ソニーα55【第6回】

輝度差の大きなシーンを「オートHDR」で攻める

Reported by 伊達淳一


 「α55」や「NEX-5」には、ダイナミックレンジを最大6EV拡大できる「オートHDR」という機能が備わっている。HDRとは、high dynamic range imagingの略で、一般的には三脚を使って段階露出した複数の写真をHDR合成ソフトなどを使って重ね合わせ合成する必要があるが、α55やNEX-5は手持ちでHDR撮影が可能。高速連写で段階露出した3枚の写真をカメラ内で位置合わせもしながら重ね合わせ合成することで、誰でも手軽にHDR撮影を楽しめるのが特徴だ。

 特に、α55は、高速連写が10コマ/秒と非常に高速なので、3枚の段階露出もすばやく終えられ、手持ち撮影のフレーミングのズレも最小限に抑えられる。さすがに、中望遠以上の画角では三脚を使ったほうが確実だが、超広角から標準域なら手持ちでもほとんど失敗なくHDR撮影を楽しめる。また、オートHDR時には、HDR合成された画像だけでなく、標準露出で撮影された通常の画像(Dレンジオプティマイザーはオフ)も同時記録されるので、フレーミングがずれてうまくHDR合成できない場合でも、通常処理された標準露出の1枚は確実に残せる仕様になっている。

D-RANGEボタンを押すと、[DRO]や[オートHDR]の設定がダイレクトに呼び出せる。なお、6月20日のファームウェアアップデートにより、D-RANGEボタンで呼び出せる機能を変更できるようになった

自然な階調を重視したダイナミックレンジ拡大

 ところで、HDRというと、カシオ「EXILIM」シリーズの「HDRアート」のような効果を思い浮かべる人もいるかもしれないが、これは局所的にコントラストを誇張して絵画的な画像処理を加えた独自の機能だ。これに対して、α55のオートHDRは、もっと自然な階調でダイナミックレンジ拡大を図っていて、通常撮影よりも軟調な仕上がりになるが、その分、白飛びや黒つぶれを低減できる。

 素材となる写真の段階露出差を大きくすればするほど、ダイナミックレンジは広くできるが、ダイナミックレンジは広ければ広いほどいいというわけではない。極端にダイナミックレンジを広げると、ハイライトの冴えや黒の締まり、中間調のメリハリが損なわれてしまい、くすんだ写真になってしまうからだ。α55のオートHDRは、撮影シーンの輝度差に応じてカメラが自動的に適切な段階露出差で撮影してくれるが、手動で1~6EVまで段階露出差を設定することもできる。個人的には、よほど輝度差の大きなシーンでもない限り、2~3EVくらいの露出差が中間調のメリハリが保たれるので好きだ。

 また、クリエイティブスタイルを[ビビッド]や[風景]といったやや硬調な仕上がりを選んだり、画質調整でコントラストを高めに設定してオートHDR撮影をすると、中間調のコントラストや彩度を保ちつつ、ハイライトやシャドーの階調も損なわずに済む。できれば、オートHDRで撮影した写真をレタッチソフトでトーンカーブ補正を施せば万全だ。

 ちなみに、オートHDRが選択可能なのは、画質モードが[ファイン]もしくは[スタンダード]のJPEG記録時のみ。[RAW]および[RAW+JPEG]時は、オートHDRを設定しようとしても、項目が淡色表示になっていて選択できない。ただし、あらかじめJPEG記録時にオートHDRを設定している状態で、画質モードを[RAW]、[RAW+JPEG]に変更すると、自動的にDRO[オート]の設定で撮影されるが、再び画質モードをJPEG記録に戻すと、オートHDRの設定も復活する。

[RAW]あるいは[RAW+JPEG]で記録している場合は、オートHDRは淡色表示になっていて選択することができないオートHDRを設定したいときは、画質モードを[ファイン]あるいは[スタンダード]にする
JPEG記録時のみオートHDRを設定できる。この状態で画質モードを[RAW]、[RAW+JPEG]に変更すると強制的にDROに変更されるが、画質モードを再びJPEG記録に戻すと[オートHDR]で撮影できる[オートHDR]を選択した状態で左右キーを操作すると、オートHDRの設定をAUTO、1EV~6EVに変更できる

 ボクは、高速連写時以外はRAW+JPEGで記録するのが基本なので、JPEG記録時にオートHDRを選択しておき、通常は画質モードを[RAW+JPEG]にしてDRO[オート]、オートHDR撮影がしたいときは[ファイン]に切り換えるようにしている。できれば、[RAW+JPEG]記録時でもオートHDRを選択できるようにし、[一時的にJPEG記録に変更します<はい/いいえ>]という確認メッセージを出して、オートHDR撮影終了後にまた元の画質モードに戻す、といったような配慮あるインターフェースにしてほしいところだ。

“オートHDR”と“DROの使い分け”

 さて、α55のD-RANGREボタンには、[オートHDR]と[DRO](Dレンジオプティマイザー)という2種類のダイナミックレンジ拡大機能が割り当てられている。オートHDRは、前述したように、高速連写で段階露出した3枚の素材写真をカメラ内で合成し、再現できる輝度差そのものを拡大する機能で、白飛び、黒つぶれの両方を抑えることができる。

 これに対して、DROは、標準露出で撮影した1枚の写真を階調補正によってシャドー部を局所的に持ち上げるもので、シャドー側のダイナミックレンジは広がったように見えるが、ハイライト側のダイナミックレンジは変わらず、白飛びを抑制する効果は基本的にはない。ただ、露出をわずかに切り詰めて撮影すれば、その分、白飛びを抑えつつ、シャドー部の落ち込みも防げるので、擬似的にダイナミックレンジが拡大したように見える。動きのある被写体や望遠撮影でダイナミックレンジ拡大効果を狙うなら“切り詰め気味の露出&DRO”、静止した被写体で広角~標準域の撮影なら“オートHDR”がお薦めだ。

もっと大胆な段階露出ができれば……

 個人的には、オリンパス「E-5」や「E-PL2」の[ドラマチックトーン]のような階調を誇張した画も結構好きだったりするのだが、残念ながらα55のオートHDRには、そうしたローカルコントラストを強調するモードは搭載されていないし、HDR素材を撮影するのにも不向きだ。

 というのも、α55やNEX-5は、0.3EVもしくは0.7EVのどちらかでしかAEB撮影ができない仕様。あくまで、適正露出を得るための段階露出と考えていて、HDR合成に必要な±2~3EVの露出差でAEB撮影できないのだ。せっかく連写スピードが速く、手早くAEB撮影ができるのになんとももったいない話。ここも他社並みに±3EVで3~5枚AEB撮影ができるように仕様変更してほしいものだ。もしくは、オートHDR時に、標準露出だけでなくオーバー露出とアンダー露出の写真も保存するオプションを追加して欲しい。

 α55は高いポテンシャルを持っているボディなのに、エントリーの枠で自主規制してしまっている部分が多く、その点は残念に思う。本当の初心者ならメニューの奥深くまで見ないし、初期設定のままで使うことがほとんど。ならば、設定メニューの奥深くにでも、マニアックな機能のオン、オフをこそっと設けておいてくれれば、初心者は気づかず使わないし、ベテランユーザーもハッピーになれる。初心者はいつまでも初心者とは限らないのだ。

実写サンプル

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし補正なしの撮影画像をダウンロード後、長辺800ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
  • 縦位置の画像は、非破壊で回転させています。

DROとオートHDRの比較

※共通設定:α55 / DT 16-80mm F3.5-4.5 ZA / 4,912×3,264 / 1/13秒 / F5 / +0.3EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 16mm

通常撮影(参考)

・DRO

オートLv1Lv2Lv3
Lv4Lv5

・オートHDR

オート1EV2EV3EV
4EV5EV6EV

通常撮影(左)とオートHDR[オート](右)

α55 / 135mm F2.8[T4.5]STF / 4,912×3,264 / 1/800秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 135mm
α55 / 135mm F2.8[T4.5]STF / 4,912×3,264 / 1/250秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 135mm
α55 / SOFTFOCUS 100mm F2.8 / 3,264×4,912 / 1/1,250秒 / F5 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 100mm
α55 / SOFTFOCUS 100mm F2.8 / 4,912×3,264 / 1/1,000秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:太陽光 / 100mm
α55 / SOFTFOCUS 100mm F2.8 / 4,912×3,264 / 1/1,000秒 / F4.5 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:太陽光 / 100mm
α55 / SOFTFOCUS 100mm F2.8 / 4,912×3,264 / 1/200秒 / F3.5 / +0.7EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:太陽光 / 100mm
α55 / AF 18-250mm F3.5-6.3 Di II LD Aspherical [IF] Macro / 4,912×3,264 / 1/50秒 / F8 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:オート / 28mm
α55 / DT 16-80mm F3.5-4.5 ZA / 4,912×3,264 / 1/125秒 / F8 / -0.3EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 18mm
α55 / DT 16-80mm F3.5-4.5 ZA / 4,912×3,264 / 1/500秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 16mm
α55 / DT 16-80mm F3.5-4.5 ZA / 4,912×3,264 / 1/80秒 / F5 / 0EV / ISO320 / 絞り優先AE / WB:オート / 40mm
α55 / DT 16-80mm F3.5-4.5 ZA / 4,912×3,264 / 1/100秒 / F5 / -0.3EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 16mm
α55 / DT 16-80mm F3.5-4.5 ZA / 3,264×4,912 / 1/250秒 / F5.6 / +0.7EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:5,200K / 16mm
α55 / DT 16-80mm F3.5-4.5 ZA / 3,264×4,912 / 1/160秒 / F9 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 30mm
α55 / DT 16-80mm F3.5-4.5 ZA / 4,912×3,264 / 1/640秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 22mm
α55 / DT 16-80mm F3.5-4.5 ZA / 4,912×3,264 / 1/400秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 16mm
α55 / DT 16-80mm F3.5-4.5 ZA / 4,912×3,264 / 1/320秒 / F8 / +0.7EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 16mm
α55 / DT 16-80mm F3.5-4.5 ZA / 4,912×3,264 / 1/160秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / マニュアル / WB:オート / 60mm
α55 / DT 50mm F1.8 SAM / 4,912×3,264 / 1/160秒 / F2.2 / 0EV / ISO400 / マニュアル / WB:オート / 50mm
α55 / DT 50mm F1.8 SAM / 3,264×4,912 / 1/100秒 / F2.5 / 0EV / ISO400 / マニュアル / WB:オート / 50mm
α55 / DT 16-80mm F3.5-4.5 ZA / 4,912×3,264 / 1/125秒 / F6.3 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 16mm



伊達淳一
(だてじゅんいち):1962年広島県生まれ。千葉大学工学部画像工学科卒。写真誌などでカメラマンとして活動する一方、専門知識を活かしてライターとしても活躍。黎明期からデジカメに強く、カメラマンよりライター業が多くなる。

2011/6/23 00:00