写真展レポート

LUMIX MEETS BEYOND 2020 BY JAPANESE PHOTOGRAPHERS #5 東京展がスタート

若手写真家を世界に紹介 天王洲のIMA galleryで

若手日本人写真家を世界のアートシーンに紹介する試みが「LUMIX MEETS BEYOND 2020 BY JAPANESE PHOTOGRAPHERS」だ。LUMIXの名から察せられる通り、パナソニックがスポンサードしている。

その第5弾、「ポストトゥルース時代のポートレイト」が東京・天王洲のIMA galleryで始まった。会期は10月5日〜15日。

東京展の前に、9月のアムステルダム国際写真祭「UNSEEN Amsterdam」で展示。東京展の後は11月3日〜19日までパリで展示が行なわれる。

IMA galleryが新展開

本展は天王洲のIMA galleryのオープニング企画でもある。アマナでは本社を置くビルの1階に新たにギャラリーを設け、写真をアートとして所有し、日常の中で楽しむことを訴求していく。

「ハードルはあるが、必ず実現できると確信して取り組んでいる」と同社・執行役員の上坂真人氏は話す。

海外では企業がアートを活用したブランディングやビジネス展開を行ない、日本企業も注目を集めつつある。アマナでもB to Bへのアプローチを強め、数年前に比べて関心を持つ企業が増えた。

これまでIMA galleryを展開してきた東京・六本木のスペースは、写真プリントを手ごろな価格で販売するYellowKornerのショールーム&ショップとしている。こちらもオフィスユースやインテリアショップ、建築関係などB to B向けの営業を強化している。

5名それぞれのコンセプト

若手写真を紹介するプロジェクトでは、これまで水谷吉法、藤原聡志、横田大輔、濱田祐史、伊丹豪らを取り上げてきた。

今回は平澤賢治、菅野恒平、矢島陽介、山谷佑介、白井晴幸、上田順平の5名だ。

平澤賢治「PLAY FACE」「FIGURE」

平澤賢治 ©Kenji Hirasawa

平澤賢治さんは赤外線を感知し、被写体の熱量を画像で表示するサーモグラフィカメラでポートレート撮影を行なう。漆黒の闇の中で、人が放つ光を捉えた画像には、人間の本質が見えてこないか。彼は撮るうちに、その手応えを強めていった。

最初は敢えて無表情でモデルを立たせたが、身近な人の死をきっかけに、表情や動きを取り入れていった。
「心の変化や感情は形となって現れる。そうした心の動きを積極的に捉えることで、より豊かな表現になると思ったからです」

「FIGURE」は撮影した温度情報の数値をそのまま出力した。見る角度によって、数字が被写体のシルエットを描き出す。作者としては全く想定していなかった表現が生まれたという。

菅野恒平

菅野恒平 ©Kohey Kanno

自ら撮りためたスナップショットをカテゴライズして3点を選んだ。被写体は新宿のデモと、父の故郷にある木、スカートをはいた男性。

それぞれ社会に対しての関わり方、自分のルーツへの興味、そしてアイデンティティへの探求であり、それは個人的なものだが、誰の中にも存在する要素となっている。

作者は言葉でなく、写真で観る人に問いかける。

矢島陽介「anonymous work」

矢島陽介 ©Yosuke Yajima

環境と人との関係性に興味を持ち、作品を制作してきた。今回のシリーズは、郊外にありがちな風景を撮影し、B0程度に出力したプリントを背景にしたポートレートだ。

ただしその背景は上下が逆さまで、人は背を向けている。

「場所、背景、人が不一致なまま存在する」と矢島さんは言う。

それは自分たちが今生きている、この社会でもある。かつては生まれた土地の物語やさまざまな謂れがあり、代々伝承されてきた。都市に移り住んできた人にとって、此処はたまたま今いる場所に過ぎない。制作の動機は、作者自身がある時、周囲を見回して実感した不可思議な想いにある。

山谷佑介「Into the Light」

山谷佑介 ©Yusuke Yamatani

山谷さんは身近な友人や空間を題材に、「私写真の拡張」を試みる作家だ。

結婚し、子どもが生まれ、父親になったことを喜びながら、戸惑う日々を送る。夜泣きする子どもに起こされ、夜の街を散策し始めると、他人の家が気になり始めた。

「人が見えない波長が撮れる赤外線カメラで家を撮り始めた」

深夜の住宅街に立っていると、そこここにある窓から見られている感覚を覚えるようになった。見ているつもりが、SNSや監視カメラなど、見ず知らずの視線にさらされているわけだ。

白井靖幸「invisible man」

白井晴幸 ©Haruyuki Shirai

白井さんは映像と写真で、現実と非現実、実在と不在を表現する。

モチーフは、パタゴニアで入植者から絶滅させられた裸族。実際の作品はコミカルさが漂う。

東京の郊外にある林で、未開の土地を想像して撮影を行なった。動画は深夜に撮影し、フラッシュを当てた瞬間だけ、被写体が浮かび上がる。

未知と既知が何をもたらすのかを想像していくと、笑いの先に違う何かが見え隠れする。

上田順平「Picture of My Life」

上田順平 ©Junpei Ueda

上田さんが21歳の時、うつ病だった母が自死し、その9日後、父が後を追った。母が亡くなった時、彼は海外を旅していた。

母が亡くなってから、父は家族のアルバムを作り始め、完成させたのち、自ら命を絶った。妻と自分がこの世に生を受け、出会い、子どもを成した二人の人生を振り返り、それを形に残した。

上田さんは父と母から愛情を持って育てられ、二人のことは自慢だった。それが彼らが自死を選んだことで、人に語れない存在になった。それを再び、語れるようにすること。今回、上田さんがこの作品を制作した動機の一つだ。

「両親からもらった愛を世界中の人たちと共有したい」

それがもう一つの制作の理由だ。自分の中で咀嚼し、まとめるまでに19年の歳月がかかった。

LUMIX MEETS BEYOND 2020 BY JAPANESE PHOTOGRAPHERS #5

会場

IMA gallery
東京都品川区東品川2-2-43 T33ビル1F

開催期間

2017年10月5日(木)〜15日(日)

開催時間

11時〜19時(13日は18時まで)

休館

無休

入場料

無料

TOKYO ART BOOK FAIR 2017で関連書籍を販売中

10月5日(木)〜10月8日(日)にかけて開催されているイベント「TOKYO ART BOOK FAIR 2017」において、出展者の写真集が販売されています。会場は天王洲IMA Galleryから徒歩数分の寺田倉庫(東京都品川区東品川2-6-10)。Bフロアのアマナブースで販売中です。(編集部)

市井康延

(いちいやすのぶ)1963年、東京生まれ。ここ数年で、新しいギャラリーが随分と増えてきた。若手写真家の自主ギャラリー、アート志向の画廊系ギャラリーなど、そのカラーもさまざまだ。必見の写真展を見落とさないように、東京フォト散歩でギャラリー情報の確認を。写真展の開催情報もお気軽にお寄せください。