写真展リアルタイムレポート

篠山紀信展「快楽の館」記者発表会レポート

原美術館を舞台に壇蜜さんが出演 "最初で最後"の完全新作全77点

9月2日、原美術館で開かれた内覧会は、壇蜜さんと篠山紀信さんの囲み取材、スライドを上映しながら篠山さんの作品解説が行なわれた

優れた建物はどこかエロティシズムが漂う。人を心地よく包み込み、違う時空間に誘う。原美術館は私邸として建造された個性的な洋館で、戦争も経て80年近い時を過ごしている。篠山さんは写真展の依頼を受け、この邸内を探索した時、「この場所で写真を撮影し、この場所に写真を返す」アイディアを思いついた。そこに配置されるのは美しい肢体を与えられた女性たちの一糸纏わぬ裸体だ。館長が美しい女性を従えて屋敷に歩みを進める一枚から物語の幕は開く。

  • 会場:原美術館
  • 住所:東京都品川区北品川4-7-25
  • 会期:2016年9月3日土曜日~2017年1月9日月曜日・祝日(祝日を除く月曜および9月20日、10月11日、12月26日~1月4日休館)
  • 入館料:一般1,100円、大高生700円
  • 時間:11時~17時(11月23日を除く水曜は20時まで、入館は閉館時間の30分前まで)

建物にアイディアを引き出された

展示室はもちろん、エントランス、階段、さらには常設展示された作品空間でも、「快楽の館」が織りなす物語は設えられた。総勢で33人のモデルが登場し、77点の作品が組まれた。

撮影は5月の10日間で行なわれたそうだ。

「ちょうど苔が美しい季節で、裏庭を眺めていたら白い蛇が現れる光景が目に浮かんだ。その時、一人は壇蜜さんが適役だなと思った」と篠山さんは言う。

付き合いのある雑誌社を通じ、彼女に打診してもらうと、僥倖のようにスケジュールが合った。

「こうした撮影の場合、偶然の出会いで出来上がっていくことが多い」

唯一の男性モデルとなったプロレスラーのオカダ・カズチカさんは、当初、芸術新潮のヌード特集で撮影を依頼された。

「ちょうど原美術館で撮影をしている時で、ここで撮るならば写真展にも参加してくれないかという話に発展したんだ」

©篠山紀信

「その空間に自分がとどめを刺す感覚」(壇蜜)

現場では、次々とアイディアが浮かんだという。一つのシーンでいくつかのバリエーションが生まれることもある。

「現場でプリントを見ながら、スタイリスト、ヘアメイク、モデルさん全員の意見を聞きながら決めていく。僕は民主的な写真家なんだ(笑)」

壇蜜さんは、篠山さんにヌードを撮られるのは今回が初めてだ。

「篠山さんの力で止めてもらった時間と空間に自分がいることが嬉しかった」と話す。

苔の湿り具合、そこに射す光を細かく計算した中に、さっと自分が入っていく。

「その空間に自分がとどめを刺す感覚があった。それは緊張を強いられる行為であり、優しい時間でもありました」

壇蜜さんにとって快楽とは、表に出してはいけないものだと言う。

「その在り様は人それぞれで、誰もが違う。この空間で、自分の内にあるものを夢想してもらえればと思います」

©篠山紀信

デジタルカメラで初のシノラマ

忙しいモデルたちのスケジュールに合わせて、撮影のプランを組んだ。1点の作品を作り上げるのに、数日かけて撮った数枚で構成したものも生まれた。

「80年代に多用していたシノラマを久々に使い、4点を作った。デジタルカメラでは初めてだね」

ポールダンスを踊るシーンでは3台のカメラを同期させ、動きのある被写体を超ワイドでクリアに撮影した。

4本の木に10人の女性がポーズを取る作品は8枚の写真を組み合わせた。日にち、時間、天候が違うロケーションで、自然なワンカットを作り上げるのは予想以上に難しい。

ピアノを中心に12人の女性がレンズを見つめている写真は、3人のモデルによる4つのシーンの合成だ。ここでは珍しく全員がレンズを向いている。

「12人の目がこちらを凝視する。このタイトルは『二十四の瞳』」と言って満場の取材陣を笑わせた。もちろん作品に題名はない。

この館では現実では起こりえない事件が進行しつつある。美しい裸体を惜しげもなく晒す彼女たちは、性の呪縛から解き放たれ、神聖な存在にも見えるかもしれない。一つ一つの空間が引き起こすファンタジーは人それぞれだ。

「制約なく自由に撮影ができ、すべて新作で美術館を埋めつくせた。こんな素晴らしい経験はこれが最初で最後だ」と篠山さんは言う。

最後の1枚には、下着をまとった2人のモデルが登場する。裸体を隠すことで挑発する彼女たちは、来場者へ俗界への引導を手渡す。

©篠山紀信

市井康延

(いちいやすのぶ)1963年、東京生まれ。ここ数年で、新しいギャラリーが随分と増えてきた。若手写真家の自主ギャラリー、アート志向の画廊系ギャラリーなど、そのカラーもさまざまだ。必見の写真展を見落とさないように、東京フォト散歩でギャラリー情報の確認を。写真展の開催情報もお気軽にお寄せください。