写真を巡る、今日の読書

第122回:シャッターの前後にある時間を意識する。写真を「つくる」プロセスを深める3冊

写真家 大和田良が、写真にまつわる書籍を紹介する本連載。写真集、小説、エッセイ、写真論から、一見写真と関係が無さそうな雑学系まで、隔週で3冊ずつピックアップします。

写真を「つくる」思考

写真制作は、シャッターを切る一瞬だけで完結するものではありません。光を選び、カメラを構え、露出を決める。さらに、RAWデータやフィルムを現像し、プリントや画面で確かめ、写真の並びを組み直し、誰かに手渡す。その1つ1つが、写真に何を写し、どう見せたいのかという判断と結びついています。

技法書は、ともすれば正解へ早く辿り着くための本と思われがちです。しかし、よい技法書はむしろ、写真に向かうための手順をいったん複雑にし、私たち自身の選択を意識させてくれるものでもあります。今回は、デジタル、フィルム、ストーリーテリングという異なる角度から、写真を「つくる」ことを考える3冊について紹介します。

『誰も教えてくれなかった デジタル時代の写真づくり 』芳田賢明 著(印刷学会出版部/2019年)

1冊目は、芳田賢明『誰も教えてくれなかった デジタル時代の写真づくり』です。プリンティングディレクターとしてスキャニングやレタッチ、印刷、画像処理の現場に深く関わってきた著者が、撮影、RAW現像、レタッチ、色管理、印刷とのやり取りまでを1つの制作過程として捉え直します。

本書が扱うのは、ソフトウェアの機能をいかに使いこなすかだけではありません。撮影時の光やカメラの選択が後工程をどう左右するか、モニター上の色と最終的な印刷物の色をどうつなぐか、そして「正しい」色と「よい」色はどこが異なるのか。デジタルの写真制作を支える、見えにくい判断の連なりが丁寧に示されています。

授業でRAW現像を扱う際にも、画面上のスライダーを動かすこと自体が目的になってしまう場面があります。しかし著者が繰り返し示すのは、技術の選択は発想と切り離せず、写真の設計は撮影から現像、出力まで一続きだということです。

その実践的な考え方は、商業写真に限らず、デジタルで制作するすべての写真家にとって有効な視点だと思います。カラーマネジメントをはじめ、撮影から出力までの見落とされがちな判断を広く見渡せる点に、本書の価値があります。

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『フィルム写真の教科書』(玄光社/2012年)

2冊目は、『フィルム写真の教科書』です。モノクローム、カラーネガ、リバーサルといったフィルムごとの特性から、フィルムカメラの扱い、現像やプリントを担うラボまで、フィルム写真を支える多様な工程が紹介されています。

フィルム写真は、しばしばデジタル写真と対置して語られます。しかし本書が伝える魅力は、単なる懐かしさにはありません。撮影直後に画像を確認できないこと、感度やフィルムの種類によって撮影の前提が変わること、現像という時間を経て初めて像が現れること。その制約は、写真の前後にある時間を、撮る側に意識させます。また、フィルム独特の階調性や色再現、粒状性は、デジタル処理とは異なる、物質的な揺らぎや偶然性をも含みます。

本書には技術解説だけでなく、平間至や市橋織江、広川泰士をはじめとした多くの写真家のインタビューや作品も掲載されており、フィルム写真の魅力やフィルムを選ぶ理由が、技術と作品の両面から見えてくるでしょう。既にフィルム写真を扱っている方はもちろん、まだフィルムで撮影したことがない方にも読んでみてほしい指南書です。

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『ストーリーを語る、写真の撮り方 心に残る作品をつくるための5つのステップ』フィン・ビールズ 著(ビー・エヌ・エヌ/2025年)

3冊目は、フィン・ビールズ『ストーリーを語る、写真の撮り方』です。著者は「受注」「準備」「撮影」「編集」「納品」という5つの段階を追いながら、写真のなかにどのように物語を組み込むかを解説します。ここでいうストーリーは、写真に説明的な物語を後から与えることではありません。場所、人物、出来事、光、色、そして一連の写真の順序を通して、見る人の想像力をどこへ導くかを考えることです。

印象的なのは、ムードボードやロケーションハンティング、必要なカットの設計、編集や納品までを、写真の表現と切り離していない点です。1枚の印象的な写真を偶然に委ねず、撮影前から撮影後まで、どのような気分や関係をつくるのかを構想する。その考え方は、クライアントワークを前提とした本書の内容を越えて、個人の作品制作にも十分に応用できます。

本書では各ステップにおいてさまざまな課題が出されますが、はじめの1として挙げられている「被写体を10通りに撮ってみる」という課題も、決定的な1枚を急ぐのではなく、写真同士の関係のなかから物語を見つけ出すための方法として読めました。また、撮影価格の設定や見積もりにも触れている点は、実務書としても貴重です。表現と実務の工程を1つの設計として捉える視点に、本書の独自性があります。

大和田良

(おおわだりょう):1978年仙台市生まれ、東京在住。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業、同大学院メディアアート専攻修了。2005年、スイスエリゼ美術館による「ReGeneration.50Photographers of Tomorrow」に選出され、以降国内外で作品を多数発表。2011年日本写真協会新人賞受賞。著書に『prism』(2007年/青幻舎)、『五百羅漢』(2020年/天恩山五百羅漢寺)、『宣言下日誌』(2021年/kesa publishing)、『写真制作者のための写真技術の基礎と実践』(2022年/インプレス)等。最新刊に『Behind the Mask』(2023年/スローガン)。東京工芸大学芸術学部准教授。