気になるデジカメ長期リアルタイムレポート
PENTAX K-5 IIs【第4回】
KA/KマウントのMFレンズを使う
(2013/6/6 00:00)
前回とりあげた「Nokton 58mm F1.4」はKAマウント仕様のレンズだった。KAマウントはMF時代のペンタックスのマウントで、純正smc PENTAX Aシリーズのほか、コシナの製造したVoigtlander/Carl Zeissレンズなど、数多くの名レンズに採用されている。K-5 II/IIsをはじめとする現行Kシリーズデジタル一眼レフカメラには、それらKAマウント、あるいは更に古いKマウントのMFレンズも使うことができる。
KAマウントの基礎であるPENTAX Kマウントは、前世代のペンタックス一眼レフが採用していたPENTAXスクリューマウント(通称Sマウント)を刷新するバヨネットマウントとして開発された。当時、旭光学工業(現在のペンタックスリコーイメージング)と西独カール・ツァイス(カール・ツァイス財団のレンズ製造部門)のあいだに技術交流があり、そのことから、実はKマウントはカールツァイスとの共同設計であるとする説もある。
レンズ製造を事業とするカール・ツァイスは、傘下のカメラメーカーであるツァイス・イコンが1971年にカメラ事業から撤退した事をうけ、日本のカメラメーカーと提携して競争力のある近代的一眼レフを発売し、そのカメラ向けにレンズを供給するビジネス展開を模索していた。その嚆矢となったのがPENTAXを製造する旭光学工業だった。
結果的に両社の提携は不調に終わり、ツァイスの持つコンタックスブランドの一眼レフは、後にツァイスと提携したヤシカから発売されることになった。技術交流の成果として双方に残されたもののすべてが明らかにされたわけではないが、ツァイスレンズに近代的なT*コーティングが採用されたのは旭光学との交流解消後の事だ。PENTAX側には、ツァイスの設計とされる幾つかのレンズがラインナップに加わったほか、ツァイスとの交流という経験がその後のsmc PENTAXレンズに影響を与えた事は想像に難くない。
Kマウントの機械的構造は1975年の登場以来変更がない。30年前の古いレンズを何の改造も要さず最新のボディに取り付けて撮影可能なのも、この不変のKマウントあればこそだ。ただし、レンズとボディの連動機能に関しては、AEの進歩やAF化に合わせ変更を重ねて来た。
マウントシステム | 主な採用例 | 機能 |
---|---|---|
Kマウント | Kシリーズ、Mシリーズ、LXボディ/K、Mレンズ | 機械的なTTL開放測光に対応。絞り優先AEとマニュアル露光まで。 |
KAマウント | Aシリーズボディ/Aレンズ | Kマウントにボディ側から絞りを制御する機能を加え、マルチモードAEに対応。絞りリングにA位置がある。 |
KAFマウント | SFシリーズボディ/Fレンズ | ボディ内モーターによるAF化。AFカプラーを新設。レンズとボディの情報通信をデジタル化。焦点距離情報内蔵 |
KAF2マウント | Z-1以降ボディ/FAレンズ/DAレンズ | KAFマウントにパワーズームレンズへの電源供給用接点を追加。現在はこの接点をSDMレンズの電源供給に流用。 |
KAF3マウント | SDM仕様レンズ | KAF2マウント仕様のレンズマウントからボディ内モーターAF用のAFカプラーを省略。 |
現行ボディはKAF2マウントであり、レンズがKAFマウント以降(つまりはAFレンズ)であればすべての機能を使うことができる。一方で、MF時代のsmc PENTAXレンズには、年代の古いほうから順に、Kシリーズ、Mシリーズ、Aシリーズの3種類がある。最初にそれぞれの特徴をおさらいしておこう。
Kシリーズ
初期のKマウントレンズは、KシリーズあるいはPシリーズと呼ばれている。その由来は、Kシリーズのボディと同時発売されたことや、レンズブランドがTAKUMARからPENTAXに変更されたことによると思われるが、いずれも通称である。このテキストではとりあえずKシリーズと呼ぶことにする。Kシリーズのカメラ/レンズは性能追求の結果として大型化してしまい、スクリューマウントPENTAXの小型軽量を愛するファンには不評で、商業的には失敗だったようだ。
Mシリーズ
Kシリーズ発表の翌年には、小型軽量を重点に新設計されたカメラ/レンズが投入された。それがMシリーズだ。KシリーズのカメラはMシリーズと交代する形で姿を消したがレンズは併売され、Mシリーズで28mmから200mm辺りの主要ラインナップを構成し、大口径/超広角/超望遠をKシリーズでカバーするという形で、両者が混在する状態が次のAシリーズ登場まで続いた。
Aシリーズ
AシリーズはマルチモードAEを搭載した新ボディ「superA」(読みはスーパーエー)のためのレンズシステムとして登場した。マウントには絞り情報を伝達する電気接点が追加され、KAマウントとなった。時代的にはちょうどバブル景気の頂点にさしかかる頃にあたる。余談ながら、私が高校生だったの頃の話で、ここからがリアルタイムに経験した範囲。
話を光学設計の面に移そう。Kシリーズレンズはツァイスとの交流の中で生まれ、意欲的な設計をとるものが多い。例えば今回取り上げたK 28mm F2にはフローティング機構が採用され、後継となったMシリーズ/Aシリーズの広角F2レンズよりも、むしろヤシカ・コンタックスや現在のコシナ・ツァイスとの近縁を感じさせる。
Mシリーズは、レンズ名「smc PENTAX」の後にMの一字がついていることでKシリーズと区別できる。Kシリーズのように凝った設計のレンズはないが、ツァイスのテッサーをベースに、一眼レフ用に最適化したsmc PENTAX M 40mm F2.8はこの時代のプロダクトだ。
ツァイスとの交流の中で旭光学製KマウントCONTAX用にKマウントのテッサーも試作されたとすれば、そのテストを通じて、旭光学は一眼レフ用レンズとしてみた場合のテッサーの欠点と優秀性の両面を充分に学んだはずだ。その結果、テッサーの3群4枚の最後尾に1枚追加する事で、テッサーのヌケのよさを活かしつつ、周辺減光や像面平坦性、焦点移動などを改善した4群5枚の光学系を持つM 40mm F2.8が生まれ、そのレンズ構成が更なる改良を受けてDA 40mm F2.8 Limitedにまで受け継がれたのだとすれば、昔日の旭光学とツァイスの交流が四半世紀という時を経て、DA 40mm F2.8 Limitedという落とし子を生んだというストーリーを描くことができる。それは妄想に過ぎないけれども、趣のある話ではないだろうか。
時代はさらに移り、smc PENTAX Aシリーズでは、近接撮影時の収差増大を抑える後群分離全体繰出方式(FREEシステム)を採用した大口径単焦点レンズや、ズーム全域でF値の変わらないF3.5~F4クラスのズームレンズなどが展開された。smc PENTAX Aスターレンズが順次追加され、後のFAスターからDAスターへと連なるスターレンズラインナップが確立したのもこの頃。Mシリーズの雌伏の時を経て、再び大口径・高性能を追求した時代といえる。
Aシリーズの時代は同時に、コンピュータによる設計支援システム導入が光学設計に革新をもたらした時代でもあった。それ以前には、試作前の新レンズの設計評価はベテラン数十人掛かりで計算尺を用いて何週間もかけて光路解析計算を行ない、ようやくおおよその結果が分かるという気の長い仕事だった。コンピュータの導入によりシミュレーションに要する時間が大幅に短縮された結果、前例のない光学系に挑戦する事が比較的容易になり、日本製レンズ全般の性能が飛躍的に向上したのがこの頃だ。
◆ ◆ ◆
それでは、KAおよびKマウントレンズを実際に使う場合のポイントについての話に移ろう。
まずKAマウントのレンズを使用する場合、現行ペンタックスのデジタル一眼レフカメラは以下のような機能制限を受ける。
- マニュアルフォーカスレンズである(中央1点でフォーカスエイドが可能)
- 焦点距離情報が手動入力になる
複数の単焦点レンズがある場合は、レンズ交換の都度、別の値を入力せねばならず少々煩雑になるが、1本だけであれば前回入力した値が保持されているので再入力の必要はない。ズームレンズの場合、ズーミングに連動して焦点距離を入力するのは不可能なので、手ブレ補正をオフにして使うほうが無難だ。
合致する焦点距離がない場合は近似のものを選択する。例えば前回のNoktonの場合、58mmという選択肢がないので私は55mmを入力する。焦点距離の入力が済めば、分割測光やマルチモードAEが使え、絞り操作もボディ側から行なうことができるので、古いレンズであることを意識させられることはほとんどない。KAマウントの単焦点レンズは機能の上からは完全に現役と言ってよいだろう。
一般には「Kマウント」という言葉は、現行KAF2/KAF3マウントを含むPENTAXバヨネットマウント全体の事を指すが、このテキストでは旧式レンズの使い方を扱うため、以下、特に断りなく「Kマウント」と書く場合、マウント面の電気接点と絞りリングのAポジションを持たないKシリーズとMシリーズのレンズマウントを意味するものとご了解願う。
続いてKマウントのレンズの場合、KAマウントとは少々事情が違い、ボディから絞りを制御できないことによる制限が加わり、以下のようになる。
- マニュアルフォーカスレンズである(中央1点でフォーカスエイドが可能)。
- 焦点距離情報が手動入力になる。
- 絞り優先モードでは開放絞りのみ使用可能。
- 通常撮影可能な露出モードはマニュアルとバルブに制限される。
- マルチパターン測光不可。
- 絞りはレンズの絞りリングで操作する(事前にカスタムファンクション設定が必要)。
- 絞り値が表示されない。
- 露出計非連動(メータードマニュアル不可)。
まず大前提として、カスタムファンクションで「絞りリングの使用」を許可してやらなければならない。これを忘れると、Kマウントレンズを装着した時点でカメラが作動せず、撮影不能に陥る。
Avモードでは、シャッターを切っても絞り込みが行なわれず、絞りリングで設定した絞り値に関わらず、常に開放絞りでの撮影になる。一見問題なく動作してしまうのだが意図を反映した撮影はできない。初期設定で禁止とされているのは、それによる失敗を防ぐためだろう。通常撮影に使えるのはMモード(マニュアル露出)だけということになるが、そこで問題になるのがファインダーにもステータススクリーンにも露出表示がいっさい出ないことだ。
一般に、マニュアルモードでは露出計の表示を参考に撮影者が絞りとシャッター速度を操作して適正露出を得る。古い言葉ではメータードマニュアルというが、Kマウントレンズをつけると露出計が一切表示されないため、これは不可能だ。しかし、ここでグリーンボタンを押すと、絞りとシャッター速度が適性露出を得る値に瞬時にセットされる。これがペンタックスのお家芸、「ハイパーマニュアル」だ。
ハイパーマニュアルの動作は「プログラムライン」、「Avシフト」、「Tvシフト」、「無効」の4つから選択する。絞りをカメラ側から制御できないため、Tvをカメラが変更して適正露出を得るモードになっていなければならない。これにあたるのは「プログラムライン」か「Tvシフト」のいずれかで、「Avシフト」か「無効」に設定されている場合、グリーンボタンを押しても何も起こらない。
露出補正はハイパーマニュアルにも有効で、あらかじめ露出補正値(明暗)を設定した後でグリーンボタンを押せば、補正を反映したシャッター速度にセットされる。使い勝手としては部分測光のAE機でAEロックを使って撮影するのに近い。電源を切っても露出値を保持するAEロックだと思えばいいだろう。
例えば女性ポートレートなら+1.3EVにセットし、測光エリアにモデルの顔を捉えながらグリーンボタンを押せば、肌を明るく描写する露出にセットされる……というような具合に。
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
・smc PENTAX 28mm F2
・smc PENTAX M 40mm F2.8
※smc PENTAX M 40mm F2.8で絞り優先AEで撮影した作例は、すべて絞り開放で撮影されています。
・smc PENTAX A* 85mm F1.4
・smc PENTAX A* 200mm F2.8
さすがにKシリーズは古く、ツァイスの流れを汲むとはいえ、現在供給されている各社のモダン・ツァイスに及ぶものではない。しかしボディ側の機能はこの古いレンズをよくサポートしており、ハイパーマニュアルを活用すれば、往年のレンズの味を偲ぶことができる。Aシリーズに関しては、日本のカメラ工業の黄金期の製品であり、最新のK-5 IIsとの組み合せでも全く破綻を見せない。古いレンズゆえの修理の不安など難点があるのは確かだが、クラシックとしてではなく、実用レンズとして充分期待に応える性能だ。
ヘリコイドならではの滑らかなフォーカシングの感触に象徴されるように、AFを前提とした現行システムでは望めない魅力がMFレンズにはある。いまだ画餅ではあるが、ペンタックスは35mmフルサイズ機の開発を明言しており、それがリリースされればフルサイズをカバーするペンタックス用レンズの市場が立ち上がるだろう。純正Aレンズや惜しくも終売となっているコシナのZKマウントレンズ群が、強い存在感を持つようになる日も遠くはないはずだ。
訂正のお詫び
記事初出時に筆者の誤認と検証の不十分さから、絞りA位置のないKマウントレンズについても絞り優先(Av)モードでの撮影に問題がないように記述し、それを推奨する内容となっておりましたが、正しくは訂正した本文にありますように、現行Kデジタル一眼レフにKマウントレンズを取り付けた場合、AVモードでは設定値に関わらず開放絞りでの撮影という意図せぬ動作となります。Kマウントレンズで正常な撮影が可能なのは、バルブを含むマニュアル撮影(MモードないしはBモード)に限られ、その際にハイパーマニュアルを活用することができます。
以上、訂正の上、つつしんでお詫び申し上げます。
筆者