写真展レポート
LUMIX MEETS BEYOND 2020 BY JAPANESE PHOTOGRAPHERS #5 東京展がスタート
若手写真家を世界に紹介 天王洲のIMA galleryで
2017年10月6日 18:54
若手日本人写真家を世界のアートシーンに紹介する試みが「LUMIX MEETS BEYOND 2020 BY JAPANESE PHOTOGRAPHERS」だ。LUMIXの名から察せられる通り、パナソニックがスポンサードしている。
その第5弾、「ポストトゥルース時代のポートレイト」が東京・天王洲のIMA galleryで始まった。会期は10月5日〜15日。
東京展の前に、9月のアムステルダム国際写真祭「UNSEEN Amsterdam」で展示。東京展の後は11月3日〜19日までパリで展示が行なわれる。
IMA galleryが新展開
本展は天王洲のIMA galleryのオープニング企画でもある。アマナでは本社を置くビルの1階に新たにギャラリーを設け、写真をアートとして所有し、日常の中で楽しむことを訴求していく。
「ハードルはあるが、必ず実現できると確信して取り組んでいる」と同社・執行役員の上坂真人氏は話す。
海外では企業がアートを活用したブランディングやビジネス展開を行ない、日本企業も注目を集めつつある。アマナでもB to Bへのアプローチを強め、数年前に比べて関心を持つ企業が増えた。
これまでIMA galleryを展開してきた東京・六本木のスペースは、写真プリントを手ごろな価格で販売するYellowKornerのショールーム&ショップとしている。こちらもオフィスユースやインテリアショップ、建築関係などB to B向けの営業を強化している。
5名それぞれのコンセプト
若手写真を紹介するプロジェクトでは、これまで水谷吉法、藤原聡志、横田大輔、濱田祐史、伊丹豪らを取り上げてきた。
今回は平澤賢治、菅野恒平、矢島陽介、山谷佑介、白井晴幸、上田順平の5名だ。
平澤賢治「PLAY FACE」「FIGURE」
平澤賢治さんは赤外線を感知し、被写体の熱量を画像で表示するサーモグラフィカメラでポートレート撮影を行なう。漆黒の闇の中で、人が放つ光を捉えた画像には、人間の本質が見えてこないか。彼は撮るうちに、その手応えを強めていった。
最初は敢えて無表情でモデルを立たせたが、身近な人の死をきっかけに、表情や動きを取り入れていった。
「心の変化や感情は形となって現れる。そうした心の動きを積極的に捉えることで、より豊かな表現になると思ったからです」
「FIGURE」は撮影した温度情報の数値をそのまま出力した。見る角度によって、数字が被写体のシルエットを描き出す。作者としては全く想定していなかった表現が生まれたという。
菅野恒平
自ら撮りためたスナップショットをカテゴライズして3点を選んだ。被写体は新宿のデモと、父の故郷にある木、スカートをはいた男性。
それぞれ社会に対しての関わり方、自分のルーツへの興味、そしてアイデンティティへの探求であり、それは個人的なものだが、誰の中にも存在する要素となっている。
作者は言葉でなく、写真で観る人に問いかける。
矢島陽介「anonymous work」
環境と人との関係性に興味を持ち、作品を制作してきた。今回のシリーズは、郊外にありがちな風景を撮影し、B0程度に出力したプリントを背景にしたポートレートだ。
ただしその背景は上下が逆さまで、人は背を向けている。
「場所、背景、人が不一致なまま存在する」と矢島さんは言う。
それは自分たちが今生きている、この社会でもある。かつては生まれた土地の物語やさまざまな謂れがあり、代々伝承されてきた。都市に移り住んできた人にとって、此処はたまたま今いる場所に過ぎない。制作の動機は、作者自身がある時、周囲を見回して実感した不可思議な想いにある。
山谷佑介「Into the Light」
山谷さんは身近な友人や空間を題材に、「私写真の拡張」を試みる作家だ。
結婚し、子どもが生まれ、父親になったことを喜びながら、戸惑う日々を送る。夜泣きする子どもに起こされ、夜の街を散策し始めると、他人の家が気になり始めた。
「人が見えない波長が撮れる赤外線カメラで家を撮り始めた」
深夜の住宅街に立っていると、そこここにある窓から見られている感覚を覚えるようになった。見ているつもりが、SNSや監視カメラなど、見ず知らずの視線にさらされているわけだ。
白井靖幸「invisible man」
白井さんは映像と写真で、現実と非現実、実在と不在を表現する。
モチーフは、パタゴニアで入植者から絶滅させられた裸族。実際の作品はコミカルさが漂う。
東京の郊外にある林で、未開の土地を想像して撮影を行なった。動画は深夜に撮影し、フラッシュを当てた瞬間だけ、被写体が浮かび上がる。
未知と既知が何をもたらすのかを想像していくと、笑いの先に違う何かが見え隠れする。
上田順平「Picture of My Life」
上田さんが21歳の時、うつ病だった母が自死し、その9日後、父が後を追った。母が亡くなった時、彼は海外を旅していた。
母が亡くなってから、父は家族のアルバムを作り始め、完成させたのち、自ら命を絶った。妻と自分がこの世に生を受け、出会い、子どもを成した二人の人生を振り返り、それを形に残した。
上田さんは父と母から愛情を持って育てられ、二人のことは自慢だった。それが彼らが自死を選んだことで、人に語れない存在になった。それを再び、語れるようにすること。今回、上田さんがこの作品を制作した動機の一つだ。
「両親からもらった愛を世界中の人たちと共有したい」
それがもう一つの制作の理由だ。自分の中で咀嚼し、まとめるまでに19年の歳月がかかった。
LUMIX MEETS BEYOND 2020 BY JAPANESE PHOTOGRAPHERS #5
会場
IMA gallery
東京都品川区東品川2-2-43 T33ビル1F
開催期間
2017年10月5日(木)〜15日(日)
開催時間
11時〜19時(13日は18時まで)
休館
無休
入場料
無料