リコーGXRスペシャル企画【第3回】小林紀晴「新宿発、茅野行」


 4名の写真家にGXRを使ってもらい、作品を撮っていただきました。第3回は小林紀晴氏の作品です。


GXR+GR LENS A12 50mm F2.5 MACRO



 新宿駅からGXRを持ってあずさ号に乗った。

 しばらく高架を行く中央線。

 冬の空は澄んでいて、気持ちいい。

 やがて、東京が終る。トンネルが幾つも続く。富士山が見えて、ブドウ畑が現れ、甲府駅に着く。3分停車。高校生の頃、よく遊びにきた町。韮崎を過ぎるあたりから、急に勾配がきつくなる。標高が上がる。気圧が変わって耳が変な感じ。いつものこと。左側に甲斐駒ヶ岳が見える。反対側に八ヶ岳が白く輝く。その二つをセットで見ると、帰ってきたんだなあ、と思う。やがて私の故郷、茅野に着く。


GXR+GR LENS A12 50mm F2.5 MACRO

GXR+GR LENS A12 50mm F2.5 MACRO

 GXRで私が特に気に入っているのは50mmのユニット(GR LENS A12 50mm F2.5 MACRO)をつけたときのボケ味だ。これまで、ずっとフィルム中判カメラを好んで使ってきたのは、判型の大きさによる画質のクオリティもあるけど、ボケ味が好きだからだ。できるだけ明るいレンズを使って、開放で撮ることが多かった。6×7カメラに105mmをつけて開放値で撮ったときの、なんとも言えない立体感が好きなのだ。

 GXRもまたコンパクトカメラとは思えない、似たような立体感のあるボケ味で正直、驚いた。気に入った。

 それから最高1/3,200秒というシャッター速度もうれしい。試しに通過駅の案内表示にカメラを向けてシャッターを押し、液晶モニターで見てみると、普通に小さな文字が読める。長い間、中判カメラの最高1/500秒で過ごしてきた私は、軽くふらついた。いつの間にか、世の中、ずいぶん変わってました。


GXR+GR LENS A12 50mm F2.5 MACRO

 電車の車窓から撮る写真といえば、手前をブレによって流して、遠くの風景だけ止めて撮るのが定番というか、そんなふうにしか撮れなかったのだが(私のような中年は、そこに旅情など感じたものだが)、1/3,200秒で撮れば、風景がピタリと止まる。肉眼では見られない車窓の風景が見えた。音がしないような写真。すごいことだ。もし松本清張が生きていたら、それをトリックに新たな鉄道ミステリーのひとつも書いていたのだろうなあと、勝手に想像。きっと、これからの旅情は変わる。デジタルを持てば私も、きっと変わる。


GXR+GR LENS A12 50mm F2.5 MACRO

GXR+GR LENS A12 50mm F2.5 MACRO



(こばやしきせい)1968年長野県生まれ。東京工芸大学短期学部写真科卒業後、新聞社にカメラマンとして入社。91年独立。95年『ASIAN JAPANEASE』でデビュー。アジアを多く旅する。97年『DAYS ASIA』で日本写真協会新人賞受賞。2000-2002年渡米(N.Y)。写真集、著作に『days new york』『SUWA』『はなはねに』『父の感触』『十七歳』など。.最新作に『昨日みたバスに乗って』がある。
http://www.kobayashikisei.com/
http://www.daysphotopress.com/でブログ更新中。

2010/3/3 00:00