ライカレンズの美学

SUMMILUX-M F1.4/35mm ASPH.

35mm好きにオススメしたい最有力レンズ

35mm判における一般的な意味での標準レンズはもちろん50mmだが、ことM型ライカのようなレンジファインダー機においては、50mmではなく35mmこそが標準レンズであるとする考え方が昔から根強く存在する。

まあ、このあたりの感覚は人それぞれだが、レンジファインダー機における35mmレンズの重要性、あるいは稼働率の高さはレンジファインダーユーザーであれば誰もが認めるところだろう。

ライカもその辺はもちろんよく分かっていて、M型ライカ用としてSUMMILUX-M F1.4/35mm ASPH.を筆頭に、SUMMICRON-M F2/35mm ASPH.、そしてSUMMARIT-M F2.4/35mm ASPH.と、現行製品として開放F値の異なる3種類もの35mmレンズをラインナップしている。

そんな3本の中から、今回はもっとも大口径なSUMMILUX-M F1.4/35mm ASPH.の魅力について探ってみたい。

ライカ ズミルックスM F1.4/35mm ASPH.

本題に入る前にM型ライカ用SUMMILUX 35mmの歴史をざっくりと振り返っておくと、初代SUMMILUX 35mm F1.4は1961年に登場。絞り開放気味で使うと合焦部に美しい滲みを伴った独特の描写を得られるレンズで、その個性的な写りには今でもファンが多い。絞り込むと一転してシャープな描写に転じるという明確に異なる二面性を持ったレンズでもあり、その意味ではデジタル時代の現代でも使い甲斐のある1本と言えるだろう。

この初代SUMMILUX 35mmは非常に長寿で、鏡胴デザインなどに変更を受けながらも基本的には同じ光学系のまま約30年間も現行製品であり続けた。二代目SUMMILUX 35mmは1990年に登場。約30年ぶりのモデルチェンジということで、非球面レンズの使い方などにかなり凝りまくった製品であったが、その凝りすぎた設計のためか生産難易度が高く、約3年後の1994年には非球面レンズの面数を変えた三代目SUMMILUX 35mmにバトンタッチ。そして、2010年に四代目となる現行のSUMMILUX-M F1.4/35mm ASPH.が登場した。

安心して絞りを開けられるF1.4。絞っても繊細

M型ライカがライカM8で初めてデジタル化されたのは2006年、フルサイズ化されたライカM9の発表が2009年ということで、2010年に登場した現行SUMMILUX 35mmは当然ながら完全にデジタルカメラで使われることを前提に設計されている。

コーティング方法を厳選かつ工夫することでフレアやゴーストの発生を抑える一方、ダブルヘリコイドによるフローティング機構により、撮影距離で変化する各種収差を効果的に補正している。

撮影距離が近くても遠くても描写傾向はまったく変わらずシャープさが保たれる。LEICA M(Typ240) / ISO200 / F5.6 / 1/60秒 / WB:オート
新しい設計ということもあり逆光耐性はかなり強く、フレアによるコントラスト低下はほとんど感じられない。LEICA M(Typ240) / ISO200 / F8 / 1/250秒 / WB:オート
歪曲収差はよく補正されており、このような直線物主体でもまったく問題ない。LEICA M(Typ240) / ISO320 / F5.6 / 1/60秒 / WB:オート

描写性能については、使ってみれば誰でもその秀逸さが実感できるであろうと思えるほど「よく写る」レンズだ。ヌケがいいとかシャープだとかは当たり前で、本当に絞り開放から見事な結像を見せてくれる。先に触れたとおり、二代目から現行の四代目に至るモデルチェンジはライカとしては比較的短いタームで推移したわけだが、それだけに本レンズの完成度はきわめて高い次元にある。

フローティング機構の効果は絶大で、最短撮影距離の70cmでも合焦部のリアルさはマクロレンズ並みだし、同じように中距離、無限遠まで高い解像感が切れ間無く維持される。こうした大口径レンズで気になるボケ味はクセが少なく、とってもまろやか。

絞り開放でも合焦部の解像感とコントラストは揺るぎないものがある。LEICA M(Typ240) / ISO200 / F1.4 / 1/4,000秒 / WB:オート
ある程度絞り込んでピントを深くした場合でも、像が立ち上がってくるような立体感を得られるのはライカレンズならでは。LEICA M(Typ240) / ISO200 / F5.6 / 1/180秒 / WB:オート
M型ライカと組み合わせた場合、F1.4開放でもピントは高精度で合わせることが可能。アウトフォーカス描写はごく自然だ。LEICA M(Typ240) / ISO800 / F1.4 / 1/45秒 / WB:オート

今回はライカM(Typ240)と組み合わせて使ったが、広角レンズを使ったときのレンジファインダーによるピント合わせは機構的にもともと過剰ともいえるほど高精度なこともあって、絞り開放のF1.4でもピント精度は抜群。こうして描写性能的にも、カメラのピント精度的にも「安心して絞りを開けられる魅力」は絶大だ。

逆に絞り込んだ場合でも線が太くなってしまうことは皆無で、超シャープな描写が得られる。解像度的にはTyp240の2,400万画素はまったく余裕で、おそらく相当な高画素にも対応できうるポテンシャルを持っていると想像できる。

絞り込んでも開放時の線の細さはそのままに被写界深度だけ深くなっていく印象で、シャープ感のある描写だ。LEICA M(Typ240) / ISO200 / F5.6 / 1/350秒 / WB:オート
ヌケのよさやピントの立ち上がりの明確さはいかにも現代レンズのそれ。解像感的にもまだまだ余裕が感じられる。LEICA M(Typ240) / ISO200 / F5.6 / 1/45秒 / WB:オート

本連載のAPO-SUMMICRON-M F2/50mm ASPH.の回でも同じようなことを書いたが、これだけの光学性能を実現しながら、鏡胴サイズが極めてコンパクトに抑えられているのも現行M型ライカ用レンズの大きな魅力である。さすがに初代SUMMILUX 35mmに比べると大きくなってはいるものの、絶対的には小さいレンズで、フィルター径も46mmしかない。

F1.4の大口径と、きわめて良質な描写性能に加え、ドイツ製品らしい“飾り気は無いけれど質実剛健”な鏡胴デザインをまとった本レンズは、レンジファインダーカメラの35mmが好きな人にとって、メインレンズの最有力候補ではないだろうか。スナップからポートレート、風景まで幅広い被写体に対応できるレンズだが、個人的には絞り開放気味で心象風景的な作品を撮ってみたくなるレンズだ。

画面中央と周辺部の解像差は非常に少なく、画面全体でプレーンな均質感が得られる。LEICA M(Typ240) / ISO200 / F8 / 1/125秒 / WB:オート
金属製鏡胴による作りのよさは他のライカレンズと同様。フォーカシングの滑らかさを含め、ピント合わせや絞り操作が楽しくなるレンズだ。LEICA M(Typ240) / ISO200 / F5.6 / 1/45秒 / WB:オート
ズームレンズでは得られないF1.4という明るさは、感度設定に必要以上にナーバスにならずにすむという意味でやはり大きな魅力。LEICA M(Typ240) / ISO200 / F1.4 / 1/20秒 / WB:オート

協力:ライカカメラジャパン

河田一規

(かわだ かずのり)1961年、神奈川県横浜市生まれ。結婚式場のスタッフカメラマン、写真家助手を経て1997年よりフリー。雑誌等での人物撮影の他、写真雑誌にハウツー記事、カメラ・レンズのレビュー記事を執筆中。クラカメからデジタルまでカメラなら何でも好き。ライカは80年代後半から愛用し、現在も銀塩・デジタルを問わず撮影に持ち出している。