【新製品レビュー】カシオEXILIM EX-ZR100

~HDRアート搭載モデルがさらに高倍率化
Reported by 北村智史

 2010年11月に発売されたEX-ZR10の上位に位置づけられるモデル。撮像素子には1/2.3型の有効1,210万画素の裏面照射型CMOSセンサー、画像処理は最新スペックのEXILIMエンジンHSを搭載する。レンズが光学12.5倍ズームに強化され、広角端は24mm相当に、望遠端は300mm相当に拡張されている。

 また、好評の「HDR(ハイダイナミックレンジ)」、「HDRアート」機能、フルHD動画機能なども備えている。

 大手量販店の店頭価格は3万9,800円程度。カラーバリエーションは写真のホワイトのほか、ブラックが選べる。


換算600mm相当での撮影が可能

 広角側とともに、望遠側へもレンズが強化されたためもあるのだろう、わずかながら膨らみを持たせたグリップ部にはシボ革が貼られている。指がかりがよく、滑りにくい感じでホールド性はなかなかにいいし、見た目のアクセントにもなっている。

 開放F値はF3-5.9と決して明るいとはいえないが(数字としてはEX-ZR10と同じだ)、ズーム倍率から考えれば文句はない。最短撮影距離は広角端で5cm、望遠端で90cmだが(マクロモード時も同じだ)、42mm相当時はレンズ前1cmまで寄れる。スーパーマクロモードでは42mm相当に固定となり、1cmまで寄れる。手ブレ補正はセンサーシフト式。実写しての感覚としてはシャッター速度で2段分くらいの効果がありそうに思えた。

 超解像技術を利用した「シングル超解像」を使うことで望遠端を18.8倍(450mm相当)まで拡張できる。また、連写合成を行なう「ベストショット」の「マルチ超解像」を使えば最大25倍(600mm相当)の超望遠撮影が可能となる。ピクセル等倍でみると画質的には少々難ありと言わざるをえないが、大きなサイズにプリントしないのであれば、それなりに満足できるだろう。

 音声付きの動画はFHD(1,920×1,080ピクセル)とSTD(640×480ピクセル)でフレームレートは30fps。上面にステレオマイクを内蔵しているが、左右の間隔が狭いせいもあるのだろう、それほどステレオらしさは感じない。また、風音も気になった。同社お得意のハイスピードムービーは、1,000fps、480fps、240fps、30-240fps(フレームレート可変)の4モードが選べる。

 電源はコンパクトカメラとしては大型のリチウムイオン電池で、容量は1,800mAhもある。CIPA基準の撮影可能枚数は450枚。ただし、この数字は液晶モニターが標準輝度に設定されている状態のもので、初期設定の「オート」設定時はもう少し減るはずだ。実写では、ストロボ発光なしで300枚強撮って電池の残量表示が1コマ欠けた状態とフルの状態を行ったり来たりしていた。まあ、1日の撮影量が相当に多い人でなければ予備のバッテリーはなくてもよさそうだ。

 記録メディアはSDXC/SDHC/SDメモリーカードと内蔵メモリが52.2MB。実写での平均ファイルサイズは、記録画素数が少なくなる「HDRアート」を多用したこともあって、5.6MB程度だった(EX-ZR10のレビューのときは5.8MBくらいだった)。

滑り止めのシボ革が貼られたグリップ部。わずかながら膨らみもあって、構えたときの安定感がいいレンズは広角24mmからの12.5倍ズーム。センサーシフト式の手ブレ補正機構を内蔵している
ズームの広角端こちらは望遠端。倍率は高いが、思ったほど長くは伸びない
「シングル超解像」は名前のとおりの1コマ撮り。超解像技術によって望遠端を18.8倍まで拡張できる「シングル超解像」をオンにしてめいっぱい望遠側にズームした状態。これで450mm相当の超望遠となる
「ベストショット」の「マルチ超解像」。こちらは連写合成を行なうもので、最大25倍までとなる「マルチ超解像」でめいっぱい望遠側にズームした状態。600mm相当の超望遠撮影が手持ちで楽しめてしまうのがすごい
動画は「FHD」と「STD」が音声付きの通常動画。「HS」が付いているのはハイスピードムービー。最高1,000fpsの動画が楽しめる動画撮影中に連写ができて、しかも動画が途切れなしで撮れる。運動会などのイベントで役立ってくれそうだ
連写関連のメニューは「HS」ボタンから。その左右にはステレオマイクが内蔵されている背面右手側上に配置されているムービーボタン。動画撮影中もオートフォーカスがはたらく
SDXC/SDHC/SDメモリーカードとバッテリーは底面から。コンパクトカメラとしては大きなバッテリーでCIPA基準で450枚撮れる

効果の強さを選べるようになった「HDRアート」

 新しくモードダイヤルが装備され、操作性がぐっとよくなった。EX-ZR10では、上面の「AUTO」ボタンで「プレミアムオート」モード、「HS」ボタンから「HDR」や「HDRアート」など、「SET」ボタンから呼び出す「操作パネル」から「マルチ超解像」や「スライドパノラマ」などがある「ベストショット」といった具合に、撮影モードがあちこちに分散していたが、本機ではモードダイヤルに集約された。見通しがよくなったのは大歓迎だ。

 一応、絞り優先AEやシャッター優先AE、マニュアル露出も備えてはいるが、絞り値は広角端ならF3とF7.9の2段階しかないし、NDフィルターによる光量調節方式(被写界深度は変わらないわけ)なので、メリットはほとんどない。

「HDR」、「HDRアート」を搭載しているのはEX-ZR10同様。前者は3枚連写した露出違いの画像を合成してダイナミックレンジを拡張する手法。手持ち撮影時の画面のズレを吸収するためだろう、少し画角が狭くなるのが残念なところだが、暗部補正などによる擬似的なダイナミックレンジ拡張に比べると自然でノイズも少ない。処理が重い分待ち時間も発生するものの、逆光時などには非常に効果的だ。

 一方、部分的に彩度やコントラストを変えたりすることで絵画調の画面効果が得られる「HDRアート」は、新しく効果のレベルを3段階から選べるようになった。ただし、「レベル1(弱)」は面白みが薄いので、はっきりした効果が得られる「レベル2(中)」や「レベル3(強)」のほうがずっと楽しい。

背面右手側の操作部。再生ボタンを押すとレンズが沈胴状態のまま、再生モードで電源が入る。これが案外に便利だったりする十字キーの左右キーには好みの機能が割り付けられる。筆者はEVシフト(露出補正)がいちばんおすすめだと思う
上面右手側に新設されたモードダイヤル。「HDR」、「HDRアート」、「プレミアムオート」など、機能の見通しがよくなって便利「アイコンガイド」をオンにしておくと、モード切替時にフキダシ表示があらわれる
「HDRアート」の効果を3段階から選べるようになった。初期設定は「レベル2(中)」こちらは再生時の画面。残念ながら、「HDRアート」のレベルは表示してくれない

まとめ

 奥行き28.6mmのスリムボディ(28-196mm相当のEX-ZR10よりも1.2mmだけ厚い)に24-300mm相当のレンズ、さらに長寿命バッテリーの組み合わせは、普段使いから旅行用にもばっちりなチョイス。これでGPS内蔵ならさらにばっちりだと思うけれど、そこまでは望みすぎかもしれない。

 モードダイヤルのおかげで操作性がアップしたのはうれしい進化だし、「HDRアート」のレベルが選べるようになったのも好感が持てる。そのほか、高速連写やフルHDとハイスピードの動画機能、「スライドパノラマ」など見どころは多く、EX-ZR10よりもさらに魅力的になったといえる。


実写サンプル

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。

・画角変化

 光学ズームの範囲は24-300mm相当で、それだけでも十分に高倍率なのに、「シングル超解像」で450mm相当、「マルチ超解像」で600mm相当。さらにデジタルズームを組み合わせると、2,400mm相当の超望遠撮影まで可能となる。ピクセル等倍で見ると、画質的にはちょっと辛いものがあるが、大きなサイズにプリントしないならそれなりに使えそうな感じではある。

広角端(24mm相当) / EX-ZR100 / 4,000×3,000 / 1/320秒 / F7.9 / 0.3EV / ISO100 / WB:オート / 4.24mm光学ズームの望遠端(300mm相当) / EX-ZR100 / 4,000×3,000 / 1/1,000秒 / F5.9 / 0.3EV / ISO100 / WB:オート / 53mm
シングル超解像使用(450mm相当) / EX-ZR100 / 4,000×3,000 / 1/1,000秒 / F5.9 / 0.3EV / ISO100 / WB:オート / 53mmマルチ超解像使用(600mm相当)EX-ZR100 / EX-ZR100 / 3,648×2,736 / 1/1,000秒 / F5.9 / 0.3EV / ISO100 / WB:オート / 53mm
マルチ超解像+デジタルズーム(2,400mm相当)EX-ZR100 / EX-ZR100 / 3,648×2,736 / 1/1600秒 / F5.9 / 0.3EV / ISO100 / WB:オート / 53mm

・HDR、HDRアート

 連写合成を行なう「HDR」、「HDRアート」時は手持ち撮影時の画面のズレを吸収するためだろう、周辺部が少しトリミングされてしまう。その分画角は狭くなるわけだが、もとが24mm相当と広いので、少しくらい削られてもそこそこ広い画角が残るから、我慢できなくはない。「HDRアート」は本機では効果のレベルが3段階から選べるようになったのがトピック。

通常撮影 / EX-ZR100 / 4,000×3,000 / 1/200秒 / F7.9 / -0.7EV / ISO100 / WB:オート / 4.24mm(24mm相当)HDR / EX-ZR100 / EX-ZR100 / 3,648×2,736 / 1/1,250秒 / F3 / -0.7EV / ISO100 / WB:オート / 4.24mm(24mm相当)
HDRアート(効果:レベル1) / EX-ZR100 / EX-ZR100 / 3,648×2,736 / 1/1600秒 / F3 / -0.7EV / ISO100 / WB:オート / 4.24mm(24mm相当)HDRアート(効果:レベル2) / EX-ZR100 / EX-ZR100 / 3,648×2,736 / 1/1600秒 / F3 / -0.7EV / ISO100 / WB:オート / 4.24mm(24mm相当)
HDRアート(効果:レベル3) / EX-ZR100 / 3,648×2,736 / 1/1,000秒 / F3 / -0.7EV / ISO100 / WB:オート / 4.24mm(24mm相当)

・感度

 感度面で有利とされる裏面照射型のCMOSセンサーを搭載しているものの、ベース感度はISO100。最高感度もISO3200止まりと、すごみは感じられないスペック。ISO100でもノイズ処理が強すぎてディテール再現が悪くなっているかのような印象で、ノイズは多くはないが、解像感はもうひとつ物足りない。

裏面照射型のCMOSセンサーだが、ベース感度はISO100と平凡。最高感度もISO3200までとなっている

 使うシーンとプリントサイズによってはISO800でも我慢できる範囲と言えるが、ISO1600以上は常用は避けたい。

ISO100 / EX-ZR100 / 4,000×3,000 / 1/500秒 / F5.9 / -1.3EV / WB:オート / 26.91mm(152mm相当)ISO200 / EX-ZR100 / 4,000×3,000 / 1/1,000秒 / F5.9 / -1.3EV / WB:オート / 26.91mm(152mm相当)
ISO400 / EX-ZR100 / 4,000×3,000 / 1/250秒 / F15 / -1.3EV / WB:オート / 26.91mm(152mm相当)ISO800 / EX-ZR100 / 4,000×3,000 / 1/500秒 / F15 / -1.3EV / WB:オート / 26.91mm(152mm相当)
ISO1600 / EX-ZR100 / 4,000×3,000 / 1/1,000秒 / F15 / -1.3EV / WB:オート / 26.91mm(152mm相当)ISO3200 / EX-ZR100 / 4,000×3,000 / 1/2,000秒 / F15 / -1.3EV / WB:オート / 26.91mm(152mm相当)

・作例
辰巳と東雲を結ぶ歩行者専用の辰巳桜橋の主塔。広角が24mm相当まであると、こういうのが楽に画面に収まってくれる。EX-ZR100 / 4,000×3,000 / 1/500秒 / F7.9 / -0.7EV / ISO100 / WB:オート / 4.24mm(24mm相当)東雲のイオンの近くにあった不思議な外観の建物。出入口は巨大な木みたいになっていた。EX-ZR100 / 4,000×3,000 / 1/500秒 / F3 / 0.3EV / ISO100 / WB:太陽光 / 4.24mm(24mm相当)
「HDRアート」は順光だとHDRらしさはあまり目立たないが、それでもエッジ部分の表現や彩度の高さが面白い効果になってくれる。EX-ZR100 / 3,648×2,736 / 1/1,600秒 / F3 / -0.7EV / ISO100 / WB:オート / 4.24mm(24mm相当)こちらは強い逆光条件だが、暗部まできちんと出してくれている。動く被写体は合成なしで処理するので走る自動車にも対応できる。EX-ZR100 / 3,648×2,736 / 1/2,500秒 / F3 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 4.24mm(24mm相当)
こちらは「マルチ超解像」で撮ったカット。多少CGくさい感じにはなるが、600mm相当の超望遠撮影が楽しめるのだから文句はない。EX-ZR100 / 3,648×2,736 / 1/500秒 / F5.9 / 0EV / ISO160 / WB:オート / 53mm(300mm相当)広角端でこんなにまっすぐ写っているのは歪曲収差補正を自動でやっているから。そのわりに、四隅の崩れは大きくはない。EX-ZR100 / 4,000×3,000 / 1/400秒 / F7.9 / 0.3EV / ISO100 / WB:オート / 4.24mm(24mm相当)
有明とお台場をつなぐあけみ橋の欄干と有明側に建つホテルを重ねて撮ってみた。EX-ZR100 / 3,648×2,736 / 1/1,000秒 / F4.2 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 7.87mm(44mm相当)こちらの青海橋も有明とお台場をつないでいる橋で、もとは工事用の仮設橋らしい。現在は車両は通行止めだが、歩行者は通れる。EX-ZR100 / 4,000×3,000 / 1/320秒 / F7.9 / -0.7EV / ISO100 / WB:オート / 4.24mm(24mm相当)
青海橋の隣にある水道橋(たぶん)。「HDRアート」で撮るとぴかぴかのピンク色。奥に見えるのは有明の清掃工場の煙突。EX-ZR100 / 3,648×2,736 / 1/1,000秒 / F3 / 0.3EV / ISO100 / WB:オート / 4.24mm(24mm相当)青海橋の中ほどから見たお台場方面。太陽のまわりはフレアなどの影響だろう、超常現象的な写りになってしまった。EX-ZR100 / 3,648×2,736 / 1/1,000秒 / F7.9 / -0.7EV / ISO100 / WB:オート / 4.24mm(24mm相当)
最近のカシオのオートホワイトバランスって、青空がすごく青く写る。ちょっと嘘くさい気もするが、きれいでいいと思う。EX-ZR100 / 4,000×3,000 / 1/320秒 / F7.9 / -0.7EV / ISO100 / WB:オート / 4.24mm(24mm相当)砂浜に落ちていた貝殻(2cmくらい)をマクロで。42mm相当の焦点距離だとレンズ前1cmまで寄れる。EX-ZR100 / 4,000×3,000 / 1/500秒 / F4 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 7.38mm(42mm相当)
なぜかはわからないけれど、すごい数の海鳥(カモとかも混じってたりした)がたむろしていた。これは光学ズームだけで撮ったカット。EX-ZR100 / 4,000×3,000 / 1/320秒 / F5.9 / 0.3EV / ISO100 / WB:オート / 53mm(300mm相当)台場公園に残る陣屋跡。なにげにコンクリートだが、一応は江戸末期の史跡である。EX-ZR100 / 4,000×3,000 / 1/200秒 / F5.7 / -0.7EV / ISO100 / WB:オート / 42.54mm(240mm相当)
台場公園からのカット。連写合成のため波がダブって写ってエンボス加工みたいになった。EX-ZR100 / 3,648×2,736 / 1/640秒 / F7.9 / 0.3EV / ISO100 / WB:太陽光 / 4.24mm(24mm相当)夕陽の照り返しが海面をぎらつかせていた。西側の部屋って眺めはいいんだろうけど、やっぱり夏場は暑いのだろうか。EX-ZR100 / 4,000×3,000 / 1/250秒 / F13.4 / -2EV / ISO100 / WB:太陽光 / 17.06mm(96mm相当)

・動画
  • 動画作例のサムネイルをクリックすると、未編集の撮影動画をダウンロードします。再生についてのお問い合わせは受けかねます。ご了承ください。
【動画】フルHD動画に加えてハイスピードムービーも装備。ステレオマイクを内蔵しているが、音場感はもうひとつの印象。54.9MB / 1,920×1,080 / 30fps

【2011年3月3日】記事初出時の感度作例においてISO400が重複しISO800が抜けていたため、ISO800の作例が揃っている画像に差し替えました。





北村智史
北村智史(きたむら さとし)1962年、滋賀県生まれ。国立某大学中退後、上京。某カメラ量販店に勤めるもバブル崩壊でリストラ。道端で途方に暮れているところを某カメラ誌の編集長に拾われ、編集業と並行してメカ記事等の執筆に携わる。1997年からはライター専業。2011年、東京の夏の暑さに負けて涼しい地方に移住。地味に再開したブログはこちら

2011/3/3 00:00