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【新製品レビュー】カールツァイス T* ビオゴン 21mm F2.8

~エプソンR-D1試写レポート
Reported by 根本 泰人

 コシナ製カールツァイスレンズのエプソンR-D1による試写は、今回のビオゴン T* 21mm F2.8で5回目となる。すでに過去の記事を読んでいただいている読者の皆さんには同じ説明を繰り返すことになってしまうのだが、エプソンR-D1での撮影結果は銀塩フィルムでの撮影結果と異なることに注意して欲しい。あくまでR-D1で使用した場合、このような撮影結果となったという報告に過ぎない。


レンズの概要

シルバー(左)、ブラック(右)

別売りのレンズシェードを装着したところ
 さて、今回テストするビオゴン 21mm F2.8は、2005年10月よりシルバー仕上げおよびブラック仕上げのレンズ両方の発売が開始されている。製品の詳細については、コシナのホームページを参照して欲しい。

 ライカ判における21mmという焦点距離は、戦前からのレンジファインダーコンタックス用として、戦後まもない1951年西ドイツのカールツァイスがコンタックスIIa/IIIa用に開発したビオゴン21mm F4.5が最初である。設計は天才ベルテレであった。このビオゴン21mm F4.5は、コンタックスの生産終了後、ツァイス・イコンの超高級一眼レフカメラ、コンタレックスI型に引き継がれた。

 コンタックスのライバルであるライツでは、焦点距離21mmのレンズは最初単独では設計できず、同じドイツのカールツァイスと並ぶ大レンズメーカーであるシュナイダーより提供を受けたスーパーアンギュロン21mm F4を1958年に発売したのが最初である。その後スーパーアンギュロンは1963年に開放F値F3.4と明るくなる。ようやくライツが独自に設計したエルマリート21mm F2.8が登場するのは1980年と比較的近年のことである。スーパーアンギュロンは大判カメラ用および中判カメラ用超広角レンズとして、その性能の優秀さで全世界的に広く使われており、現在も何種類かのレンズが販売されている。基本的に対称型のレンズである。これに対してエルマリート21mm F2.8はレトロフォーカスタイプのレンズ構成となっている。現在は非球面レンズを採用したエルマリートM21mm F2.8アスフェリカルとなっている。

 なお、旧ソ連のロージノフが1946年に特許を取得した4群8枚構成のレンズ構成が、ベルテレの設計したビオゴンの原型とされるが、ソ連ではライカコピーとして有名なフェド/ゾルキー用として1960年頃このロージノフ型のルサール20mm F5.6が登場している。銀塩フィルムで使用すると、なかかな優れた性能を持つレンズである。


 さて今回のビオゴンT* 21mm F2.8は、その名の通りビオゴンタイプの7群9枚構成である。その性能については、コシナのホームページにMTFのデータ等が公開されており、対称型のビオゴンらしく歪曲収差が最周辺部でも約1%と少ないことがわかる。一眼レフ用の超広角ズームレンズやレトロフォーカスタイプの単焦点レンズより、はるかに歪曲収差が少ないことは、一連のツァイスレンズの優れた特徴である。

 MTF曲線で判断すると、F2.8開放でも中心部は非常にコントラストが高く鮮明な描写が期待でき、F5.6まで絞ると画面全体が高画質となる。ただし対称型レンズの特性として周辺光量の低下が生じ、F2.8開放では35mm判の四隅では光量は中心部の約20%しかない。これは約2絞り半程度暗くなることを意味していて、かなり四隅が暗く落ちるだろう。周辺光量の低下は絞ることで改善されるが、グラフではF5.6でも約40%つまり約1絞り半程度暗くなることがわかる。これが今回R-D1で撮影した場合、どの程度影響が現れるかということが使いこなしの上のポイントとなろう。

 レンズの外観や操作性の印象は、いままでツァイスレンズのレポートで述べたものと同じであるのでそれらを参照して欲しい。一連のツァイスレンズは、各部の操作感が良く揃えられていることが印象的である。レンズ先端の外爪バヨネットに装着する専用金属フードは、ビオゴンT* 25mm F2.8と兼用の四角いものを使用する。ツァイスではフードではなくレンズシェードと呼んでいて、脱着はバヨネット式だから簡単確実である。

 また専用外付けファインダー(35mm判用)が用意されていて、眼鏡をかけても周辺部まで実に鮮明に見える。その上この優れたファインダーの接眼部には視度補正レンズが装着できる。

 このレンズもビオゴンT* 28mm F2.8や25mm F2.8同様、最短撮影距離は0.5mである。多くの距離計連動式カメラは0.7m程度までしか測距できないので、それより短い距離では目測あるいは被写体からの距離をメジャーで実測して撮影することになる。しかし距離計に連動しなくても、近接撮影ができることは素晴らしい。絞りは1/3段ずつクリックがあり、絞り羽根は10枚で、円形絞りではなく正10角形ではあるが、どの絞りでも形が正確に整っている。

 今回使用したレンズのシリアル番号は15550039で、カールツァイスの検査を受けた合格品はこの8桁のシリアル番号が与えられる。コシナで製造したカールツァイスのレンズは1本ずつすべて検査を受けるため、出荷される製品の品質については万全であるとアナウンスされている。


3つのレンズと比較

 今回の試写にあたっては、ビオゴンT* 21mm F2.8に加えて、すでにコシナ・フォクトレンダーブランドで発売され好評を博している21mmレンズ「カラースコパー 21mm F4」、さらに手元にあるリコーのライカマウント用「GR 21mm F3.5」、そしてロシアの「ルサール MR-2 20mm F5.6」を加えて、この4本を同一条件で比較してみた。ビオゴン以外の3本はいずれもライカスクリューマウント(L39)で、R-D1に使用するにはMアダプターリングを使用する。

 カラースコパー 21mm F4は6群8枚構成で、非球面レンズなど特殊なレンズは使用していない。最小絞りはF22、絞り羽根は10枚で1/2段ずつのクリックがある。全長29.1mm、フィルター径39mmというコンパクトなボディは重量わずか約109gで、携帯性は抜群だし操作性も良い。また距離計に連動し、最短撮影距離は0.5mである(ただし距離計との連動範囲は、ビオゴン21mmと同様に、カメラの仕様による)。このレンズは外付けファインダーがついて57,750円と安価といってよく、各方面にとても好評ですでに数万本も売れたベストセラーレンズだということである。

 GR 21mm F3.5は、リコーGRシリーズコンパクトカメラのひとつ「GR-21」に装着されたのと同じレンズを、ライカマウント用に単体レンズとして1999年3月に発売したものである。レンズ構成は6群9枚の準対称型で、最小絞りF22、最短撮影距離0.5m(距離計との連動範囲はカメラの仕様による)。絞り羽根は10枚、フィルター径40.5mm、外径約49.5mm、長さ約22.5mm、約200g。大型の各型フードと、倍率0.32倍の外付けファインダーが付属して、シルバー仕上げ115,500円、ブラック仕上げ115,000円(いずれも税別)。非常にコンパクトなレンズであるのはカラースコパー21mmと同じで、使い勝手はよい。というより、各部の仕様がカラースコパーとよく似ている。それもそのはず、このレンズも設計・製造は某信州の光学メーカーで、つまりビオゴン、カラースコパー、GR21mmは三兄弟というか三姉妹というか、そういう関係である。

 ルサールMR-2 20mmF5.6は、旧ソ連時代のライカコピー機として有名な、ゾルキー&フェド用の超広角レンズとして、1960年頃に登場した。先に述べたとおりロージノフの原理に基づくレンズで、4群6枚構成の対称型である。20mmという焦点距離は実測ではもっと短いそうで、今回の撮影でも他の3本より明らかに広い範囲が撮影されている。最小絞りはF22、絞り値は不等間隔でクリックストップはない。絞り羽根は7枚。距離計非連動で最短撮影距離0.5m。フィルター径49mm、外径約54mm、長さ約36mm、重量はわずか約71g。シリアル番号が940665で、たぶん1994年製という比較的最近のものである。安価に手に入る超広角レンズで、銀塩フィルムではF8以上に絞ると画面全体に鮮鋭で、携帯に便利で意外と活躍するレンズである。なお専用のファインダーが角型と丸型の2種類存在する。


実写結果

 実写にあたっては、R-D1の設定は初期設定のままとした。フィルムは標準設定、ISO200、ホワイトバランスはオート、画質はJPEGのFINE、露出はカメラまかせの絞り優先AEである。ピント合わせと構図の決定は、R-D1のファインダーによる。R-D1の撮像素子はAPS-CサイズのCCDであり、21mmレンズは35mm判換算で31.5mm相当となり、本格的な広角効果が期待できる焦点距離となる。撮影はすべて三脚に固定して撮影し、手ブレの影響が出ないよう注意した。


◆遠景

 遠景としてはR-D1によるピント合わせでほぼ無限遠となる、いつもの江戸川の風景を快晴下で撮影した。R-D1は最低感度がISO200であり最高シャッター速度は1/2000秒のため、EV14を少し越える露出条件では、ルサールをのぞく各レンズの開放絞りでは露出オーバーとなった。

 ビオゴンは絞りF2.8開放でR-D1でAE撮影すると2段近い露出オーバーとなったが、一応画像は観察できる。中心部の像は整っているようだが露出オーバーのため正確な判断が難しい。周辺部では像が甘くなっていることはわかる。四隅で周辺減光が認められるが、画像全体が露出オーバーであるため絞ったときより目立たない。

 絞りF4でもやや露出オーバーでハイライトが飛び気味であるが、中心部の画質は良い。隅部に向かうにつれて画像がやや甘くなる。また周辺減光がある。絞りF4になると適正露出となり、周辺部まで良く像が整ってくるのが印象的だ。ただし左右の端の部分は、像の甘さがまだ残っている。周辺光量の低下は相変わらず認められる。

 F5.6でさらに周辺部の画質が改善するが、周辺光量の低下はあまり変化がない。この後F8、F11と絞っても、画像はあまり変化はなく周辺部の光量落ちは少しずつ解消するが残存したままである。これはレンズ性能というより、R-D1との相性の問題と考えられる。歪曲収差については、このシーンではわからない。発色については、カラースコパーなど他のレンズに比べやや赤みを感じる色調である。


【F2.8】 【F4】

【F5.6】 【F8】

 カラースコパーの絞り開放F4は、ビオゴンの絞りF4と同等の画質といってよい。中心部は鮮鋭だが、隅部がやや甘い。F5.6に絞ると周辺部の画質が向上するが、さらに絞っても画質はほぼ同じ様子である。周辺光量の低下はビオゴンよりはっきり目立つ傾向にある。この周辺光量の低下はF5.6、F8と絞っていっても解消しない。このレンズも歪曲収差はわからない。発色はニュートラルな感じで、青色がきれいなに感じる。


【F4】 【F5.6】 【F8】

 GRは絞り開放F3.5ではかなり露出オーバーとなるが、画像は全体に良く整っている。しかし今までの2本のレンズ同様、最周辺部ではわずかに甘い。またよく見ると中心部の画像はわずかににじんだように見える。周辺光量落ちはカラースコパーとよく似た状況である。F5.6まで絞るとにじみがきえてすっきりした画質となり、さらに絞っていった時の画質の変化はカラースコパーとよく似ているが、周辺光量落ちの程度はカラースコパーよりやや大きいようだ。歪曲収差はわからない。発色はやや黄色みを強く感じるが、絞ると赤みも感じる。


【F3.5】 【F4】

【F5.6】 【F8】

 ルサールは絞り開放F5.6では、中心部の像がややにじんで見え、周辺部は像が甘い。また周辺光量の低下は極端で隅は相当に暗くなる。歪曲収差はわからない。発色は自然な感じである。F8に絞ると画像のにじみが消えて中心部はすっきりした良い画質となるが、周辺部は甘さが残り、周辺光量落ちも大きい。F11に絞ってもF8と変わらない。


【F5.6】 【F8】

 以上4本のレンズを同一絞りで見てみると、ビオゴンは周辺部の光量落ちが全般に少なく、また画質も全体に良い。カラースコパーは画質の点ではビオゴンと同等と言える良さである。周辺光量落ちはやや大きい。GRは絞り開放付近では画質がわずかに劣るが、F5.6まで絞ればビオゴンやスコパーと遜色ない。ただし周辺光量の低下はカラースコパーより少し目立つ。ルサールは周辺光量落ちがひどいが、F8までしぼると中心部はまあまあ良い画質になる。ルサールはレンズ後端が一番CCD面に近いので明らかに分が悪く、健闘しているというべきだろう。


◆中景

 これもいつもの近所のお寺の門を撮影した。距離にして15~20mほどである。晴天下の撮影であり、ビオゴンの絞り開放F2.8ではシャッター速度は1/2,000秒となり露出オーバーと判断できるが、画質の検討は可能と判断した。瓦の模様の鮮明さが中心部と周辺部でどう違うか、あるいは周辺部の種目の描写の違いなどに注目して欲しい。

 ビオゴンは絞り開放から中心部はシャープである。しかし周辺部に向かうにつれて像の甘さがみられ、右側の崩れがやや大きい。さらに外側の樹木の部分は甘い。コントラストは良好で、発色は自然な感じである。また周辺光量の低下が認められる。歪曲収差はわからない。発色は他のレンズに比べ、鮮やかに感じる。

 F4に絞ると適正露出にコントロールされるが、テスト機のR-D1の特徴なのだがやや露出がアンダー気味で締まって見える。周辺部の画質が改善するが、まだ甘さがある。周辺光量の低下も残っている。F5.6になると被写界深度が深くなりピントの合う範囲が広く、周辺部の描写も良くなる。ただし端部はもう一歩というところである。F8になると端も良くなり、画面全体にシャープである。


【F2.8】 【F4】

【F5.6】 【F8】

 カラースコパーは絞り開放F4から、周辺部まで画質が良い。ビオゴンよりもである。周辺光量の低下はビオゴンより大きい。F5.6以上に絞っても、大きな画質の変化はなく、周辺部の光量低下も絞ってもわずかしか改善しない。発色は落ち着いた自然な感じである。歪曲収差はわからない。なお絞って行くにしたがい、露出値の変化は数式通りなのだが、画面全体がわずかずつ暗くなっていくのはR-D1の癖である。


【F4】 【F5.6】 【F8】

 GRレンズも絞り開放F3.5から画質が良く、周辺部はビオゴンより良い。ただし周辺光量の低下が、ビオゴンやカラースコパーより大きく目立つ。発色は自然な感じである。歪曲はわからない。このレンズもカラースコパー同様、絞っても画質にあまり変化がなく、周辺光量の低下もさほど改善されない。


【F3.5】 【F4】

【F5.6】 【F8】

 ルサールは絞り開放F5.6では、画面全体ににじんだような感じで、鮮明さが他の3本に劣る。周辺光量の低下も大きい。歪曲は認められない。しかし一段絞ってF8にすると、にじみが消えてすっきりとした画像となる。最周辺部は光量落ちがひどく画質がよくわからないが、明るい部分はかなり良好な画像と言える。ただもう一段締まりがあると、他のレンズと同等レベルになるのだが。F11に絞っても大きな変化はない。発色に癖はない。


【F5.6】 【F8】

 以上4本のレンズを比較すると、遠景と異なり、絞りF4付近ではカラースコパーとGRレンズがビオゴンより周辺部が良かった。しかし周辺光量の低下は遠景と同様で、ビオゴンが一番良く、カラースコパー、GRの順になる。F5.6以上に絞る場合には、周辺部までビオゴンも画質が整うため、周辺光量低下が少ないビオゴンが総合的には一番良いと言えるだろう。ルーサルはF8に以上に絞れば中心部は良くなるが、周辺光量の低下が大きい。このテストでは、カラースコパーの優秀さに感心した。


◆近接撮影

 今度は平面的な被写体ではなく、菊花展の菊を撮影してみた。ピント面のシャープさや前後のボケ具合の違いなどを見て欲しい。なおピントは画面中央部の菊の花にあわせ、ルサールは目測であるため被写界深度指標を参考にしてピントを設定した。

 ビオゴンは、F2.8開放から整った画像である。周辺光量の低下が認められるが、目立たない。発色は鮮やかな感じで、菊の花の色がきれいである。背景部のボケはやや乱れた感じで少し気に障る。絞るにつれて被写界深度が深くなり前後のボケ量も少なくなっていく。


【F2.8】 【F4】

【F5.6】 【F8】

 カラースコパーは、すべての絞りでビオゴンより周辺光量の低下がやや目立つ。F4開放ではピントのあった部分はシャープである。特筆すべきことは、背景のボケがきれいなことだ。自然になめらかにぼける。これは他のフォクトレンダーブランドのレンズにも共通する特徴である。絞るにつれて前後のボケの量が少なくなるが、どの絞りでも自然な雰囲気である。発色も自然で、花の色の特徴が良く現れている。


【F4】 【F5.6】 【F8】

 GRはカラースコパーよりさらに周辺光量の低下が目立つ。ただこのために中心部の菊の花が浮かび上がって見えるという効果もある。絞り開放では画像が少しにじんでいて、ビオゴンやカラースコパーに較べ画質が劣る。また背景のボケも、にじみとの複合で独特な感じだ。

 F4ではほとんど変化がないが、F5.6に絞るとにじみが消えてすっきりした良い画質となる。ボケも自然な感じである。発色は癖がないが、鮮やか目に感じる。


【F3.5】 【F4】

【F5.6】 【F8】

 ルサールはF5.6絞り開放では周辺光量低下が著しいことによる影響か、中心部が露出オーバーになっている。また画像も全体ににじんでいて鮮明さが劣る。F8やF11ではにじみが消えてすっきりするが、中心部の露出オーバー傾向は変わらない。背景のボケは自然な感じだが、絞り込まれているためボケの量は少ない。


【5.6】 【F8】

 以上、このテストではビオゴンとカラースコパーが良く、GRやルサールは開放でのにじみが減点材料となった。ビオゴンとカラースコパーでは、背景のボケの良さからカラースコパーが気に入った。この超小型と言って良いコシナのレンズは、素晴らしい傑作レンズである。


◆歪曲収差

 歪曲収差の程度を調べるため、塀の壁面を撮影した。撮影距離は1.2mほど、各レンズとも絞りはF8である。ファインダーフレームで壁面の線に構図をあわせたが、これは手持ち撮影であったため、撮影された画像はやや傾いている。

 結果を見ると、どのレンズもわずかに歪曲収差が認められる。一番優秀なのはやはりビオゴンであった。他の3本のレンズはビオゴンより樽型の歪曲がやや大きい。これでも超広角レンズとしては非常に優秀である。レトロフォーカスタイプの超広角レンズやズームレンズでは、このような素直な写りは望めない。


【ビオゴン】 【カラースコパー】

【GR】 【ルサール】

◆夜景

 夜景撮影で強い光源のまわりの像の乱れ方を見てみた。R-D1は夜景をきれいに撮れるのがうれしいカメラだ。

 ビオゴンは絞りF2.8開放からコントラストが良好で、ピントは奥の五重塔ではなく手前の建物付近に合っているから、ピントがあっていないところはボケているが、中心部は良く整った画像である。周辺部の像はボケがやや乱れている。

 絞るにつれて被写界深度が深くなり、五重塔も鮮明になってくる。また周辺部の画質が良くなる。周辺光量の低下はあまり目立たない。絞ると強い光源のまわりに光条が10本現れるのは、10角形絞りの形状のためである。なお絞りF4くらいまでは、周辺部の強い光源に紫色のにじみが現れている。

 明るい光源のすぐそばに現れるゴーストは特徴的である。画面の中心の反対方向にいくつかの丸い反射像が現れている。このゴーストは絞るにつれてよりはっきりした形になる。内部のレンズ面の反射のようだ。ただし光源から遠く離れたゴーストは認められず、このレンズは内面の反射防止対策が非常に優秀であることがわかる。


【F2.8】 【F4】

【F5.6】 【F8】

 カラースコパーも絞りF4開放から、画面全体に良く整った画像である。ピントはこちらも手前の建物付近で、絞るにつれて五重塔も鮮明になってくる。周辺光量の低下はあまり目立たない。こちらも明るい光源のそばに現れるゴーストは特徴的で、ビオゴンに似たイメージである。絞ると絞りの形状に対応した10本の光条がはっきり現れる。このレンズもほかにゴーストはなく、内面反射防止処理が優秀である。


【F4】 【F5.6】 【F8】

 GRは絞りF3.5開放では、少しコントラストが悪いようだ。しかし画像は良く整っている。F5.6に絞るとコントラストが良くなり、ビオゴンやカラースコパーと同等と言ってよい。絞りによる光条はこれも10本。強い光源のそばのゴーストの出方も、ビオゴンやカラースコパーと似た感じである。


【F3.5】 【F4】

【F5.6】 【F8】

 ルサールは絞りF5.6開放では、画面全体が滲んでいる。また周辺光量の低下が大きい分、中心部が露出オーバー気味となってしまっている。強い光源のそばのゴーストは、他の3本レンズとは現れ方が異なっていて、特に中心部の強い光源に対して右下に明瞭な大きなゴーストが2つ現れているのが目立つ。これらのゴーストは絞ると小さくなるが、より明瞭になる。F8に絞ると画面のにじみが減り、コントラストが向上してすっきりした画面になってくる。強い光源の周囲の光条が、絞り形に対応したようにはきれいに現れていない。F11まで絞ると周辺部の画質も整い、まあまあといった感じになる。


【5.6】 【F8】

 今回の夜景シーンでは、ビオゴンとカラースコパーは絞り開放からかなりにきれいに撮影できたが、周辺まで画質を均質にするにはいずれも1つ以上絞ると良いだろう。GRはF5.6以上に、ルサールはF11以上に絞りたい。


◆逆光

 逆光時のゴーストやフレアの発生具合を調べるため、画面上端に太陽を入れてみた。R-D1はこうした条件では極端に露出不足となるため、+2EVで撮影したがこれでもまだかなりの露出不足である。マニュアル露出に切り替えて撮影すべき対象である。

 ビオゴンは絞りによる光条が目立つが、ゴーストはなく画面はすっきりしている。カラースコパーは太陽右下の樹の枝のところにゴーストが認められる。画面はすっきりしている。GRは太陽周囲のフレア状の光のにじみが大きく、ピンク色の光条もあらわれ画面がややすっきりしない。ルサールは大きなゴーストとフレアの影響がある。このテストで一番優秀なのは、ビオゴンであった。


【ビオゴン】 【カラースコパー】

【GR】 【ルサール】

総評

 今回テストした4本のレンズは、スペックに大きな違いがあるものの、銀塩フィルムで撮影するといずれも優秀な結果が得られるレンズである。しかしR-D1で使用した場合には、やや差が現れる結果となった。

 画面全体に画像の均質性を求める場合、周辺光量低下の少なさからビオゴン 21mm F2.8が優れていると言える。絞り開放から画面中心部はシャープであり、F5.6以上に絞ると画面の周辺まで高画質となり、コントラストが高く発色も鮮やかな傾向でとても魅力的な画像を安定して得ることができる。

 カラースコパーについては、実は私は今回のテストでこんなに良いのかと驚いた。周辺光量の低下はビオゴンより大きいのだが、しかしGR 21mmレンズよりは少ないし、なにより絞り開放から周辺部まで画質が良いのである。特に絞り開放F4ではビオゴンより良い。そして前後のボケがなめらかで美しく、これもビオゴンより優れている。このレンズは35mm判で使用する場合に必要な外付けビューファインダーも標準で付属してきて、価格はビオゴンの約半値だから、お買い度は驚異的というべきか。コシナ・フォクトレンダーブランドのレンズの中でも一二を争うベストセラーレンズというのも当然である。

 GRレンズはF3.5という明るさと、そのコンパクトさが大きな魅力だが、絞り開放付近では像がにじむのが気になった。ただしF5.6以上に絞ると、画質はビオゴンやカラースコパーと遜色ないレベルとなる。またこの3本の中では、周辺光量の低下が一番大きい。

 ルサールは開放F値が暗いことやレンズ後端がCCD面に近いことなど、最初からハンデがあり、撮影結果も予想通りというかあまり良くない。特に絞り開放F5.6では像が甘い。しかしF8以上に絞ると、画質が向上しまずまずの画面となる。ただ、周辺光量落ちが極端に大きいので、一般撮影では辛い。これをレンズのおもしろい個性として活かすことができる人には、代え難い1本となるだろう。

 なお、いずれのレンズも絞っても周辺光量の低下は避けられないが、広角レンズの場合周辺光量落ちは必ずしも欠点とは言えない。ただしこれがどうしても困る場合にはRAWデータで撮影し、エプソンのフォトリエ(Photolie)でRAW現像する際にビネッティングの補正をかけて現像すれば、光量落ちが極端なルサールをのぞいて周辺光量低下をほぼ補正することが可能である。


ビオゴン 21mm F2.8の作例

 最後にビオゴンで撮影した作例を何点か掲載する。R-D1の設定はテストの時と同じである。


【F5.6 / 1/181秒】
蛍光灯の光が入ってややアンダー気味の露出だが、ピントは良く合っている
【F8 / 1/194秒】
誰もが撮影するシーン

【F8 / 1/42秒】
歪曲収差がほとんどないので、こうした建築物の撮影結果はすっきり写り、非常に良い
【F8 / 1/21秒】
絞りすぎてシャッター速度が遅くなってしまった。直線があくまで直線に描写される

【F8 / 1/416秒】
非常に色鮮やかで美しい
【F8 / 1/549秒】
周辺光量の低下が、空間の広がり感を演出している

【F8 / 1/125秒】
カーブミラーの反射光が地面に投影された様子がおもしろかった
【F11 / 1/250秒】
ツァイス的な発色というのだろうか。色が鮮やかと同時に深い。立体感のある描写


URL
  コシナ
  http://www.cosina.co.jp/
  製品情報
  http://www.cosina.co.jp/seihin/co/b-21/

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根本 泰人
(ねもと やすひと)クラシックカメラの収集が高じて有限会社ハヤタ・カメララボを設立。天体写真の冷却CCD撮影とデジタル画像処理は約10年前から、デジカメはニコンE2/E900から。趣味は写真撮影、天体観測、ラン栽培、オーディオ(アンプ作り)等。著書「メシエ天体アルバム」アストロアーツ刊ほか。カメラ雑誌、オーディオ雑誌等に寄稿中。 http://www.otomen.net
http://www.hayatacamera.co.jp

2006/05/23 02:37
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