特別企画:マクロレンズの選び方(ニコン編)

Reported by吉住志穂

今回の撮影に使ったニコンのマクロ(マイクロ)レンズ。左からAF-S Micro NIKKOR 60mm F2.8 G ED、AF-S DX Micro NIKKOR 85mm F3.5 G ED VR、AF-S VR Micro Nikkor ED 105mm F2.8 G(IF)、Ai AF Micro Nikkor ED 200mm F4D(IF)
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 いよいよ春本番です。春と言えば花。花といえばマクロレンズの出番です。要するに、花などの小さい被写体を大きく写すのがマクロレンズの役割ですが、レンズのカタログには色んなタイプのマクロレンズが並んでいますよね。それぞれどのような違いがあるのでしょうか。

 このページではニコンのマクロレンズ(ニコンではマイクロレンズという製品名)を例に、マクロレンズの選び方を簡単に解説したいと思います。


最短撮影距離とワーキングディスタンス

 マクロレンズは、「標準マクロレンズ」、「中望遠マクロレンズ」、「望遠マクロレンズ」の3種類に分けられます。その違いは焦点距離。一般的に、35mm判の焦点距離で50〜60mm前後が標準マクロレンズ、100mm前後が中望遠マクロレンズ、200mm前後が望遠マクロレンズと言われています。

 ほかの交換レンズもそうですが、焦点距離が長くなるほど、遠くのものを大きく写せます。また、焦点距離が長くなるほど背景がボケやすくなったり、遠近感が薄まったり、被写体が密集した感じになります。あわせて、開放F値(Fナンバー)の数値が小さいほど、ボケが大きくなります。このあたりまでは、ほかの交換レンズと同じです。

 マクロレンズらしいところは、どの製品も最大撮影倍率(=最短距離で撮影したとき、撮像面に写された像の大きさの比率)が等倍(1倍)、または1/2倍になっていること。つまり、焦点距離に関わらず、例えば60mmのマクロレンズでも、200mmのマクロレンズでも写せる大きさは同じになるわけです。そこで何が起きるかというと、被写体までの最短撮影距離(=最大撮影倍率で写せる距離)が、標準マクロレンズ、中望遠マクロレンズ、望遠マクロレンズで全然違ってくるわけです。

 最短撮影距離は撮像素子から被写体までの距離ですが、レンズ先端から被写体までの距離をワーキングディスタンスと呼びます。ある被写体を同じ大きさで写す場合、焦点距離が短いレンズはワーキングディスタンスも短く、焦点距離が長いレンズはワーキングディスタンスも長くなります。撮影倍率が同じであっても、遠くにある被写体を大きく写したい場合は、ワーキングディスタンスの長い望遠系のマクロレンズが便利です。一方、被写体との距離をとれない場合や、最大撮影倍率で撮る必要がなく、ある程度大きく撮りたいときなどは、ワーキングディスタンスの短いレンズが便利です。

最短撮影時のAF-S Micro NIKKOR 60mm F2.8 G ED
最短撮影時のAF-S DX Micro NIKKOR 85mm F3.5 G ED VR
最短撮影時のAF-S VR Micro Nikkor ED 105mm F2.8 G(IF)
最短撮影時のAi AF Micro Nikkor ED 200mm F4D(IF)

 これらの基本を踏まえながら、ニコンの現行主力マクロレンズ(マイクロレンズ。以下マクロレンズで統一)を見ていきます。ちなみに、すべて等倍での撮影が可能で、ピントを合わせるときにレンズの先端が伸びないインナーフォーカス式です。


AF-S Micro NIKKOR 60mm F2.8 G ED

 いわゆる標準マクロレンズに属する製品です。小さな被写体を大きく写すためには、ほとんどレンズ先端まで近寄る必要があります。ワーキングディスタンスは公表されていませんが、最短撮影距離は18.5cm。近づけない花の一部を拡大するのには向いていませんが、テーブルの上のケーキや小物を撮るのは得意です。また、背景を含めて被写体を収めたいときや、後ろに下がれない場合に、ある程度花の全体を撮りたいときなどに重宝します。もちろん被写体に思いっきり近づけば、中望遠マクロレンズや望遠マクロレンズ並みに大きく写せるので、使い方次第でアイデアが広がるレンズです。

AF-S Micro NIKKOR 60mm F2.8 G ED。D700での装着例

 画角が広い標準マクロレンズなので、最接近したときのボケは大きいのですが、他のマクロレンズに比べると、被写体の前後をぼかすのは得意とは言えません。しかしカメラに付属する標準ズームレンズよりはボケが大きく、最短撮影距離を気にせず、被写体に近づけるのは精神的に楽。寄ったり引いたりと色んなアングルを試せるので、標準レンズ代わりに持ち歩くのもひとつの手だと思います。

 気をつけたいのは、フルサイズ(35mm判)センサーのデジタル一眼レフカメラ(FXフォーマット)と、APS-Cサイズセンサーのデジタル一眼レフカメラ(DXフォーマット)で、画角が変わってしまうことです。このレンズに限ったことではないのですが、APS-Cセンサーでは画角がフルサイズの焦点距離1.5倍相当になってしまうので、このレンズの場合は60mmが90mmになります。こうなると標準マクロレンズというより、中望遠マクロレンズです。ケーキや小物より、花のクローズアップに向くレンズになります。逆に、DXフォーマットで中望遠マクロレンズが必要な場合は、このレンズを選ぶと良いでしょう。考えようによっては、FXで標準マクロレンズ、DXで中望遠マクロレンズの二役をこなせるレンズとも言えます。DXで標準マクロになるレンズもニコンには期待しています。

 なお、標準マクロレンズは被写体のすぐ前で使うことがよくあり、うっかりレンズ先端を被写体にぶつけることがよくあります。そのためこのレンズのように、全長が変わらないインナーフォーカス式は助かります。


D700 / AF-S Micro NIKKOR 60mm F2.8 G ED / 約2.4MB / 4,256×2,832 / 1/640秒 / F3.3 / +1EV / ISO200 / WB:晴天 / 60mmD700 / AF-S Micro NIKKOR 60mm F2.8 G ED / 約3.1MB / 2,832×4,256 / 1/50秒 / F3.5 / +0.7EV / ISO200 / WB:晴天 / 60mm
D300 / AF-S Micro NIKKOR 60mm F2.8 G ED / 約3.0MB / 4,288×2,848 / 1/25秒 / F3.2 / +0.3EV / ISO200 / WB:晴天 / 60mm

AF-S DX Micro NIKKOR 85mm F3.5 G ED VR

 焦点距離だけを見れば、中望遠マクロレンズに含まれるレンズです。ただしFXフォーマットでは利用できず、DXフォーマット専用のレンズなので、実際にはFXフォーマットで焦点距離127.5mm相当の画角になります。使った感覚では、ほぼ望遠マクロレンズといってよい画角に思えました。

AF-S DX Micro NIKKOR 85mm F3.5 G ED VR。D300での装着例

 最短撮影距離は28.6cm。花のクローズアップにはちょうど良いワーキングディスタンスです。花の前後を大きくぼかして、ピントはシベや花びらにビシッと合わせる作品にうってつけでしょう。望遠マクロレンズ寄りの焦点距離のため、DXフォーマットでもボケが大きいのもうれしい点です。開放F値が中望遠マクロレンズで一般的なF2.8でなく、F3.5に抑えられている点が気になりますが、それでも被写体をクローズアップすれば、背景を大きくぼかすことができます。

 DXフォーマットで開放F3.5ということもあり、焦点距離を考えると軽量でコンパクトなレンズです。最新のレンズだけあって、超音波モーター、手ブレ補正機構のVR II、M/Aモードなど装備も充実しており、DXユーザーのマクロレンズ入門用としてはおすすめのレンズです。

D300 / AF-S DX Micro NIKKOR 85mm F3.5 G ED VR / 約2.4MB / 2,848×4,288 / 1/125秒 / F4.2 / +1EV / ISO200 / WB:曇天 / 85mmD300 / AF-S DX Micro NIKKOR 85mm F3.5 G ED VR / 約2.8MB / 4,288×2,848 / 1/8秒 / F8 / -0.3EV / ISO200 / WB:曇天 / 85mm
D300 / AF-S DX Micro NIKKOR 85mm F3.5 G ED VR / 約2.4MB / 4,288×2,848 / 1/30秒 / F4 / +2.0EV / ISO200 / WB:曇天 / 85mm

AF-S VR Micro Nikkor ED 105mm F2.8 G(IF)

 このレンズは上記の85mmと同様、花のクローズアップに最適です。最短撮影距離は31.4cm。適度なワーキングディスタンスで花を写しとれるため、花壇の花など、花マクロ撮影で最も撮影頻度の高いケースをカバーできます。画質も素晴らしく、AF-S Micro NIKKOR 60mm F2.8 G EDとコンビで撮影地に持っていけば、色んなパターンでの花マクロ撮影が可能になるでしょう。

AF-S VR Micro Nikkor ED 105mm F2.8 G(IF)。D700での装着例

 ただしDXフォーマットのカメラで使うと焦点距離157.5mm相当と望遠寄りになるため、花の全体を撮りたいときなどは望遠すぎて、少々持て余し気味になります。逆に、花の一部だけを切り取るような望遠マクロ的な使い方なら、DXフォーマットでも使いやすく感じます。ボケの大きさといい、ワーキングディスタンスといい、実は私の最近の作品傾向に良く合うレンズなのです。

 AF-S DX Micro NIKKOR 85mm F3.5 G ED VRと同様、手ブレ補正機構を搭載しているのは魅力です。被写体に近づくほどブレは目立つので、花のクローズアップ撮影は三脚を使うのが基本ですが、最近は三脚の使用が禁止されている植物園や公園が多くあります。そんなとき、ある程度まで手ブレを防いでくれる手ブレ補正機構は、あってよかったと思う機能のひとつです。

D700 / AF-S VR Micro Nikkor ED 105mm F2.8 G(IF) / 約3.5MB / 2,832×4,256 / 1/1,250秒 / F4.5 / +0.7EV / ISO200 / WB:曇天 / 105mmD300 / AF-S VR Micro Nikkor ED 105mm F2.8 G(IF) / 約3.0MB / 4,288×2,848 / 1/250秒 / F4 / +0.7EV / ISO200 / WB:曇天 / 105mm
D700 / AF-S VR Micro Nikkor ED 105mm F2.8 G(IF) / 約2.8MB / 2,832×4,256 / 1/500秒 / F4.5 / +1EV / ISO200 / WB:曇天 / 105mm

Ai AF Micro Nikkor ED 200mm F4D(IF)

 焦点距離200mmの望遠マクロレンズです。今回の4本の中で最短撮影距離50cm、ワーキングディスタンス26cmと最も長く、柵で近寄れない花を大きく写したり、被写体の前に別の花や葉を入れてボケを作る「前ボケ」をいれたいときに便利なレンズです。

Ai AF Micro Nikkor ED 200mm F4D(IF)。D700での装着例

 35mm判のイメージサークルを持つFXフォーマットのレンズなので、DXフォーマットのボディで使うと何と300mm F4の超望遠マクロレンズになります。35mmフィルムカメラ時代にはこんなマクロレンズは考えたことがなく、今回どうやってDXフォーマットのD300と組み合わせ使うか少し悩みました。しかし、使い始めるととても楽しい。前後をぼかしながら花畑の中の一輪を引き寄せたり、普段ならあきらめていた遠距離の花をクローズアップすることができました。

 ただし画角が狭いとブレが目立ちやすいので、三脚を使って慎重に撮る必要があります。そのため、三脚座がついているのはうれしい点。三脚座を使うと、縦位置から横位置、横位置から縦位置へとカメラを回転させても、構図の中央が変わらないので、積極的に縦横を変える気になります。また、ほかのレンズ以上にマニュアルフォーカスがやりやすく、微妙なピント位置をライブビューで探りなら撮ることができました。

 ほかの3本より設計が古めのレンズですが、今回の作例では十分に高画質。FXフォーマットで使うのも良いですが、DXフォーマットで飛び道具的な使い方も考えられます。とにかく大きなボケを作品に活かしたい、中望遠マクロレンズでは近寄れない被写体を大きくしたい人には試してほしいレンズです。ただし前ボケのためだけなら、最近はAF-S NIKKOR 70-200mm F2.8 G ED VR IIなどの大口径ズームレンズを望遠マクロレンズ代わりに使うこともできます。明確な使い方を考えないと単に不便なレンズになってしまいそうです。上級者向けのレンズと言えるでしょう。

D700 / Ai AF Micro Nikkor ED 200mm F4D(IF) / 約2.6MB / 2,832×4,256 / 1/125秒 / F5 / +2.0EV / ISO200 / WB:曇天 / 200mmD300 / Ai AF Micro Nikkor ED 200mm F4D(IF) / 約2.7MB / 4,288×2,848 / 1/60秒 / F5.6 / +0.7EV / ISO200 / WB:曇天 / 200mm
D700 / Ai AF Micro Nikkor ED 200mm F4D(IF) / 約2.7MB / 4,256×2,832 / 1/640秒 / F5 / +1EV / ISO200 / WB:晴天 / 200mm




(よしずみ しほ)1979年東京生まれ。日本写真芸術専門学校卒業後、竹内敏信事務所に入社。 2005年4月に独立。自然の「こころ」をテーマに、花や風景の作品を撮り続けている。日本自然科学写真協会(SSP)会員。

2010/3/26 12:00