ニコンD700【第9回】

DXフォーマットのカメラとして使ってみる

Reported by 北村智史


 D700はFXフォーマット(フルサイズ)のカメラだが、DXフォーマット(APS-Cサイズ)でも撮れるようになっている。まあ、フルサイズのカメラをわざわざAPS-Cサイズで撮るのも間が抜けているというかもったいないというか、なんだか損をしているような気がして今まで試したことはなかったのだが、ちょうどDXフォーマット向けの35mmレンズの企画用にレンズを何本かお借りしていたこともあって(D700でのケラレ具合をチェックして欲しいと頼まれていたのである)、そちらの作例撮りといっしょにD700でも撮ってみた次第。というわけで、今回は、D700のDXフォーマットカメラとしての使い心地について書いてみることにした。

 DXフォーマットで使う上ででいちばんに問題になるのは、実はファインダーなのだが、記録画素数も無視できない点だ。FXフォーマットでの記録画素数は4,256×2,832ピクセル(約1,205万画素)だが、DXフォーマットで撮ると2,784×1,848ピクセル(約514万画素)になってしまう。今の相場からするとずいぶん物足りない数字だが、A4サイズの縁なしプリントで220dpiくらいの解像度でいけるから、普通に使う分には十分そうだ。

 さて、D700のファインダー倍率は0.72倍。FXフォーマットのカメラとしてなら悪くないが、DXフォーマットのカメラとしてみると、35mmフィルムカメラ換算のファインダー倍率は0.72÷1.5だから0.48倍相当になるわけで、かなりいただけない数字だ。現行のデジタル一眼レフでは、ソニーα330やα380(いずれも0.49倍相当)、オリンパスE-620(0.48倍相当)と同じようなレベルである。

 実際、ファインダーをのぞいてみると、さびしいくらいにファインダー像が小さい。カメラ自体がFXフォーマットなのを見ているだけに、よけいに小さく感じられる。視野(見える範囲)が広いのに写野(画面に写る範囲)が狭いというのは、レンジファインダー機で望遠レンズを使っている状態に似ているかもしれない。が、FXフォーマット対応のでかくて重いペンタプリズムを内蔵していることを思うと、なんだか少し後ろめたいような気持ちにもなってしまう。

 ちなみに、DXフォーマット時の写野枠の表示は、カスタムメニュー「a6 フォーカスポイント照明」を「オート」または「する」では枠線のみになってしまうが、「しない」を選択すると写野外がグレーのマスク表示になる。レンジファインダー機のファインダーを見慣れている人には写野外が見えていても気にならないかもしれないし、動体撮影時などには写野外の状況が把握できることがメリットになりうる。が、写らないものまでファインダーで見られることに慣れていない人はマスク表示のほうが使いやすいだろう。

D700にDXフォーマット用レンズを装着したところ。FXフォーマットのまま撮ると周辺部はかなり暗くなり、四隅はケラレが生じるDXフォーマットに切り替えたときのファインダー内。画面に写る範囲を示す枠線が表示される。写らない部分まで見える
カスタムメニュー「a6 フォーカスポイント照明」の画面。これを「しない」にすると、写野外がマスク表示に切り替わるマスク表示にすると、画面に写る範囲にだけ集中しやすくなるのがメリット。ただし、測距点のフレームは暗い場所などでは見づらくなる

 もうひとつ。「DX自動切り換え」がきちんとはたらくかどうかも要注意なポイントだ。純正レンズはまず問題ないはずだが、レンズメーカー製のものはDX自動切り換えがはたらかないものもあるらしい。その一方で、DXフォーマット用レンズなのにFXフォーマットでも使えてしまうレンズもあったりする。なので、お借りしたレンズと手持ちのレンズを合わせてチェックしてみた。

 DX自動切り換えに対応していなかったのは、シグマの10-20mm F4-5.6 EX DC HSMとトキナーのAT-X M35 PRO DXの2本。前者は2007年11月に発売されたD3よりも前(2005年7月発売)のレンズだし、後者もタイミング的にぎりぎり(2007年12月発売)なので対応できてなくてもしかたのないところではある。が、30mm F1.4 EX DC HSM(2005年6月発売)が対応していることを考えると、製造時期による差もあるのかもしれない。

DXフォーマット時の画面サイズは24×16mm。記録画素数(2,784×1,848ピクセル)から計算すると、約23.5×15.6mmになる「DX自動切り換え」をオンにしておくと、DXフォーマット用レンズ装着時に自動的に切り替わるはずだが、対応していないレンズもある

 画面周辺部のケラレについては、基本的にはどのレンズも出るが、D700 / AF-S DX NIKKOR 35mm F1.8 GやD700 / トキナーAT-X M35 PRO DXの絞り開放付近は「味ですからっ」で押し切れなくもないレベル。また、トキナーのは撮影倍率が1:4あたりよりも高くなると絞り込んでも大丈夫だった。D700 / AF-S DX NIKKOR 18-55mm F3.5-5.6 G VRは、焦点距離24mm以上は四隅が少し暗くなる程度なので、これも持ち味だと割り切って使うことはできなくはない。といったところ。

10-20mm F4-5.6 EX DC HSMAF-S DX NIKKOR 18-55mm F3.5-5.6 G VR
APO 50-150mm F2.8 II EX DC HSM30mm F1.4 EX DC HSM
AF-S DX NIKKOR 35mm F1.8 GAT-X M35 PRO DX

 で、使い勝手なのだが、AFまわりはまったく不満はなし。画面に占める測距点のカバーエリアが相対的に広くなる。厳密に比較したわけではないが、D300/D300Sとほぼ同じくらいだろう。FXフォーマットで撮るときよりもフレーミングの自由度はぐっと高くなるわけだから、DXフォーマットにもメリットはあると言える。ファインダー像の小ささも、もとがFXフォーマットのカメラだからと思えば気になるが、写野外マスク表示にしたおかげもあってか、撮っているあいだはほとんど意識せずにすんだ(まあ、ファインダー像が小さい分だけピントの山はつかみづらくなったけれど)。

 連写スピードは5コマ/秒あるし、マルチパワーバッテリーパックMB-D10を装着すれば最高8コマ/秒にスピードアップできる。スポーツ系の撮影にも余裕で対応できるスペックと言える。画質面でもA4サイズのプリントでの鑑賞ならまったく不満は感じない。個人的には、大枚はたいて買ったFXフォーマットをわざわざDXフォーマットにトリミングして使うのは罰当たりっぽくて、試す気にもなれなかったのだが、やってみたら案外に使えそうな感じである。用途とかに合わせてうまく使い分ければ、2台分とはいかないまでも、1.5台分くらいの楽しみ方はできるのではないかと思う。

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像を別ウィンドウで表示します。

・10-20mm F4-5.6 EX DC HSM

今の技術で約500万画素のDXフォーマットだと、ISO800でもこれだけの低ノイズにできちゃうんだなぁ、って思った
D700 / 10-20mm F4-5.6 EX DC HSM / 2,784×1,848 / 1/25秒 / F5.3 / -1EV / ISO800 / WB:太陽光 / 17mm(25.5mm相当)
昔はこれで鍋とか洗ってたんだよなぁ、などと思いつつぱちり
D700 / 10-20mm F4-5.6 EX DC HSM / 2,784×1,848 / 1/15秒 / F6.3 / -0.7EV / ISO400 / WB:太陽光 / 12mm(18mm相当)
このレンズは同じシグマのFX対応品12-24mm F4.5-5.6 EX DG Aspherical HSMよりも小型軽量。それにフィルターが使える便利さもある
D700 / 10-20mm F4-5.6 EX DC HSM / 2,784×1,848 / 1/40秒 / F5.6 / -1.3EV / ISO400 / WB:オート / 10mm(15mm相当)

・AF-S DX NIKKOR 18-55mm F3.5-5.6 G VR

写野外マスク表示でのDXフォーマット時の視野率はそれほどよくはない。画面左端の額はファインダーでは確認できなかったもの
D700 / AF-S DX NIKKOR 18-55mm F3.5-5.6 G VR / 2,784×1,848 / 1/20秒 / F4.5 / -0.3EV / ISO200 / WB:オート / 30mm(45mm相当)
D5000などのレンズキットに同梱の低予算レンズだが、D700での写りはまずまず
D700 / AF-S DX NIKKOR 18-55mm F3.5-5.6 G VR / 2,784×1,848 / 1/40秒 / F4 / -1EV / ISO200 / WB:オート / 24mm(36mm相当)
広角端の四隅以外は十分シャープだし、手ブレ補正機構も内蔵しているし、小型軽量なので使い勝手は抜群によかったりする
D700 / AF-S DX NIKKOR 18-55mm F3.5-5.6 G VR / 2,784×1,848 / 1/125秒 / F5.3 / -1EV / ISO200 / WB:オート / 40mm(60mm相当)

・APO 50-150mm F2.8 II EX DC HSM

DXフォーマットのメリットって、やっぱり望遠にある。70-200mm F2.8クラスの画角を780gで手に入れられるのはありがたい
D700 / APO 50-150mm F2.8 II EX DC HSM / 2,784×1,848 / 1/640秒 / F5.6 / -0.7EV / ISO200 / WB:太陽光 / 80mm(120mm相当)
中央部のボケを見ると少し色ニジミ(たぶん、軸上色収差)が出ているのがわかるが、少し絞れば解消されるし、シャープさも十分
D700 / APO 50-150mm F2.8 II EX DC HSM / 2,784×1,848 / 1/800秒 / F2.8 / 0EV / ISO200 / WB:太陽光 / 150mm(225mm相当)
70-200mm F2.8クラスだと重くて手持ちは大変だが、DXフォーマットに50-150mmの組み合わせは軽快だし、ブレも抑えやすい
D700 / APO 50-150mm F2.8 II EX DC HSM / 2,784×1,848 / 1/400秒 / F4 / -0.7EV / ISO200 / WB:太陽光 / 150mm(225mm相当)

・30mm F1.4 EX DC HSM

DXフォーマットのカメラには大きめのレンズだが、D700にはちょうどいいサイズだったりする。ケラレちゃうからFXでは使えないけど
D700 / 30mm F1.4 EX DC HSM / 2,784×1,848 / 1/250秒 / F6.3 / 0EV / ISO200 / WB:太陽光 / 30mm(45mm相当)
何を意図したのか、石とレンガとコンクリートが混ぜこぜになってる地面。「KKK」とか「KTR」とかの意味は不明ですけど
D700 / 30mm F1.4 EX DC HSM / 2,784×1,848 / 1/80秒 / F5.6 / -1.3EV / ISO200 / WB:太陽光 / 30mm(45mm相当)
シグマ30mmのニコン用はHSM(超音波モーター)搭載なので、フルタイムMFが使えるのが便利なところ
D700 / 30mm F1.4 EX DC HSM / 2,784×1,848 / 1/25秒 / F8 / 0EV / ISO200 / WB:太陽光 / 30mm(45mm相当)

・AF-S DX NIKKOR 35mm F1.8 G

ちょっとタル型の歪曲収差が気になるが、シャープでボケもいいし、小型軽量で価格も手ごろ。うれしい存在だ
D700 / AF-S DX NIKKOR 35mm F1.8 G / 2,784×1,848 / 1/1600秒 / F5.6 / 0EV / ISO200 / WB:太陽光 / 35mm(52.5mm相当)
フォーカスリングのタッチは決してよくはないが、MFでの操作性はまずまず。フルタイムMFも使えるので便利はいい
D700 / AF-S DX NIKKOR 35mm F1.8 G / 2,784×1,848 / 1/25秒 / F5.6 / -0.7EV / ISO200 / WB:太陽光 / 35mm(52.5mm相当)
かなり思い切ったネーミングの古いアパート。傾斜地に建っていて、玄関は1階と2階の中間の、階段の踊り場的な位置なのが面白い
D700 / AF-S DX NIKKOR 35mm F1.8 G / 2,784×1,848 / 1/1000秒 / F5.6 / +0.7EV / ISO200 / WB:太陽光 / 35mm(52.5mm相当)

・AT-X M35 PRO DX

昔の電話機(沖電気と書かれてる)だが、受話器はどこへ行ったんだろうか
D700 / AT-X M35 PRO DX / 2,784×1,848 / 1/40秒 / F3 / -0.7EV / ISO400 / WB:オート / 35mm(52.5mm相当)
マクロレンズだけあって、ピントが合った部分のシャープさはすごみがある。ボケも柔らかくてきれい
D700 / トキナーAT-X M35 PRO DX / 2,784×1,848 / 1/80秒 / F5.6 / 0EV / ISO800 / WB:オート / 35mm(52.5mm相当)
開放F値から考えれば重めのレンズだが、MF時のフォーカスリングの感触は素晴らしい。トキナーらしいこだわりが感じられる
D700 / トキナーAT-X M35 PRO DX / 2,784×1,848 / 1/20秒 / F5.6 / -0.3EV / ISO200 / WB:オート / 35mm(52.5mm相当)


北村智史
北村智史(きたむら さとし)1962年、滋賀県生まれ。国立某大学中退後、上京。某カメラ量販店に勤めるもバブル崩壊でリストラ。道端で途方に暮れているところを某カメラ誌の編集長に拾われ、編集業と並行してメカ記事等の執筆に携わる。1997年からはライター専業。2011年、東京の夏の暑さに負けて涼しい地方に移住。地味に再開したブログはこちら

2009/12/21 00:00