特別企画

遠距離・近距離どちらにも強いAF微調整術を伝授

まさかの“ライブビュー試行錯誤”でここまでできた

一眼レフのファインダーでの位相差AFは、個々のレンズの特性などによって、微妙にピント位置がずれることがある。フィルム時代にはそれほど目立たなかったが、デジタル化以降、画素数が増えるにつれて大きな問題として取り沙汰されるようになってきた。

なにしろ、畳サイズのプリントを間近で見るのと同じような観賞の仕方が当たり前になったのだから、ごくわずかなピントのズレさえ目に見えてしまう。そんな状況で、いつもどんぴしゃりでピントが合うことのほうが奇跡に近い。

とは言え、きっちりと合うべきピントがきっちりと合ってくれないのも気持ちが悪い。そういう気持ちの悪さを解消できる機能が、AF微調整だ。ピントの合う位置を微妙に移動させることで、ズレているピントを思いどおりの位置に合わせることができる。

ちなみに、オリンパスとニコンは「AF微調節」、シグマとソニー、ペンタックスは「AF微調整」、キヤノンは「AFマイクロアジャストメント」と呼んでいる。ここでは多数派の「AF微調整」を使うことにする。

遠距離と近距離の2つでピントをチェックする

通常、この機能を使ってピント位置の調整を行なうには、ピントを合わせるターゲットとピントのズレ具合を見るための斜めになったチャートを自作または購入しないといけない。が、たまにしか使わないものをいちいちこしらえるのも手間だし、まして買うというのももったいない気がしてしまう。そのうえ、このチャートを使う方法は、撮影距離に制約がある。

AF微調整を行なう際の撮影距離は、縦位置でバストアップぐらい、もしくは縦位置で全身が画面いっぱいにおさまるぐらいが目安だと言われている。おおざっぱに計算すると、装着レンズの35mmフルサイズ換算焦点距離の30倍とか50倍ぐらいと考えればいい。焦点距離が50mmなら1.5mないし2.5mといったところだ。

が、レンズの中には、遠距離と近距離とでピントの合う位置が違うものがある。遠距離では前ピンなのが、近距離では後ピンに変わるなどという厄介なクセを持ったレンズが存在するのである。そういうレンズの場合、バストアップ程度の比較的撮影距離が短い状態でAF微調整を行なうと、遠距離でピントのズレが大きくなってしまう。つまり、AF微調整をやった結果、ピントがアマくなるという事態が起きてしまうわけだ。

と考えると、少なくとも遠距離と近距離の2パターンでピントのズレ具合をチェックしておく必要がある。が、チャートを使う方法は、遠距離には対応できない。被写界深度が深くなるのでピントのズレ(ボケ具合)が読み取りづらくなるし、それ以前に画面に写るチャートが小さすぎてお話にならないだろう。

そういうのもあって、今回はお金がかからず、しかも撮影距離の縛りのないAF微調整の方法を考えてみた。前ふりばかり長くて申しわけないが、しばしおつきあいいただければと思う。

ピント調整の実際

さて、やることはむずかしくない。

  1. ファインダーの位相差AFでピントを合わせる。
  2. ライブビューの拡大表示でピントの合い具合をチェックする。
  3. ピントが合っていない場合はAF微調整を行なう。

この3つの手順を繰り返すだけ。誰にでも簡単確実にやれる。

と書くとミもフタもないので、もう少し詳しく説明する。

まず、遠距離でも近距離でもいいから、ピントが合わせやすい被写体にカメラを向けてセットして(もちろん、しっかりした三脚に固定すること。それと十分に残り容量のあるバッテリーを装填すること)、ライブビューの拡大表示にする。この状態で、めいっぱいシャープになるようにピントを合わせる。AFを使ってもいいが、レンズによっては像面AFで微妙にピントをはずしてくれることがあるので、MFのほうが確実だ。

ライブビューで10倍に拡大して、MFでピントを合わせた状態。これを基準にAF微調整を行なう。なお、この画面は屋外で撮っているので写り込みがちょっと気になるかもしれないが、そのへんはご容赦いただきたい。それと、ここでは説明用に後ピンのレンズという設定で画面撮影などを行なっているので、そのへんもご理解いただきたい。

こちらが実写画像。ピントぴったりである。

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被写体は平面的なものならなんでもいい(撮影距離がある程度以上長い場合は立体物でも問題ない)。ただし、光源や被写体の色などが測距結果に影響を与える可能性があるので、原則として太陽光下で、なるべく色味のない、つまり白やグレーの被写体を選ぶのがいいと思う。

ピントを合わせたら、このときの画面の見え具合(=ピントの合い具合)をおぼえておく。ここまでが下準備である。

手順1

ファインダー撮影に切り替えて、一度大きくピントをはずしてからAFを作動させてピントを合わせる。

わざとピントをはずしてから合わせなおすのは、おおむねピントが合った状態でAFを作動させたときに、カメラが「まあ、いいんじゃねぇの」と判断してピントを動かさないまま合焦マークを出すことがあるからだ。これを避けるために、一度ピントをはずして合わせなおすという動作を行なうわけだ。

注意しないといけないのは、レンズによって、合焦時のピント位置にバラツキが出る場合があること。合焦時にレンズが止まる位置がころころ変わったり、無限遠側から合わせるときと至近側から合わせるときとで止まる位置が違うようなケースもある。こういうときはAF作動を何度か繰り返してバラツキの中心をつかんでおく。

フォーカスモードはシングルAF(キヤノン式では「ワンショットAF」)にするが、今回は使用したのがキヤノンEOS 80Dだった関係で、ワンショットAFでAF作動、合焦マーク点灯後にAIサーボAF(一般に言うところのコンティニュアスAFである)に切り替えている。AIサーボAFで撮ると再生画面上にAF微調整の数値が表示されるのだが、どういうわけか、ワンショットAF時には表示してくれない。おかげで手間がひとつ増えてしまった。

基本的にはシャッターを切る必要がない調整法なのだが、被写界深度でカバーできる範囲をチェックしたい場合もあるだろうし、そういうときにシャッターを切る操作でピントが動かないほうが確実なので、シャッターボタンによるAF作動はオフにしておくといいだろう。

手順2

ファインダーの位相差AFでピントを合わせたら、再度ライブビューに切り替えて、拡大表示でピントの合い具合をチェックする。

最初にMFで合わせたときの画面と比べてシャープさが足りないようならピントがアマい=AF微調整が必要ということだ。おぼえていないなら、そうっとフォーカスリングを回してみる。ピントを動かしてシャープさの変化を見て、よりシャープになるならAF微調整を行なう。

このときに、フォーカスリングを無限遠方向に回してシャープになるのはターゲットよりも手前にピントが合っている(前ピン)状態。至近側に回してシャープになるのはターゲットよりも向こうにピントが合っている(後ピン)状態だ。

ピントがちゃんと合っていない状態での実写画像。画面左端に見えている電線(?)やアンテナがシャープに見えるので、後ピンということになる。

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手順3

AF微調整を行なう。前ピンの場合は数値をプラス側に、後ピンの場合はマイナス側に設定する(もしかすると反対のカメラもあるかもしれないが)。撮影距離が遠いと前ピンと後ピンの判別がむずかしい場合があるが、そういうときは勘である(運が悪くても2回目では当たる)。

キヤノンEOS 80Dの「AFマイクロアジャストメント」の画面。「レンズごとに調整」を選択する。EOS 80Dの場合は「Q」ボタンで設定の変更が行なえる。

慣れないうちは、どれぐらいの数値に設定すればいいかわからないだろうから、最初は4ステップずつ(補正範囲が±20ステップの場合。±10ステップの機種なら2目盛りずつ)変えてチェックして、近いあたりを2ステップずつ、最終的には1ステップずつ変えてチェックする。というふうに、段階を踏んで追い込んでいく。遠回りのようい思えるかもしれないが、確実性は高い。

設定値を変えたら手順1に戻って同じ作業をピントぴったりになるまで繰り返す。面倒くさいが、こればかりはどうしようもない。チャートを使う方法にしても、斜めチャートの目盛りを読んで、その数値をカメラにセットすればいいというわけではなく(あの目盛りは単なる目安にすぎない)、こういう面倒くささは避けられない。

で、遠距離なり近距離なりでピントぴったりになったら、もう一方もチェックする。最初のほうで書いたような、遠距離と近距離とでピントのズレ具合が変わるレンズの場合、遠距離でAF微調整を行なうと近距離側でピントのズレが大きくなってしまう。だから、少なくとも遠距離と近距離の2パターンでチェックして、両方の数値が同じであればいいが、そうでない場合は別の対処を考えなくてはいけない。

「-10」に設定した状態で、ファインダーの位相差AFでピント合わせを行ない、ライブビューの拡大表示でピントの合い具合を確認する。まだ少しアマいのでさらに調整が必要なので、設定値を変えて同じ手順を繰り返して追い込んでいく。

設定値を「-10」にした状態での実写画像。

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たとえば、遠距離ではマイナス3、近距離ではマイナス6でピントぴったりになるレンズがあるとして考えてみよう。ちょっとした後ピンだ。

遠距離と近距離とでピントのズレ具合に大きな差がある場合。これはどちらかを捨てる必要が出てくる。近距離なら比較的ピントの山がつかみやすいからと考えて、遠距離に合わせ込んで近距離はMFで対応するというのも手だし、ポートレート用と割り切って近距離でピントぴったりに調整してしまうというやり方もある。このあたりは、なにをメインに撮るか、どういう撮影スタイルを好むかなどによって変わってくるだろう。

そこまでの差はない場合。遠距離でマイナス3、近距離でマイナス6なんていうレンズの場合は、被写界深度でカバーすることを考えるといい。マイナス3からマイナス6の範囲で、開放絞りからF11ぐらいまでを撮ったのを見比べて、数値をいくつに設定してFいくつ以上に絞るのを基本スタイルにするか、というのを決めるわけだ。

掲載のレンズでは、マイナス6に設定したときの遠距離でのボケが大きい一方、近距離ではそれほど大きな差が見られないことから、マイナス3に設定しておいて1段ほど絞るのを基本にするのが適当だろうと判断した。もしかすると、中間の数値に設定したほうがいいレンズ、近距離側に合わせ込んだほうがいいレンズもあるかもしれないので、そのあたりもきちんとチェックしておきたい。

このレンズは広角端だけやや後ピンで、近距離撮影時にはその傾向が強くなる。こちらは撮影距離が1mほどで(焦点距離からすると、縦位置で撮影距離60~70cmぐらいで全身がおさまるが、それもあまり現実的でないよなぁと思って長めにしている)、設定値は「±0」の状態。

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設定値は「-3」。「±0」よりもちょっぴりシャープさが増している。

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設定値は「-6」。この撮影距離ではこれがもっともシャープな状態となった。

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こちらは遠距離での設定値「±0」。

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設定値を「-3」にした状態。見た目では「±0」とほとんど変わらないが、何パターンかためした結果、「-3」がベストと判断した。

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設定値を「-6」にした状態。ピクセル等倍で見ると明らかにピントがはずれているのがわかる。近距離だけで調整すると、こんなふうに遠距離でピントが合わなくなることがあるので要注意だ。このレンズの場合、近距離のほうが設定値による差が小さいので、遠距離重視の「-3」に設定することにした。

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とまあ、実際にAF微調整を行なう際の手順や注意点について、思いつくことを書き連ねてみた。一応念のために書いておくが、この方法をためした結果、ピントがぐちゃぐちゃになったとしてもワタシも編集部も責任はいっさい負わないのでご注意いただきたい。

また、カメラによってはライブビューの拡大表示の倍率があまり高くできなかったり、あるいは表示される画面の品質がよくなくて、ピントの良否の判定が困難なものもある。そういうカメラには、この方法は利用できない(もちろん、ライブビュー機能を持たないカメラもだめである)。

が、現行の一眼レフの多くは、この方法でかなり正確なAF微調整が可能なはずなので、特に遠距離でのピント精度に不満を感じているのであれば、一度おためしいただきたいと思う。

北村智史