写真を巡る、今日の読書
第119回:読むのが遅くてもいい――「本を読むことの歓び」と出会う3冊
2026年9月16日 07:00
写真家 大和田良が、写真にまつわる書籍を紹介する本連載。写真集、小説、エッセイ、写真論から、一見写真と関係が無さそうな雑学系まで、隔週で3冊ずつピックアップします。
本を読むことの歓び
本を読むことは、はじめから誰にでも自然にできることとは限りません。文字を追っても内容が入ってこないこともあれば、途中で集中が切れたり、何を面白がればよいのかわからなかったりもするでしょう。読書は、速さや冊数を競うものではなく、自分なりの入り口や楽しみ方を見つけていくものではないかと思います。
今回は、本を読むことへの戸惑いと歓び、その先に広がる世界について考えさせてくれる3冊を取り上げてみたいと思います。
『本が読めない33歳が国語の教科書を読む~やまなし・少年の日の思い出・山月記・枕草子』かまど/みくのしん 著(大和書房/2025年)
1冊目は、かまど・みくのしん『本が読めない33歳が国語の教科書を読む』です。文字を読むことに苦手意識を持つみくのしんが、かまどとともに、宮沢賢治「やまなし」、ヘッセ「少年の日の思い出」、中島敦「山月記」、清少納言「枕草子」といった、国語の教科書で親しんだ作品を読んでいく、二人の対話形式で進む読書エッセイです。
本書の面白さは、作品の正しい解釈を導き出すことではありません。1文を読んでは立ち止まり、わからなさを口にし、ふと思い浮かんだことを話す。その一見遠回りにも見える読書の時間が、作品のなかにある言葉や情景を、思いがけないほど鮮やかに立ち上がらせます。学校で「読んだはず」の作品も、大人になって、しかも誰かとの会話のなかで読み直すと、まったく別の表情を見せるのだということがわかります。
読むのが遅いことや、意味をすぐにつかめないことは、むしろ文字を追う時間や戸惑いのなかで、作品に深く触れるきっかけになるとも言えるのではないでしょうか。本書は、読書を得意な人だけのものから解放しつつ、「わからない」と言いながら本に向かうことの楽しさを伝えてくれます。会話と読書の様子を示す写真が豊富に掲載されているため、感覚としてはYouTube動画を文字で読んでいるようでもあり、普段あまり本を読まないかたにも入りやすい構成になっています。
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『人生の土台となる読書 ーーダメな人間でも、生き延びるための「本の効用」ベスト30 』pha 著(ダイヤモンド社/2021年)
2冊目は、pha『人生の土台となる読書――ダメな人間でも、生き延びるための「本の効用」ベスト30』です。本書では、読書には「すぐに効く読書」と「ゆっくり効く読書」があると捉えられています。仕事や生活の悩みに直接答えてくれる本がある一方で、読んだときには役に立つように思えなくても、何年か経ってから自分の考え方や生き方を支えてくれる本もある、ということです。
本書で紹介されるのは、本を読むことで立派になるための読書ではありません。世間の標準的な生き方になじめないときや、自分だけが取り残されているように感じるときに、別の世界や選択肢があることを教えてくれる本です。読書は、誰かの正解をそのまま受け取ることではなく、まだ自分のなかにない言葉に触れる機会でもあります。
本がすぐに人生を変えるとは限りません。しかし、ある情景、登場人物の描写、あるいは言葉が、困難に直面した時期にふと戻ってきて、自分を支えることがあります。phaのいう「ゆっくり効く読書」は、効率や即効性が求められがちな現在だからこそ、いっそう大切に思えます。
読むことが、人生を劇的に変えるためではなく、ひとまず生き延びるための土台になるという感覚には、私自身共感するところがありました。パラパラと読みながら、自分の琴線に触れる本があれば手に取ってみる。そんなブックガイドとして読むのにもよいでしょう。
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『読書を最高のエンターテインメントに 本が大好きになる図書館の使い方』つのだ由美こ 著(秀和システム新社/2025年)
3冊目は、つのだ由美こ『読書を最高のエンターテインメントに 本が大好きになる図書館の使い方』です。図書館が舞台となる映画を入口に、司書である著者が、図書館のさまざまな楽しみ方を案内します。図書館は本を借りるためだけの場所ではありません。人と待ち合わせることもできる。調べものを始めることもできる。気になる本の周辺を歩き回り、予想していなかった1冊に出会うこともできる場所です。
印象的なのは、図書館を「本を読める人が行く場所」としてではなく、本と出会うための開かれた空間として捉えている点です。目的の本がなくても、書架の前に立ち、背表紙を眺めているだけで、世界が少しずつ広がるような感覚を得られることは少なくありません。誰かが選んだ本の並びに身を委ねることは、インターネットで触れる情報とは異なる発見をもたらしてくれるでしょう。
それぞれのトピックでは映画が紹介されるのですが、「ラ・ラ・ランド」「サイレントヒル」「ゴーストバスターズ」「ドクター・ストレンジ」「ハーブ&ドロシー」など、毎日2本以上は映画を観るのが普通という著者ならではの構成になっています。「あの映画で図書館はどう扱われていたかな」といった個人的な興味から読み進めるのも楽しい経験でした。好きな映画のタイトルのところから読んでいく、というのもよいかもしれません。





