100秒 / F16 / ISO200 / アートフィルター:ドラマチックトーン / 12mm 日中シンクロで印象的な写真に
当初、暴風雨だった天候も薄日が差し、夕方には空が赤みを帯びてきたので、そろそろポートレートの仕上げとして、夕陽を活かす撮影を試みた。ただ、普通に撮ったのでは、夕陽と菅野さんを両立させるのは難しい。そこでストロボを活用する。
海に近い駐車場脇の草むらにクルマを寄せて、ストロボをスタンドにセット。風景写真で空と雲のトーンを撮るように露出をアンダーに設定。そのままでは人物が暗くなるので、そこをストロボ光で補う作戦だ。
このようにすれば、明るめの夕暮れ時でも、擬似的に暗く写せる。ストロボOFFや状況写真と比較してもらえば、「えっ、こんなところで」と思ってもらえるはず。なお人物を浮かび上がらせるには、明るいシーンほど速いシンクロ同調速度や大光量のストロボ、または画質劣化が伴うがNDフィルターが必要になる。
夕景の中にシルフィと菅野さんが浮かぶ。カメラ設定のイメージは、露出アンダー気味で風景写真を撮るつもりで、その絞り値ぶんのストロボ光を人とクルマに向ける感じだ。なお脚立を使って高い位置から撮影している。脚立が無ければ、ライブビュー撮影でもいい。PEN-F / M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO / 1/250秒 / F10 / ISO200 / マニュアル / 12mm スタンドに立てたストロボをモデルとクルマに当てている カメラ位置を下げる。広角レンズを利用していることもあり、クルマの迫力はローアングルのほうが強い。ストロボ1灯をカメラ横から照射するだけで、様子は一変。ストロボを複数台使うのも一案だが、2人きりのドライブでは、スマートにこなすのも重要。これくらいが限界だろう。PEN-F / M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO / 1/250秒 / F10 / ISO200 / マニュアル / 10mm カメラの高さを変えることで写真にバリエーションが生まれる ストロボOFF。クルマと彼女の写真としては成立するが、これではただの草むら脇で撮ったようにしか見えない。ストロボ効果恐るべし。PEN-F / M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO / 1/200秒 / F5.6 / ISO200 / 絞り優先AE / 10mm 夕方はライトを点けて撮るのがポイント
完全に陽が傾きつつある時間帯になると日中と打って変わり、強い日差しも時折見えてきた。その光を活かして、シルフィのエアロバンパーの造形を見る。ノーマルのシルフィはジェントルな顔つきだが、Sツーリングではアグレッシブな顔つきに豹変。彫りの深いスポーティな印象だ。
ボディ側面に夕陽が反射する角度でローアングルから見上げ、さらにランプ類の点灯をアクセントにしている。ホワイトバランスはカスタムで14,000Kを選び、夕陽の琥珀色がさらに強まる味付けとした。
夕陽の色を強調させるため、ホワイトバランスを任意で14,000Kに設定。ヘッドライトはクルマの印象を決めるカナメゆえ、エアロバンパーと合わせて、両立するアングルを探す。ヘッドライトは眩しいので、アングルを決めてからの点灯がおすすめだ。PEN-F / M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO / 1/160秒 / F4 / ISO200 / マニュアル / 43mm シルフィの中でも、Sツーリングは専用エンブレム付き。シルバーのエンブレムが夕陽に反射するアングルを探す。アップほどクルマの汚れが目立ちやすくなるので、使い切りの拭き上げクロスなどを常備すると便利だ。PEN-F / M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO / 1/4,000秒 / F3.2 / ISO200 / 絞り優先AE / 90mm エンブレムは近くから180mm相当で狙い、テレマクロ的に切り取った 夜もエフェクト機能が活躍
夕陽も落ちて、空も徐々に暗くなってきた。と、同時に再び厚い雲が張り出してきた。並木の美しい路肩にクルマを停めて、並木道と雲、そしてシルフィを狙う。
ここではアートフィルターのクロスプロセスIIを使用。独特の世界観のある色合いで、簡単にカタログのイメージカット風の写真が楽しめる。
ノーマル撮影で楽しむのももちろん悪くないが、最新カメラの多くにはエフェクト機能が多く搭載されている。その場の雰囲気やクルマの印象などを交えて、自分のイメージとオーバーラップするエフェクトを選ぶのがコツだ。
ローアングルから、雲の広がりとシルフィを組み合わせる。少し傾けて道路を放射状に見せたり、いわゆる普通のローアングルなど、自分なりのイメージでカッコよく撮ろう。撮影現場は暗く、場所もないため三脚は立てられなかったが、ボディ下部と地面の間に、小さなものを挟み込んで、ブレを最小限に留める工夫をしている。PEN-F / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO / 1/5秒 / F4 / ISO400 / アートフィルター:クロスプロセスII / 12mm まとめ
パートナーと愛車との思い出はクルマ好きなら、しっかり綴りたいもの。紹介したようにクルマと背景、そして人物の位置関係やレンズ特性などを理解すれば、それほどハードルの高い撮影ではない。
機材も標準ズームに加えて、望遠レンズがあれば、とりあえず似たようなことはできるはずだ。日頃から機材に慣れておき、パートナーの機嫌を損ねない程度に、スピーディかつスマートに撮影を楽しんで、素敵な写真を撮って欲しい。
PEN-F / M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO / 1/2,500秒 / F4 / ISO200 / 絞り優先AE / 40mm (協力:株式会社オーテックジャパン)