ソニーα55【第3回】

高感度性能を探る

Reported by 伊達淳一


 今回は、ソニー「α55」の高感度特性を探ってみよう。α55のISO感度設定はISO100~12800と低感度から高感度まで幅広くカバーしているのが魅力だ。また、マルチショットノイズリダクション(マルチショットNR)を利用すると、最高ISO25600の超高感度撮影も行なえる。

 マルチショットNRとは、高速連写した6枚の画像を高精度に重ね合わせ合成することでランダムに発生するノイズを平均化する機能で、最大で約2段分の低ノイズ化が期待できる。JPEG撮影時のみ、ISO感度設定でマルチショットNRを設定可能。手持ち夜景モードも、このマルチショットNRを利用した撮影モードだ。ただ、6枚の画像を重ね合わせ合成するので、動きのある被写体には不向き。基本的には風景や静物などほとんど動きがないシーンに適しているが、背景の通行人やクルマなど多少動きのある被写体があっても、その部分だけうまく除外して重ね合わせ合成してくれるのは見事だ。

 感度設定ステップは1EVで、ISOオート時はISO100~1600まで1/3EVステップで自動調整される。α55の基本スペックの高さを考えれば、1/3EVステップで感度設定できるようにしてほしいところだ。また、ISO3200の画質も用途によっては十分実用になるので、ISOオートの上限もユーザーが指定できるとありがたい。メーカーの意図としては、初心者がいたずらに混乱しないようにと簡略化しているのかもしれないが、本当の初心者であればカメラを初期設定のままで使うので、高度な設定はカスタムメニューに隠しておけば無問題。

 もし、不用意におかしな設定になってしまったときのために、ワンタッチで初期設定に戻すメニューを用意しておけば万全だ。確かに初心者に対して敷居を低く見せる創意工夫は必要だが、中級機との差別化のために(コストに大きく左右しない部分で)つまらない機能制限するのはやめてほしいと思う。初心者はいつまでも初心者でいるとは限らないのだ。

最高感度はISO12800。感度設定ステップは1EV。カスタム設定で1/3EVステップでの感度設定とISOオート上限設定を許可してくれるとうれしいのだが……マルチショットNRはISO感度設定の1項目。RAWあるいはRAW+JPEG撮影時は淡色表示になり選択できなくなる
マルチショットNR時の最高感度はISO25600。高感度になるほどノイズ低減効果が大きくなるSCN(シーン)モードの「手持ち夜景」もマルチショットNRを利用したモード。明るさに応じてISO6400まで自動的に感度が可変するが、露出補正やWB設定はカメラ任せだ

 さて、今回の本題である高感度の画質に目を向けてみよう。高感度の画質は、撮像素子の高感度特性だけでなく、画像処理エンジンでの高感度ノイズリダクション(高感度NR)で大きく左右される。

 高感度NRを強めにかければノイズは目立ちにくくなるが、ノイズと一緒に低コントラスト部分のディテールも消え去ってしまう。高感度画質の優劣を判断するなら、青空や無地の壁、プラスチックのおもちゃなどではなく、鳥の羽根や微細な布目など低コントラストで微細なパターンを持った被写体を解像限界ギリギリで撮影し、低感度で撮影した場合に比べ、どれだけディテールが喪失しているかを見極めることが重要となる。ボクが毎回撮影している高感度比較カットも、人形の肌の布目や毛糸の髪の毛のディテール描写がもっとも重要で、グレーの背景やチャートは筋状のノイズが出ていないか、彩度が低くなっていないかなどをチェックする程度の補助的な役割に過ぎないのだ。

 ちなみに、α55の[撮影メニュー3]には[高感度ノイズリダクション]という項目があるが、選択肢は[オート]と[弱]の2つだけ。[オフ]という選択肢は存在しないのだ。どうしても高感度ノイズリダクションをかけたくない場合は、RAWで撮影し、同梱の「Image Data Converter SR Ver.3」で現像するときに、高感度ノイズリダクションを[オフ]にするしかない。

 というわけで、高感度ノイズリダクション[オート]と[弱]のほかに、マルチショットNR(高感度ノイズリダクションは[弱])、同時記録したRAWをImage Data Converter SRで現像(高感度ノイズリダクションは[オフ])を加えた4パターンで、α55の高感度画質を比較してみた。

A55の高感度ノイズリダクションは[オート]と[弱]の2段階。なお、連続撮影時には[オート]に設定していても[弱]の処理が行なわれる仕様なので、[オート]の高感度NRをかけたい場合は[1コマ撮影]に設定しよう

※作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、別ウィンドウで800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。

※縦位置の画像は元画像を非破壊で回転させています。

ノイズリダクション処理による違い

※共通設定:α55 / DT 16-80mm F3.5-4.5 ZA / 4,912×3,264 / F8 / 0EV / 絞り優先AE / WB:オート / 70mm

高感度ノイズリダクション[オート]

ISO100ISO200ISO400ISO800
ISO1600ISO3200ISO6400ISO12800

高感度ノイズリダクション[弱]

ISO100ISO200ISO400ISO800
ISO1600ISO3200ISO6400ISO12800

マルチショットノイズリダクション(高感度NR[弱])

ISO100ISO200ISO400ISO800
ISO1600ISO3200ISO6400ISO12800
ISO25600   

高感度ノイズリダクション[オフ]

※ 同時記録したRAWをImage Data Converter SR Ver.3で現像

ISO100ISO200ISO400ISO800
ISO1600ISO3200ISO6400ISO12800

 [オート]と[弱]の差がおわかりだろうか? グレーの背景を見比べてみると、[オート]のほうがカラーノイズが少なくなっている。輝度ノイズについては、それほど大きな違いはないようだ。

 また、マルチショットNRの効果は、ISO800くらいまではそれほど大きな差はないものの、ISO1600あたりからノイズ低減効果が明らかに感じられ、ISO3200は十分実用範囲、ISO6400もかなり粒が揃って整った画質だ。三脚を使って撮影しているので、手持ちではもう少し解像感が落ちるものの、開放F値の明るめなレンズとISO6400の高感度、それにボディ内手ブレ補正を組み合わせれば、夜の街も手持ちで十分撮影できる。

 ISO12800になると、さすがに高感度ノイズリダクションによる副作用でディテールの喪失が目立ってくる。マルチショットNR併用でギリギリ実用になる感じだ。さすがにISO25600は小サイズのプリントやブログ用なら許容できるかもしれないが、積極的には使いたくない感度だ。とはいえ、この感度でなければ撮れないシーンであれば、チャレンジしてみる価値はあるだろう。

マルチショットNRの効果

※高感度ノイズリダクションはいずれも[弱]

※共通設定:α55 / 28mm F2 / 4,912×3,264 / F3.5 / -0.3EV / 絞り優先AE / WB:3,000K / 70mm

通常撮影 ISO6400マルチショットNR ISO6400マルチショットNR ISO12800マルチショットNR ISO25600

 一方、JPEGと同時記録したRAWをImage Data Converter SRで開き、高感度ノイズリダクションを[オフ]にして現像したカットを見ると、ISO800でもカラーノイズがかなり目立ち、高感度ノイズリダクション[弱]のISO1600よりもノイジーな印象を受ける。ISO3200になると、そのままでは許容範囲外といった感じだ。それだけ、高感度ノイズリダクションが頑張っているということだろう。

 ただし、前述したように、高感度の画質で重要なのは、ノイズがどれだけ目立たないかだけでなく、低コントラスト部分のディテールがどれだけ保たれているか、である。確かに、Image Data Converter SRで高感度ノイズリダクションを[オフ]にして現像したカットはノイズが目立つが、その代わり、人形の顔や服の布目や毛糸の髪の毛は非常にシャープに描写されている。α55で撮影した写真がなんとなくキレが悪く感じていたのは、トランスルーセントミラーの弊害などではなく、高感度ノイズリダクションによる副作用だったようだ。

高感度ノイズリダクションを[しない]にしてRAW現像したISO6400の画像を、「TOPAZ DENOISE5」を使って、解像感とノイズのバランスを調整してみた。ハイライトのノイズリダクションは弱めにすることで、できるだけ解像感を損なわないようにしている。究極の高感度画質を得たいなら、市販のノイズ除去ソフトを利用するのも手だが、それなりに手間と時間はかかる

 だったら、RAWで撮影してImage Data Converter SRで現像する方法を選ぶのか? と問われたら、答えは“否”だ。確かに、高感度ノイズリダクションで解像感の喪失はあるものの、全体に均一に解像感が鈍っているので、写真としてさほど不自然さを感じないからだ。もちろん、ピクセル等倍鑑賞をすると、その甘さが気にならないといえば嘘になるが、RAWで撮影して気合いを入れてPCで現像するのなら、最初から別の機種を選択したほうが賢明だろう。

 α55の魅力は、小さく軽く、軽快、そしてお手軽簡単に撮れるという点だ。ある意味、ボクにとってα55は、コンパクトデジタルカメラ的な存在だったりする。そんなライトな感覚で付き合えば、これほど楽しくおもしろいカメラはないと思う。

高感度サンプル

※高感度ノイズリダクションはいずれも[弱]

通常撮影(横浜猫カフェ「Miysis」にて撮影)

α55 / DT 35mm F1.8 SAM / 4,912×3,264 / 1/500秒 / F2.2 / 0EV / ISO1600 / 絞り優先AE / WB:オート / 35mmα55 / DT 35mm F1.8 SAM / 4,912×3,264 / 1/250秒 / F2.2 / +0.7EV / ISO3200 / 絞り優先AE / WB:オート / 35mm
α55 / DT 35mm F1.8 SAM / 4,912×3,264 / 1/500秒 / F2 / 0EV / ISO3200 / 絞り優先AE / WB:オート / 35mmα55 / DT 35mm F1.8 SAM / 4,912×3,264 / 1/160秒 / F2 / 0EV / ISO3200 / 絞り優先AE / WB:オート / 35mm
α55 / DT 35mm F1.8 SAM / 4,912×3,264 / 1/320秒 / F2 / +0.3EV / ISO3200 / 絞り優先AE / WB:オート / 35mm
α55 / DT 35mm F1.8 SAM / 3,264×4,912 / 1/200秒 / F2.2 / +0.3EV / ISO800 / 絞り優先AE / WB:オート / 35mmα55 / DT 35mm F1.8 SAM / 3,264×4,912 / 1/400秒 / F2.5 / 0EV / ISO3200 / 絞り優先AE / WB:3,700K / 35mm

マルチショットノイズリダクション

α55 / DT 16-80mm F3.5-4.5 ZA / 4,912×3,264 / 1/15秒 / F10 / 0EV / ISO6400 / 絞り優先AE / WB:3,200K / 24mmα55 / DT 16-80mm F3.5-4.5 ZA / 4,912×3,264 / 1/80秒 / F5.6 / 0EV / ISO6400 / 絞り優先AE / WB:3,200K / 16mm
α55 / DT 16-80mm F3.5-4.5 ZA / 4,912×3,264 / 1/60秒 / F5 / 0EV / ISO6400 / 絞り優先AE / WB:3,200K / 55mm
α55 / DT 16-80mm F3.5-4.5 ZA / 3,264×4,912 / 1/80秒 / F5.6 / 0EV / ISO6400 / 絞り優先AE / WB:3,200K / 28mmα55 / DT 16-80mm F3.5-4.5 ZA / 3,264×4,912 / 1/100秒 / F8 / 0EV / ISO6400 / 絞り優先AE / WB:3,200K / 70mm
α55 / DT 16-80mm F3.5-4.5 ZA / 3,264×4,912 / 1/60秒 / F5.6 / 0EV / ISO6400 / 絞り優先AE / WB:3,200K / 16mmα55 / DT 16-80mm F3.5-4.5 ZA / 3,264×4,912 / 1/125秒 / F5.6 / -0.3EV / ISO6400 / 絞り優先AE / WB:3,200K / 16mm



伊達淳一
(だてじゅんいち):1962年広島県生まれ。千葉大学工学部画像工学科卒。写真誌などでカメラマンとして活動する一方、専門知識を活かしてライターとしても活躍。黎明期からデジカメに強く、カメラマンよりライター業が多くなる。

2010/10/28 00:00