インタビュー

メーカーインタビュー2013:パナソニック編

ミラーレスも高付加価値路線へ。道具としての持つ喜びを追求

 昨年秋のフォトキナでLUMIX DMC-GH3を発表以来、パナソニックのレンズ交換式カメラは、それまでの路線とは異なる道を歩み始めた。従来はセンサーを含む半導体デバイスの内製やデジタル映像処理に力を入れ、コンパクトさや機能性、スペック面を重視。その一方で、見た目や質感に関しては、カメラらしさよりも家電的親しみやすさやコストを強く意識した購入しやすさを重視しているように感じられた。

 もちろん、過去を振り返ればカメラらし過ぎるほどにカメラらしいデザインや質感を追った製品もあったが、マイクロフォーサーズ規格のカメラになってから路線が少し変わっていた。しかし、GH3以降の製品は初心に回帰した、というよりも、LUMIXのブランドを構築し直そうとしているかのようだ。

 さて、そんなパナソニックの1年を振り返りながら、AVCネットワーク社 DSC事業部 事業部長の北尾一朗氏にパナソニックの現在と未来について話を伺った。

パナソニックAVCネットワーク社 DSC事業部 事業部長の北尾一朗氏

スマホの影響で厳しかった市況

−−今年1年はデジタルカメラ業界に逆風が吹きました。どうやら経済誌の取材ではそうした話ばかりのようですが、実際のところ事業をやっている立場から見て、市場をどのように見て、またパナソニックとしての戦略を立てているのでしょう?

 市場データから見てもデジタルカメラ市場に変調が訪れていることは明らかですから、そこは否定しようがありません。しかし事業環境が変化しても、それに対応できる体制を整えればいい。最近よく、“デジカメ工場もいくつか閉めるんですか?”などとビジネス系メディアの記者に尋ねられるのですが、そんなことはありません。事業のやり方さえ間違えなければ、工場を閉める必要などありません。

−−デジカメ Watchは趣味としてカメラを愉しんでいる方が見る媒体ですが、それでも昨今の状況は気になっていると思います。何しろCIPAの統計では今年1〜8月のコンパクトデジタルカメラの総出荷台数の累計は3,008万台。前年に比べ45.7%も減っています。

 実はコンパクトデジタルカメラで、もっとも厳しかったのは昨年後半です。天災などもあってなかなか新製品を大量に出荷できていなかったのが、昨年は体制が整って各社が新製品をたくさん投入できました。しかし、新興国でのスマートフォン普及が急速に進み、需要が減少したことによって、大量に投入した製品の在庫が過剰になり、今年の大幅な出荷激減につながっています。これは本当の話なので、しかたがありません。過去に戻ることはできませんから。

 一方で、写真を撮影する機会が従来よりもはるかに増えていることも事実です。スマートフォンの生産は年間8億台、10億台を越えるのも時間の問題ですよね。これに対してデジタルカメラは年間1億台を少し越える程度ですから、母数としては10倍です。そしてそのユーザーの多くが写真を実際に撮影しています。写真に対して、自ら能動的に取り組むチャンスは激増しています。

−−スマートフォンがデジタルカメラへの入口になるという論旨は以前からありましたが、一方で“写真”に対する撮影者のスタンスも変化しているように思います。スマートフォンは撮影や作品よりも、写真を通じたコミュニケーションや記録の比重が高い。道具としての特性を考えれば当たり前ですが、しかし、そうしたスマホ写真こそが原体験という世代が今後はどんどん増えてきます。

 その通りですね。崇高な作品作りではなく、ジャンクな写真がスマートフォン写真の主流ですよね。しかし、そのジャンク写真の世界をもっとクリエイティブなものにしていくという流れは作れると考えています。写真を撮影するモチベーションとして、SNSで高評価を得たい、たくさん“いいね!”してもらえると頑張りたくなる。そうした面はあるはずです。

 従来のコンパクトデジタルカメラは、従来型のカメラの延長線上での性能や機能を競っていましたから、スマートフォンに置き換わった時に新しいカメラを買ってもらえなくなりました。顧客が求めているものと違う商品を作っていては、いつまで経っても売れ始めることはありません。

 顧客ニーズの変化をきちんと読み取って商品作りをすれば、どこかきっかけとなるタイミングでカメラを手に取って触れる機会もあります。例えば子どもができた時、旅行に行く時、どこかの時点でカメラに興味を持つものでしょう。その時に、顧客ニーズに合った製品を用意していることが重要です。

−−これは各社にうかがっているのですが、体験の質が異なるスマートフォンのカメラから、単体のカメラへの興味を惹くことができるでしょうか? 各社Wi-Fi機能を磨き上げてスマートフォンとの連携を深めようとしていますが、まだもう少し洗練度が欲しい。

 確かに最新機種のGMでも、Wi-Fi機能に関してはまだ改良が必要だとは思います。引き続きスマートフォンとの連動については洗練度を高めていく必要があると思っています。将来は、まだ時間が少しかかるものの、携帯電話の通信網をカメラ自身が使ってクラウドへと接続できるようになると考えています。

LUMIX DMC-GM1。レンズ交換式で世界最小を実現。それでいてエントリー向けというより、高級路線を狙う

 今、ちょうどLTEが普及し始めているタイミングですが、すぐにLTEの次世代も出てくるでしょうし、クラウドに撮影したすべての写真がストリームされ、保存する時代が来てもおかしくありません。もちろん、技術的なハードルは高いので、今すぐに商品戦略に組み込むという話ではありませんが、中期の事業計画では意識しています。

−−ある程度先を見通しているということは、その前段階としての施策アイディアもあるのでしょうか?

 もちろん、考えています。ある程度のプランはありますが、現時点ではまだ具体的なことは言えません。携帯電話キャリアも通信量が爆発的に増えているため、さまざまな拠点でWi-Fiへとトラフィックを逃がそうとしていますよね。そうした携帯電話の通信網を迂回させる経路をうまく使って、カメラの無線通信環境をもっと発展させるアイディアなどもあると思います。

 あとは、まずカメラとして使いやすいものにすること。スマートフォンのユーザーインターフェイスも良くはなっていくでしょうが、カメラと同じ使い勝手にまではならないでしょう。ですから、カメラとしての使いやすさを見直しています。これもスマートフォンからの動線をしっかりと引くための布石です。

“道具としての価値”を重視

−−GH3以来、LUMIX Gのテイストが、それまでのややポップな印象から変化しましたが、それもユーザーインターフェイスや質感、操作感のブラッシュアップから来ているのでしょうか?

 ミラーレスカメラをやりはじめて5年、その前のフォーサーズ規格からは7年、レンズ交換式カメラを作ってきました。その経験を活かして、まずは正面から写真文化への考えやカメラという製品取り組みを見直そうと考えました。長い歴史のあるカメラには、そのジャンルそのものが持つ世界観があると思います。その世界観が商品からもしっかりと感じられる、高い見識で作られたカメラ。そうした商品を作るために、過去に多くのカメラメーカーが取り組んでいた手法やものづくりを踏襲しよう。そんなことを考えて作ったのがGH3でした。

 カメラというのはハードウェアですから、我々はハードウェアとしてのスペックや機能を作ってきました。しかし、結果として生まれる作品としての写真までを見通すのであれば、ハードウェアだけでなくハードウェアを使用した結果(写真)をよりよいものにしたい。GH3のコンセプトはそのような考えで、そのコンセプトを基礎として、(GFシリーズを除く)この1年の製品を作ってきました。

 やはり、カメラには“道具としての価値”を求める部分はありますよね。だから、どんな商品としての味付けにするのか、どんな操作性にするのかというバランス感覚が重要です。そのためにプラスティック部品を各製品で減らしていったり、マグネシウムに置き換えたり、割線(ボディの合わせ目)を見えにくくしたり、間の隙間が狭くピッタリと合うような拘りを持つようにしました。そこは生産体制も含めたさまざまな取り組みの結果なんです。技術的には社内で許される設計公差の中でやれば、商品としては問題ありません。しかし、塊感や質感といった感覚的なものを求めると、その領域では追いきれないところが出てきます。

−−コンパクトデジタルカメラの出荷が激減し、レンズ交換式などプレミアムカメラの(事業面での)重要性が高まってきている現在の市場環境で、今後はどうLUMIX Gシリーズの舵取りをしていこうと考えているのでしょう?

 ひとつは、よりよい写真がきちんと撮れること。GH3、GX7もそうですが、きちんとカメラとしての王道を進むため、真正面から取り組むことです。そうすれば、本来我々が持っているセグメント(デジタル映像処理など)を活かせる世界が見えてくると思っています。もっとも、他社と同じことをしようとは思っていません。

 たとえば、スポーツ写真を撮影するプロのためのカメラを作ることは、パナソニックに求められているものではありません。しかしこれから先、テレビの画素が4Kになる。さらにその先には8Kもあるかもしれない。そうした動画領域はパナソニックの出る幕があるでしょう。

 また、写真の楽しみ方としてプリントだけでなく、デジタルサイネージへの直接の表示やタブレット端末などで見る機会が増えてきています。静止画と動画が融合していく中で、まずは自分たちの経験を活かせる領域に足を踏み出しました。

アート分野への取り組み

−−最近、パナソニックのカメラはモダンアートとのつながりを深めていますよね。それらもパナソニックならではのカメラ文化創出を意識しているのでしょうか。

 ミラーレスカメラはコンパクト化が容易ですし、設計次第で撮影音も小さくできます。ストリートではカメラの存在感が大きすぎると、被写体が萎縮したり意識したりで、なかなかよい写真が撮れません。言い換えると、そうした一眼レフでは難しいシーンを切り取るところを活かして、若い人たちの独自の感性を活かせるのではないかと考えています。

 カメラが変わることで写真が変化し、写真が変わることでそれを活かしたアートも変化する。写真そのものを作品として仕上げていくのではなく、撮って出しの絵をそのままで使えるよいものにするのは当然ですが、その後にどうやれば面白い絵を表現できていくのか、若いアーティストたちは”感覚”として何がやりたいという部分を持っているので、そこを支援しています。彼らと一緒に活動することで我々の見識も高まり、それを製品へとフィードバックできると思うからです。

−−そうした意味ではGHの世界も、GMの世界も通じ合う部分がありますね。特にGMはコンパクトデジタルカメラと同等のボディサイズで、多彩なレンズを組み合わせた表現ができる。ストリートカメラとしては最適かもしれません。

 コンパクトだからこそ撮れる写真というのはあると考えています。もちろん、GHのようなネイチャーフォトを強く意識した分野も、ミラーレス機の得意分野なのですが、新しい領域として写真を使ったアートの世界を育てていきたい。

 写真を使ったアートの世界は、スマートフォンをきっかっけにどんどん新しい表現手法が拡がっています。欧州に写真関連のイベントに行くと、写真でもない、しかし旧い感覚でもアートと言えるかどうかもわからない。雑誌の切り抜きを貼り付けただけ? といった作品もあって、表現に制約がありません。額装に写真の印刷を使っていたり、技術的な進化が写真表現の変化を生み出している面もあります。

 もちろん、鉄道や飛行機といった速く動く被写体を的確に撮影できるよう性能を磨いていかなければなりませんが、その次の時代に向けて軌道修正を行なっているところですね。理解しづらいことも多いのですが、発見も多いと感じています。

高付加価値のミラーレスカメラとは

−−コンパクトデジタルカメラ市場については今後、どのようになるとお考えでしょう?

 普及価格帯は厳しいですね。しかし、実はFZシリーズに関しては売上は落ちていないんですよ。高倍率ズームレンズ内蔵カメラは、ワールドワイドでは大きな市場です。FZ200は発売してかなり時間が経過していますが、売上好調のままキープしています。今年になって、各社F2.8の大口径ズームを搭載し始めて、正直、参ったなぁという印象はあるのですが、LXシリーズのような高付加価値コンパクトも堅調ですし、旅行向きのTZもそんなに悪くはないんです。

 我々の製品でいうと、ズーム倍率で10倍以下のレンズを搭載するカメラが厳しい状態なので、まだまだFZのような製品は落ちないのではないかと思います。

−−他社、特にソニーは高級化・プレミアム化指向を極端に高めることで成功しているように見えます。

 釣りたい魚が違えば、釣る場所を変えなきゃいけませんし、適した竿も変わってきますよね。カメラは道具ですから、特徴が明確ならば選んでもらえると思います。プレミアムかどうかという上下のラインだけではなく、用途を絞り込んだり、逆にオールラウンダーだったり。そうした意味で、同じようなテイストの製品を上限にラインナップ展開するのではなく、役割が異なる商品を適材適所に配置する“フォーメーション”型でコンパクトデジタルカメラの商品を作ります。

−−もともとミラーレス機のシェアが大きかった日本ですが、GH3やOM-Dのなどプレミアムクラスのミラーレス機が投入され、ソニーがα7シリーズを投入するなど、メーカー側の仕掛けはアグレッシブです。ミラーレスカメラを最初に発売し、早い段階からこの分野にフォーカスしてたメーカーとして、ミラーレスカメラの現状をどのように分析していますか?

 我々としてできること、やりたいことを商品にしてきましたが、ミラーレスカメラを作るライバルも面白い製品を作ってきました。これまで、カメラ業界では存在感の高いメーカーが、ミラーレスカメラを“コンパクト以上、一眼レフ未満”という位置付けに置いてきたため、なかなか高付加価値のミラーレスカメラというジャンルが認知されてこなかった。その状況が変化し始めるかな?という感触はあります。

 これまでミラーレス機にそっぽを向いていたお客様も、そうした多様な製品が話題を作ることで最新のミラーレス機に触れ、以前よりも大幅に改良が進んでいることを実感していただけるでしょう。まだ“レフ”の部分に対する憧れのイメージは強いのですが、よりアンテナの高い人達には伝わってきているので、それが徐々に一般の人に伝わっていけば、高付加価値のミラーレスカメラという商品のコンセプトも伝わっていくと思います。

−−高付加価値のミラーレスカメラという分野は昨年後半くらいからやっとスタートしたばかりですよね。今後、さらに市場での存在感を高めるには何が必要でしょう?

 映像処理LSI、センサー、それにEVF用ディスプレイなど、さまざまなデバイスが、まだまだ今後大きく進化していきます。もっとEVFの見え味は良くなりますし、EVFやライブビューに表示する情報や撮影結果シミュレーションの精度なども高まっていきます。もちろん、電子的な表示ですからファインダー像の遅延は0にはなりませんが、実際の撮影シーンではそこまでの要求がない撮影フィールドがほとんどです。そうした領域における電子ファインダーの良さをもっと出していけば、一眼レフとの“上下”という感覚を払拭できると思います。すでに完成されているOVFに比べると、技術的な進歩の余地も大きいですからね。

−−GH3のような高付加価値ミラーレス機は、どんな人たちが買っているのでしょう?

 動画撮影のために購入しているユーザーが、実はかなり多いのです。カムコーダは軽快、イージーな方向に向かっていますから、高画質かつレンズを活かした撮影をしたい方は、どんどんミラーレスカメラに移行しています。レンズの表現力を活かしながら映像作品を作れますし、制作コストも安くなる方向になりますからね。映像制作の学生はもちろん、プロ、セミプロ、ハイアマなど、作品としての映像を作っている人達はすべてこちらの方向に向かっています。また、結婚式用のビデオなど業務用途も、どんどん一眼に変わってきています。

 GH3は29分59秒を越える映像を撮影できる点も、動画ユーザーにウケがよい部分でしょう(欧州では30分以上の動画を撮影できるとビデオカメラとみなされて関税が上がることや、過熱防止等の理由により、多くのカメラが動画記録時間に制限をかけているが、GH3は、欧州を除く地域では、どの動画モードにおいても動画記録時間の制限をかけていない)。熱設計の面でも、長時間のビデオ撮影に耐えられる設計にしています。

−−そこまで力を入れて話をされると、次は4K撮影もできますよね?と尋ねたくなりますね。

 すでにネットでは“来年はGH4Kですね”などと噂されていますが(笑)、4Kを撮影できるカメラをやりますと、すでに公言してしまっているので、それが“再来年”ではマズイですよね。ですから来年には間に合わせます。

−−来年の話が出ましたが、この1年でカメラ文化と向き合う形で製品ラインを一新したとのことでした。ではこれからの1年はどんなカメラ作りのコンセプトを掲げますか?

 今年はずっと走り続けて製品ラインを再整備してきたので、これからは通信や4Kなど、新しい要素を含めて、それぞれの商品が、それぞれに適したユーザー層に対して、きちんとニーズにミートする特徴を付けていくよう、各製品の機能を深掘りしていく年にします。どんな方向? というと、それぞれ商品によってユーザー層が異なり、使い方も違いますから、改良のアプローチも変わります。あるものは間口の幅を広げ、別の製品は深く掘り下げることになるでしょう。

GMにあわせた小径レンズのラインナップは?

−−LUMIX GMは常識外れにサイズを小さくすることに成功しました。どんな消費者に響いていると感じていますか?

 カメラのことをよくわかっている人の反応がよいですね。おそらく、カメラに詳しくない方は、このカメラがレンズ交換できるとは思っていないのかもしれません。キットレンズとの組み合わせだと、コンパクトデジタルカメラとあまり変わりませんから。

 我々はフォーサーズとマイクロフォーサーズに取り組んで、今まで“センサーが小さいね”と言われ続けたのですが、今回は初めて“こんなに大きなセンサーが入っているんです!”と言えるカメラです。GX7も画質面で高い評価をいただいていますが、まったく同じ画質が、このサイズで撮れてしまう。その価値に、現時点の段階ではカメラ好きがいち早く気付いているのだと思います。

LUMIX DMC-GX7。プレミアム路線の最右翼として9月13日に発売。高い質感をはじめ、チルト式の内蔵EVFなど、スナップシューター向けのコンセプトが話題を呼んだ

−−LUMIX GMには、過去のマイクロフォーサーズレンズはすべて使えるわけですが、一方でこの製品に似合うレンズはさほど多くないですよね。今後、コンパクトなレンズのシリーズを作る予定は?

 来年、望遠ズームを投入することはすでに発表しています。また、ライカ銘の15mm F1.7もGMに似合います。14mmのパンケーキやフィッシュアイも径が小さいですから違和感はないと考えています。これだけあれば、別にコンパクトシリーズを立てる必要はないと考えていますが、絞り環の付いた単焦点レンズはいくつか作って行こうと思いますので、それらは似合うと思いますよ。

(本田雅一)