【新製品レビュー】ソニーα55
ミラーレスモデルNEX-5/NEX-3で勢いづくソニーが新たにリリースしたデジタルカメラである。特徴的なのはハーフミラーを使ったレフレックスミラーを採用し、一眼レフ並のAFスピードを実現したEVF機としていることだろう。
発売日は9月10日。執筆時における大手量販店でのボディ単体実勢価格は8万9,800円である。
■位相差AFとライブビューのコンビネーション
ソニーα55は他に例を見ないユニークな構造のデジタルカメラである。外観は一眼レフのようだが、本来ファインダースクリーンとペンタプリズム(もしくはペンタミラー)が収まる“ペンタ部”にはAFセンサーとEVFを内蔵。レフレックスミラーを固定式のハーフミラーとすることで、一部の光(ほんの数パーセントだという)をそのAFセンサーへと常時導く。
搭載するAFセンサーは位相差方式で、同社ではハーフミラーも含むこの機構の総称を「Translucent Mirror Technology」と名付けている。その特徴は、連続撮影中および動画撮影中でも常に測距が可能であること、ミラーの作動を必要としないためミラーショックがなく、より高速な連写が行なえること、カメラ背面にある液晶モニターを使ったライブビュー撮影でもこの位相差方式のAFが使えるため、使い勝手がEVFと変わらないことなどが挙げられる。従来の一眼レフでも一部分をハーフミラーなどにしたレフレックスミラーとサブミラーを介し、ミラーボックス底部にあるAFセンサーに光を送り測距を行なっているが、露光中に測距を行なうことは基本的には不可能であるし、液晶モニターでのライブビュー撮影では、位相差方式で測距を行なうとミラーがダウンするためワンテンポ遅れてシャッターが切れてしまう。α55はそのことを見事に解決したといってよい。なお、ハーフミラーの光はこのAFセンサーのためだけで、EVFに表示される画像はイメージセンサーからのスルー画となる。AFセンサーは中央タテ3点がクロスタイプの15点となる。
本来ならファインダースクリーンのあるミラーボックス上部の四角い開口部の奥にAFセンサーが備わる | イメージセンサー清掃のためにハーフミラーを跳ね上げることができる。この状態でのレンズの装着はできない |
ハーフミラーによってレンズから入ってきた光の一部をミラーボックス上部のAFセンサーに導く。ハーフミラーの光っている部分に、AFセンサーの影が薄く映っている |
実際に使った印象でも、当然のことながらAFのレスポンス、測距スピード、使い勝手ともこれまでのデジタル一眼レフカメラとまったく変わらない。シャッターボタンの半押しを開始すると、そう時間を置かずピントを合わせたフォーカスエリアのスーパーインポーズが一瞬緑色に点灯し合焦を知らせてくれる。コントラスト方式のAFがいくら速くなったといえ、位相差方式のこのスピードにはやはり敵わない。連続撮影はハイエンド一眼レフ並みの最高10コマ/秒を実現。そのコマ速でも、動く被写体でも前述のとおりAFが追従するのには驚かされる。
ただし、シャッターを切り終わると、画面が一瞬消え何も見えなくなるのはこれまでのEVF機と同様だ。このあたりについては、従来からの一眼レフカメラのほうが、すぐに画像が復活するので使い勝手はいい。とはいえEVFで得られるメリットも多く、露出の状況、ホワイトバランスの色あいなどあらかじめ把握しておくことができ、暗い場所での撮影でも被写体の状況を見極めやすい。ファインダーを覗いたまま撮影した撮影画像をすぐに確認することもできる。EVFの有効画素数は115万2,000ドット、視野率100%、倍率は1.1倍。ファインダー像はフルサイズデジタル一眼レフα900に迫る大きさを誇る。
話しは少々脱線するが、ハーフミラーの組み込まれたミラーボックスを持つα55だが、カテゴライズするとなると、やはり“一眼レフ”とはいい難い。一眼レフのレフとは、ファインダースクリーン/ペンタプリズムに光を導くミラーのことを指すとするなら、α55のミラーにはその働きがないからである。パナソニックLUMIX DMC-G2/GH2などのようにEVFを内蔵したミラーレスモデルと同じカテゴリーといってよいだろう。ただし、α55のレンズマウントはNEX-5/NEX-3に採用されるEマウントではなく、一眼レフαシリーズ用のAマウントを採用する。ミラーレスモデルの登場以来その呼称が未だ明確に定まっていないが(ミラーレスという呼称も、ここでは便宜上使用している)、さらに話を複雑にしてしまうカメラが登場したものだ。
■マルチショットNRで高感度撮影でも低ノイズ
話しを元に戻そう。α550までのカメラ上部のシェイプは、独特のオーバル状のエッジになっていたが、α55ではスクエアないわゆるフツーっぽい形状となった。シェイプの面白さから見れば平凡といえるものであるが、こちらのほうが一般ユーザーの受けはよさそうだ。ボタン類のレイアウトにも変更があり、カメラ上部にあったISO感度とドライブモードボタンは背面にある十字キーと兼用に、代わりに動画撮影ボタンが備わった。十字キーではそのほかディスプレイ表示とホワイトバランスの選択も行なえるようになった。メモリーカードスロットはカメラ底部のバッテリーボックス内に移動したが、三脚を使用したときなど不便に感じることもありそうだ。メモリーカードはSDXC/SDHC/SDメモリーカードのほか、メモリースティック(PROデュオ/PRO-HGデュオ)も使用できる。
液晶モニターも進化した部分だ。これまでαシリーズの可動式液晶モニターは上下方向にしか動かなかったが、α55では上下のほか左右にも動くようになった。ヒンジはカメラ底部となるタイプで、上下方向に180度、左右方向は270度回転し、使い勝手は大きく向上している。液晶モニターを使用しないときなどボディに側に折り畳むことも可能だ。見た目にヒンジの出っ張りが大きく感じられるものの、カメラを構えたときなど気になるようなことはなかった。ディスプレイは「TruBlack」技術を搭載するエクストラファイン液晶で、大きさはワイドタイプの3インチ、画素数は92万ドットとなる。
従来の一眼レフから変わったところのないように見える“ペンタ部”。アイピースが上方向に可動すると使い勝手は向上しそうだ | 巧みな仕掛けでより高くポップアップする内蔵ストロボ。ガイドナンバーは10(ISO100・m)で、焦点距離18mmをカバーする |
上下方向に180度、左右方向は270度回転する液晶モニター。ヒンジはカメラ底部に備わる。サイズは3インチで、画素数は92万ドット | “デジタル一眼”として初めてGPSを内蔵する。アンテナを兼ねるユニットをアクセサリーシューに取り付ける必要がなくなった |
α550の独特なシェイプから一般的なシェイプとなった軍艦部。動画撮影ボタンが新たに加わる | これまでのαシリーズ同様、独自の形状のアクセサリーシューを採用する |
撮影モードには「AUTO」のほか「AUTO+」が加わった。シーン認識の幅が広く、自動制御される設定の多いモードだ | メモリーカードスロットはバッテリーボックス内に備わる。SD/SDHC/SDXCカードのほか、メモリースティック(PROデュオ/PRO-HGデュオ)も使用可能 |
キーデバイスとなるイメージセンサーには、新開発の有効1,620万画素「Exmor APS HD CMOS」を採用。画像処理エンジン「BIONZ」も高速撮影を考慮して新開発のものとしている。常用感度はISO100〜12800。高感度域のノイズレベルはこれまでさほど変わらないが、新たに搭載された「マルチショットNR」を使用すれば、ぐっとノイズレベルは低下する。これは6枚の画像を重ねて合わせノイズを低減させる機能で、約2段分の低ノイズを実現するという。通常のISO12,800で撮影したカットとマルチショットNRを使い同じ感度で撮影したカットを掲載するのでぜひ見くらべて頂きたい。また、この機能を使えばISO25600での撮影も可能としている。ダイナミックレンジ拡大機能として「オートHDR」がこれまで同様搭載されているが、通常撮影に対し最大6.0EVまでダイナミックレンジが拡大され、より強い効果が得られるようになったところも特筆すべきところだ。
スイングパノラマ機能はAマウントのカメラとしては初めての採用となる。撮影方法はNEX-5/NEX-3やサイバーショットと同じで、ファインダーを覗きながらの撮影も可能。状況によっては、他のモデル同様、スイングしている最中にパノラマ撮影を勝手に止めてしまうこともあるけれど、ある程度コツを掴んでしまえば撮影は楽しい。なお、同社の「3D BRAVIA」など3D対応機種を使えば、立体的なパノラマ写真の楽しめる3Dスイングパノラマにも対応している。
撮影した位置情報をExifに記録するGPS機能を内蔵しているもの目新しいところ。こちらもBRAVIAとの連携が可能で、フォトマップ機能を使えば表示した写真の位置情報が地図となって確認できる。
動画機能が充実しているのもα55の特徴だ。1,920×1,080ピクセルのフルHD対応でファイル形式はAVCHDを採用、フレームレートは29.97fpsとなる。動画撮影中でもTranslucent Mirror Technology によりAFがフルタイムで可能で、使い勝手は民生用のカムコーダーに引けをとらないといってよい。これまで一眼レフの動画機能が苦手としていた運動会などスポーツイベントでも活躍しそうだ。もちろんセンサーサイズを活かした立体感のある大きなボケが得られることはいうまでもない。
6枚の画像を重ね合わせ最大2段分の低ノイズを実現するマルチショットNRを搭載。最高ISO25600での撮影を実現する | 最高10コマ/秒の連続撮影が可能。フルタイムAFにより連続撮影時でも精度の高いピント合わせが可能 |
α550と同じく、Dレンジオプティマイザー(左)とオートHDR(右)を使い分けることが可能 |
水平および垂直の傾きを表示する電子水準器 | レンズキットとして付属するDT18〜55mmF3.5-5.6 SAMのエンドキャップはちょっとお粗末 |
EVFの画面表示。3つから選択できる。右から基本情報表示、水準器表示、情報表示あり |
■ソニーらしさと高い訴求力を持つカメラ
「似て非なるもの」−−これが、ソニーα55を一週間ほど使ってみた私の感想だ。外観こそこれまでのデジタル一眼レフと同じだが、その基本的な構造は異なるし使い勝手も少々違う。ここで是非を問うつもりはないが、一眼レフの光学ファインダーに馴れた身には、他のEVF機同様、少々違和感を伴ってしまうのは正直なところである。
しかし、一方では、ソニーは思い切ったことをやってくれたと素直に関心する。ハーフミラーを使いハイエンドクラス並みの高速連写と静止画、動画を問わない常時AFを実現してくれた。これまで、デジタル一眼レフではなかなか同社らしい独自性を打ち出すことができなかったが、やっと“ソニーらしさ”が出てきたといえる。EVFの見え具合は光学ファインダーにまだまだ及ばないところがないわけでもないが、α55は高い訴求力を持つカメラに仕上がっている。
■実写サンプル
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、別ウィンドウで800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
・感度
ISO100 α55 / DT 18-55mm F3.5-5.6 SAM / 約5.2MB / 4,912×3,264 / 1/8秒 / F8 / -0.3EV / WB:太陽光 / 18mm | ISO200 α55 / DT 18-55mm F3.5-5.6 SAM / 約5.3MB / 4,912×3,264 / 1/15秒 / F8 / -0.3EV / WB:太陽光 / 18mm |
ISO400 α55 / DT 18-55mm F3.5-5.6 SAM / 約5.2MB / 4,912×3,264 / 1/30秒 / F8 / -0.3EV / WB:太陽光 / 18mm | ISO800 α55 / DT 18-55mm F3.5-5.6 SAM / 約5.2MB / 4,912×3,264 / 1/60秒 / F8 / -0.3EV / WB:太陽光 / 18mm |
ISO1600 α55 / DT 18-55mm F3.5-5.6 SAM / 約5.2MB / 4,912×3,264 / 1/125秒 / F8 / -0.3EV / WB:太陽光 / 18mm | ISO3200 α55 / DT 18-55mm F3.5-5.6 SAM / 約5.4MB / 4,912×3,264 / 1/250秒 / F8 / -0.3EV / WB:太陽光 / 18mm |
ISO6400 α55 / DT 18-55mm F3.5-5.6 SAM / 約5.7MB / 4,912×3,264 / 1/500秒 / F8 / -0.7EV / WB:太陽光 / 18mm | ISO12800 α55 / DT 18-55mm F3.5-5.6 SAM / 約5.7MB / 4,912×3,264 / 1/1,000秒 / F8 / -0.7EV / WB:太陽光 / 18mm |
・マルチショットNR
マルチショットNR(ISO25600) α55 / DT 18-55mm F3.5-5.6 SAM / 約5.3MB / 4,912×3,264 / 1/1.7秒 / F16 / +0.7EV / WB:オート / 45mm |
・連写
※共通データ:α55 / DT 18-55mm F3.5-5.6 SAM / 約8.4MB〜約8.7MB / 3,264×4,912 / F11 / +0.3EV / ISO400 / WB:オート / 18mm
※共通データ:α55 / DT 55-200mm F4-5.6 SAM / 約3.7MB〜約4.8MB / 3,264×4,912 / F7.1〜F9 / +0.3EV / ISO400 / WB:オート / 200mm
・Dレンジオプティマイザー
Dレンジオプティマイザー:切 α55 / DT 18-55mm F3.5-5.6 SAM / 約3.1MB / 4,912×3,264 / 1/25秒 / F8 / -0.3EV / ISO100 / WB:太陽光 / 20mm |
・オートHDR
オートHDR:オート α55 / DT 18-55mm F3.5-5.6 SAM / 約3.1MB / 4,912×3,264 / 1/20秒 / F8 / -0.3EV / ISO100 / WB:太陽光 / 20mm |
・スイングパノラマ
α55 / DT 18-55mm F3.5-5.6 SAM / 約4.3MB / 8,192×1,856 / 1/160秒 / F7.1 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 18mm |
・手持ち夜景モード
α55 / DT 18-55mm F3.5-5.6 SAM / 約5.4MB / 3,264×4,912 / 1/60秒 / F5 / 0EV / ISO3200 / WB:オート / 35mm |
・そのほか
α55 / DT 18-55mm F3.5-5.6 SAM / 約5.6MB / 4,912×3,264 / 1/125秒 / F10 / 0EV / ISO800 / WB:オート / 55mm | α55 / DT 18-55mm F3.5-5.6 SAM / 約4.5MB / 4,912×3,264 / 1/320秒 / F8 / -0.3EV / ISO800 / WB:オート / 45mm |
α55 / DT 55-200mm F4-5.6 SAM / 約3.2MB / 3,264×4,912 / 1/250秒 / F8 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 200mm | α55 / DT 55-200mm F4-5.6 SAM / 約3.2MB / 4,912×3,264 / 1/250秒 / F8 / -0.3EV / ISO100 / WB:オート / 200mm |
α55 / DT 55-200mm F4-5.6 SAM / 約8.5MB / 4,912×3,264 / 1/400秒 / F8 / -0.7EV / ISO200 / WB:オート / 75mm | α55 / DT 55-200mm F4-5.6 SAM / 約7.4MB / 3,264×4,912 / 1/400秒 / F8 / -0.7EV / ISO200 / WB:オート / 55mm |
α55 / DT 18-55mm F3.5-5.6 SAM / 約7.0MB / 4,912×3,264 / 1/500秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 55mm | α55 / DT 18-55mm F3.5-5.6 SAM / 約7.2MB / 3,264×4,912 / 1/60秒 / F5 / -1EV / ISO400 / WB:オート / 40mm |
α55 / DT 55-200mm F4-5.6 SAM / 約7.4MB / 4,912×3,264 / 1/400秒 / F5.6 / 0EV / ISO400 / WB:太陽光 / 85mm | α55 / DT 18-55mm F3.5-5.6 SAM / 約7.4MB / 3,264×4,912 / 1/125秒 / F5.6 / 0EV / ISO400 / WB:太陽光 / 26mm |
α55 / DT 55-200mm F4-5.6 SAM / 約4.8MB / 4,912×3,264 / 1/500秒 / F8 / -0.3EV / ISO100 / WB:太陽光 / 200mm | α55 / DT 55-200mm F4-5.6 SAM / 約4.4MB / 4,912×3,264 / 1/320秒 / F8 / -1EV / ISO100 / WB:太陽光 / 200mm |
2010/9/29 00:00