ミニレポート
純正のライカRアダプターを使いこなす
(ライカM)
Reported by藤井智弘(2015/4/27 10:00)
ライカといえば、多くの人がライカMシステム(通称M型ライカ)に代表されるレンジファインダーカメラを思い浮かべるだろう。だがかつて、35mm一眼レフカメラの「ライカRシステム(通称R型ライカ)」が存在した。今回は、その一眼レフ用レンズをライカMで活用するテクニックについて紹介したい。
ライカ一眼レフの歴史
ライカは長年35mmレンジファインダーシステムで繁栄を極めていたが、1959年にニコンFが登場すると、35mmカメラの主流は一眼レフへ動き出す。ようやくライカも35mm一眼レフを開発し、初代となるライカフレックスが登場したのは1965年だ。露出計は外部測光式。ファインダーはマット面がなく、中央のマイクロプリズムのみでピントを合わせるというカメラだった。
使い勝手はニコンFにかなわず、大柄で重くて高価。決して成功したカメラとはいえなかった。その後、TTL露出計を内蔵し、画面周辺でもピントが合わせられるライカフレックスSL、後継機のライカフレックスSL2と続き、1976年に電子制御のライカR3が登場した。ライカ初の絞り優先AE搭載機だ。そしてプログラムAEやシャッター速度優先AEも持つライカR4が発売。R5、R7と進化し、機械式シャッターのR6、R6.2も登場。さらに1996年に多分割測光を採用したライカR8、2002年にライカR9が登場した。
ざっとR型ライカのカメラを紹介したが、M型ライカと異なり、よほどライカが好きな人でないと、それぞれのボディの形は思い浮かばないかもしれない。特に日本では「ライカ=レンジファインダー」の印象が強く、一眼レフは日本メーカーがリードしていたため、R型ライカはM型ライカほどの人気はなかった。とはいえ、岩合光昭さんや水越武さんなど、R型ライカを愛用したプロ写真家も多数いる。海外ではウィリアム・クラインが、ライカR6を現在でも愛用しているようだ。
ライカは2005年に、ライカR8/R9がデジタルカメラになる「ライカデジタルモジュールR」を発売。フィルム一眼レフがデジタル一眼レフに変身する画期的なシステムだったが、2年ほどで生産終了。R型ライカも製造を終えた。
ライカ純正ならではのメリット
現在はラインナップから姿を消したR型ライカ。ライカRレンズの資産を活かしたい人は、マウントアダプターで日本メーカーのデジタルカメラに装着して楽しむしかなかった。だが2013年のライカMと、「ライカRアダプターM」の登場により、ついにライカRレンズがデジタルライカのボディに装着できるようになった。
ライカRレンズには、5種類のタイプがある。1カム、2カム、3カム、Rカム、Rカム(ROM内蔵)だ。概要は次の通り。
- 1カムはライカフレックス(I型/II型)用
- 2カムはライカフレックスSL2までのボディに対応
- 3カムはすべてのライカRボディで使用可能
- RカムはライカR3以降のボディに対応
- Rカム(ROM内蔵)は、基本はRカムと同じ。ライカR8/R9で専用フラッシュ使用時に、フラッシュ側のオートズームが可能になる
では、ライカRアダプターMでライカMに装着する場合はどうなのか。答えは「すべて装着可能」だ。1カムでもRカムでも関係ない。もし中古カメラ店でライカRレンズを購入する場合も、カムの種類は気にしなくて大丈夫だ。
ライカRアダプターMには、ボディ側のマウントに6bitコードがある。これによりメニューの「レンズ検出」に21本のライカRレンズが表示される。ここから装着したライカRレンズを選択する。なお表示にないレンズは、それに近いものを選択する。レンズ検出はマニュアル選択のみ。ライカMレンズの6bitコードと異なり「オート」がなく、レンズ交換をすれば、その都度選択が必要だ。
ピント合わせは距離計に連動しないため、ライブビューになる。背面液晶モニターでもいいが、やはり外付けのライカEVF 2を使用した方が撮影しやすい。ライブビューでの操作は、「気になるデジカメ長期リアルタイムレポート ライカM【第3回】」をご覧いただきたい。ただしライカRレンズでは、ピントリングを回しても自動でライブビューの拡大表示はされず、ボディ前面のフォーカスボタンを押して拡大する。
4本のRレンズを実写
カメラボディでは決して評価が高いとはいえなかったR型ライカ。しかしレンズの描写力の評価は高く、超望遠レンズやマクロレンズ、ズームレンズなど、ライカMシステムでは難しい撮影を可能にしていた。ここでは、筆者が所有する4本のライカRレンズを使用した。
SUPER-ANGULON-R f4/21mmは1969年に登場。SUPER-ANGULON(スーパーアンギュロン)はライカで最も有名な超広角レンズだろう。ただしライカではなく、シュナイダーのレンズ名だ。明るくないが、レトロフォーカスタイプで前玉がとても大きい。角型のフードを装着すると、迫力のある姿になる。最短撮影距離が0.2mと短く、ライカMレンズでは不可能な被写体に迫った写真が撮影可能だ。
レンズ検出はELMARIT-R f2.8/19mmを選択。画面周辺はわずかにマゼンタかぶりが見られるものの、絞り開放から十分解像力が高く、1段絞るととてもシャープ。60年代設計の超広角レンズとは思えないほど高性能だ。
ELMARIT-R f2.8/35mmは1965年に登場。35mmで開放F2.8というと、ライカMレンズではSUMMARONになるが、ライカRレンズでは他のF2.8のレンズと同様にELMARITだ。フード外付けの第1世代と、フード内蔵の第2世代があり、これは第1世代。同期のSUMMICRON-R f2/50mmと共通の、金属製丸型フードが装着できる。最短撮影距離は0.3mだが、ピントリングはさらに回り、0.25mくらいまで近づける。
当時から描写力の評価が高く、ライカMでも深みのある写真が撮れた。また逆光にもかなり強い。なおレンズ検出は、SUMMICRON-R f2/35mmを選択している。
SUMMICRON-R f2/50mmは、R型ライカでも定番といえる標準レンズだ。1965年の第1世代と、ライカR3と同時に登場した1976年の第2世代があり、こちらは第2世代だ。フードは内蔵している。最短撮影距離は0.5m。近接に強いわけではないが、それでもライカMレンズの0.7mより寄れる。
絞り開放ではわずかににじむものの、現代のレンズとは異なる味わいといえる。もちろん絞るとシャープで、デジタルでも不満のない写りだ。また色収差が少ないのも好感が持てる。ライカRレンズの写りが手軽に楽しめる1本だ。
ELMARIT-R f2.8/135mmは1965年に発売。重さは655gあり、手にするとずっしりした金属の感触が伝わってくる。レンズ検出はAPO-ELMARIT-R f2.8/180mmを選択。大きなボケや、遠近感を圧縮した望遠効果を狙うことができる。望遠レンズの使いやすさは、さすが一眼レフ用だ。また、ライブビューはボケ具合の確認も容易。被写体に近づいたときは、レンジファインダーでは難しい正確な構図決定が可能だ。
描写は絞り開放から解像力は高い。しかし、絞ってもどこか柔らかさがあり、豊かな質感描写が楽しめるレンズだ。
ライカRレンズで撮影する場合、ライカMにはハンドグリップを装着するとホールディングが向上する。ライカEVF 2とハンドグリップ、そしてライカRアダプターMでライカRレンズを装着したライカMの姿は、とてもM型ライカとは思えないスタイルだ。
レンズは大きくて重く、撮影時もいちいちライブビューを拡大表示してピントを合わせるので、レンジファインダーを凌駕するほどの快適さではない。ライカMの基本はレンジファインダーであり、それをサポートする形でライブビューがあるという棲み分けを感じる。
とはいえ、ライカRレンズがM型ライカで使えるのは、純粋に嬉しいし楽しい。そしてこうした従来のM型ライカでは不可能だった撮影が実現できるのは、CMOSセンサーになったライカM(Typ240)ならではの魅力だ。