気になるデジカメ長期リアルタイムレポート

キヤノンEOS M【第6回】

スクエア画面の対角線魚眼で遊んでみる

 ずいぶん昔のことだが、ハッセルブラッドのレンズのカタログに魚眼レンズで撮った男性ポートレートが載っていた。コンサートホールか何かの建物の中で、青焼きの図面を広げたテーブル越しに建築家らしい男性を撮ったものだったが、魚眼レンズなのになぜかものすごく自然な写りだったのが強く印象に残っている。

 その後、分不相応にも500C/Mを買ったのだが、当然のことながらレンズが高くてなかなか手が出ない。魚眼レンズなんかはなおさらだ。当時の価格は覚えていないが、手もとのデータには72万円なんて数字が残っている(最後に更新した日付は不明ですけど)。ブロニカSQ-Aとかだったら軽く一式そろえられそうなお値段である。そんなわけだから、6×6cm判の魚眼レンズを試してみる機会に恵まれないまま今に至っている。

 ところで、35mmフルサイズ用の円周魚眼レンズの円像の直径は、画面の短辺よりも少し小さくないといけないから、22mmとか23mmぐらいのはずである。一方、EOS Mの撮像画面サイズは22.3×14.9mm(対角線長は約26.8mmである)。これを正方形画面にトリミングすると、14.9×14.9mmだから対角線長は約21.1mm。ぴったりじゃないけど、けっこう近い。正方形画面の対角線魚眼レンズ(画角は180度より少し狭いバージョン)として使えることになる。

 ちなみに、キヤノンの場合、EOS 60D以降の一眼レフ(EOS-1D XとEOS Kiss X50を除く)にはアスペクト比切り替え機能が搭載されているが、どれもライブビュー撮影時だけ有効となる。ファインダー撮影時は3:2比率のみなので、正方形画面で撮りたいときは、電源を入れてライブビューに切り替えてという2段操作が必要になる。ちょっとめんどくさい。その点、EOS Mはいつだってライブビュー。というか、ライブビューしかない。なので、アスペクト比を変えて撮るには好都合なのだ。

 6×6cm判の魚眼レンズは、ファインダーをのぞくことすらできなかったが、EOS Mとフルサイズ用の円周魚眼レンズの組み合わせなら試せなくはない。画角が180度ないにしても、である。ならばやってみるべし。という次第である。

 問題は、フルサイズ用の円周魚眼レンズがほとんどないということ。オーソドックスな単焦点の円周魚眼レンズは、シグマの「8mm F3.5 EX DG Fisheye」しかないし、ほかはキヤノンの「EF 8-15mm F4 L Fisheye USM」だけ。キヤノンユーザーだけは選択肢が2つあるが、それ以外のユーザーはシグマの“一択”状態。と思ったら、シグマのはキヤノン、シグマ、ニコンの3マウントしか用意されてない。ソニーとペンタックスのユーザーには選択肢がないんである。

 一応書いておくと、APS-Cサイズ用の対角線魚眼ならシグマ「10mm F2.8 EX DC Fisheye HSM」のほか、ペンタックスの「DA Fisheye 10-17mm F3.5-4.5 ED[IF]」とトキナーの「AT-X107DX Fisheye」(10-17mm F3.5-4.5)がある。長方形画面での対角線画角は180度だが、正方形画面にトリミングすれば画角はぐっと狭くなってしまう。もちろん、それでも魚眼レンズらしい画面効果は得られるが、どうせなら魚眼レンズらしい画角も楽しみたい。

 というのもあって、今回は純正のEF 8-15mm F4 L Fisheye USMを借りてみた。このレンズは、フルサイズでは円周魚眼と対角線魚眼の2種類の魚眼レンズとして使えるほか(ズームなのであいだの焦点距離もあるのだが、中途半端なケラレが生じるだけなので、実質使えるのは両端だけである)、APS-Hサイズでは約12-15mmの、APS-Cサイズでは約10-15mmの魚眼ズームとして活用できるという、とてもユニークな特徴を持っている。

マウントアダプター「EF-EOS M」ときれいにつながっているせいで大きく見えるが、レンズ自体はわりとコンパクト。重さもそれほどではないので手持ち撮影も楽ちんだ。

 Lレンズとあって、お値段は15万7,500円もするが、単焦点の「EF 15mm F2.8 Fisheye」(生産終了)が10万9,200円だったのを考えれば高すぎとは言えないだろう。ちなみに、シグマのフルサイズ用円周魚眼の8mm F3.5 EX DG Fisheyeと対角線魚眼の「15mm F2.8 EX DG Fisheye」に、トキナーのAPS-Cサイズ用魚眼ズームのAT-X107DX Fisheyeの3本を買うと24万3,600円になる。フルサイズとAPS-Cサイズのカメラを併用している魚眼好きなら、むしろお買い得に感じるんではないかと思う。

 EF 8-15mm F4 L Fisheye USMは、ズームの焦点距離目盛とは別に「C」と「H」のマークがあって、それぞれAPS-CサイズとAPS-Hサイズでケラレのない撮影ができるポジションを示している。なお、焦点距離を10mmよりも長い側にした状態でズームリミッターを「LIMIT」にセットすると、焦点距離の範囲が約10-15mmに制限できる。つまり、ケラレの心配をせずに撮影できるわけだ。

「H」はAPS-Hサイズ(EOS-1D Mark IVまで)、「C」はAPS-Cサイズをあらわしていて、それぞれのポジションより望遠側ではケラレが生じない。
ズームリミッターを「LIMIT」側にセットすると、APS-Cサイズでケラレが生じないズーム範囲に制限される。つまり、10-15mmの魚眼ズームになるわけ。

 それはさておき、このレンズの画角の表示がちょっと謎っぽくておもしろい。対角線画角が180度0分から175度30分と書かれているのである。画角の変化量がたったの30分。1度の半分しかないのである。と言うのは、広角端は円周魚眼なので180度、望遠端は対角魚眼なので、これも本来は180度であるべきなのだが、至近側でイメージサークルが小さくなるという特性の分、少し余裕を見込んでいるので画角が狭くなっているわけだ(無限遠でイメージサークルいっぱいに使うと、至近側でケラレが生じてしまうから)。

 と言うのも置いといて。ニコンはDXフォーマット(APS-Cサイズ)のカメラに装着したときの画角も併記しているが、キヤノンはフルサイズ対応のレンズはフルサイズの画角しか公表していない。なので、このレンズをAPS-Cサイズのカメラで撮るときの画角はわからない。

 ズームリングをぐりぐりやりながら画面を見ていると、10mmの目盛よりも少し広角寄りのところでケラレは出なくなる(Exif情報の数字は9mmになっていた)。つまり、そのあたりが対角線画角180度のポジションになるわけだ。が、リミッターを使っての広角端は10mmで、そのときの画角は180度よりも狭い。で、1:1比率で8mmにセットした状態で撮ったのは、もう少し画角が狭い。数字にしてどれぐらいなのかというのはよく分からないけど、まあ、それでも魚眼レンズらしい広さはキープできているようなので、いろいろ遊べるんではないかと思う。

 それと、付属のレンズフードだが、これはフルサイズの対角線魚眼撮影用(つまり、15mm側用)で、円周魚眼撮影時(つまり、8mm側である)はフードなしで撮ることになる。

付属のレンズフード。対角魚眼撮影時に装着する。残念ながら、正方形画面の対角魚眼撮影ではちょっぴりケラレが生じた。

 ただし、カメラがAPS-CサイズのEOS Mなので、もしかしたらと思って試してみたら、画面の下側に少しだけフードの端が写り込んでいた。使用説明書には「イメージサークルの中心と撮像画面の中心がずれることがあります」「画面の四隅のケラレが均一にならない場合があります」と書かれている。そういうこともあるんだねぇ、って感じである。なので、今回はフードを外して撮影しているが、自前のレンズなら、思い切ってフードの一部を削ってしまうという改造もありだと思う。もちろん、自己責任でやらないとダメですけどね。

画角とケラレ

 3:2比率の画面だと、ズームの広角端では画面周辺部が丸くケラレてしまう。少し望遠側にズームするとケラレは消えるが、ズームリミッターを使ってレンジを制限すると確実。3:2比率のまま使うなら、このやり方がベストだ。

焦点距離8mm、3:2比率
3:2比率のフル画面で焦点距離8mmで撮ると、イメージサークルが足りないので周辺部がケラレてしまう。EOS M / EF 8-15mm F4 L Fisheye USM / 絞り優先AE / 5,184×3,456 / 1/640秒 / F8 / -0.3EV / ISO100 / WB:オート / 8mm(12.8mm相当)
焦点距離9mm、3:2比率
ちょっと望遠側にズームして、ケラレがほぼなくなったところで撮ったカット。たぶん、対角線画角は180度よりほんのちょっと狭いだけという状態。EOS M / EF 8-15mm F4 L Fisheye USM / 絞り優先AE / 5,184×3,456 / 1/640秒 / F8 / -0.3EV / ISO100 / WB:オート / 9mm(14.4mm相当)
焦点距離10mm、3:2比率
ズームリミッターを使っての広角端。さらに少し画角は狭くなるが、代わりにケラレの心配はなくなる。EOS M / EF 8-15mm F4 L Fisheye USM / 絞り優先AE / 5,184×3,456 / 1/640秒 / F8 / -0.3EV / ISO100 / WB:オート / 10mm(16mm相当)
焦点距離15mm、3:2比率
望遠端の15mmで撮ったカット。これだと歪曲収差が多めの広角レンズという感じ。EOS M / EF 8-15mm F4 L Fisheye USM / 絞り優先AE / 5,184×3,456 / 1/640秒 / F8 / -0.3EV / ISO100 / WB:オート / 15mm(24mm相当)
焦点距離18mm、3:2比率
こちらは標準ズームの広角端。18mmって狭いのだ。EOS M / EF-M 18-55mm F3.5-5.6 IS STM / 絞り優先AE / 5,184×3,456 / 1/640秒 / F8 / -0.7EV / ISO100 / WB:オート / 18mm(28.8mm相当)

 で、1:1比率にした場合はと言うと、8mmのままでもケラレは生じない。画角は180度よりは狭くはなるが、それなりに魚眼レンズらしい広さ。そんなわけで、正方形画面の対角線魚眼撮影が楽しめるようになった次第である。

焦点距離10mm、1:1比率
本題の正方形画面。焦点距離10mmのままで1:1比率にするとこんな感じ。これでもそれなりに画角は広い。EOS M / EF 8-15mm F4 L Fisheye USM / 絞り優先AE / 3,456×3,456 / 1/640秒 / F8 / -0.3EV / ISO100 / WB:オート / 10mm(16mm相当)
焦点距離8mm、1:1比率
こちらは8mmでのカット。対角線画角は180度よりも狭め。どう測ればいいのか分からないので数字で何度とかは不明ですが。EOS M / EF 8-15mm F4 L Fisheye USM / 絞り優先AE / 3,456×3,456 / 1/640秒 / F8 / -0.3EV / ISO100 / WB:オート / 8mm(12.8mm相当)
焦点距離8mm、1:1比率(フード装着)
付属のレンズフードを装着したところ。画面の下側にだけほんのちょっぴりケラレが生じている。自前レンズならフードぐらい削っちゃう。EOS M / EF 8-15mm F4 L Fisheye USM / 絞り優先AE / 3,456×3,456 / 1/640秒 / F8 / -0.3EV / ISO100 / WB:オート / 8mm(12.8mm相当)

作例

普通のレンズならこの階段だけでも画面におさまりきらないのに、魚眼だと楽勝過ぎて街灯のてっぺんまでばっちりだ。EOS M / EF 8-15mm F4 L Fisheye USM / 絞り優先AE / 3,456×3,456 / 1/320秒 / F8 / -0.7EV / ISO100 / WB:オート / 8mm(12.8mm相当)
画面右上隅のあたりを見ると倍率色収差が出ているのがわかる。このレンズは補正データがまだないので自動補正が効かない。でも、Lレンズだけあって解像感はなかなかにすごい。EOS M / EF 8-15mm F4 L Fisheye USM / 絞り優先AE / 3,456×3,456 / 1/500秒 / F8 / -0.7EV / ISO100 / WB:オート / 8mm(12.8mm相当)
地平線が画面中央に来るように撮ると、普通に広角レンズっぽい写り。正方形画面だと遠近感の誇張も強くないので、もっと広い画角が欲しくなってしまう。EOS M / EF 8-15mm F4 L Fisheye USM / 絞り優先AE / 3,456×3,456 / 1/800秒 / F8 / -0.3EV / ISO100 / WB:オート / 8mm(12.8mm相当)
空を多めにフレーミングすると、地平線がへこんでいるみたいにぐんにゃり曲がる。このあたりは魚眼レンズらしい写り。EOS M / EF 8-15mm F4 L Fisheye USM / 絞り優先AE / 3,456×3,456 / 1/640秒 / F8 / -1EV / ISO100 / WB:オート / 8mm(12.8mm相当)
姉妹都市提携を記念して札幌市に植樹されたと言う「ミュンヘンの森」。こぢんまりしていて、森ってほどの規模ではないけれど。EOS M / EF 8-15mm F4 L Fisheye USM / 絞り優先AE / 3,456×3,456 / 1/100秒 / F8 / -0.3EV / ISO100 / WB:オート / 8mm(12.8mm相当)
冬のあいだ閉鎖されている建物の屋根の雪がまるごと滑り落ちてきたらしい。ミルフィーユ状態。EOS M / EF 8-15mm F4 L Fisheye USM / 絞り優先AE / 3,456×3,456 / 1/160秒 / F5.6 / 0.3EV / ISO100 / WB:オート / 8mm(12.8mm相当)
最短撮影距離は0.15m。と言っても、撮像面から前玉の頂点まで13cm近くあるから、レンズ前数cmのクローズアップがねらえる。EOS M / EF 8-15mm F4 L Fisheye USM / 絞り優先AE / 3,456×3,456 / 1/125秒 / F7.1 / 0.3EV / ISO100 / WB:オート / 8mm(12.8mm相当)
森の中で見つけた廃屋。民家のように見えるが、住むには相当不便な場所だったんじゃないかと思う。EOS M / EF 8-15mm F4 L Fisheye USM / 絞り優先AE / 3,456×3,456 / 1/640秒 / F8 / -0.3EV / ISO100 / WB:オート / 8mm(12.8mm相当)
魚眼レンズで空を見上げると、なぜか分からないけど星を撮りたくなる。もちろん、暖かくなってからだけど。EOS M / EF 8-15mm F4 L Fisheye USM / 絞り優先AE / 3,456×3,456 / 1/640秒 / F9 / -0.7EV / ISO100 / WB:オート / 8mm(12.8mm相当)
SWC(Subwavelength Structure Coating)のおかげで画面に太陽を入れ込んでもフレアやゴーストがほとんど出ない。これはなかなかすごい。EOS M / EF 8-15mm F4 L Fisheye USM / 絞り優先AE / 3,456×3,456 / 1/2,000秒 / F9 / -2EV / ISO100 / WB:オート / 8mm(12.8mm相当)

北村智史

北村智史(きたむら さとし)1962年、滋賀県生まれ。国立某大学中退後、上京。某カメラ量販店に勤めるもバブル崩壊でリストラ。道端で途方に暮れているところを某カメラ誌の編集長に拾われ、編集業と並行してメカ記事等の執筆に携わる。1997年からはライター専業。2011年、東京の夏の暑さに負けて涼しい地方に移住。地味に再開したブログはこちら