気になるデジカメ長期リアルタイムレポート
PENTAX K-3【第6回】
「FLUCARD FOR PENTAX」でリモート撮影を試す
Reported by 大高隆(2014/3/28 08:00)
例えば真俯瞰撮影のように、カメラのファインダーや背面液晶モニターを覗くことができないカメラアングルの場合、カメラにバリアングル液晶モニターがあれば撮影がとても楽になる。あるいはパソコンと接続してリモートライブビューが可能ならさらに使い勝手はいい。しかし、K-3の液晶モニターは固定式で、USBテザー撮影機能もない。その点をカバーするために、同社から「FLUCARD FOR PENTAX」(O-FC1)が用意された。
FLUCARDはEye-Fiカードに追随する形で登場した無線LAN内蔵SDカード製品の1つだ。カードのOSとしてLinuxを採用し、OSをカスタマイズして機能を追加したり、Linuxプログラムを実行できることを特色とする。現在は第二世代のFLUCARD Proシリーズがリリースされている。
PENTAXのサイトでは、O-FC1について、写真の閲覧や転送などのFLUCARD機能を付帯機能と位置づけ、主眼はスマートフォンやタブレットをコントローラーとした「ワイヤレスリモート撮影」だと説明されている。つまり、O-FC1は、FLUCARD Proをベースとして、ペンタックスのデジタル一眼レフをコントロールするカメラ・コンパニオンとしての機能を組込んだ製品と考えてよさそうだ。
リモートライブビューをオンにすると、K-3がライブビューモードになり、映像がiPhoneに送られてくる。フォーカスポイントはタッチパネルで移動可能、レリーズボタンをタップするとシャッターが切れ、撮影画像のサムネイルが表示される。
ただし、ファイルが自動転送されるわけではなく、これはあくまでも表示用のサムネイルだ。表示の遅れはほとんど感じられず、操作性は悪くない。
では、次にレリーズタイムラグについてみていただこう。
直接秒針を見るのではなくリモートの画面で秒針を見てレリーズしたので、ライブビュー画面がiPhoneに送られる遅れに加え、レリーズしてからカメラのシャッターが切れるまでの遅れという2つのタイムラグが加算された形で影響しているはずだ。
結果を見ると、タイムラグは1秒弱といったところで、スチルライフ撮影では問題にならないレベルだと言える。
◇ ◇
O-FC1を使うために必要な初期設定の手順は以下の通り。まずO-FC1をカメラのSD2スロットにセットする。そしてカメラの電源をオンにするとO-FC1が起動プロセスに入り、背面液晶の無線LANのアイコンが点滅し始める。起動が完了するとO-FC1から「ピーピーピーピー」と4~5回ほどのビープ音が聞こえ、アイコンの点滅が消える。
カメラの電源がON/OFFするたびにこの工程が繰り返される。およそ15秒ほどかかるが、この間も撮影は普通にできるので、O-FC1を使うことでカメラの速写性が損なわれる心配はない。
起動が確認されたら、続いてスマートフォン側でネットワーク接続に関する設定を行なう。設定内容は一般の無線ルーターと変わりないので、同梱されているマニュアルに従えば迷う部分はないだろう。
余談ながら、これらの設定変更はパソコンのブラウザから行なうこともできるので、文字列の入力がやりやすいパソコンから行なうのがいいだろう。
リモート撮影機能から行なえるカメラ操作は以下の通り。
- カメラ側のモードに合わせたTv/Av/ISO/設定変更とグリーンボタン
- LVオフで撮影(単なるラジオリモコン)
- ボディ側LVモードで撮影
- ブラウザ側LVモードで撮影
- 画面タッチでフォーカスポイント変更(AFならフォーカスも)
- タッチフォーカス
つまり、カメラの前後ダイヤルとISO/露出補正およびグリーンボタンで行なう「ハイパーオペレーション」と、レリーズボタンの外部化(ボタン/ダイヤルの外部化)。および、ライブビュー機能(ライブビューそのものとタッチ操作によるAF)が可能ということだ。
AFターゲット移動後のライブビュー表示更新の待ち時間は1秒強といったところで痛痒感はない。シャッタースピードや絞りなど撮影パラメータの操作に表示上のタイムラグを感じることはなく、スムーズに操作できる。
有効距離は、マニュアルによると7.5mまでと決して長くはない。“遠隔操作”というよりはリモートスイッチのケーブルを無線LANに置き換えたというイメージに近い。
電波が弱くなるとレスポンスに障害が出る可能性は考えられるが、私の仕事場に限って言えば、室内のどこからでもコントロール可能だった。
◇ ◇
撮影した写真の取り込みはブラウザから行なうこともできるが、専用のクライアントを使う方が速い場合がある。FLUCARDに対応するクライアントソフトは、PENTAXではなく、O-FC1のベースであるFLUCARD proの公式サイトで配布されている。
Mac/Windowsを始め、iOS、Androidなどの各プラットフォーム向けにそれぞれ用意されている。FacebookなどのSNSに投稿するアプリもある。しかし、O-FC1はかなりカスタマイズされているので、動かないアプリも多いようだ。特にWindowsとAndroid版は厳しいらしい。
iOSでは「FLUCARD Shoot&View Pro」と「FLUCARD Download」を試したが、いずれも撮影画像の順次自動転送に対応しておらず、操作する必要があるので、Eye-Fiのように自動的にバックアップをとるというような使い方はできないようだ。
O-FC1はスマートフォンやタブレットからの操作を主眼として開発されているが、ブラウザからコントロールするシステムなので、パソコンからもカメラを操作できる。撮影された画像を自動転送するFLUCARD ProアプリケーションとWebブラウザ、画像処理ソフトを組み合わせれば、パソコンから無線テザード撮影を行なうことが可能だ。リモート撮影機能の真価が発揮されるのはむしろこのスタイルだと言ってもよいかもしれない。
ブラウザでカメラと接続し、FLUCARD Instant Wi-Fiで取込み先のフォルダを指定し、そのフォルダをCapture Oneで開き、ホットフォルダを有効にしてやる。そうすると、ブラウザで開いたリモート撮影コンソールからシャッターを切ると、撮影した写真が10秒前後でCapture Oneに表示される。
O-FC1はIEEE 802.11b/g/nテクノロジーに採用し、規格上最大54Mbpsと、USB 3.0には及ばないがまずまず実用的な転送速度が出ている。Mac版のFLUCARD Instant Wi-FiはJPEGファイルしか転送できないが、接続は安定しており、1度接続を確立すれば後はほぼ自動的に転送される。標準のブラウザインターフェイスでダウンロードするよりはずっとスムーズだ。
FLUCARDには複数のクライアントから同時に接続できるので、若干の制限はあるがパソコンとタブレットで同じビューを見ることができる。つまり、手元のiPadでカメラアングルと構図をチェックしながらセッティングを行ない、撮影のコントロールやファイルの転送はパソコンのWebブラウザとFLUCARDアプリを通じて行なうということができる。
◇ ◇
さて、O-FC1はどういうシーンで役に立つのだろう?
O-FC1を使うことでスチルライフ撮影におけるK-3の使い勝手は飛躍的に向上する。いくつか改良して欲しい不完全な実装があるものの、リモートライブビューの便利さはそれを補ってあまりある。
趣味の世界でも、例えば小物やアクセサリーの撮影をしている方や、蒐集したフィギュアの撮影などに威力を発揮するだろう。
FLUCARDアプリを組み合わせて使用目的にあわせた環境を構成できることも、1つの利点であることに違いないが、できることなら、必要な機能を全てサポートするパソコンソフトをペンタックス純正で用意するか、あるいはK-3に付属の「Digital Camera Utility」に組込んで欲しいところだ。
スマートフォンとの連携は現状のブラウザインターフェイスでも不自由はないが、これも専用のアプリからAPIを利用できるようになれば、よりスムーズに動くようになるはずだ。
私自身にとってはO-FC1は現状でも大いに“アリ”な機材であり、今後の開発・熟成に大いに期待するとともに、PENTAX 645D系をはじめとするプロ用機がこれに対応してくることを望んでいる。