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ニコンの“太っ腹”キャンペーン「伊丹空港の夜景」編レポート

飛行機撮影の聖地で中野耕志氏がノウハウを伝授

中野耕志氏撮影。D5 / AF-S NIKKOR 300mm f/2.8G ED VR II / 1/125秒 / F4.8 / ISO400 / マニュアル / 300mm / 千里川土手

実に太っ腹なキャンペーンとして以前から知られる「ニッコールレンズフォトツアー」だが、第4回目の抽選が終わり、このたび各ツアーが始まった。前回レポートした「東京夜景ヘリ空撮ツアー」に続き、今回は「航空機の夜景フライト撮影『伊丹空港』日帰り撮影ツアー」の模様をお伝えしたい。

キャンペーンについて簡単に説明すると、対象のニッコールレンズを購入して応募すると抽選で撮影ツアーが当たるというもの。何が太っ腹かといえば、ツアーは10もあり、実に合計125名を招待するというのだから凄いものだ。しかも、すべてのツアーに人気の写真家が同行するプレミアムなものとなっている。

さて、伊丹空港と言えば滑走路の間近で機体が撮影ができる全国でも屈指の撮影ポイント。愛好家からは飛行機撮影の“聖地”ともいわれている。特に千里川の土手から撮影した着陸機の夜景は伊丹空港を代表する絶景で、その写真を目にした人も多いのではないだろいうか。

今回はその千里川の土手と、これまた滑走路に近い伊丹スカイパークという公園から機体を狙うという趣旨。特に千里川土手では20時過ぎまで撮影時間を取り、存分に夜景撮影ができるよう配慮されていた。最新のカメラやレンズの貸出も行われた。

夜景は超高感度と明るいレンズで勝負

当選した参加者は、14時に伊丹空港内のセミナー会場に集合。男性が多かったが、女性も2名参加。飛行機撮影の経験がある参加者は3人ほどで、ほとんどが飛行機の撮影は初めてということだった。今回は現地集合というツアーのため、関西圏からの参加者がほとんどを占めた。

撮影に先立って、写真家の中野耕志氏がレクチャーを行った。中野氏は飛行機や野鳥の写真を専門とし、普段からニコンの機材を使用している。

中野耕志氏
レクチャーの様子

中野氏はまず、これまでの作品を見せながら飛行機写真の美しさと撮影の難しさについて説明。特に絵になるのは比較的大きめの機体とのことで、伊丹空港で多く見られるB777を始め、B767、B787などの機体を狙うと良いと教えてくれた。

日中の露出はF8で1/1,000秒という目安を提示。レンズの開放F値から1~2段絞ったところが解像力の面で安定いているためだ。感度はISO100~200。ホワイトバランスは、オートだと機体の色によって変わってしまう場合があるため、晴天にセットするのが良いとのこと。カメラに慣れていない場合は、撮影モードをS(シャッター優先オート)で1/1,000秒にセットしておくとよいそうだ。また、いずれも場合も-0.7EVの露出補正をかけておくのがポイントだとした。

中野氏は作品を見せながら飛行機写真の魅力を説明
飛来する飛行機の種類も解説した
飛行機写真にありがちな失敗例も紹介
日中の露出値の例

一方、流し撮りをする場合は飛行機が真横から見える位置で1/15秒を目安にすると良いという。機体が真横以外だと、機首と機尾の見かけの速度の違いからいずれかがブレるそうだ。

カメラについては、日中は入門機でも問題ないが、日没~夜にかけては明るいレンズや超高感度に強いボディが必要になるとのこと。「1/250秒を下回るとブレてくる。F1.4、1/250秒、ISO12800~25600程度で撮影できる機材がないと厳しい」という。なおシャッター速度は、広角レンズで機体を捉える場合の方が速くする必要があるとのこと。広角レンズは機体に近い時に試用するためだ。

夜景の露出値の例

なお中野氏は普段、D4Sに加えて“標準レンズ”と呼ぶAF-S NIKKOR 500mm f/4E FL ED VRをよく使っているとのこと。

中野氏の“標準レンズ”はAF-S NIKKOR 500mm f/4E FL ED VR

機体に近いので広角レンズでの撮影もオススメ

さて、飛行機の撮影というと「超望遠レンズ」というイメージだが、ここ伊丹空港は滑走路に近いため、広角レンズや標準レンズでも良い絵が撮れるそうだ。そのため、当日用意された貸し出し用のレンズには望遠レンズに混じって、35mm、50mm、58mm、85mmといった焦点距離が短めのレンズも並んだ。

機体が近ければ広角レンズでもダイナミックな撮影ができる
大口径単焦点レンズも用意された。左から、AF-S NIKKOR 35mm f/1.4G、AF-S NIKKOR 50mm f/1.4G、AF-S NIKKOR 58mm f/1.4G、AF-S NIKKOR 85mm f/1.4G

撮影の時間帯としては、「飛行機の撮影は昼間と思われがちだが、14時、15時過ぎから夜にかけてが撮り時」とのこと。また伊丹空港で機体が順光になるのは、午前中は滑走路の東側、午後は西側になるだそうだ。(滑走路番号32L、32Rの場合)。

こうした光の当たり方などを考え、光がまわった機体を狙うのか、シルエットを狙うのかなど、自分の撮りたいイメージをはっきりさせて挑むのが良いとアドバイスした。

そのほか三脚を使った撮影法も紹介した。飛行機が止まっているのが条件で、駐機中、滑走路での順番待ち、離陸許可待ちといったシーンが狙い目とのこと。この際はミラーアップや電子先幕シャッター、三脚とカメラを繋ぐつっかい棒などを活用してブレを押さえ込むことが重要だとした。

三脚につっかい棒を付けてカメラを安定させるとのこと

当日の貸出機にはD5(3月26日発売)とD500(4月下旬発売)もあり、中野氏から説明があった。※D500のみ画像の持ち帰り不可。

貸出機材がずらりと並んだ。ボディにはD810とD750も
D5
D500

D500については、「先に試用したが、大変画質が優れる上に、小さくて取り回しが良い。APS-Cというセンサーサイズを気にする人も多いかもしれないが、その心配はない。153点のAF性能はフラッグシップといっていい性能」とのこと。

D500の作例を拡大して示し、画質に問題は無いとした

またD5については「連写速度が上がっためチャンスに強くなった。高感度画質もD4Sから上がっているし、AF限界が-4EVになったのでこれまでよりも暗いシーンで撮れるようになった」と評した。

レンズについても触れ、「カメラの高感度性能が良くなっても、レンズの性能が付いて来ないとだめ。その点、ニッコールレンズのナノクリスタルコートはゴーストがあまり出ないので夜景向き」とのこと。

AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR(左)とAF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR II(右)も
高価な大口径望遠レンズAF-S NIKKOR 200mm f/2G ED VR II(左)もあった。右はAF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR

レクチャーの後は、カメラやレンズの貸出が行われた。基本的にカメラとレンズは参加者が持参しているが、貸出機材には高価なカメラやレンズも多く、それらを試したいとして多くの参加者が機材を借りていた。

レクチャーの後に早速カメラとレンズの貸出が行われた

低空で飛行機が真上を通過する千里川土手に

一行は空港を後にし、最初の撮影地である千里川土手にバスで移動。筆者も初めての場所だが、さすがは飛行機撮影の聖地といわれるだけあって、着陸直前の機体が真上を轟音とともに通過する様子に圧倒された。15時15分頃に到着したが、現場では多くの飛行機ファンがカメラを構えていた。

一行は千里川土手に到着
多くの愛好家がカメラを構えていた
頭上を通る機体に圧倒される
この日、中野氏はD5を使用

参加者は撮影ポイントで自由に撮影を楽しみ、個別に中野氏に質問などができるスタイルとなっていた。第一線の写真家に現場で直接質問できる機会はそうあるものではない。そのため、中野氏が質問攻めに遭う場面も見られた。

中野耕志氏撮影。D5 / AF-S NIKKOR 20mm f/1.8G ED / 1/1,000秒 / F8 / ISO200 / マニュアル / 20mm / 千里川土手

この場所では滑走路上の着陸機を撮ることもできるが、日中は着陸直前の機体を広角~標準レンズで収めることが可能。この日はちょうど快晴で機体はほぼ順光になるため、「青空と雲をバックにしたシーンが狙える」(中野氏)とアドバイスした。

この場所は滑走路に降りるところも撮影できる
撮影に没頭する参加者
このツアーでは講師の写真家と直接話ができるので、参加者の収穫も多かったことと思う

参加者からは、AFモードや連写に関する質問も聞かれた。中野氏は、「連写は使うが、最初から最後まで連写はせずに、ここぞというところで数枚連写する」といったノウハウを伝えていた。

真横からの離陸シーンを捉える

続いては、滑走路の真横にある伊丹スカイパークに移動。ここは離着陸機を横から狙えるポイントで、やはり多くの愛好家がカメラを構えていた。到着したのは16時30分頃で、機体に対してほぼ順光というシーンになった。

伊丹スカイパークは滑走路のすぐ脇にある公園で、滑走路が見渡せる。離陸機を真横から撮影することも可能

公園は丘の上にあり、滑走路との間に障害物がないため、離陸機のタイヤが地面を離れる瞬間や、着陸機のタイヤスモークなどが撮れるとのこと。飛行機までの距離は先ほどの場所よりも長いので、参加者は望遠レンズを多く使っていた。

中野耕志氏撮影。D5 /AF-S NIKKOR 500mm f/4E FL ED VR / 1/1,000秒 / F6.7 / ISO200 / マニュアル / 500mm / 伊丹スカイパーク
中野氏が撮影スポット毎に、どの地点でどのような写真が撮れるのかを丁寧に説明した
ここでは管制塔を背景にした離陸機も撮影可能

中野氏からは、離陸機を撮ろうとすると水平が傾きがちなので、気をつけるようにとアドバイスがあった。傾きを防ぐコツは、機体だけを見るのではなく、常に画面全体を確認することだと教えていた。

ここでは望遠レンズを使う参加者が多かった

クライマックスは夜景

最後はもう一度千里川の土手に戻って、夕景および夜景の機体を狙った。到着したのは17時50分頃。ちょうど、夕景のグラデーションを背景に離陸する機体を撮影できる時間帯だった。

この場所で貸出機材のシャッフルが行われた
用意されたレンズは全て出払い、貸し出しは好評だった
気温が下がる夜に備えて、使い捨てカイロが配られたのがありがたかった
夕方は空のグラデーションと山を背景にしたシーンも撮れる

その後18時を過ぎると辺りは暗くなり、誘導灯が点き始めた。この誘導灯の光が実に綺麗で、旅客機を絡めた撮影が今回のクライマックスとなる。

誘導灯が点き始めるとグッと雰囲気が増す
夜景では「滑走路と着陸機」を収めるため、参加者は滑走路を向いて待機した
中野耕志氏撮影。D5 / AF-S NIKKOR 58mm f/1.4G / 1/180秒 / F1.4 / ISO25600 / マニュアル / 58mm / 千里川土手

今回は、三脚を持っている人は持参することを呼びかけていたため、多くの参加者が三脚を持ってきており、超望遠レンズで着陸機を切り取っていた。

中野氏も三脚を活用して撮影した

実は日没後に到着機のラッシュがあるため、シャッターチャンスが多いのも撮影にはメリットとなっている。この場所では20時過ぎまで撮影を行った。いずれの参加者も次々に降りてくる機体に、夢中でシャッターを切っていた。

なお筆者は開放F2.8の明るい標準ズームレンズを使ったが、それでも露出はギリギリ。今回初めて夜の飛行機を間近で撮影し、F1.4といった大口径単焦点レンズの必要性を痛感した。

講評会も充実 参加者の工夫が見られた作品に

続いては講評会を行うホテルに移動。各自ベストショット2点を提出し、中野氏が全員の作品について評価とアドバイスをした。

参加者は飛行機撮影の初心者が多かったにもかかわらず、どの作品も素晴らしく、中野氏も大いに褒めていた。同じ場所で撮影しても構図の被りはあまりなく、各自の工夫が見られる結果だった。「機材の制限のある中で、素晴らしい作品があった。楽しんでもらえたのではないか」(中野氏)。

講評会ではスクリーンに1人2点を映して中野氏がコメントをした。円卓で中華料理も振る舞われた

中野氏からは、翼端まできちんと入っているフレーミングの良さ、残照を活かした点、機体のお腹に誘導灯がしっかり映っている点、流し撮りできちんとピント合っている点、背景の山の稜線を活かした構図などへの評価があった。

特に、アンチコリジョンライト(衝突防止灯)と呼ばれる赤い点滅灯の点灯を捉えた作品は高く評価。「アンチコリジョンライトの赤いスパイスが入ることで作品が全然違ってくる。点滅のタイミングとちょうどよい飛行機のフレーミングはなかなか合わないが、よく捉えた」(中野氏)。

アンチコリジョンライトが点灯したところ。撮影時には意識していなかったが、筆者のカットに偶然写っていた

京都府から参加した男性(AF-S NIKKOR 85mm f/1.8Gを購入して当選)は、「普段は風景を撮っており、飛行機の撮影は初めてだったが、楽しかった。千里川土手が良かった。中野さんには撮影場所について聞いた。これからもたまに飛行機を撮りたい」と話した。

また、兵庫県から参加した女性(AF-S DX NIKKOR 18-300mm f/3.5-6.3G ED VRを購入して当選)は、「一眼レフカメラを買ったばかり。撮影自体も数回目で、飛行機撮影も初めて。絵になる飛行機の種類や、カメラの設定方法などを教えてもらったのが良かった。他の参加者との良い出会いもあった」と振り返った。

講評会の後の歓談で何名かの参加者と話をしたが、参加者は改めて写真撮影の楽しさを認識したようだ。ぜひ次回のツアー開催にも期待したいと思う。

中野耕志氏撮影。D5 / AI AF Fisheye-Nikkor 16mm f/2.8D / 1/350秒 / F2.8 / ISO51200 / マニュアル / 16mm / 千里川土手

(本誌:武石修)