トピック
プロのビデオグラファーに最新“ハイエンドCPU”を試してもらったら…
高負荷の作業がスムーズに? 「AMD Ryzen 9 9950X3D」を体験
2025年6月27日 07:00
映像作品制作から家族旅行の記録、さらには社内向け資料など、日常的に動画を扱う機会は増える一方だ。ミラーレスカメラのみならずハイエンド寄りのスマホでも4K動画が録れるようになって久しい。
目的や用途にあわせて編集作業が必要なのは静止画も動画も同じだ。特に動画の編集処理はクオリティにこだわるほど加速度的に重くなる。もし、処理しようとしているファイルに対してマシンパワーが十分でなければ、編集処理のレスポンスや書き出し処理に多くの時間を費やすことになるだろう。
とりわけPCにおいて、動画や静止画の編集処理を担っている主な要素はCPUだ。具体的にはエンコードやRAW現像、エフェクトやフィルターの適用、プレビュー生成と表示など、動画/静止画の間で処理内容に共通点も多い。最近であればAI関連の処理も挙げられる。
このように何かとマシンパワーが必要なのは画像処理の常だ。特に動画編集用途であれば、それなりの性能はほしいところ。構成自由度の面で自作PCを選んでも良いが、長く使う前提で保証を考慮するならばBTO PCも有力な選択肢といえるだろう。そこで今回は、クリエイター向けのBTO PCでも採用されている「AMD Ryzen™ 9 9950X3D」を紹介したい。
“クリエイター向け”でもある最新のハイエンドCPU
Ryzen 9 9950X3Dは、半導体メーカーのAMDが3月に発売したデスクトップ向けハイエンドCPUだ。16コア32スレッドでブーストクロックは最大5.7GHz、AV1をはじめH.265やVP9など主要なコーデックもサポートしている。ポイントは搭載コア数とスレッドの多さで、マルチコア/マルチスレッドに最適化されたクリエイティブアプリにおいては処理速度に直接効いてくる。
詳しい読者であれば「Ryzenってゲーマー向けのCPUでしょ?」と思うかもしれない。だがAMDでは直近数世代のRyzenにおいて「DaVinci Resolve」や「Premiere Pro」、「Blender」などクリエイティブアプリでのパフォーマンス向上にも力を入れており、実際に旧世代から着実に改善を積み上げている。
客観的なデータの一例を挙げれば、米Puget Systemsが公表しているクリエイティブアプリベンチマーク「PugetBench for Creators」での比較において、DaVinci ResolveとPremiere Proの両方で10%を超える性能向上を達成するなど、ゲーミング性能だけに特化しているわけではない一面も垣間見ることができる。
上のグラフはRyzen 9 9950X3Dと前世代のRyzen 9 7950X3DをPuget Benchで比較したグラフだ。
青緑色の線がRyzen 9 9950X3Dで、紺色の線がRyzen 9 7950X3Dのスコア分布を示している。本ベンチマークではベンチマークスコアのアップロードによる統計データを公開しており、図示しているのは標準総合スコア値の比較。横軸は実測スコアの値、縦軸は統計に含まれる実測スコア値の割合となっている。
この図では、Premiere Proでの平均値がRyzen 9 9950X3Dで15826、Ryzen 9 7950X3Dで13247であることがわかる。同様に、DaVinci Resolveでの平均値はRyzen 9 9950X3Dで11341、Ryzen 9 7950X3Dで9977となる。
なおベンチマーク内容としては150MbpsビットレートのH.264 4:2:0 8bitデータ処理やProRes 422HQのエンコーディングなど多岐にわたる項目でテストを行なっており、Puget BenchのWebサイトでは個別項目のスコア統計も確認できる。
プロのビデオグラファー& YouTuberが最新CPUを体験
さて、前置きが長くなったが、ここからは実際に動画編集の作業でRyzen 9 9950X3Dを使ったクリエイターからの声もお届けしたい。
ご協力いただいたのは、ビデオグラファーでYouTubeチャンネル「DAIGEN TV」を運営するYouTuberでもある、DAIGENさん。
DAIGEN
9年勤めた製薬会社を退社し、映像制作の道へ進み8年。映像制作が好きな仲間が集まるコミュニティは現在200名でオフライン・オンラインで活動中! サッカー大好きな9歳と7歳の2児の父。
DAIGEN TV https://www.youtube.com/@DAIGEN_
普段はノートPCをメインに作業しているとのことだが、今回は動画編集におけるRyzen 9 9950X3Dの威力を体験いただく目的で、パソコン工房のBTO PC「iiyama PC SENSE-F1B6-LCR99Z-TGX」をお使いいただき、編集作業時の快適さをメインに感想をお聞きした。
なお、今回試用いただいたPCには同じくAMDのビデオカード「Radeon RX 9070 XT」も搭載している。
本機はパソコン⼯房の「SENSE∞」ブランドに属するBTO PCだ。初⼼者からプロユースまで幅広いコンテンツクリエイターに向けたBTO PCという位置付けだが、今回試⽤したモデルはビデオカードにもAMDの上位モデル「Radeon RX 9070 XT」を採⽤しており、単独で8K4K/120Hz表⽰に対応するDisplayPort 2.1aポートの搭載によって、4Kをこえる⾼解像度の多画⾯環境が構築しやすくなっている。
そのほかの構成についても簡単に触れておくと、メモリが32GBでストレージは1TB M.2NVMe SSD、360mmラジエーター装備の⽔冷CPUクーラーや850Wの80PLUS GOLD電源を搭載している。
SENSE∞ F-Classの特徴
試用したパソコン工房の「SENSE∞ F-Class」は、クリエイター向けのミドルタワーPCラインナップで、高性能CPU、GPUのパフォーマンスを最大限に引き出す設計がされているという。
基本的な構成として、フロントに140mmの大型ファン3基、リアに120mmファン1基を標準搭載し、内部のエアフローを考慮した構造となっている。さらに、カスタマイズでファンの追加もでき、より安定動作こだわりたいユーザーのニーズも満たすことができる。
また、大型の高性能パーツを搭載するための十分なスペースが確保されており、冷却性能が向上することで安定したシステムパフォーマンスが期待できる。
ハイエンドグラフィックスカードを搭載した際の脱落を防止するグラフィックスカードホルダーを装備していることもトラブル防止に効果的だ。
もちろんBTOということで、自由度の高いパーツ選択にも対応する。目的に合わせた仕様を追求できる点にも注目したい。
※CPUクーラーの空冷/水冷、グラフィックスカードホルダーの有無などはモデルにより異なります。また、一部カスタマイズでの選択となります。
[SENSE∞ F-Classシリーズの詳細はこちら]
https://www.pc-koubou.jp/pc/sense_infinity_f.php
SENSE∞ F-Classはサポートも充実
iiyama PCのクリエイター向けパソコン SENSE∞ F-Classは、全国のパソコン工房・グッドウィル店舗、パソコン工房通販から購入でき、通販で購入した場合でも安心のサポートを提供している。
パソコンのことで困った際は、24時間・365日受付のサポートコールセンターも利用できて心強い。
[総合サポートサイトはこちら]
https://pc-support.unitcom.co.jp/
データ量・処理速度で変わる動画編集の世界
——動画編集を行なう環境についてお聞きしてもよろしいでしょうか。
普段はノートPCに2台の外部モニターを接続して作業しています。ソフトはDaVinci Resolveで、モニターは上下に並べ、上はプレビュー表示専用、下は編集作業用として使い分けています。デスクトップPCは普段と異なる環境なので最初こそセットアップに少し戸惑いましたが、実際に使い始めてからはスムーズに扱えました。
——現在お使いのPCで不便を感じることはありますか?
今使っているPCは使い始めてから4~5年くらいは経過しているので、時折動作がもっさりしたり、固まったりすることもあります。それによって生じる問題は、動作が不安定であることそのものというだけでなく、時短のために重いデータをできるだけ扱わないようにするようになることです。
例えば僕の場合、ニコンZ8を購入してApple ProRes RAW HQ(12bit)やApple ProRes 422 HQ(10bit)で収録できるようになりました。でも、カメラは最新世代へアップデートしているのに、PC側は5年前のまま。動画のRAWデータを扱うようになって、相対的にPCの性能が不足してきたことは日々実感しています。
——動画を1本仕上げるまでの編集時間はどのくらいですか?
内容にもよりますが、僕がYouTubeに上げている15~20分の動画に関していえば、だいたい4~5時間くらいで1本という感じです。エンコード時間はそのうち20分くらい。僕がしゃべるのとは別に挿入するカットとかBGM、字幕を一通り入れたらそのくらいかかるイメージですね。
初めて動画制作を請け負うクライアントの場合は、同じ尺でもその倍くらいはかかったりします。
——直近で最も重いデータを扱ったのはどういったケースでしょうか?
あるサッカーのイベントを撮影したときのことです。4人で撮影したデータを持ち寄って、1TB近く膨大な数の素材の編集をしました。形式は確か4K/30pだったはずです。
そのときはタイムラインにクリップが溢れるような状態になって、まず編集作業が重かったし、書き出しも途中で止まってしまうし。仕方ないので書き出しを2回に分けて、あとで動画を結合する形で乗り切りました。エンコードにも数時間かかったし、大変でした(笑)。
諦めていたことにも挑戦できる
——アプリの動作が速くなることで、ワークフローそのものに影響はありますか?
より重いデータを扱う気になれるところが大きいと思います。僕は4K/24pの形式で収録することが多いのですが、これは4K/60pで収録することを諦めていたからです。データが重くなることによって編集処理も重くなり、作業全体の進捗が遅れることを避けたかった。これには常に撮影の段階から編集のことを考えなければならないストレスがついて回りました。
——今回は普段よりも処理能力の高いPCをお使いいただいたわけですが、実際に業務効率が改善している感覚はありますか?
やはり業務時間が短く済ませられるというのはシンプルに強いですよね。プレビューが停まってしまって待つことしかできず集中力が途切れてしまうとか、そういうことがなくなると、仕事のスケジュールがタイトなときなどは特に助かると思います。何より仕事が早く終われば、その時間を家族のために使えますし。
あとは、諦めていたことに挑戦できる余裕ができるところ。スペックの不足によって今まで諦めていたことの1つは、Z8のN-RAWで8K/60pを撮影してみたい!ということでした。データが重くなる分にはまだいいのですが、編集処理が重くなってしまうと、作業時間的にそもそも編集すること自体が現実的ではなくなってしまうんです。
これってやはりカメラのポテンシャルを活かす観点で大事なことだし、単純に動画の品質が上がります。いいシーンを静止画に切り出すにしても、4Kと8Kでは明確に差が出ますしね。
——今回の最新PCを使ってみて、はっきりと性能差を感じたのはどういった部分でしたか?
まず実感できるレベルで速くなったのは、プレビューの速度でした。これまではノイズリダクションをかけるとプレビューが重くなるので、書き出しの直前までノイズをのせたまま編集するなどの工夫をしていましたが、必要なくなりました。
ノイズリダクションに関してもう少し詳しく述べますと、かかり具合が4段階あるうちの3段階目くらいまではリアルタイムで適用しながら確認できる速度でした。4段階目は最近追加された「UltraNR」というAIベースの機能なのですが、これを適用するとさすがに少し重いかなという感じですね。
体感では、今使っている環境の倍くらいは早く終わるようになったと思います。率直に言ってかなり快適ですね。
——そのほかの機能ではいかがでしょう。
フレーム生成機能の「オプティカルフロー」が実用的な速度でプレビューできたのが印象に残っています。これはフレーム間の動きを解析して中間のフレームを生成し、スローモーション動画とかを作る機能で、処理が非常に重くてなかなか通しで見るのがしんどかったのですが、Ryzen 9 9950X3Dが載っているPCであれば快適に使えました。
このほか普段通りの編集フローを一通り試したところで言えば、LUTを重ねたりすると普段はひっかかりを感じるあたりもスムーズで、はっきりと処理の軽さが実感できました。
カメラ・レンズと同じくPCにもこだわりを
——普段はメーカー製のPCをお使いということですが、今後自作PCに挑戦してみたいと思いますか?
今回、ミドルタワーケースのPCを使わせていただいて、性能の高さは実感できましたが、やっぱり少しかさばるなとは思いました(笑)が、現環境に特別強いこだわりがあるわけではないので、買い替えの時期にきたら選択肢に入ると思います。
——AMDといえばゲーミングというイメージが世間的に強いと思うのですが、今回の試用でそのイメージは変わりましたか?
僕自身はPCゲームを遊ばないので、AMDに元々ゲーミングというイメージが強くついていたわけではありません。でも今回はメーカーのカラーを特に意識することなく快適に使えましたし、結果的にはフラットに評価できたと思っています。
ただ、今回試用してみて予想以上に良かったので、僕が運営しているオンラインサロンでもBTO PCという選択肢は紹介したいなと思いました。カメラやライティングの機材にこだわりがあっても、PCはそうでもないというケースって意外と多いんです。
まとめ……「強いCPU」が快適な動画編集を約束
今回DAIGENさんにご協力いただいたRyzen 9 9950X3D搭載PCの試用では、8K/60p動画素材の快適な編集をはじめ、オプティカルフローやUltraNRが現実的であることがクリエイターの実感として語られた。
ちなみにだが必要な情報なので申し上げておくと、DAIGENさんの作業場は自宅の離れとして用意したコンテナの中。
取材は6月下旬の札幌市街で気温も20℃台前半だったが、コンテナの中はじっとりと汗ばむ気温。本人のエアコン嫌いとコンテナ内というPC的に厳しい環境での試用でもあり、はからずも低発熱なRyzen 9 9950X3Dの安定性も発揮された結果となった。
一般論だが、高性能なCPUを選んでおけば、将来的にアプリ側で実装される新機能にも処理性能で対応しやすくなり、結果的にPCの買い替えサイクルを長く保つことができることも覚えておきたい。