交換レンズレビュー
SP 90mm F/2.8 Di MACRO 1:1 VC USD
リニューアルした定番マクロレンズの描写をチェック
Reported by 大浦タケシ(2016/4/19 11:31)
初代の「SP 90mm F2.5(Model 52B)」が登場したのが1979年。以来タムロンの90mmマクロレンズは人気の衰えを知らない。合焦面は開放から極めてシャープ、しかしながらアウトフォーカスとなった部分のボケは溶けるように柔らかい。そのコントラストがポートレートやネイチャー系の写真愛好家に多いに受けているのだ。
当然新しい「SP 90mm F/2.8 Di MACRO 1:1 VC USD(Model F017)」にも期待がかかる。高い描写特性を持つ先代「SP 90mm F/2.8 Di MACRO 1:1 VC USD(Model F004)」の光学系を踏襲し、手ブレ補正機構VCは従来の角度ブレのみならず、マクロ撮影で発生しやすいシフトブレにも対応。補正段数は3.5段を実現する。さらに超音波モーターUSDの制御ソフトのアルゴリズムもより最適化され、高速のAFを実現しているという。
別売の「TAP-in Console」(タップ イン・コンソール)を用いれば、レンズのファームウェアのアップやAF微調整、手ブレ補正機構の挙動などカスタマイズも可能だ。SP 90mm F/2.8 Di MACRO 1:1 VC USD(以下Model F017)の対応マウントはキヤノンEF、ニコンF、ソニーA。なお、ソニーA用のみ手ブレ補正機構VCは省略されている。
デザインと操作性
鏡筒のデザインテイストは「SP 35mm F/1.8 Di VC USD(Model F012)」などと同様。ソリッドで無駄のないシェイプに加え、レンズとボディの間には特徴的なルミナスゴールドの“ブランドリング”を配置。以前のレンズで見受けられた金色の帯は無くなったが、新しいSPシリーズのほうがデザイン的にスッキリとしており、道具としての質感や高級感は高いように思える。
ボタン類の形状もSP 35mm F/1.8 Di VC USD(Model F012)などと同様で、適度な大きさで操作しやすい。鏡筒のサイズは79×117.1mm 610g(キヤノン用の場合)。フィルター径は62mmだ。
マクロ撮影の場合などAF合焦後MFでピント位置の微調整を行うことも多いが、そのようなときもModel F017の操作感は良好だ。フォーカスリングの動きに対してピント位置の移動が極めてダイレクトに反応する。しかもフォーカスリングの動き自体もMF専用レンズとまではいかないものの、適度なトルク感があり、さらに滑らかだ。
マクロレンズらしいところとしては、撮影距離目盛りの部分には倍率が記され、FULL/0.5m-∞/0.3-0.5mから選択できるフォーカスリミッター機能も備えている。
遠景の描写は?
一般にマクロレンズは近接撮影時の描写特性に重きが置かれることが多い。レンズの性格からいえば当然だが、本レンズに関していえば遠景でも中望遠単焦点レンズと遜色ない優れた描写が得られる。
しかも画面中央部に限っていえば、絞り開放からキレのよい描写。もちろん絞り込んでいくとさらに解像感は増し、コントラストも高くなる。画面周辺部に関しても、四隅の一部分を除けば開放絞りからエッジの効いた描写で、色のにじみなどもない。さらに2段ほど絞り込むと四隅の描写も見違えるように解像感が増す。
周辺減光については開放で大きいものの1段絞ると大きく解消。あえて開放絞りで撮影して額縁効果を活かすのも表現としてありだろう。また、ディストーションについては皆無と述べてよい。光学系は先代モデルから変更が無かったわけだが、それも当然といえる描写特性である。
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
※共通設定:EOS 5DS R / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / 90mm
ボケ味は?
ボケの美しさはこのレンズの身上だ。特に近接撮影では合焦面から暴れることなく滑らかにアウトフォーカスとなる。しかもボケ味は違和感のないナチュラルなもので、積極的に絞りを開いて撮影したくなる。
前ボケについても特段うるさく感じられるようなことはなく、自然な感じの仕上がりである。近接撮影のみならず、ポートレートのように合焦面がちょっとカメラから離れた位置にある撮影でもその美しいボケ味が変化するようなことがない。
タムロンの90mmマクロレンズは冒頭に記したように、登場以来多くの写真愛好家から愛されてきているが、本レンズのボケ味からもその理由を伺い知ることができる。
絞り羽根は9枚。開放絞りからF5.6までは円形絞りとしている。
逆光耐性は?
光学系同様、コーティングも先代SP 90mm F/2.8 Di MACRO 1:1 VC USD(Model F004)から変更はない。従来からのBBAR(Broad-Band Anti-Reflection)コーティングに加え、ナノ構造膜のeBAND(Extended Bandwidth & Angular-Dependency)コーティングを組み合わせた強力なものである。
実際、撮影した作例を見るかぎり、太陽光が画面のなかに入っている作例には小さく薄いゴーストがわずかに見受けられるものの、それ以外は目立つようなフレアやゴーストの発生などない。従来から高いコントラストとヌケのよさを特徴としているタムロンのマクロレンズだが、本レンズも同様でeBAND/BBARコーティングの圧倒的ともいえる高い効果を知るには十分なものである。
作品
絞り開放であるが、ピントの合った部分のキレはよく解像感およびコントラストの低下はない。ただし、周辺減光は大きめ。大きなボケを得るのも、この焦点距離なら容易い。
前ボケも後ボケと同様ナチュラルで描写的に違和感のないものである。絞りは開放から1段絞ったF4としているが、玉ボケの形から円形絞りであることがわかる。
デフォーカスとなった被写体同士が柔らかく溶け合ったようなボケ味は、官能的と例えてしまいたいほど。開放絞りではあるが、合焦面のシャープネスは高い。
弱い逆光で撮影。色の滲みなどなく、ヌケのよい描写である。マクロレンズというと35mmフルサイズに対応するものとして焦点距離50mm前後、同じく180mm前後のものもあるが、90mmというこの焦点距離が一番使いやすく思える。
絞りはF8。ピントは手前の杭に合わせている。画面の隅々までエッジの効いた立体感ある描写だ。焦点距離を考えると大柄な部類に入るレンズだが、オールマイティに使える。
合焦面のキレのよさとアウトフォーカスのボケの柔らかさ、そのコントラストが本レンズの持ち味。マクロ撮影以外でも絞りを積極的に開いて撮影したくなるレンズである。
まとめ
近接撮影では絶大な効果の得られるシフトブレ対応の手ブレ補正機構の搭載と、最新のSPシリーズのデザインを纏ったModel F017。AFの合焦速度も向上し、優れた描写特性とともにたいへん魅力あるレンズに仕上がっている。
さらに量販店店頭価格をチェックすると8万円前半のプライスタグが提げられており(多くは10%ほどのポイント還元が付く)、購入に関しては極めて現実的なレンズと述べてよいだろう。
ライバルはカメラメーカーの純正中望遠マクロレンズと思われるが、十分勝負できるものといえる。同社の新SPシリーズは、本レンズとほぼ同時に発表された「SP 85mm F/1.8 Di VC USD(Model F016)」も含め4本となった。今後の展開も大いに期待したい。