比較レビュー
ニコンD810 VS D800E
新旧3,600万画素モデル、対決の結果は?
大浦タケシ(2014/9/11 08:00)
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの画像(JPEG撮影)をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
- 使用レンズはすべて「AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8 G ED」です。
D810のリリースから2カ月が経とうとしている。その間に輝点の問題がニュースになったものの(この問題についてはメーカーの対応がすでに始まり解決済みだ)、人気の衰える気配などなく、さらにこれから落ち着いて購入を考える人も少なくないかと思う。
ただし、少々気になるのが、先代D800Eとの描写や操作性などの違いだろう。特に解像感については、新しいD810が光学ローパスフィルターレスとしているのに対し、D800Eは光学ローパスフィルターレスと同等の効果の得られる光学ローパスフィルターの効果を打ち消した撮像素子を搭載しているため、それぞれの絵を見くらべたいと考える読者もいるはずだ。
そこで今回、特別企画としてD810とD800Eの描写をはじめとする違いを見てみることにする。
外観はほとんど変わらず
まずは外観だが、基本的にはD810はD800Eのデザインテイストを色濃く引き継ぐ。
わずかにトップカバーのエッジがD810のほうが強く、さらにペンタ部はD810のほうがコンパクトに。カメラ前方へのペンタ部の出っ張りもD810はD800Eよも小さい。
ただし、いずれもその差は見くらべてはじめて分かるレベルだ。
グリップ部の形状も異なるが、これについては後述する。
さらに前面部のFXフォーマットであることを示す金色のバッチの位置はほぼ同じだが、カメラ銘はD810のほうがわずかに低い位置としている。それでもパッと見ではそれぞれを見分けることは難しいといえるだろう。
ちなみに外寸は両モデルとも146×123×81.5mm、質量はD810がD800Eよりも20g軽量な980g(バッテリー、SDカード含む)となっている。
AFの進化も見逃せない
D810の操作系については、D800Eをベースにしながらもいくつかの変更点がある。
まずは、カメラ背面部のマルチセレクターとライブビューセレクター/ライブビューボタンの間にi(アイ)ボタンを新たに搭載。このボタンを押すとカメラの状況に応じて各機能の設定にアクセスできる。撮影メニューの管理、アクティブ-Dライティング、色温度など10の機能の素早い変更が可能だ。
D800EではAE-L/AF-Lボタンと同軸としていた測光モードダイヤルが、D810では廃止される。
代わりにトップカバーの左肩にある通称“四葉ボタン”のひとつとして測光モードボタンを配置。D800Eでは測光モードダイヤルがいつの間にか動いてしまうことが稀にあったが、D810では測光モードボタンを押しながらメインコマンドダイヤルで選択を行わなければならないため、もうそのようなことはないだろう。
四葉ボタンを追い出されたBKTボタンはというと、エプロン部側面へ移動している。
なお、選択した測光モードはトップカバーの液晶パネルに表示される。
また、測光モードには、画面内のもっとも明るい領域に重点を置いて測光を行なうハイライト重点測光モードが、新たにD810には搭載されている。
風景撮影などライブビューを使いマニュアルでピント合わせを行なうことの多い写真愛好家にとって、D810のプレビューボタンの振る舞いも注目しておきたい。ライブビュー時、このボタンを押す度に絞りが開いた状態と、設定した値まで絞り込んだ状態とに切り換わるからだ。
D800Eでは、ライブビューを起動すると設定した絞り値に固定されてしまい、マニュアルフォーカスでピント合わせするとき不便に感じることが多かっただけにうれしい機能である。
さらにD810に新たに搭載された電子先幕シャッターにも注目。レリーズモードがMup(ミラーアップ)のときに有効で、少しでもカメラブレを抑えたい撮影では重宝する。
液晶モニターはどうだろうか。どちらも3.2インチと大きさは変わらないものの、解像度はD800Eの92万ドットからD810では122.9万ドットにアップ。さらにD810では新たにRGBW配列とし、鮮鋭度およびコントラストともこれまでよりアップしている。
今回の作例撮影では、いずれもピント合わせはライブビュー画像を拡大してマニュアルフォーカスで行なっているが、D810のほうが画像のキレがよくピントの状態が把握しやすく感じられた。このカメラの使われ方を考えると、液晶モニターの進化は、先のプレビューボタンや電子先幕シャッター同様うれしい部分といえる。
グリップの形状もD810とD800Eとは異なる。横から見てD800Eは直線的であったのに対し、D810は中央部分に膨らみを持たせ、右手の中指と薬指のフィット感を高めている。重量のあるカメラだけにこの違いは小さくなく、D810はよりタイトなホールディングが可能で、カメラと一体感が増したように感じる。
ただし、D800Eもそうであるが、ボディが大きいだけに手の小さいユーザーはやや持て余し気味となることも。個人的にはもう少しボディの厚みを抑えて欲しく思える。
AFについてはD800Eとスペック上の変化はないように思えるが、アルゴリズムの進化などによって精度は向上しているという。元来ニコンデジタル一眼レフのフォーカス精度の高さは定評があるが、より安心感は高まっている。
さらにAFエリアモードにはグループエリアAFを新規に搭載。これは1点のフォーカスエリアに加えその周囲のフォーカスエリアも使いピントを合わせるモード。1点の場合だと中抜けしそうな被写体でも、確実にピント合わせることができる。
コンティニュアスAFでもシングルAFでも選択が可能で、さらにシングルAFの場合は人物の顔を認識し優先的にピントを合わせるのでスナップ撮影などでは重宝しそうに思える。
解像感は互角も色合いはD810がリードか
繰り返しとなるが、D800Eは光学ローパスフィルターを搭載しながらも、その効果を打ち消した撮像素子を採用。一方、D810は完全に光学ローパスフィルターを取り払っている。撮像素子自体の構造もまったく同じものではない。
さらにD800Eの画像処理エンジンはEXPEED 3であるのに対し、D810はEXPEED 4を搭載。と、画素数こそ同じながら(厳密にいえばこれも異なる)、両モデルの撮像素子に関する素性は異なる。
気になるのは、それがどのように描写の違いとなって現れているかだろう。
まずは解像感だが、どちらも鮮鋭度は圧倒的。レンズの描写特性が手に取るように分かるほどである。カメラの性能をフルに活かそうと考えると、三脚の使用とライブビューを使いMFでピントを合わせることはマストといってよいだろう。何より、レンズの選択にも気を払う必要がある。D810とD800Eの解像感に関して違いを見極めるのは正直難しく、作例を確認するかぎり差はないといってよい。
D800Eのユーザーはホッとしたかもしれない。ただし、総合的な絵づくりではわずかにD810が上回る。特にこれまで同社のデジタル一眼レフで見受けられた色あいのクセのようなものが改善され、色乗りもよく感じられるからだ。
さらに、オートWBのアルゴリズムの進化などもあり、D800Eよりもナチュラルな色あいの仕上がりに感じられる。特にこの違いは曇りや日陰で撮影した場合明確に分かるほどだ。いずれにしても、掲載した作例をじっくり見くらべてもらえればと思う。
ISO800以上はD810が有利
感度域もD810とD800Eとでは違っている。D800EではISO100からISO6400までだったものが、D810ではISO64からISO12800としている(いずれも通常感度)。
なかでも注目は低くなったベース感度だろう。穿った見方であるが、D800Eのベース感度ISO100とD810のISO64の描写(ノイズレベル)が同じとするなら、D810のISO100はD800EのISO100よりも描写が劣るように思われるからだ。
では実際はどうだろうか。作例を見るかぎりD810のISO100はベース感度のISO64との決定的な違いは見受けられず、同じ描写といえる。
もちろんD800EのISO100との差もなく、文句の付けどころのない描写といって差し支えない。ISO64では手ブレなどの不安を感じるD810ユーザーはISO100で撮影しても描写的に何ら違いはないはずだ。
一方、高感度域におけるノイズレベルは、D810が勝る。しかも、それはISO800から簡単に見分けがつくくらいである。
ISO1600以上となると最高感度までそれぞれ概ね約1段分の違いがあり、D810のISO1600はD800EのISO800と、同じくISO3200はISO1600と、最高感度ISO12800はD800Eの最高感ISO6400と同じといった具合である(高感度ノイズリダクションはいずれも標準の場合)。
D800Eは高感度に弱いとされていただけに、D810ではきっちり落とし前をつけてきたといってよいだろう。
ダイナミックレンジはほぼ互角
ダイナミックレンジに関しては、作例を見るかぎりほぼ互角。共に特別広く感じるほうではないが、デジタルカメラとして不足を感じないものである。ハイライト部は白トビするまで階調はナチュラルに変化し、シャドー部も黒ツブレするまでよく粘っているように思える。
“ニコン史上最高画質”に偽りなし!
発売から2年、D800Eは描写など今見ても古くささのようなものは感じないカメラである。
2、3年先も十分現行モデルとして存在していられそうに思えるほどだ。そのためD810の登場は、当初懐疑的にならざるを得ないものであった。
しかし、両者がアウトプットした絵を見た途端それは誤りであったと気づく。詳細については本文で紹介している通りであるが、メーカーが「同社史上最高画質」と謳うだけのものであり、画質にこだわるユーザーにとって決して見逃すことのできないものである。
大袈裟な言い方をすれば、D810のアイディンティティといってよいほどだ。加えて、スペックに現れない操作感などについても、D800Eで不満に感じられた部分に細かく手が入り、よりユーザーフレンドリーなものとしている。D810はデジタル一眼レフとして高価な部類に入るカメラだが、3,600万画素の世界を未体験のデジタルユーザーや、描写をより追い求めたいD800Eユーザーなら手に入れても後悔することはないはずだ。