交換レンズレビュー
AT-X 24-70mm F2.8 PRO FX
高い描写力と低価格を実現したフルサイズ用ズーム
Reported by 大浦タケシ(2015/8/6 12:21)
本年2月開催のCP+2015で初めて正式披露され、6月にリリースしたトキナーの35mmフルサイズ対応標準ズームレンズである。明るい開放値と光学系にガラスモールド非球面レンズ3枚、超低分散ガラス3枚を採用する意欲作である。
以前から発売されている「AT-X 70-200mm F4 PRO FX VCM-S」および「AT-X 16-28mm F2.8 PRO FX」とともに、フルサイズ対応とする同ブランドのズームレンズはこれで完結したとみてよいだろう。
対応マウントはニコンおよびキヤノン。レンズメーカー製大口径標準ズームとしては最後発となる本レンズの操作感と描写を見てみよう。
デザインと操作性
レンズ鏡筒のデザインテイストは、これまでのAT-Xシリーズを踏襲する。鏡筒先端に金色の帯を巻き、ズームリングは大きめの凸凹を持つラバーとする。そのシェイプ及び鏡筒表面の質感などから、ちょっとカメラに詳しい人なら一目で同ブランドのレンズであることがわかることだろう。
鏡筒が同クラスの他の標準ズームにくらべ太く短いのも本レンズの視覚的な特徴だ。外寸は89.6mm×107.5mm(最大径×全長)、フィルター径は82mm。今回の撮影ではニコンD810を用いたが、本レンズと組み合わせたときの見た目の押しの強さに圧倒される。さらに質量も1,010gあり、開放F2.8標準ズームとしては重い部類に入る。
AFとMFの切り換えには、フォーカスクラッチ機構を採用する。フォーカスリングを前後させることでAFとMFに切り換わる同機構は、スライドタイプの小さなスイッチにくらべ切り替え操作はしやすくスムーズ。しかもカメラを構えたまま瞬時に操作でき、その設定の状態も一目で把握が可能だ。MFでもピント合わせを行うことのあるユーザーは便利に思える部分といえる。
なおAF駆動には、静粛性が高くより高速のAFが可能な超音波モーター「SDM」を採用している。
遠景の描写は?
ワイド端24mmの描写は、絞り開放でわずかにコントラストが低く感じられ、画面周辺部のキレも甘い部分が見受けられるが、1段絞ると描写は向上。絞りF5.6以上に絞り込むと、このクラスのレンズとしては不足のないものとなる。
画面周辺部で発生することの多い色のにじみについてもよく抑えているほうだ。周辺減光については絞りF4でほぼ解消され、ディストーションの発生も全体的に弱めである。
一方テレ端70mmの場合、絞り開放ではわずかに緩い描写だが、絞りF5.6まで絞り込むと画面の四隅も含めて不足を感じないものに。周辺減光は絞りF4でほとんど気にならないレベルとなる。
描写のピークはワイド端も含め絞りF8と考えてよいが、そのとき画面周辺部と中央部で大きな違いを感じさせないのも本レンズの特筆すべきところである。
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
ボケ味は?
ボケについては、気になるようなクセは感じられず素直な印象である。合焦面から始まるボケは滑らかに変化していき、デフォーカスになるほど被写体同士が柔らかく溶け合っていく。大口径の単焦点レンズには及ばないものの、ズームレンズとして考えるならボケの柔らかさやクリアな印象は秀逸といってよい。
前ボケについても作例を見るかぎり特別気になるようなところは見受けられず、後ボケも含め積極的に表現に活かしてみたいレンズである。
逆光耐性は?
画面のなかに太陽が入るような条件、および画面の外に太陽がある条件とも、作例を見るかぎりフレアおよびゴーストの発生が見受けられる。
しかしながら、フレアに関してはそれほど強くはなく、ゴーストも条件によってはほとんど目立たないものである。むしろライバルとくらべたとき、よく抑えているほうである。
なお、内側に植毛処理の施された花形のフードが同梱されるので、撮影の際は必ず装着するようにしたい。
作品集
ワイド端での撮影。絞りは開放としている。わずかにコントラストが低く感じられるが、このような被写体の場合ではさほど気になることはないだろう。合焦面のシャープネスも高い。
こちらは焦点距離50mm、開放絞りとしている。コントラストは良好で、ピントの合った部分のキレはよい。画面周辺部に色のにじみが僅かに見受けられる。が、大きく拡大してはじめて分かる程度。周辺減光の発生も小さい
絞りF5.6まで絞ると、文句のつけどころのない描写となる。特に解像感とコントラストは高く、キリッと締まったヌケのよい描写が得られる。風景撮影では特に期待できそうなレンズだ
焦点距離はテレ端70mm。絞りはF2.8としている。開放絞りのため、描写はやや安定感に欠けるが、それでもピントの合った部分は浮き立ちクリアな仕上がり。わずかに周辺減光が見受けられるものの、気になるレベルではない
このレンズの描写のピークである絞りF8で撮影。ピントの合った部分が美しく浮かび上がる。ボケ味もクセを感じさせないものでナチュラルだ。本レンズの最短撮影距離はズーム全域で0.38mとしている
エッジのキレのよさはこのレンズの持ち味。遠くの被写体も鮮明に描写する。ニコンD810と組み合わせて撮影を行っているが、3,600万画素センサーの解像力にも十分応えられる描写特性といえるだろう
絞りはF5.6。画面の四隅に甘さがわずかに残るものの、それ以外の部分はシャープだ。さらにもう一段ほど絞ると申し分のない描写となることだろう
まとめ
予想以上に写りのよいレンズである。今回の作例撮影にはニコンD810を用いたが、そのような高画素機での使用にも十分応えてくれるものといえる。トキナーでは本レンズをリリースするにあたり、最後発としていろいろと気を払うことが多かったのではないかと想像するが、隙のない描写はその現れといえるだろう。
惜しむべくは手ブレ補正機構の搭載が見送られたこと。F2.8クラスの標準ズームとしては唯一タムロンが搭載するが(発売予定のレンズではニコンAF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VRも)、本レンズにも搭載されていたならと思わざるを得ない。
とはいえ、高描写でありながら純正の大口径標準ズームの半分近い価格で手に入れられることはたいへん魅力的。コストパフォーマンスの優れたレンズとして憶えておいてほしい。