インタビュー

【フォトキナ】カメラ事業を柱に。レンズは長く使える製品を追求――シグマ

シグマ社長 山木和人氏

前回のフォトキナ2012ではレンズラインナップを整理し、これまでよりも“会津の熟練工によるクラフトマンシップ”を前面に押し出した訴求を行ったシグマだが、やはりその根っこには“カメラ事業”を事業の柱にしていくという夢もある。

シグマ社長の山木和人氏

私企業だからこそ取り組める(シグマは株式公開をしていない)との声もあるだろうが、シグマ社長の山木和人氏は「カメラがあるからこそ、働いてくれているエンジニアのモチベーションも上がるし、カメラ開発に取り組んでいたからこそ、より良いレンズを作ってこれた。カメラへの投資は、シグマの事業全体に好影響を与えている」と話す。

 そんなカメラメーカー・シグマのフォトキナ2014について、山木氏に話を伺った。

dp2 Quattroのデザインの理由

――まずはSIGMA dp2 Quattroについて。最初の質問としてはふさわしくないかもしれませんが、新しいFoveonセンサーや斬新なデザインが話題でしたが、一方で投入当初はFoveonセンサーらしい解像感がないといった声もありました。これは解決されたのでしょうか?

まず、最新のファームウェアで問題は解決しました。アップデートをして頂いていれば、Quattroセンサーの良さを実感いただけると思います。

SIGMA dp2 Quattro

Foveon Quattroセンサーでは、これまでとは処理アルゴリズムが異なっているため、映像処理エンジン内部の画像処理のパスも一新しています。その中で、ノイズ処理系のアルゴリズムが想定外の働きをしていました。具体的には必要ない場面で色ノイズを消す処理が入っていました。

本件はあまり詳細を伝えていませんが、評価条件の中で想定外にその処理が呼ばれてしまっていたのです。現在はバグを潰しているので、当初設計時に想定した性能を出せています。実はノイズ処理系バグというのは初めてのことでした。

――ということは、Foveon Quattroセンサーそのものは、従来より素性が良くなっているということですね。あまり新センサーの詳細についてはこれまで触れられていません。どのような仕組みで高画質化されているのでしょう?

Foveonセンサーはもともと3層でR/G/Bの光を読み取る仕組みですが、今回はこのうちBレイヤーを“トップレイヤー”と呼び、解像情報も読み取るレイヤーにしました。この部分はRおよびGのレイヤーとは画素ピッチを変えています。トップレイヤーはR/Gレイヤーの縦・横それぞれ2倍、4画素分の解像度を持っています。

Quattroセンサーの構造。トップレイヤー(Bレイヤー)のみ他のレイヤーの4画素分の解像情報を取得する

Foveonセンサーの概念図だけを見ると、R/G/Bそれぞれの色を個別に取り出せるように思うでしょうが、実際にはかなりクロストークが大きいんです。これは秘密でもなんでもなく、学会などで発表されていたとおりです。

浅い方からブルー、グリーン、レッドのレイヤーですが、ブルーレイヤーは青から緑、グリーンレイヤーは緑から赤、レッドレイヤーは赤より長い波長……といった具合です。

また深い層になるほど実効感度は下がっていきます。その中でシッカリと色を分離させていく手法がFoveon技術のキモになる部分です。しかし、R/G/B層だけからの抽出の場合、低照度環境下では色の分離が悪くなりS/Nを上げることが難しい。従来のFoveonセンサーはこのために解像度を上げることができませんでした。

――R/G/Bレイヤー個別に得た情報からだけでは、人間の眼の解像度が最も高い輝度情報の解像度を高めることができないということですね。一方でクロストークがある中でも、色解像度は高くできる。とはいえ、人間の眼の構造を考えるとちょっと効率が悪いですね。

そこでBレイヤー(トップレイヤー)で解像情報を計測し、R/G/Bレイヤーで色を分解するFoveon Quattroセンサーが生まれました。この方式ではR/Gレイヤーに対して、輝度信号を取り出すトップレイヤーの解像度が高いため、映像の解像度を高めることができます。

生成される画像はRGBすべてがトップレイヤーと同じ解像情報を持つ

――話を聞く限り、かなり根本的にFoveonセンサーの問題を解決する技術に思えるのですが……。

はい。トップレイヤーで高解像度な輝度情報を取得しているため、BレイヤーはもとよりR/Gレイヤーで取得する色情報とのマトリックスで、輝度の解像度だけでなく、Foveonセンサーがもともと得意な色解像度もさらに向上します。しかし、単純なイメージだけで追われてしまうと、R/Gレイヤーの画素ピッチが大きくなる分、Foveonセンサーの強みである色解像度の高さが損なわれるという誤解も受けやすいため、詳細はあまり話していません。

しかし、前述したように各色レイヤーからの情報は、もともとがクロストークの大きい大まかなデータで、それを画像処理で分解していますので、結果的には細かい輝度情報が得られるFoveon Quattroセンサーの方が良い結果が得られます。

――dp2 Quattroは、その斬新なデザインにも驚きましたが、一方でコンパクトカメラというには大きすぎる外観になりました。新しいデザインへと大きく舵を切った経緯は?

様々なところから斬新なデザインを評価して頂いていて恐縮なのですが、実はですね……。

――はい?

実はこのようなデザインを目指して開発したわけではなく、Foveon Quattroセンサーを実用化する中で、必要なシステムが大きくなってしまったんですよ。このシステムでは画素数が多いことなど様々な事情や選択もあって、AFE(アナログフロントエンド。センサーからのアナログ信号を処理してデジタル化する部分)に、高特性の外付けチップを4個採用しています。

解像情報+R/G/Bだから4個ではなく、そのぐらいのスループットが必要でした。さらに、映像処理LSIの前段処理用に2Gbitのメモリが必要で、後段にも4Gbitメモリを置いています。ざっくり言えば、最新のハイエンド一眼レフカメラのシステムに近い規模の回路が必要でした。

そのようなわけで、すべて必要な部品を並べていくと、どうしても実装面積が大きくなるのです。サイズが大きくて、どこがコンパクトデジタルカメラだと思う方もいるでしょうが、実は中身はギッチリで隙間はありません。あれ以上は小さくならないんですよ。その上で、大きくなるならシッカリとホールディング性をと考えた結果がこのデザインです。

QuattroセンサーのSDシリーズも開発中

――なるほど、出したい製品、より良いものを出すことが最優先のシグマらしい選択ですね。当然、これもシリーズ化するのですよね。dp2……いくつまでシリーズ化しますか?(半分は冗談めかしに)

今回のフォトキナで、dp1 Quattroを発表。来月に発売とアナウンスしました。次に“dp 3”も計画しています。が、その先は……。欲しい焦点距離とかありますか??(笑)

――ほしい焦点距離は山木氏の方が持っていそうですが、しかし交換レンズのようにdpシリーズを使い分けたいという話は少なからずあるようですね。では、交換レンズ用ボデイにFoveon Quattroセンサーの組み合わせはどうでしょう?

もちろん、SAマウントユーザーのためにも、SDシリーズのアップデートは必要ですし、開発にはすでにとりかかっています。

――いつ頃から取り組んでいるのでしょう? 出荷目標などはありますか?

出荷目標は、とにかく“頑張って開発している”ので想像に任せます。なるべく早く皆様にお届けしたいのは同じです。開発は現在進行形で進んでいますし、dp2 Quattroの開発をしている頃から、すでにSD(にQuattroセンサーを載せた)ボディの開発は行っていました。

――前作SIGMA SD1の時には、中判カメラ並の性能を35mmフルサイズ一眼レフ並のサイズで……がコンセプトでしたが今回は?

その点は全く変わっていません。基本的には、dp2 Quattroの画質をレンズ交換式カメラのボディで楽しめるというもので、中判並の高画質を提供します。ハイスピードなカメラか? というと、そこまでは言えませんが、dpシリーズに比べればずっと使う場面も広げることができると思います。

――ところで、Foveon Quattroセンサーになって“JPEG出力の当たり率”というと失礼ですが、JPEGでも良い色調の色が出やすい印象です。何か根本的な改善が行われたのでしょうか?

それはホワイトバランスがよくなったからです。DPシリーズもSDシリーズも、基本的には新しいセンサーになっても既存の、RAW現像で最高画質を求めてくれるユーザー向けに最高のものを届けることを再優先していますが、同時にJPEGの画質もよくしなければなりません。

その開発ターゲットのひとつとして、オートホワイトバランスと自動露出に関しては大きく見直しました。Foveonセンサーはカラーのクロストークが多いため、正確なオートホワイトバランスを判別しにくいのですが、トップレイヤーの追加でS/Nがよくなったこともあり、大きく改善しました。結果、JPEG画質が上がっています。

市場縮小の影響は無し。カメラ事業を柱に育てる

――レンズメーカー“シグマ”からカメラメーカー“シグマ”になるのだ、とおっしゃってきました。カメラメーカーとして、昨今の一眼レフカメラ市場縮小の影響は受けていませんか?

うちの場合、もともとが小さいシェアの中でやってきました。昔のようにダブルズームセットの、なるべく安いセット用レンズを販売店に売り込む……といった枠組みならば、大きな影響を受けたかもしれません。しかし、小さなシェアで高付加価値、あるいはよりカメラファンに訴える製品で勝負しているため、実は業界の浮き沈みにはほとんど影響を受けていないんですよ。

その中で、カメラメーカーになる……というよりも、すでにカメラメーカーとして立ち位置を持っていて、顧客により高い価値を提供していく。これは父(前代表取締役会長の故山木道広氏)の夢でもありましたし、シグマの基本的なスタンスは変わっていません。カメラを事業の柱するという役目をやりきります。

また、カメラ事業をやってきて、Foveonセンサーのカメラを自分たちで開発してきたからこそ、もっとレンズの性能を上げなければと思いましたし、Foveonセンサーを用いたMTF測定機を自主開発することでより良い検査が行えるようになり、レンズの性能を改善しました。

カメラがあるからこそ、レンズ開発のエンジニアもモチベーションを高めています。カメラ事業を続けるのは大変ですが、しかし、そこに投資を続けてきて後悔したことは1度もありません。

――一方でレンズ事業は堅調のようですね。

特に海外で50mm F1.4 DG HSMや、超広角の18-35mm F1.8 DC HSMなどの人気商品が不足気味になっています。売れる製品ならたくさん作ればいいのですが、シグマの場合はすべてを会津工場だけで作っていますし、そこに部品を供給してくれているサプライヤーも北関東以北と長野以外にはいません。そうしたローカルな小さいサプライヤーで作っているので、売れたからといって急に増産はできないんですよ。

50mm F1.4 DG HSM
18-35mm F1.8 DC HSM

それに会津の工場も確かに大きいのですが、山の合間に作っているため、もう新たに工場を立て増す場所がなくなってきました。あちこちに“レンズ棟”を作ったので、部品や製品を運ぶトラックなんかは大変ですよ。見ていてもハラハラするぐらいの、神業的な切り返しで部品納入、出荷を捌いてくれています。言い換えると、もうそのぐらい会津若松工場も規模が大きくなっています。

――世界最大規模の交換式レンズ工場もいっぱいですか。その中で、どうシグマとしての価値を出していきますか?

いろいろな面を見直しています。デザイン、性能はもちろんですが、どのようなレンズを作るべきかといった商品企画そのものを見直しています。また、同じスペックのレンズでも、世の中の評価や時代の流れに応じて出荷基準を高く見直し、実質的な性能を上げている製品もあります。

まずは顧客満足を高めなければなりませんから、そのためにもランニングチェンジで大きくアナウンスしなくとも、常に顧客に製品を良くするためのベストを尽くしています。もちろん、新製品はどれも従来より高い出荷基準でやってますよ。

長く使える資産価値の高い高品質レンズを提供

――ひたすらに品質を高めていくということでしょうか?

はい。今は円安で国内ですべてを調達、組み立てている我々にとっては楽な状況になっていますが、将来はわかりません。私にとっての“第一プライオリティ”は、本社と工場で品質の高いカメラやレンズを開発することに協力してくれている社員の雇用を維持することです。

時代遅れと言われながらも、地域性の高いコミュニティでサプライチェーンを作っています。確かにコスト面では不利でしょう。しかし、ローカルに関係各社が集まっているため、品質を上げるための作り込みはやりやすい。

ならば、このコンパクトなローカルのサプライチェーンを活かすべく、より高精度で高性能なモノづくり。それが要求されるブランドづくりや商品企画。出荷ボリュームを大量に見込まなくとも、その対価を支払ってくれる顧客がいる。そういう方向へ行くことで、私達は生き残っていけます。

おそらく、まだまだこれからもセンサーの画素数は上がっていくでしょう。毎年、毎年、どんどん最高画素数は更新されていきます。そうなれば、その解像力を活かしたレンズを作るのは難しくなりますよ。ですから、シグマはより良いレンズ開発にこれまで以上にフォーカスして事業展開をしていきます。それができれば、工場も守れますし、その先にいるサプライヤーも守ることができます。

――業界の浮沈はあまり影響していないとおっしゃっていましたが、今年は一眼レフカメラ(ミラーレス機は除く)の出荷が2桁落ちていますよね? 長期的なシグマの方向には影響しないのでしょうか?

CIPAの統計で今年、-15%ぐらいで推移していますが、シグマはほとんど影響ありません。全般としてはよく売れる製品よりも、他にないニッチな新製品で訴求してきているため、トレンドには影響を受けないんですよ。

アフターマーケットでのビジネスなので、すでに出荷されているボディすべてが対象ですからね。量を追わない、品質で勝負すると決めた時から、もう驚くほど業界内におけるシグマ製品のシェアはがた落ちですが、それを増やすことに興味はありません。増やさないけれど、シェアは維持する。

しかし、ほしいと思ってくれるような商品を作る。そこまで言い切って数を追わないと考えれば、業界内の浮沈の影響は受けないものです。

一方で、写真文化をリスペクトし、写真が好きな人にオーセンティックなレンズを提供することはしっかりとやらなければならない。デジタル一眼レフカメラに対応するため、交換レンズはこの10数年でものすごく高性能になりました。これから先、レンズはもっと長寿命(何年もそのレンズ性能がボディに対して通用する能力を持つという意味)になっていくと予想していますから、それに伴って資産価値も上がるでしょう。

レンズ性能をさらに上げるといっても、技術的にそれは難しいところまで来ています。簡単に買い換えてくれる製品ではない一方、我々のシェアは知れていますから、長く使ってもらえる、資産価値の高いレンズとして、相応しい品質の製品を追いかけ続けたいですね。

(本田雅一)