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あの独創的な技術やアイデアはどこから?LAOWA社長に現地でインタビュー

レンズの製造工程を動画でも紹介

中国安徽省合肥市に所在するLAOWA(Venus Optics)本社 撮影:上田晃司

日本市場で中国の交換レンズブランドが珍しくなくなった昨今。その元祖ともいえる「LAOWA」にいま、再び脚光が当たっている。

LAOWAが日本市場に参入したのは2016年のこと。デジタル一眼レフからミラーレスへとカメラシステムが変革する中、個性的なMFレンズで話題を集めた。特に12mm以下の超広角レンズや、2倍以上のマクロレンズは長らくLAOWAの独壇場だったこともあり、そのイメージを持つ読者も多いことだろう。

「LAOWA 200mm F2 AF FF」をはじめ、AFレンズ市場にも進出を果たしている。最近では焦点距離35mmで等倍AF撮影が可能な「ACRIS 35mm f/2.8 1X Macro APO」を海外で発表している。MFレンズとしては5-10倍のマクロレンズ「LAOWA Aksen 17.5mm F1.7 5-10x Ultra Macro APO」もリリースし、どちらも世界初の製品化を標榜する。

そんなLAOWA(Venus Optics)の創業者・社長の李大勇氏に、中国本社で話を伺う機会を得た。

LAOWA(Venus Optics)の創業者・社長の李大勇氏 撮影:上田晃司

ビジネスマンである前に、LAOWA製品の設計者である李社長。若かりし頃は日本のカメラメーカー、レンズメーカーに在籍。LAOWAを立ち上げてからも、独創的なレンズのアイデアを形にしてきた。現在も基本的に李社長が製品の企画・設計を手がけている。

マクロレンズにかける情熱

——改めて、LAOWAが得意な焦点距離や撮影ジャンルを教えてください。

LAOWAが有名になったのはマクロレンズです。創業前、カメラ純正メーカーのマクロレンズはほとんどが等倍(1:1)やハーフマクロ(1:2)でした。当時のユーザーは等倍マクロの後ろにアダプター(接写リング)を付けてフランジバックを伸ばし、1.5倍などに拡大して撮っていました。

——エクステンションチューブですね。

ただそうすると、倍率を戻したいときはアダプターを外すなど、どうしても不便が生じてしまいます。イメージセンサーにゴミが付きやすくもなるでしょう。「等倍以上のマクロが欲しい」という声は実際にあり、そのアイデアや要望を取り入れたのです。

従来の光学構成では無理だったので新しいレンズ構成を一から考えました。サイズはあまり変えずに倍率を等倍から2倍まで伸ばす、この設計が私たちの得意分野になりました。

現在市場にある2倍マクロの光学構成の多くは、私たちが最初に考案し、特許を取得した構成に基づいています。

最大撮影倍率2倍を実現した「LAOWA 60mm F2.8 Ultra-Macro」(2016年発売)。ここから「マクロのLAOWA」がユーザーの間に浸透していく

——当時、資料に「2X」とあったので誤植なのでは? と疑ったのを覚えています。頭の中で「等倍が最大」と思い込んでいたので(笑)。それが今やLAOWAのマクロレンズの撮影倍率は、5倍・10倍へ上がっていますよね。

市販品初という5-10倍マクロレンズ「LAOWA Aksen 17.5mm F1.7 5-10x Ultra Macro APO」。写真はCine仕様モデル

「Zero-D」レンズがターニングポイントに

——今まで設計・製作されたレンズの中で、ご自身の代表作といえるレンズはどれでしょう。

個人的に一番好きなのは、弊社がプロ用レンズへと舵を切る転換点になった「LAOWA 12mm F2.8 Zero-D」(以下12mm F2.8)です。

ミラーレスカメラ用にリニューアルされた「LAOWA 12mm F2.8 Lite Zero-D FF」

それまで生産していた「LAOWA 60mm F2.8 2x Ultra Macro」(以下60mm F2.8 2x)や「LAOWA 15mm F4 Wide Angle Macro」(以下15mm F4)は、身近な写真家の要望に応えて、DIYの感覚で試作的に作った製品になります。対して12mm F2.8は、歪曲収差ゼロのプロのためのレンズを目指したのです。この製品が成功したことが、「本気でこの事業をやっていこう」という決意につながりました。

スペック重視か、光学性能重視か

——LAOWAには個性的なスペックのレンズがたくさんありますが、開発にあたり、そうしたスペックと同時に光学性能やサイズ、使い勝手なども同じくらい重視されているのですか?

もちろん光学性能も重要ですが、ある程度満足できるレベルに達しているなら、ユーザーにとっての90点、92点、93点にほとんど違いはありません。それよりも「他にはない、ユーザーが一番欲しがっているスペックとは?」を突き詰めるのが、私たちの設計理念です。それが鏡筒のサイズや歪曲の少なさ、倍率といった「特別なスペック」になります。(解像力などの)画質も大切ですが、それ以上に「このレンズでしか撮れない画面(映像)」が撮れるかどうかが重要だと考えています。つまり面白い画が撮れるという、表現力を重視しているのです。

——大手カメラ・レンズメーカーの純正品にはないスペックを狙っているというより、ユーザーニーズを突き詰めていくと必然的にそうなっていく、という考え方でしょうか。

量産の面からも、大手メーカーには画質・コスト・サイズのバランスが取れたレンズが求められます。しかし、ユーザーはそれだけでない「面白い画」を撮りたがっている。そうした市場は規模が小さく、開発リスクが高いため手が出しにくい面があります。だからこそ、私たちが手掛けているのです。形や画を見れば、一目で「LAOWAのレンズだ」とわかるような、強い印象を残すレンズを目指しています。

オートフォーカスへの取り組み

——近年、LAOWAのラインアップにAFレンズが増えてきています。

はい、いま注力している分野がAFです。広角レンズや大口径望遠レンズなどにもAFを搭載しました。

フルサイズセンサー対応で開放F2、それでいて重量約1.6kgの「LAOWA 200mm F2 AF FF」

特に難しいのがマクロレンズのAF化です。マクロはフォーカス群の移動量が大きくモーターへの負荷が高いですし、被写界深度が極めて浅いため、わずかなズレでピントを外してしまいます。そのため光学設計を従来とは根本的に変え、MF用とAF用でフォーカス群を分ける設計を取り入れました。

——「LAOWA 180mm F4.5 1.5x Ultra Macro APO」ですね。

はい。無限遠から通常距離までは軽いフォーカス群をAFで駆動させ、近接マクロ領域ではMFで細かく追い込めるように、2系統のフォーカスシステムを組み込んでいます。

シネマレンズからのフィードバックも

——シネマレンズにも力を入れられていますが、企業の成長に寄与している実感はありますか?

シネマレンズのユーザーはほぼ全員がプロです。滑らかなフォーカストルクやギアの精度、ブリージングの抑制、ズーム時のパーフォーカル(ピント位置を保ったままズームできる機能)など、写真用とは異なる厳しい要求水準があります。過酷な現場で使われるため、外装もすべて堅牢な金属で作る必要があります。また、シネマレンズは焦点距離ごとに単体で作るのではなく、広角から望遠まで外観・色味・ぼけ味を統一した「シリーズ」として一括開発しなければなりません。

軽量コンパクトなシネマレンズとして人気の「LAOWA Ranger FF」シリーズ

——シネマレンズの開発で培った技術が、フォト用レンズに還元されているというわけですか?

大いにあります。トルクの滑らかさやブリージングの抑制はもちろん、パーフォーカル技術もフォト用レンズに応用されています。例えば1〜5倍まで変倍できるマクロレンズで倍率を変えても、ワーキングディスタンスやピント位置が変わりません。以前のマクロレンズは倍率を変えるたびにピント合わせを一からやり直す必要がありましたが、シネマレンズの技術をフィードバックすることで劇的に使いやすくなりました。

レンズデザインへのこだわり

——LAOWAのレンズデザインですが、青色のリングをはじめ統一感が感じられます。クラシカルな雰囲気を残しつつ現代風にモディファイされているように見えますが、ここにも李社長の意向が反映されているのでしょうか。

初期のMF時代、デザインの統一をそれほど意識していませんでしたが、AF時代に入ってから、色や形状を統一させています。

例えば、最近のレンズは少し青みがかった金属色を採用しています。市場には黒いレンズが溢れていますから、遠くから見ても「あ、LAOWAのレンズだ」とすぐにわかるよう、差別化しているのです。青いリングだけでなく、フォーカスリングのローレットの形状や、ロゴの配置などにも細かな特徴を持たせています。

中国の他のブランドの中には有名メーカーのデザインを真似るようなところもありますが、私たちはそれが嫌で(笑)。模倣ではなく、一目でLAOWAとわかる、独自のデザインに自信を持っています。

日本のユーザーに対する印象

——日本のユーザーにどのような印象をお持ちですか?

写真やレンズのことをよくご存じで、アマチュアでもまるで専門家・プロのような方が多い印象です。描写性能、トルク、色収差、ディストーションなど、非常に細かな点まで質問を受けますし、製品に対する要求レベルが極めて高く感じます。

もう1つの特徴は、「小さくて可愛いレンズ」を好む点でしょうか。欧州のユーザーは大きく重いレンズでもあまり気にしませんが、アジア、特に日本のユーザーは、サイズ感や携帯性を非常に重視しますよね。例えば「LAOWA 7.5mm F2 MFT」のような超小型のレンズが、日本でとてもよく売れます。

また、日本には「虫の目レンズ」を自作して昆虫を撮る独自の撮影文化がありました。そのため、「LAOWA 24mm F14 2X MACRO PROBE」などのプローブレンズも非常によく売れます。日本のユーザーの厳しい要求があるからこそ、私たちは鍛えられ、製品力をどんどん向上させることができています。

——そうした市場において、日本の総代理店サイトロンジャパンの貢献度はいかがでしょうか。

2015年に私たちがまだ無名のブランドだった頃から、LAOWAの特徴を熱心に広めてくださいました。目の肥えた日本のユーザーに中国の新興レンズを届けるのは簡単なことではなかったはずです。日本のユーザーの皆さんが親しみを込めてLAOWAのレンズを「変態レンズ」と呼んでくださるのも(笑)、唯一無二の特徴がしっかり伝わり、評価していただけている証拠だと嬉しく思います。

「New Idea, New Fun」で新しい体験を

——初期に出された60mmマクロなどの製品が今でもラインナップに残っていますが、これらを他社でいうところの「II型」のように、モデルチェンジする計画はあるのでしょうか。

他社と同じようなサイズ・性能にして、価格だけで勝負するようなリニューアルはしません。しかし、ユーザーから「重すぎる」「ここが使いづらい」といった明確な不満点や改善要望があれば、技術でそれを解決した新しいバージョンを出したいと考えています。

現在、バージョンアップ版の開発を進めているものもあります。初期の製品もより使いやすく進化した新型を順次検討しています。

——中国の光学メーカーの強みや優位性について、どのようにお考えですか?

最大の強みは「スピード」です。開発スピードはもちろん、レンズや金属パーツを製造・調達するサプライチェーンが充実しているため、開発から製品化、改良のサイクルが極めて速いのです。コストパフォーマンスだけでなく、スピード感を持って進化し続けられることが強みです。

フォト向けのレンズだけでもこれだけの数が現行品としてラインアップされている

——最後に、日本のユーザーへ向けたメッセージをお願いします。

弊社は大手純正メーカーとは一線を画すレンズメーカーです。大手が手掛けにくいような、独自の際立った特徴を持ったレンズを数多く開発しています。ウルトラマクロレンズ、ディストーションがほとんどない超広角レンズ、特殊なプローブレンズなど、他社にはなく、ユーザーが本当に求めている「他のレンズでは撮れない画が撮れるレンズ」をお届けしています。

私たちの理念は「New Idea, New Fun」です。皆さんから寄せられる新しいアイデアをもとに、新しいレンズを開発し、そのレンズを使って皆さんにこれまでにない新しい撮影の楽しさを体験していただく。そしてそこからまた新しいアイデアが生まれる――そうした循環をこれからも大切にしていきたいと思っています。

生産の現場を紹介

ここ安徽省合肥市の本社棟では、金属加工、電装、組み立て、検査といった工程が行われている。R&D部門やショールーム、バックオフィス関連も同じビル内だ。ここでは量産品の一部の生産が行われているだけでなく、開発や品質改善を迅速に進めるための試作工場という役割も担っている。

なお鏡筒に収められる光学ガラスの研磨やコーティングについては、本社にほど近い別の企業の工場で行われている。もとはVenus Opticsの一部だった工場だが、いまは別の光学企業として運営されている。

本社棟に所在するショールーム。LAOWA製品のほぼすべてが展示されている。
同じくショールームでの展示。中国の宇宙ステーションのスタッフがLAOWAのシネレンズを活用しているという
近年LAOWAが力を入れているのが放送用レンズ。REDやBlackmagic Designのボディと組み合わせた展示が見られた
プローブレンズの体験コーナーも。世界的に売れているとのこと
鏡筒やマウント部になるアルミ合金の素材が本社棟1階に保管されていた
アルミ合金を素材から削り出すCNC旋盤
鏡筒の一部が生産されていた
これくらい小さなパーツもここで削り出されて作っている
LAOWA 10mm F2.8 Zero-D FFの鏡筒の一部。これから組み立て工程に回される
意外にも手作業が多い。1つ1つ組み上げられていく
基板など電子部品もこの建物で設計・製造され、レンズに組み付けられていく
小さなレンズの一部を器用に貼り合わせる工程。見ていて感心するほどの手際の良さだ
貼り合わせ後の偏心をここでチェックしている
こちらでは重ね合わせたレンズの面精度を干渉縞(ニュートンリング)で確認
非球面レンズの曲率が正しいかをチェックする工程
レンズの側面への墨入れの様子。側面からの迷光を防ぐ
幾重ものチェックが行われていた
LAOWA 10mm F2.8 Zero-D FFの解像性能を検査しているところ。ここまで大きく映しても、周辺がボケたりにじんだりしていない
実際に撮影しての検査。市場に出た後で追跡できるように、撮影した画像はすべて保存しているという
フランジバック長を測る機械も見ることができた

印象的だったのは、ベテラン作業員による多数の手作業で工程が積み上げられていたこと。それらの各工程の合間に何度もチェックが挟まれ、李社長の設計思想が徐々に実体化されていく。

詳しくは取材に同行いただいた上田晃司さん撮影の動画でご覧いただきたい。

動画を収録中の上田晃司氏

今回うかがった新本社工場の規模は想像以上に大きく、営業、開発・設計、試作、製造などすべての部門がこの建物の中にあるという。ほぼすべての作業をここで完結でき、その結果、円滑なコミュニケーションや迅速なフィードバックが得られていることが想像できる。それが、LAOWAが独創的で高性能なレンズを次々と生み出している理由なのだろう。

本誌:折本幸治