気になるデジカメ長期リアルタイムレポート
PENTAX K-30【最終回】
14bit機との画質比較とHDRの威力
Reported by 大高隆(2013/7/22 08:10)
「K-30」が発表されたとき「これはK-rの後継機? それともK-5の後継機?」という疑問がささやかれた。視野率100%のペンタプリズムファインダーや2ダイヤル操作系など、それまでペンタックスの上級機だけの特徴だった仕様が惜しげもなく投入されていたからだ。この路線変更が意味するものは、高級機・中級機・入門機というヒエラルキーではなく、各機種の個性を明確にすることで、松・竹・梅とは違うラインナップを作り上げるという戦略だったのだろう。そこでK-30に与えられた個性は“高速機”というものであり、その実現のため、K-30は内部処理を12bitで行なっている。
同じ1,600万画素でも12bitで扱えば、K-5系の14bit処理に較べ、素子からの読み出しをはじめデジタル補正、カードへの読み書きなどすべてが高速化される。一方12bit化は即ち情報量の制限であり、素人考えでは画質の劣化が懸念されるが、同じ被写体を撮ったデータで比較しても、人間の視覚で14bitと12bitの違いを見分けることはできないと言われている。JPEG撮影ならそこからさらに8bitに落とすわけで、その際に使われる変換テーブルの出来のほうがよほど画質に影響する。
実際の画質の差はどの程度なのか。12bitのK-30と14bitの先代K-5、さらにローパスレスのK-5 IIsも交えて、簡単なテストを行なった。ハイライトのトーンと解像力を見るため、白い幾何学模型と孔雀の羽をアレンジして撮影した。記録モードはいずれも「JPEGフル解像度/最高画質」だが、K-30は最高画質が「★★★」のスーパーファインであるのに対し、K-5系は「★★★★」のプレミアムになる。この仕様の差は12bitと14bitの違いに由来するものなので、ここではスーパーファインに統一することを避け、それぞれの最高画質に設定した。デジタル補正機能はすべてOFFで撮影している。
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
ご覧のように、JPEG撮影ではそれぞれの差がまったくわからない。わずかにK-5の解像力が落ちるかというくらいだ。これでは比較の意味がないので、同じカットのRAWファイルからJPEGに展開したもので見ていただこう。
RAW撮影で比較すると、K-5 IIsがシャープなのは当然として、K-30のセンサーがK-5のものを越える先鋭性をもっていることがわかる。ご承知の方も多いはずだが、K-30にはローパスフィルターの効果を弱めた撮像素子が採用されている。この素子はK-01から継承したもので、従来のローパスフィルター付き素子よりも高い先鋭性を持つ。孔雀の尾羽のディテールで比較すると、K-30とK-5 IIsでは解像しているのにK-5では完全に消えてしまっているところすらある。
シャープであるということはディテールがくっきりと描写されるということであり、ハイライトのトーンも飛びにくくなる。結果、白のグラデーションについても劣化と言えるような差はなく、幾何学模型のハイライトのトーンから細かい傷の様子までよく表現している。「RAWで撮ればわかる」という程度の画質の差をどう判断するかは個人の価値観の問題なので結論は避けたいが、少なくとも高速性とひきかえに画質が犠牲になっている部分は見当たらないと言ってよいだろう。
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データ処理が速いK-30では、速写性にほとんど影響を受けることなくデジタル補正の恩恵を受けることができる。これはズームレンズを使うユーザーにとっては大きなメリットだ。私はレンズテスト以外の一般撮影では、色収差/ディストーションの2つの収差補正はオンにし、ハイライト/シャドウ補正も「オート」に設定して使っている。そして、収差補正以上に演算速度向上の恩恵を受けるのがHDR撮影だ。
HDRは露出を変えて3回撮影した中のアンダー/オーバーのコマからハイライトとシャドウの部分を抽出して標準露出のデータに合成し、ハイライトとシャドウを回復する技法。効果は弱いほうから0/1/2/3とあり、加えてオート(HDR AUTO)もある。
ダイナミックレンジ拡大にはHDR AUTOが最も有用で、HDR 1でも強すぎ、HDR 2とHDR 3 に至ってはもはや特殊効果の部類という印象がある。念のため夜景でも試してみたが、やはり有用なのはHDR AUTOかHDR 1という結果だった。さすがにわざわざ設定されているだけあり、HDR AUTOは本来の目的に対し、よくチューニングされているようだ。
HDR撮影は三脚の使用を前提としているが、K-30の場合、撮影画像を解析して位置合わせの上で合成する「自動位置調整」機能が入っているので、日中屋外であれば手持ちでのHDR撮影も充分に可能だ。
左下に挙げた作例は、三脚を使わずに手持ちでHDR撮影したもの。右側のビルのタイル辺りのディテールを見ても位置合わせのズレなどはなく、自然な合成が行なわれている。一方、画面の中に繰り返しパターンがあると、位置調整に失敗して画像がずれてしまうことがまれに起こる。右下に挙げた例では、右寄りにあるビルの窓の繰り返しが原因でエラーが起こり、窓1個分幅がずれて合成されてしまった。
三脚を使えばこのようなエラーは起こりようもないが、機動性が損なわれる。合成処理にかかる時間は10秒前後なので、被写体によってはその都度結果を確認し、もし失敗していれば改めて撮り直せばいいだけの話だ。
JPEG撮影でダイナミックレンジを拡張する方法は、HDRとハイライト/シャドウ補正の二通りがあるが、ハイライト/シャドウ補正が1回の露光で完結するのに対し、HDRは3回の露光を必要とするため特殊技法とみなされている。ただし補正効果はHDRの方が大きい。積極的に手持ち撮影でHDRを試みることによって、いままではあきらめていた難しい光線状態を1枚の写真に収めることができるかもしれない。
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少し話はそれるが、最後に現像ソフト(RAWコンバーターソフト)の話題に触れておきたい。
実をいうと私のところではK-30はほとんどJPEG専用機として使っていた。なぜかと言うと、主に使っているRAWコンバーターソフトである「Capture One Pro」が、PENTAXのDNGファイルをサポートしていなかったからだ。
元々ペンタックスのRAWファイルはPEFという独自形式だったが、その後Adobeが提唱したDNGをサポートするようになり、その結果、PEFとDNGのいずれかを選択できる仕様に落ち着いていた。
一方、Capture One Proの開発元であるPHASE ONEは公式に「ペンタックスのRAWはPEFだけをサポートする。DNGのサポートをする予定はない」という方針を堅持して来た。ところが最近新開発されたペンタックス製品はすべてRAWのフォーマットがDNGだけになってしまいPEF記録ができない。K-30もその例に漏れず、RAWで撮影したファイルをCapture Oneで現像できなかった。
この状況が続くと、K-5系がなくなった時点でペンタックスのカメラはCapture One Proで扱うことができなくなってしまうため、ユーザーからはペンタックスのDNGファイルのサポートを求める要望が多く寄せられていたようだ。その甲斐あって、先頃リリースされたCapture One Pro 7.1.2で状況に変化があった。
バージョン7.1.2の段階では未だ正式サポートとなっていないため、デフォルトでK-30のDNGファイルに適用されるのはAdobeのDNGファイル用のプロファイルだが、カラー管理タブを開き、K-30のDNGファイル用プロファイルを指定してやることで、RAW展開が可能になっている。
私はまだアップデートを控えているのだが、その後公開された最新版のCapture One Pro 7.1.3で、ついにペンタックスのDNGファイルが、正式なサポートリストに含まれるようになったようだ。これは、噂される35mmフルサイズ撮像素子搭載の次期ペンタックスデジタル一眼レフがデビューした際、そのRAWファイルのフォーマットがDNGだけであったとしてもCapture Oneでサポートされる可能性が大きいことを意味する。プロ用RAWコンバーターソフトの標準というCapture Oneの位置づけを考えれば、非常に大きな意味のある展開だと言える。
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プロ写真家が仕事用のカメラを選ぶ場合には画質が最優先される。しかしカメラの選択基準は画質だけではなく、“写真以外の分野のエキスパート”が、仕事上必要な写真を撮影する相棒としてのカメラを選ぶとき、デジタルカメラならではの恩恵を享受するのに有利な高速12bit機をあえて選択するのもよい考えだ。
ボディ単体での単3型電池対応や、ボディの防塵防滴性能に加え、普及価格帯にある簡易防塵防滴のWR仕様レンズの充実など、トータルシステムで見た場合の使いやすさや買いやすさにおいて、K-30はいまだ魅力的な存在である。この長期レポートは今回で最終回となるが、K-30はまだまだ現役であり、松に対しての竹ではなく、K-5 II/K-5 IIsと並ぶ中核モデルとして活躍し続けるだろう。