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インタビュー:ミラーレスの「今」と「これから」【ニコン編】

〜映像カンパニー 開発本部 本部長の山本哲也氏に訊く

 今年は日本のカメラ業界全体が自然災害からの大きな影響を受けたが、中でもニコンはとりわけ大きな被害に見舞われた。東日本大震災では日本の軽工業の中心地であった東北・仙台を中心にした拠点、パートナーが深刻なダメージを受け、そのリカバーをかけて年末商戦に挑もうという時に、今度はコンシューマ向け製品の約9割を生産するタイ工場が水害に見舞われた。

映像カンパニー 開発本部 本部長の山本哲也氏

 ニコンのタイ工場は1階部分が浸水被害を受け、同社周辺の排水作業が11月26日に完了した。だからといって被害が軽微というわけではなく、本格的な復旧はこれからとなる。浸水した際は、金型や装置を引き上げるためのダイバーもなかなか集まらず、停電もあって復旧が困難だったことは、他社と同じ事情だという。

 とはいえ、代替生産も進み、デジタル一眼レフカメラと交換レンズの一部の機種の出荷を11月30日から開始した。タイ工場でも電力供給など生産インフラを立ち上げ直し、これから本格復旧に向けての作業を続け、2012年3月末には、デジタル一眼レフカメラと交換レンズを通常の生産量に戻す計画になっている。

 もっとも、悪いニュースばかりではない。昨年、欧州でスタートしたニコンの新しいプロモーションプラン(I AM NIKONキャンペーン)は、欧米で新しいニコンファンを獲得し、特にコンパクトカメラでは好調を続けている。

 そして今年は、レンズ交換式カメラの新たなセンサーフォーマットとして、1インチサイズのCXフォーマットを提案。Nikon 1のブランドで展開を始めた。コンパクトカメラとNikon 1は一部部品供給の影響はあるものの、タイの洪水に際しての影響は、比較的軽微で済んだとのことである。

 さて、前置きが長くなったが、一眼レフカメラ、コンパクトデジタルカメラの二つの軸に対し、CXフォーマットのNikon 1をどのような位置付けで捉えているのか。ニコン映像カンパニー 開発本部 本部長の山本哲也氏に話を聞いた。(聴き手:本田雅一)


“レンズ交換式カメラのデジタル化”に対するニコンの回答

−−以前から、“ミラーレス化”に対して、ニコンはレフレックスミラーをなくすことが目的ではなく、新しいカメラの形を模索する中で、結果的にどんなカメラが適しているのかを考えねばならないと話していました。そうした意味では、レンズ交換式カメラのデジタル化というテーマに対するイノベーションが、今、業界全体を覆っています。

「我々がまず考えたのは、手軽に持ち歩けるレンズ交換式カメラとして、理想的なものは何だろう? ということです。カメラシステムのデジタル化という流れもあり、小型のレンズ交換式カメラを作る手段として、レフレックスミラーをなくすことにしました」

「しかし従来フォーマットの一眼レフカメラでも、カメラ本体はかなり小型化できるようになってきました。そうした意味では、最後までレフレックスミラーのあるフォーマットでも、魅力あるサイズにできるのでは? と悩んだところはありましたね」

10月20日発売のNikon 1 V1(左)とNikon 1 J1。以前より噂が絶えなかったニコン初のミラーレス機が、今年ついに発売された

−−小型化という意味では、ミラーボックス廃止は自然な流れだったのでしょうが、商品としての個性をどのように引き出そうとしたのでしょう?

「ひとつは動画、ひとつはコミュニケーションです」

「動画撮影機能に関してはD90に一眼レフカメラとして初めて搭載、これが思いの外大きな反響を生みました。動画と静止画ではレンズの作り方が違いますし、操作性などの面でも不十分な面があります。しかし、それでも交換レンズを使った動画の世界を見て、ユーザーは新しい世界を自分たちで開拓しました」

「わたし自身、8ミリフィルムカメラで撮影していたことがありますし、動画撮影も好きだったんですよ。しかし、静止画の写真と動画は本質的に異なる表現です。画面のアスペクト比も違いますし、絵としての表現も違うと思います。写真は止め絵の中で、空間をどう表現するか、あるいは空間を平面に圧縮してすべてを撮し込むか、といった撮り方をします。立体的な風景を、空間周波数の使い方や階調の見せ方で表現する。このあたりは、デジタルカメラでは、上位モデルでもまだ十分に表現できていない面もあり、これは写真を表現するカメラとして追求すべきところです」

「これに対し、動画はどちらかというと、時間軸を尺度にして空間を複数のコマで表現していきます。時間をどのように細かく区切るのか。あるいは、コマ速度を速くしたり、遅くしたりすることで、表現としての幅も出てくる。時間軸という概念が加わることで、表現の手法が本質的に変わります。このあたりを、動画機能に盛り込みたかったんですよ。カムコーダではなく、レンズ交換式カメラを使うのですから、時間軸に沿って映像を取り込むだけでなく、映像表現として遊べるよう工夫をしました」

−−コミュニケーション機能とは、インターネットのサービスと統合するなどのアイディアでしょうか?

「コミュニケーション機能に関しては、まだ製品としては盛り込まれていませんが、ニコンが考えるレンズ交換式アドバンストカメラというカテゴリの中で、将来の機能として実装していく予定です。Nikon 1ではマウント規格を新しくしています。あらゆる要素を刷新するため、あらかじめコミュニケーション機能の搭載を意識しています」

「せっかく規格として新しいものを作るのですから、中途半端は避けなければなりません。これから作っていくシステムをどんなものにしていくのか」

−−せっかくカメラを持ち歩いているのに、SNSなどにアップロードするためだけに、同じ被写体をスマートフォンでも撮り直す人も少なくないですよね? 将来はそうした必要もなくなる仕組みを提供するのでしょうか?

「写真の共有でスマートフォンより不便ということは、なくしていかなければなりません。その場で、みんなで写真を共有したい。そのようなニーズでは、今のカメラはある面、インスタント写真以下にしかならない。これはデジタルになっても、フィルム時代から変わっていない弱点です。写真はプリントに焼いてこそ写真という時代は終わり、スマートフォンやパソコンを通じてインターネットで共有する時代ですからね」

「まだこれからの話ですが、設定レスで簡単に画像を共有できるよう、問題意識を持って新しい提案ができるように開発を続けます」

−−対角1インチで17mmのフランジバック。まったく新しいディメンジョンの構成で、これから数年をかけてレンズシステムを完成させていくわけですが、デジタルの世界では自由にサイズを選べる反面、ここでの選択が将来性をも左右させるでしょう。どのような基準で1インチというサイズを選んだのでしょう?

「当然、かなり多くの議論をしました。どのくらい明るいレンズを作れるか? 明るいレンズでも小型にしたとしたら、どのくらいのサイズがちょうどいいのか? 旅行に持ち歩くのにカメラ本体にレンズを2本。その容積を考えた上で、さらにどこまでの画質達成できるのか?」

「Fマウントとのコンバータも作りましたが、基本的にはゼロからのスタートで、どんなシステムにするのが最適かを考え、CXフォーマットは生まれています。1インチであることを意識したわけではなく、考えていたカメラ像を実現するためには1インチが適していたという方が正しい」

Nikon 1マウントには撮像素子として対角1インチのCMOSセンサーを採用(9月21日の発表会で。以下同)

−−システムとしてのサイズも重要ですが、そこは画質とのバランスもあります。1インチセンサー=CXフォーマットになった理由は、どこかにあるんですよね?

「ええ、もちろん。センサー上の画素ピッチとして、どのくらいまで高画質を担保できるか?を考え、これから5年先くらいを目処に、画素数や画質の面で充分なレベルを確保できるよう考えています。そのうえでの明るい、しかもコンパクトなレンズを含むシステムです。画素数競争をするつもりはなく、それは今回の製品のスペックにも現れています。しかし、今後の進化の余裕も必要です。現時点での画素ピッチは3.4ミクロン程度だと思いますが、センサーの進化は予想以上で、まだまだ行けると思います」

−−とはいえ、画素ピッチが小さくなりすぎると別の問題も出てきます。

「絞った時の回折の問題や電荷飽和量といった物理現象の問題はありますね。ですから、現段階で極端に増やすことは考えていません。技術トレンドを見極めながら、どのくらいがちょうどよいかを常に考えながら、画素ピッチを変えていくつもりです。確かにセンサーの面積でいうと、CXはフォーサーズより小型ですが、飽和や感度といった面でスペックが劣っているわけではないと認識しています」

−−穿った見方をすれば、既存のFX、DXフォーマットと、明確な差違を出すために、あえて小さめのフォーマットにしたとも考えられますが、DXとの違いは意識したのでしょうか?

「標準ズーム、高倍率ズームを含め、システムとして、どこまでコンパクトにできるかは意識しています。ボディを小さくするだけならば、少しばかりセンサーが大きくても工夫ができます。センサーサイズにかかわらず、LSIや基板、ディスプレイなどのコンポーネントに必要な容積や厚みは同じですから。しかし、システムとしてのサイズとなると、もっと全体を見渡さなければ、小型化が厳しくなる」

「たとえばAPS-Cサイズのセンサーを採用するミラーレスシステムであれば、一眼レフでもD3100から、さらに小型化する余地はありますし、画素数の面では上を行けるでしょう。ミラーレス、ミラーありといった観点ではなく、Nikon 1で描きたいのは、そうしたAPS-Cサイズセンサー採用機とは違う世界です」

−−ではCXを推進することによるDXとの違いは相当フォーマット関連製品への影響はないと考えていいでしょうか?

「全く別の製品ですし、別の使い方を想定しています。一眼レフカメラとは別のピラミッドを、ラインナップの中で作っていきます。目指しているところが違いますし、評価軸も異なってくると思います。このあたりは実際には、お客様の評価を待つことになりますが」

−−小型・軽量という目標は、このタイプの新規格を作るメーカーすべてが掲げている目標ですが、その中でもNikon 1を特徴付けているのは何でしょう?

「ご存知のように、イメージセンサーの中に位相差AFのための仕組みを入れています。これに明るいレンズを組み合わせることで、一眼レフカメラ並の素早いオートフォーカスが実現されています。特に胴体追尾は秀逸です。以前からアイディアはありましたが、実現するのは難しかった。技術検討して、やっと商品化の目処がついてNikon 1を商品化できたという面もあります」


5年後は一眼レフカメラと同等の使い勝手に

−−Nikon 1の検討は、いつ頃から行っていたのでしょう?

「5年ほど前から検討はしていましたが、本格的に仕様検討に入ったのは3年くらい前です。前述したように、レフレックスミラーを使う方法も含め、あらゆる可能性を排除せず、次の世代の新しいフォーマットを検討しました」

−−5年前から始まり、今、こうして商品化された。では5年後のNikon 1はどのように発展しているでしょうか?

「Nikon 1が撮る楽しみ、見る楽しみをもっと身近にしてくれると期待しています。今後、動画用レンズも含め、さまざまな種類のレンズが登場するはずです。撮影できる機器として、誰もが持ち歩いている機器となるとスマートフォンでしょうが、もう一台、撮影するための道具として選ぶ時、Nikon 1が選ばれる。スマートフォンとの親和性も高め、協調する方向で進歩させます」

−−ファインダー像の表示が完全に電子化されることで、新たな可能性が広がっていると思いますが、ニコンは“完全電子化”をどのような形で活かそうと思っていますか?

「センサーが小さくなればなるほど、高速読み出し時の消費電力も下げられますから、CXフォーマットの特徴として、そこをうまく活用していきたいですね。このフォーマットは被写界深度の深さという面と、動画と静止画の撮影しやすさという面で、ちょうどいいバランスに落とし込めていると思います」

−−読み出しのフレームレートが高速化し続ければ、それを受けてのポスト処理の可能性も広がりますね。

「はい。Nikon 1でも動画の可変速を実現していますが、時間の尺度を自由に選びながら撮影できると面白い。また複数フレームの同時キャプチャを高速処理することで、ノイズ低減や解像度の拡張など、画質向上に活用することもできますし、パノラマなどステッチング撮影も楽になります。HDR撮影に関してもそうですね。Nikon 1は撮像用とは別にAFセンサーを持っていますから、動画の中でAFを効かせることもできますし、画像処理前提で考えればさまざまな可能性があります」

−−撮影のための追加インフォメーションという面ではどうでしょう?

「これまでのファインダーは、画角と構図の確認が主目的でした。しかし、常にセンサーで像を捉えながら表示することで、撮影の前後のアシストを行なえるようになります。どんな情報を出すかですが、画像処理以外にもいろいろアプローチはあると思います。たとえばGPSを利用して、撮影場所に立ったときに、撮影場所のアドバイス、あるいは天気や陽の光の具合といった時間のアドバイスなどを、インターネットで行なうなどネットサービスとの連携も考えられると思います」

「もちろん、ネットワーク接続という面では、写真の共有など、もっとアクティブな方向もあります。それも近くの人たち全員で撮影した瞬間に映像を共有するとか、従来とは異なるアプローチをやってみたいですね。あるいは、エッフェル塔の写真を見たい! と思ったとき、その場で写真を撮影している人の写真を見ることができるとか。そうしたライブ感を大事にしたい」

「ファインダー情報に関しては、見え味そのものはOVFの方が絶対にいい。これは変わりません。しかし、放送用のプロ機材の9割はEVFを採用しています。撮影方法がそれによって変化していますから、ユーザーニーズに応じて暗い場所での撮影やマニュアルフォーカスのアシストなどEVFならではの機能性を高めていきたいですね」

−−今後のレンズについて方針を一言。

「一眼レフカメラとはカメラの性格が異なりますから、発売するレンズのスペックも選び方を変えていきます。ひとつには、動画と静止画の両方をカバーしたいという意図もありますが、静止画のみで考えても趣向が異なるでしょう。Nikon 1向きのレンズとは何か? を考えながら選びます。動画用レンズはすでに1本出しましたが、位相差センサーとの相性がいい明るいレンズを揃えていきますよ」

発表会では7本のNikon 1用1 NIKKORレンズが参考出品された



(本田雅一)

2011/12/19 13:18