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Kindleで写真集を出版するプロジェクト「CRP」とは

すでに70タイトル 横木安良夫さんが考える新しい写真のカタチ

4月10日のラインナップ。現在全70タイトルが購入できる。©CRP CROSSROAD PROJECT

写真家の横木安良夫さんが昨年10月から、CROSSROAD PROJECTをスタートさせた。プロ、アマチュアに幅広く呼びかけ、Amazonの電子書籍Kindleを使いデジタル写真集を作り、ゆくゆくは世界に流通させていく狙いだ。

写真家という職業が失いつつある夢をもう一度取り戻す試みであり、写真家が一般の人たちに向き合ってこなかった反省を踏まえ、自分たちが信じる写真を真摯に問うていく、新たな挑戦でもある。

このプロジェクトには広川泰士さん、鷲尾倫夫さん、若木信吾さん、藤井春日さんといった写真家も賛同し、CRPレーベルから写真集を出版している。そのタイトル数は現在70、年内200タイトルの出版を見込む。

CRPタイトルの例。横木安良夫さんの「JAPAN TOKYO 1991-2011 Girls in Motion」より。Mac OS X用のKindleで表示。©CRP CROSSROAD PROJECT
©CRP CROSSROAD PROJECT
©CRP CROSSROAD PROJECT

写真で自由に語る世界を獲得するために

CRPの活動はワークショップが中心となる。そこで電子書籍化の方法も教えるが、メインは写真の組み方だ。参加者はそれぞれテーブルにプリントを並べ、全員がその写真について意見を交わしていく。

「写真は重たいメディアにならざるを得なかったってことに気がついた」と横木さんは言う。

写真集の制作費は高く、出すためには篩がかけられる。そこには常に売れる企画かという不確定な判断基準が存在し、ハードルを上げていた。

「僕がベトナムに初めて行ったのは1994年。その後、8〜9回は行って、本にしたのは99年。自分の考えをまとめるのに時間はかかるんだけど、良い写真の多くは最初に行った時、撮ったものに集中しているんだよね」

ならば、その最初の時に見せたっていいじゃないか。制作費がかかる紙の写真集ではできなかったが、負担の少ないデジタル写真集ならばそれが可能だ。

「写真集となると、みんな構えてしまうんだよね。出す意義、大義名分を求めてしまうみたいなところがあるけど、もっと気軽に作ってもいいんじゃないか。音楽だって、詩だって即興で作ることもある。ほかのメディアに比べて写真は歴史が若いんだから、型にはまることはないと思うんだ」

ワークショップの様子。写真を並べて構成を考える。©CRP CROSSROAD PROJECT
©CRP CROSSROAD PROJECT

写真集の楽しみを広く一般へ

一見、写真集は世の中で豊富に流通しているように見えるが、そのほとんどはアイドルやタレントなどの有名人か、犬や猫、名所などを撮ったものだ。
「一つのテーマに沿って写真を並べていくと、その写真は写真の言葉を語り始める。そのメッセージを受け止める楽しさを知っているのは、限られた人たちだけ。それは写真家が一般の人たちをきちんと相手にしてこなかったことでもあるんじゃないかな」

かつて写真家たちのメッセージは、雑誌メディアを通して流通していた。今、それに代わるメディアはない。

「2年前、大型書店に写真雑誌を買いにいったら、写真というジャンルはなく、趣味のコーナーの一部に置かれていた。その時、物凄い危機感を抱いたんだ」

この経験をきっかけに、横木さんは写真にとって新しいメディアは何かを考え始めた。去年、アメリカのCROSSROADに立った時、写真家が交差する場所を作る考えが浮かんだ。

Kindleに取り組んでいる写真家の杉山宣嗣さんに会い、話を聞くと、写真家にとって魅力的なプラットフォームであることが分かった。

「アマゾンの取り分は販売価格の30%(+税)で、それ以外、出品費用なども一切かからない。その写真集はKindleだけでなく、iPadやiPhone、パソコンでも見られるんだ」

CRPを呼びかけた横木安良夫さん。電子出版の可能性を説明してもらった。

CRPをプラットフォームに

インターネットは検索して情報を入手する。検索に引っかからなければ埋もれたまま、流通することはない。例えば現在、「写真集」で検索すれば、アイドル本の情報がずらりと並ぶことだろう。それが写真集の現状だ。
「そのためにCRPというレーベルを立ち上げた。そこに一定数の写真集がまとまれば、ある種の力になるんじゃないか」

ネットという仮想空間の中に、写真という言葉が語る本を集めた場所を作り上げる。そうすれば、そこから何かが生まれるかもしれない。

「今現在は僕の売れている本でも200部ぐらい。宣伝はFacebookだけで、僕の友人は約2,000人。誕生日のアクションに「いいね!」を付けてくれたのは4百数十人。そのパイが世の中に広がれば、どうなるかな。期待を持ってもいいんじゃないかと思う」

カメラがデジタル化され、写真家が特権的に持っていた技術の多くは、誰もが手軽に操れることになった。そうした時代の写真家に求められるのは、その人のバックボーン、どんな作品世界を持っているかといった作家性だ。それを示す場として、デジタル写真集は恰好のアイテムに違いない。

「こうした写真が溜まっていく中で、あるところに行くと、それまでに見えなかった意味が現れるのかもしれない。僕の楽観的な希望かもしれないけどね」

(市井康延)