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【フォトキナ】ライカカメラ社主に聞いた「ライカM60」と今後の構想

Jamie Cullumが演奏したM60周年イベントも紹介

 フォトキナ2014の会期中、会場内にて独ライカカメラAGの社主アンドレアス・カウフマン氏にインタビューする機会を得た。フォトキナで発表され話題を呼んでいる新製品「ライカM60」と、クラウドサービス「ライカ フォトパーク」について伺った。

ライカカメラAG社主アンドレアス・カウフマン氏
フォトキナ2014のライカブース入口

 併せて、フォトキナ初日の9月16日(現地時間)夜に行なわれた、M型ライカ60周年を記念する顧客向けイベントの雰囲気もお届けする。

ライカM60は、覚えることがないカメラ

 今回のフォトキナ2014におけるライカ新製品の中で、「液晶モニターをなくしたデジカメ」という大胆さが話題を呼んでいるのが「ライカM Edition 60」(以下ライカM60)だ。

 ライカM60は、1954年のフォトキナで発表され世界に衝撃を与えた「ライカM3」に始まる、M型ライカ60周年の歴史を記念した限定モデル。背面には、液晶モニターの代わりにフィルムカメラのそれを連想する感度設定ダイヤルだけを配置した。

 心得がある人には「フィルムライカと同じ操作しかいらない」と言ったほうがわかりやすいかもしれないが、撮影者は感度、シャッタースピード、絞り、フォーカス以外のカメラ操作をできず、パソコンにSDカードを移すまで撮影結果も確認できない。近年の入門書などに見られる「1枚撮ってみてモニターを見ながら操作してイメージに近づける」といったデジカメ的手法は通用しないわけだ。

 カウフマン氏によると、この液晶モニターをなくすアイデアはおよそ2年前からあったという。カメラの主流がデジタルになってから、ユーザーがカメラに目線を落として操作している時間が長いことに気付き、「いっそ取っ払っては」と考えたのだそうだ。

 デジタルカメラの大きな要素を削ることに議論はあったが、「だからこそ」と企画は進んだ。面白がってくれる人もいるだろう、むしろ他社がコピーするかもしれない、とも考えたそうだ。しかし、さすがにそれを量産の製品でやるのはリスクがあると考え、まずは600台の限定モデルとなった。

 カウフマン氏は続ける。

「M型ライカはカメラマンのためのカメラ。ライカM6(露出計のみ内蔵した機械式カメラ)はカメラマンならほとんど使えるが、Mのデジタル機はまだ習って覚えるべき部分があった」

 つまり、液晶モニターをなくして画像再生や拡大、記録サイズ、ホワイトバランスの設定……といったソフトウェア的な部分を見えないようにしたことで、フィルムライカの“簡単さ”を再現したということだろう。飾り気のないUIで「フィルムがCCDになっただけ」とも言われていたライカMデジタルだが、ライカM60はそれをポジティブに究めた。

「(ライカM60は)控えめなステータスシンボル。使い方を知っていることを自慢するカメラだ」

ライカM Edition 60のセット

 同じくお話を伺ったライカカメラAGのアルフレッド・ショプフCEOによると、英語にはChimping(チンピング)という表現があるという。デジタルカメラで撮影しながら、1枚撮ってはモニターで確認し、また撮ってはモニターを確認……というスマートでない様子を指す。

 一方ライカM60は、試し撮りを確認する液晶モニターすらないので、撮ったらパソコンに取り込んでみるまでわからない。いわば「アンチ・チンピングカメラだ」と笑う。

“いい写真”をサポートしたい

 クラウドサービス「Leica Fotopark」(ライカフォトパーク)は、同日から事前登録の受付を開始しており、12月から本格スタートする予定。2015年〜2016年には拡張を行ない、アプリなどを組み合わせたサービスも展開する計画という。

プレス発表会でLeica Fotoparkを紹介

 ライカフォトパークは、現時点のアナウンスによれば「写真管理機能を持つSNS」といったイメージ。自分がアップロードした写真を管理し、高品質プリントを注文したり、各ユーザーが公開している写真を閲覧しながらコミュニティでの繋がりを楽しんだり、といった場が用意される。参加はライカユーザーに限定しない。

ライカフォトパークのイメージ

 具体的なことはまだ未定というが、こちらも着想・構想について聞いてみた。

 ライカフォトパークの狙いは、カメラとクラウドサービスを繋げて、新しい使い方や価値を生み出すこと。カウフマン氏のイメージでは、カメラと、それをアップロードするデバイスと、そのアップロード先(クラウド)が三角形を構成しており、公開先のクラウドを頂点としている。

 しかし現在では“クラウドからカメラ”への道筋ができておらず、カメラを作っている会社(=ライカカメラ社のこと)として何かできないかと考えていたそうだ。

 着想は2009年、カウフマン氏がサンフランシスコのゴールデンゲートブリッジを訪れた際にさかのぼる。そこでは多くの人々が景色の写真を撮っていたが、「おそらく全員が上手く撮っているわけではないだろう」と考えた。そして、ライカはカメラを作っているが、“カメラが生きる場”や“いい写真を撮らなければいけない場”において、撮り手のサポートを全くできてないというギャップに気づいたのだそうだ。

三角形のイメージを示すカウフマン氏

 「今はここまで」とそれ以上のディテールには触れなかったが、その時カウフマン氏が感じたギャップを埋める“いい写真を撮ってもらうこと”へのサポートが、ライカフォトパークを立ち上げる背景にある思いだという。

 また、CEOのショプフ氏は、ライカフォトパークで提供したいことの一つとして「写真を上手に探せるアルゴリズム」の搭載があるという。2万枚、3万枚と写真が貯まっていく中から、記憶にあるキーワードで上手く探せるようなものにしたいと語る。

 さらにサービスの一つとして予定されているプリント注文については、例えば「アンリ・カルティエ=ブレッソンの専属プリンターとコラボしたプリント」などが提供できたら面白いのでは、とアイデアの一例を示してくれた。現段階ではそれを実現させるかどうかはさておき、そこに盛り込もうとする楽しみの規模感が伝わる。これも、さすがライカといったところか。

ライカギャラリーがコンサートホールに

 今回のライカカメラ社の出展は、前回のフォトキナ2012と同様にケルンメッセのHall 1をまるごと借り切った大規模なもの。通常はホールを細かく区分して複数メーカーが出展するところだが、地元ライカは今回も圧倒的な規模だった。

 そのスペースの2/3を占めるのは、製品展示ではなくライカギャラリーである。今年のテーマは「音楽の世界で生まれる素晴らしき芸術写真」としており、米国ロック・フォトグラファーのJim Marshall(ジム・マーシャル、1936-2010)をはじめとする作家の作品展示があった。

フォトキナ2014の展示作家を紹介するカリン・レン-カウフマン氏(左)。オープニングに駆けつけた写真家が壇上に並ぶシーンも
ジム・マーシャルの展示コーナー。1967年のモンタレー・ポップ・フェスティバルでギターに火を放つジミ・ヘンドリックスや、1969年のウッドストック・フェスティバルで熱演するカルロス・サンタナの写真などがあった
アンディ・サマーズ、ブライアン・アダムスといった、ミュージシャンかつフォトグラファーという顔ぶれも興味深かった

 フォトキナ初日の9月16日夜には、同社の招待客を対象としたM型ライカ60周年記念イベントが開催された。そこでは60年間を振り返るスライドも映し出され、来場客の関心を集めていた。

M型ライカとともに60周年を迎える人々と乗り物
M型ライカで撮る・撮られた人々の一例

 イベントの後半には、今回の展示作家でもあるミュージシャンのJamie Cullum(ジェイミー・カラム)によるステージが行なわれた。10月に発売される新譜「INTERLUDE」からの楽曲は、フォトキナ2014の会場がドイツ初披露だという。

楽器が運び込まれ、ギャラリーがコンサートホールに一変

 また、そのステージの様子はMichael Agel氏がライカM60で撮影する。彼はメタリカのライブステージにおいても同様の撮影許可が与えられており、M型ライカで彼らを撮影していることで知られる写真家だ。

歓声の中、演奏が始まった。ステージとの間には柵もない
Jamie Cullumのツアーバックステージも撮るMichael Agel氏が、早速ライカM60を手に撮影している

 演目は、ときにRadioheadのカバーなども交え、ジャンル的にもポップソングからジャズ、ロックまで幅広いもの。ピアノを中心に、ある曲では歪んだオルガンサウンドでソロを取ったり、またある曲ではステージ中央で歌いながらスネアドラムを打ち鳴らすなど、ステージ上の展開も多く飽きさせない。

 会場では、お揃いのTシャツを着て、体を揺らし、歌を口ずさむファンらしき女性達の姿も目に入った。Jamie Cullumは、この翌日に英ロンドンのロニー・スコッツでツアー公演が組まれており、11月にはビルボードライブ東京での来日公演も告知されている。ライカの特設ステージにおける熱気にも、その人気ぶりが伺えた。ライブは時間など気にしないかのように続き、筆者がホテルに帰り着いたのはもう日付が変わる頃だった。

(本誌:鈴木誠)