K-30の耐候性を発揮するにはレンズも防滴のものと組合わせたい。PENTAXには2種類のWRシリーズ(簡易防滴構造)の標準ズームがある。ボディとキット化して販売されているsmc PENTAX 18-135mmF3.5-5.6 ED AL [IF] DC WR(以下18-135mmWR)と、やや小振りなsmc PENTAX 18-55mmF3.5-5.6 AL WR(以下18-55mmWR)だ。今回はその2本の違いについて考えてみる。
左からsmc PENTAX 18-55mmF3.5-5.6 AL WR、smc PENTAX 18-135mmF3.5-5.6 ED AL [IF] DC WR |
18-135mmWRはK-5と同時発表されたもので、簡易防滴構造であるのみならず、ボケ味に配慮した円形絞り、レンズ内モーター採用による静粛なAF駆動などの意欲的なスペックを持ち、K-5の標準ズームレンズにふさわしく、よく考えられたレンズだといえる。
筆者はこのレンズを永くK-5で愛用しているが、単焦点レンズに引けをとらぬほど抜けがよく、フレアの影響を受けて暗い場所や逆光でAFが迷うことが少ない。
高倍率ズームには自重で鏡筒が伸び切ってしまうのを防ぐズームロック機構を備えるものが多いが、このレンズはロック不要で、ごく普通の標準ズームと同じ感覚で扱うことができる。鏡筒設計は相当にがんばったものらしい。
DA 18-135mm F3.5-5.6 ED AL [IF] DC WRをK-30に装着した状態 |
18-55mmWRは、K-7の頃に発売されたレンズ。これと対になるものとしてsmc PENTAX 50-200mm F4-5.6 ED WRというコンパクトなWR仕様の望遠ズームレンズがあり、K200Dボディと2本のWRズームのセットで小型軽量の防滴カメラシステムを低価格で組むことができた。
光学系はレンズキットおよびダブルズームキットのDA L 18-55mm F3.5-5.6 ALと同じだが、キットレンズでは省略されたクイックシフトフォーカスシステムがこちらでは採用されている。
DA 18-55mm F3.5-5.6 AL WRをK-30に装着した状態 |
クイックシフトフォーカス(以下QSFと略す)になじみのない方のためにざっと説明をしておくと。他社のボディ内モーターシステムでは、AF作動後にMFでピントを修正したい場合、そのままではフォーカスリングと駆動メカニズムが連結されているため操作できず、フォーカスモードスイッチを切換える必要がある。QSFでは、AF.S(シングルAF)のときに限り、AF合焦後にカメラが自動的に駆動系とフォーカスリングの連結を解除し、自由にMFを行なうことができる。再びAFに戻る時もレリーズボタンを半押しするだけでよい。
撮影者をAF/MF切換え操作から解放し、撮影に集中することができるQSFはPENTAXのカメラシステムの大きな美点であり、QSF付きのこのWR仕様こそがPENTAXの18-55mmズームの本来の姿といえる。
数値で比較すれば、18-55mmWRはフィルター径52mm、外形寸法は68.5×67.5mm(最大径×長さ)、重さ235g。一方の18-135mmWRはフィルター径62mm、外形寸法は73×76mm(最大径×長さ)、重さ約405g。
数字の上では18-55mmWRの方がかなりコンパクトに見えるが、実際に並べてみると大きさはあまり変わらず、収納性に大きな差はない。
フードを付けた状態の両レンズ。左がDA 18-55mm F3.5-5.6 AL WR、右がDA 18-135mm F3.5-5.6 ED AL [IF] DC WR。ズーム位置はそれぞれが一番短くなる所にセットしてある |
収納サイズの比較。御覧の通り、直径以外はほとんど変わらず、カメラバッグへの収まりは同じだといってよいだろう。 |
数値のうえではやや大きくかさばると思われがちな18-135mmWRだが、このレンズは現行PENTAXレンズの中で唯一、マウント寄りにフォーカスリング、先端寄りに幅広のズームリングがある、という例外的レイアウトをとっており、その配置が機動性の上で意外なメリットを生んでいる。どういうことかというと、フードを逆付けにした収納状態のまま、フォーカスリングとズームリングを操作できるのだ。
フード逆付けの収納状態にある18-135mmWRつきK-30を構えてみる。レンズを支える左手で触れているのがフォーカスリングだが、フードを逆付けしたままでもまったく問題なく操作できる |
ズームリングは半分ほど隠れているものの幅広のデザインが幸いし、少しホールディングをずらせば充分に操作できる。とっさの被写体に対応する場合にはこの程度の難は問題になるまい |
つまり、18-135mmWRならば突然のシャッターチャンスの訪れにも、ただレンズキャップを外しさえすれば余裕を持って対処できる。それに比べ、18-55mmWRはフード逆付けの状態ではフォーカスリングには触れることもできず、ズーミングも相当やりにくい。速写性を求めるなら自ずとフードは正位置に付けたまま収納することになる。とすれば、収納状態にあるこの2本のレンズ同士を比較すると、フードを逆付けにしておける18-135mmWRの方がコンパクトであるとすらいえる。設計の妙というべきだろう。
一方、18-55mmWRはともかく軽く、ズーム全域を通じて長さ/重心がほとんど変わらずバランスがよいことが魅力。推奨するものではないが、ホールディングのいいK-30との組み合わせなら片手撮りも苦にはならない。育児中など、手が塞がりがちな暮らしの中で、カメラに付けておくレンズとしては悪くないと思う。
重量で170gの違いは手に持って操作する分にはあまり気にならないものの、1日ぶら下げて歩いた時の疲れ方はかなり違う。筆者の場合、18-55WRなら首から下げていてもあまり疲れを感じないが、18-135WRは自然と肩から下げて歩いていることが多い。日常の記録用カメラならこちらを選ぶのも一つの考え方ではある。
両レンズのズームリングの焦点距離指標にセットして撮影した写真を掲げておくので、ズームによる画角変化と対応できるレンジの参考にしていただければと思う。
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
K-30 / DA 18-55mm F3.5-5.6 AL WR / 約7.8MB / 4,928×3,264 / 1/400秒 / F14 / +0.7EV / ISO400 / WB:オート / 55mm |
ここまでが18-55mmWRでカバーできる範囲で、ここから下は18-135mmWRの領域になる。
広角端は両者ともに18mm。これは35mm判フルサイズ換算の28mmに相当し一般的な風景やスナップショットなどに使いやすい画角になる。ただし、インテリアや建物の外観を撮る場合にはやや画角が狭く、そのような撮影を重視するならもう少し広角側が広い、16mmか17mmから始まるズームを選択するか、もう1本、より広角側の広いズームを買い足しする必要があるだろう。
望遠側については、18-55mmWRの長焦点端55mmはフルサイズ換算の80mmに相当し、やや短めながら中望遠レンズとしてポートレート撮影までこなすこともできる。18-135mmWRの望遠側はそれよりさらに長く、フルサイズ換算で200mmレンズに相当する。これくらいの焦点距離になると本格的な望遠レンズの性格(圧縮効果、背景のボケなど)を表現に活かすにも充分で、一般に必要とされる広角から望遠までの焦点域のほとんどを1本でカバーできる。
レンズの選択基準はそれぞれの事情によるところが大きく、お勧めを1本に絞ることはまず不可能だが、筆者の主観では、K-30との組み合せるズームとしてふさわしいのは18-135mmWRだと思われる。防滴仕様のカメラといえども、レンズ交換を雨の中で行なうことは避けなければならず、1本のレンズで対応できる範囲の広い高倍率ズームのメリットは大きい。動画撮影も視野に入れれば、AF動作音が静かであることも重要だ。
絶対的な質量が軽い18-55WRも、ボディに付けっぱなしで振り回して使うには善い選択といえる。特に握力があまり強くなく、18-135mmWRだと取り回しが重いと感じる方はこちらを選び、望遠側は必要に応じて後から揃えるのも一つの方法だろう。
本稿執筆中に、フォトキナ2012にあわせて新しいWR仕様の高倍率ズームである、smc PENTAX DA 18-270 F3.5-6.3 ED SDMが発表された。そちらも非常に気になるところだがとりあえず今回はこれで筆を置き、新しい18-270mmについては、いずれどなたかのレビューでとりあげられなければ、またこちらで試してみたいと考えている。
2012年9月21日:「新しい18-270mmWRについては」を「新しい18-270mmについては」に改めました。
2012年9月21日:「18-55mmWRは、K20D/K200Dの頃に発売されたレンズ」を「18-55mmWRは、K-7の頃に発売されたレンズ」に改めました。
2012/9/21 00:00