吉田耕司写真展「月の町 2010-2011」(新宿ニコンサロン)


急な坂道が不規則に曲がりながら上へと続いていた。 家と家の間には細い路地が巡り一度足を踏み入れると方向感覚を失い、迷路の中に入り込んだ錯覚にとらわれた。
「月の町」(韓国語ではタルドンネ)農家からの離散者や1950年に始まった朝鮮戦争の戦場となり避難した人々が移り住んだ町をそう呼ぶ。
かつて都市近郊に点在していたと言う。山裾から中腹へ、時には山頂まで急な斜面と僅かな平地に急ごしらえの粗末な家が建ち並んだ。月に一番近い町。夜、家の中から屋根の隙間を通して月が見えたという。月の町と呼ばれる所以だ。
作者は釜山の山肌にへばり着くように立ち並ぶ家々を巡る路地を歩いた、そして取り壊しが決まっている「月の町」アンチョンマウルを訪ねた。
今では月の光が差し込む粗末な屋根はどこにも無い。屋根瓦や波形のトタン板は形さえ曖昧になるほど分厚く塗り重ねられている。壁はコンクリートに変わり、幾重にも塗り重ねられた塗料が所々はげ落ち地層のように露出していた。
作者が見ていたのはこの町に流れた月日の記憶なのかもしれない、そしてそれはこの町の人の営みの記憶を閉じ込めるかさ蓋の様にも思われた。
「月の町」かつて番地さえ無かったこの町の美しすぎる呼び名。再開発の為に殆どが撤去されている。カラー27点。
(写真展情報より引用)

  • 名称:吉田耕司写真展「月の町 2010-2011」
  • 会場:新宿ニコンサロン
  • 住所:東京都新宿区西新宿1-6-1新宿エルタワー28階
  • 会期:2012年3月27日~2012年4月2日
  • 時間:10時30分~18時30分(最終日は15時まで)
  • 休館:会期中無休

(本誌:鈴木誠)

2012/3/13 00:00