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PLフィルターは「つけっぱなし」が正解?紅葉シーズン直前対談

風景写真家・喜多規子さんに聞く撮影の極意

EVO-Series MRC Slim Natural CPLフィルター

写真愛好家になじみ深いレンズフィルターの1つがCPLフィルターだ。特に風景写真での利用率は高く、欠かさず愛用している読者も多いことだろう。

このページではCPLフィルターの使いこなしや選び方などについて、風景写真家の喜多規子さんに話を聞いた。前回の可変ND(バリアブルND)フィルター編に続き、H&Y Filters Japan代表の新井渉平さんにも参加いただき、メーカー側からの意見もうかがっている。

左から喜多規子さん、新井渉平さん

喜多規子

東洋英和女学院大学卒。写真家、前川彰一氏に師事。日本国内の自然風景をテーマに光・色・フォルムを巧みに操り表現する。アマチュア時代、多数のカメラ誌の月例コンテストにてグランプリや年度賞を受賞し、2019年よりフリーとして活動を始める。公益社団法人 日本写真家協会会員・公益社団法人 日本写真協会会員。

新井渉平

H&Y Filters Japanを運営する株式会社レイクプラッツの代表取締役。H&Y Globalの商品企画やマーケティングにも携わる。H&Yは高品質のフィルター製品の開発と提供を目指し、2006年に香港で設立された専業フィルターメーカーの日本販売責任者。常に革新的な製品を生み出し続け、国内外で高い評価を得る。

実はレンズに「つけっぱなし」?

——喜多さんの作品のうち、全体の何割でCPLフィルターを使用しているのでしょうか。

喜多規子(以下、喜多): つけて撮影した……というより、最近CPLフィルターは「つけっぱなし」ですね。

——え? 装着したままなのですね?

喜多: はい。PL効果を利かせるというより、常に微調整して使っている感じです。代わりに保護フィルターをあまり使っていなくて。逆光でも性能が良くなっていますから、つけっぱなしでも大丈夫ですよね?

新井渉平(以下、新井): そういう使い方もありですし、多いかと思います。EVOシリーズはどちらのユーザー様にも対応できるよう、ねじ込み・マグネット式両方対応にしているのもそういった狙いもあります。海外ではマグネット式が主流になりつつありますが、日本だとまだまだねじ込み式を希望されるお客様も多いです。

喜多: 昔のCPLフィルターは傷がつきやすくて、その傷から光が入ることがありました。なので、逆光の時などは外していたのです。でも今は逆光耐性も良くなっているので、ほぼつけっぱなしです。逆に太陽の光条を入れたい時や光が強すぎる時などに、たまに外したりしますが、ほぼつけっぱなしです。

——なるほど、効果ゼロの位置を基本として、シーンに合わせて回して調整しているのですね。

喜多: はい。効果ゼロと言っても少し利いていると思うのですが、ほぼ常につけた状態ですね。CPLフィルターは青空を鮮やかにしたりコントラストを強めたりするのはもちろん、水面の反射や、岩のテカリ、雨の時の葉っぱのテカリなども調整できるので、使う頻度も高いのです。レタッチでカバーするのは難しい場合もあり、現場で微調整しながら完成形を撮っておくようにしています。

CPLフィルターの使い方と効果的なかけ方

——ではCPLフィルターを使った喜多さんの作品を見ていきましょう。こちらは空の色が変わるパターンですね。

CPLフィルターなし|CPLフィルターあり

喜多: はい、CPLフィルターを使うことでコントラストが高まり青空の青も濃くなります。順光なのでより効きが分かりやすく、メリハリが出て被写体が浮き出る感じです。

——次は水面の反射を取り除いた例です。

CPLフィルターなし|CPLフィルターあり

喜多: 実際に目で見た情景はフィルターをかけていない状態に近いのですが、CPLフィルターを使うと水底の倒木がぐっと見えてきます。効果を最大限に利かせた状態になります。

——ここから徐々に効果を落としていくことも可能なんですね。後ろの緑色にも変化が見られます。

喜多: はい。これは最大限に利かせたほうがいいと思った作例ですが、普段は少し戻して微調整することも多いです。鉄分が含まれる水底の色も、より鮮やかになっていると思います。

——この作品ではどういう効果を狙われたのでしょうか。

CPLフィルター最大|CPLフィルター調整済み

喜多: PL効果を最大限に利かせると、茶色い葉っぱの反射がなくなって、ベタッとして立体感が潰れて黒っぽくなってしまいます。逆にそこは反射を生かしたほうがいいと思い、一度利かせてから少し戻しました。そうすることで、上の葉っぱの緑はしっかり利いた状態になります。

新井: 葉の立っている角度によって反射する角度が違いますね。どこを見せたいかをCPLフィルターでさらに表現できるというのが面白いです。

——次の作品です。どのような意図でCPLフィルターを使われたのでしょうか。

CPLフィルターなし|CPLフィルターあり

喜多: 倒れかけているミズナラの木です。撮っている場所は日陰なのですが、水面を見ると対岸の光が当たって緑に輝いていて、青空も少し出ています。CPLにNDフィルターをつけて、スローシャッターで撮りました。

PL効果を利かせていないと水面が白っぽくなってしまうのですが、少し利かせることで白っぽく光っているのが消えて、水面の緑が色鮮やかになります。効かせたのはほんの少しだけですね。

——そうした効果はファインダーを見ていて分かるものですか?

喜多: 実はミラーレスカメラになってから分かりにくくなりました。一眼レフのファインダーだとすごくよく見えていたのですが……まったく判別できない、ということではありません。失敗がないように念のため、段階ごとに何枚か撮るようにはしています。

新井: 冬場は青空がそもそも青いため、あまり使っていないという人もいますが、喜多さんはどうですか?

喜多: 確かに利かせすぎると、すごく濃い青になってしまいます。白い霧氷と青空の時に順光で空に向けると、暗くベタッとした黒っぽい青になってしまうので、そういう時は若干利かせる程度にして、心地よい自然な青で止めておくように調整します。

新井: あと一般的に言われるのが「片効き」ですね。さっきのメタセコイアの作例は中央に青空を持ってきてうまく表現されていましたが、一般的には片方だけ青くて片方が白いという現象が起きますよね。

喜多: ありますね。太陽が右にあると左側が強く青くなったり。そういう時も最大限に利かせず、不自然さがない程度に調整して止めるようにしています。

新井: 人によってはPLが効いてない部分にハーフNDを使い、青さを調整される方もいらっしゃいますよね。

喜多: はい、でもなかなか難しいです。

——CPLフィルターの前にハーフGNDを置いて調整するのですか?

喜多: そうです。でもちょっと不自然になったりして。

新井: ハマる時はハマるんですけどね……。片効きへの対処法としては、PL効果を弱めるか、ハーフGNDを併用するか、時間帯を変えるか、カメラの向きを変えるか、くらいですね。

喜多: 太陽の位置によって反対側が濃くなりやすいのは、物理的なことですから仕方がないですね。

季節によって使ったり使わなかったりするものですか?

喜多: ——紅葉や新緑は色鮮やかに表現したい被写体ですよね。目で見えている以上の色鮮やかさがCPLフィルターを通すことで出てくるので、一番分かりやすいのは紅葉や新緑だと思います。こういう季節によく使うレンズの口径に合わせて1枚持っておくと作品が変わると思います。

——逆にCPLを使わないシーンはありますか?

喜多: 逆光の時ですね。ほぼ効かないことが多いので。

新井: 逆光でも使うという方がいますが、喜多さんは全く使わないのですか?

喜多: 逆光でもわずかに効く時があります。回して利かないなと思ったらそのままにしておきますが、光条を正面から入れる時など、緑が鮮やかになることもあります。

新井: 使ってみて、いらないなと思ったら外す感じですか?

喜多: 外さずにそのまま使っていて、フレアが出そうだなと思ったら外します。

新井: 逆光でも水面があればそこに利かせられますしね。

——CPLフィルターを使うとシャッター速度が落ちますが、その点はいかがですか?

喜多: 今のカメラはISO感度を上げてもノイズが少なく綺麗なので、ISO感度側で調整しています。

——だからつけっぱなしでも問題ないと。

喜多: 逆に2段分落ちるのを利用して、NDフィルター代わりにすることもあります。富士フイルムGFXでF16まで絞ってISO感度を下げて、NDなしでスローシャッターにしたり。

——最近のフィルターは表面に水滴や汚れが残りにくくなっているのも大きいのでしょうね。

新井: MRCコーティングですね。とにかく汚れが落としやすく、傷がつきにくいコーティングです。反射率も低く、Natural CPLなどの上位モデルは反射率0.2%などの超低反射仕様になっています。

喜多: 普段からハードに使っていますが、光学性能だけではなく、傷がつかないことについても信頼しています。

CPLフィルターの種類とタイプ別の特徴

——新井さんにうかがいますが、EVOシリーズにおけるCPLフィルターのラインアップや特徴を教えてください。

新井: 従来の偏光膜を使ったタイプと、色転びを極限まで抑えた「Naturalタイプ」があります。さらに「Naturalタイプ」にはホワイトミストとブラックミストの効果を加えた「Rich Tone」や「Darklight」という製品もあります。これらは全て日本のお客様からのリクエストを基に企画した製品となります。万能性なら「Naturalタイプ」ですが、「Rich Tone」や「Darklight」はパッと見では分からない位わずかなソフト効果で面白い製品です。風景写真だけでなく、ポートレート撮影などでも重宝されています。

喜多さん愛用のEVO-Series MRC Slim Natural CPL
左からEVO-series Rich Tone Natural CPL、同Darklight Natural CPL。どちらもミスト効果を付与する。右端はCPLではないが、ミスト効果の代表例のEVO-Series MRC Slim Black Promist

——「Kit(キット)」には何が含まれているのですか?

新井: フィルター本体にマグネットアダプターがセットになっているものをキットと呼んでいます。ねじ込みでもマグネットでもすぐに使えるセットです。一番売れているのは「Natural CPL Kit」ですね。

——マグネット式での着脱と、ねじ込み式との使い分けについてはいかがですか?

喜多: よく使うレンズはCPLをつけっぱなしにするので、ねじ込みで使っています。あまり使わないマクロレンズなどはREVORINGを使ったり、マグネット式で対応しています。REVORINGはカバンに入れると少し厚みが出るので、普段つけっぱなしにする常用レンズにはねじ込み式のほうが扱いやすく感じています。

新井: EVOシリーズはねじ込みとマグネットの両方に対応しています。移動が多い撮影ではねじ込んでおいたほうが安心ですし、用途に応じて使い分けられるのがメリットです。

——マグネットの磁力について何か感じたことはありますか?

喜多: しっかりくっついてくれないと落とす危険があるので、ちょうどいい強さだと思います。安心して使えています。それでいて強すぎると感じたことはないですね。

——角型フィルターの「K-Series」ホルダーにもCPLフィルターが組み込まれていますよね。

新井: はい。ドロップインCPLと読んでいますが、ダイヤルで微調整しやすくおすすめです。先ほど話が出たハーフNDとの併用ができますし、フィルターを重ねているのにケラレを心配する必要もありません。広角レンズの使用頻度が高い方やハーフNDフィルターを使用したいユーザー様はもちろん、ダイヤルで微調整しやすいのでハーフNDを使用しない時も、あえてこちらを使用される方もいらっしゃいます。特に冬場手袋をしている時とかは便利ですよ。アダプターを買い替えれば、様々なレンズ径のレンズにも対応できますし。

角型フィルターホルダーK-Series(手前)に組み込まれたCPLフィルター

——後からレタッチで、CPLフィルターと同じような色に調整できますか?

新井: 一般論としても、CPLフィルターの効果(反射除去など)はレタッチでは再現できません。何十枚も後からレタッチするのは大変ですし、現場でファインダーを通して綺麗な景色を捉える感動や楽しさもありますから、フィルターを使う価値は大きいです。

喜多: 写真表現に正解はないですし、反射の調整具合も自己表現のひとつ、個性の出しどころだと思います。CPLフィルターがあることで表現の幅が広がり、撮影がもっと楽しくなると思います。

——色再現性についてはどう感じていますか?

喜多: 色被りがあると風景写真では困りものです。今使っている。H&Yの「EVO-Series MRC Slim Natural」は、色かぶりがなくニュートラルに再現してくれるので気に入っています。

——解像力や平面度についてはいかがですか?

新井: すべてのフィルターで高い平面度研磨による解像度の維持、低反射、撥水・防汚・帯電防止を徹底しています。

——喜多さんはCPLフィルターを使っていて、解像力の低下を感じることはありますか?

喜多: ありませんね。

新井: GFXのような高画素機でハーフNDやNDを重ねて使っても影響を感じないと仰っていただけているので、平面研磨の精度はかなり高いと自負しています。

失敗しないCPLフィルターの選び方・基準

——喜多さんはCPLフィルターを選ぶ時、何を重視されていますか?

喜多: ねじ込み式の場合、回すときの滑らかさですね。昔のPLフィルターは枠が噛んで外れなくなることがよくあったのですが、H&Yのものはすごく外しやすいです。回す感触がカチカチ、ガサガサしていると微調整がしにくいので、滑らかさは大事です。あとは傷がつきにくいことや割れにくいこと。水しぶきの中で撮ることも多いので、ブロワーで吹くだけで水滴が飛んでくれる撥水性も重視します。

——EVOシリーズの鏡枠がとてもスリムです。これはケラレ対策を意識されているのでしょうか?

新井: はい。ただし、マグネット式にするとアダプターの分だけ厚みが出てケラレやすくなる面があります。超広角レンズなどでケラレを嫌う場合は、ねじ込み式での装着をおすすめいたします。そういった意味でも、両方の良いとこ取りができるEVOシリーズは便利です。

喜多: 富士フイルムの「GF32-64mmF4 R LM WR」にマグネットで付けてもケラレないですし、35mm判換算で24mm相当くらいなら全然大丈夫ですね。「GF20-35mmF4 R WR」(16mm相当)のような超広角だと気をつける必要がありますが。

——新井さんにお聞きしますが、CPLフィルターのクオリティを高めるため、H&Yでこだわっていることは何でしょうか。

新井: CPLフィルターはバランスが非常に大事です。偏光度の効き具合、色味のニュートラル性、ガラス自体の解像度、低反射コーティングや撥水防汚などのメンテナンス性、そしてハイブリッド機構。この要素が高い次元でバランス良くまとまっているのがH&Yの強みです。色をニュートラルにしようとすると暗くなり手ブレしやすくなったり偏光度が落ちたりしがちですが、H&Yは色もニュートラルで、偏光度も99%までしっかり効きます。しかも光量低下が1段分程度と暗くなりにくい設計になっています。

——CPLフィルターの偏光膜の寿命、買い替え時期は?

新井: CPLフィルターの寿命は一般的に3〜5年と言われますが、紫外線に当たる時間など使用環境によります。直射日光下や高温多湿を避けて保管していただければ長く使えます。

——喜多さんから新井さんに要望などはありますか?

喜多: 62mm径のねじ込み式CPLが欲しいですね。

新井: 今後、各サイズでねじ込み専用のNatural CPLを展開しようと考えています。日本のユーザー様はつけっぱなしで使いたいという方が多いので、シンプルで価格も抑えたねじ込み専用モデルも用意する予定です。デザインも、保護フィルターのように完全なステルス仕様にするのではなく、CPLフィルターであることが分かるように適度に印字が見えるバランスで検討しています。11月中に間に合えばと思っていますが、残念ながらまだはっきりとは言えないですね。商品名は「H&Y HD Ultimate Natural Color Polarizing Filter」の予定で、ステルス仕様の目立ちにくい印字に薄枠設計です。

発売予定のねじ込み専用モデル「H&Y HD Ultimate Natural Color Polarizing Filter」

——これからCPLを買おうとしている方へのアドバイスはありますか?

喜多: もうすぐ紅葉の季節です。色鮮やかな紅葉をCPLフィルターで引き出してほしいですね。すべてのレンズの口径分を揃えるのは大変なので、まずは一番よく使うレンズの口径に合わせて、1枚手に入れてみる。または、REVORINGに装着する前提で大き目のサイズを検討されるのも良いかと思います。

本誌:折本幸治