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【今年の傾向】キヤノン編

新ヘッドで中級機以下の画質を向上


MP950
 今年のインクジェットプリンタにおけるキヤノンのテーマ。それはインクジェット複合機の強化だ。昨年のキヤノンは、単機能機において前面と背面、両方からの給紙に対応するなどメカニズムの面で大きな飛躍があり、絵作りの面でも完成度の高まりを感じさせるものだったが、複合機ではやや迷いも感じられるちぐはぐな仕様が見られた。

 しかし今年は、4~5色インク採用の普通紙印刷を重視した実用機と、多色インクを使用する写真画質重視の機種、その両方の良さを引き出す新型ヘッドを開発することで、幅広い用途での高いレベルの画質を実現している。


“なんでもきれい”を目指した新ヘッドを中心に展開

 従来のキヤノン製インクジェットプリンタは、写真画質を重視した機種と、インクコストと普通紙画質を重視した機種の2ラインにきれいに分かれていた。それは他社でも同じでは? という意見もあろうが、キヤノンの写真画質機は写真画質を重視した染料系黒インクを採用しており、普通紙での滲みや濃度の点でやや不満があった。

 そこで、普通紙重視の機種ではこの問題を回避するため、顔料系黒インクを採用していたが、一方で顔料系黒インク採用機は写真印刷時の階調やS/N感に問題が出る。実際に売れているのが4~5色インク機という事を考えれば、ユーザーは薄いインクを利用しない4色印刷で満足しているのかもしれないが、あくまで写真はきれいじゃなければ、というユーザーには悩ましい選択だったと言える。

 しかし、新ヘッドは顔料系黒インク用のノズル列とは別に、6色分のインクノズル列が用意されている。つまり、従来のCMY+フォト系の薄いCM+染料黒を合わせた6色に、顔料系黒が使える。また、染料系の6色に関しては4pl(ピコリットル)の大インク滴と1plの小インク滴、それぞれ1列づつを配置し、小インク滴による階調性向上と速度のバランスを取っている。

 新ヘッドは最小インク滴が小さくなったことで、より多くのインク滴の組み合わせパターンによる多彩な色表現を実現するが、そのために配置精度も9,600×2,400dpiと、インク滴配置のメッシュが細かくなっている。インク滴が小さくなったことで、吐出サイクルが向上している事も、横方向の配置精度を上げられた原因だろう。

 この新ヘッドが搭載されるのは、単機能機はiP6600D/7500、複合機はMP950。さらにiP4200とMP800/500には、フォトインクのない5色バージョンの1plヘッドが使われている。


MP500 iP7500

インクも新バージョンに移行

LEDが装備されたBIC-7eシリーズ
 一方、インクカートリッジも新バージョンへと更新されている。新バージョンはBIC-7eシリーズ。従来との違いはLEDの装備にあり、正しい位置にカートリッジが装着されているか否かを視覚的に確認。インクがなくなり、交換の必要があるカートリッジも、LED表示で示される。

 ただし名称が従来カートリッジ+eで構成されている事からもわかるとおり、基本的な特性は従来と変わらない。すでに秋頃からキヤノンは流通在庫をBIC-7系からBIC-7e系に切り替えを行なっており、従来機でもそのままBIC-7eを利用できる(LED点滅機能は利用できない)。

 なお、旧カートリッジのBIC-7シリーズを、今年の新モデルで利用することはできない。昨年モデルからの買い換えで、インクカートリッジをストックしている場合は要注意だ。

 一方、インクの質を変えたのは顔料系のBIC-9bkだ。従来のキヤノン製顔料系黒インクは、顔料系といいつつも滲み、特に隣接するドットにカラーインクがあった場合に滲みやすい弱点があった。しかし、新インクは普通紙での滲みが少なくなり、カラーインクと隣り合う場合でも画質低下が見られない。濃度感やエッジのシャープさも改善されている。


スッキリした複合機のラインナップ

 ラインナップを整理してみると、今年の注目はやはり複合機ということになるだろう。単機能機を求めるユーザーは、純粋に写真画質を求める傾向が強いというが、写真用紙における画質と速度は、いまだにiP8600が最高の位置を保っている。

 最小1plの多色印刷になったとはいえ、全弾2plで印刷されるiP8600の画質は別格だ。もちろん、新ヘッドの1plノズルだけで印刷すれば、超える可能性はあるが、残念ながら全弾1plの印刷できない。

 つまりラインナップ中、写真印刷最高画質の座は昨年から変化せず、それよりも下の価格帯での便利さと画質を上げたわけだ。最高画質機ならば、普通紙での黒濃度や滲みは無視して、ストイックに写真画質だけを追うという設定も悪くない。

 しかし中上級機以下の機種は、写真も文書も、どちらもきれいでいてほしい、というユーザーが中心になる。そこで新ヘッド投入により、ピンポイントにニーズに応じた製品を投入したというわけだ。

 もっとも、新型ヘッドは複合機において最も効果的と言える。

 昨年のフォト複合機最高機種MP900は、写真画質こそ優れていたものの、普通紙印刷時のクオリティはお世辞にも高くなかった。写真印刷を重視すれば、写真印刷用ヘッドを採用せねばならない。だが、複合機では写真だけと割り切るのが難しい。単機能機ほど純粋に画質を追えば良いというものでもない。

 しかし新型ヘッドならば、実用機としての複合機の性格と、写真プリンタとしての画質を両立できる。一家に1台、みんなで使う複合機として捉えると、アプリケーションの幅が広いMP950はとても選びやすい。

 また5色機となるMP800、MP500に関しても、インク滴が小さくなった事で、写真印刷にも十分対応できる。つまり、写真印刷品質をどの程度重視するかによって、自分に合った機種は自ずと見えてくる。メカ的にも昨年、単機能機で評価された要素が、一通り複合機にも提供できている。

 複合機では手書きナビシートといった他社で評判の機能もさっそく実装しており、実に抜け目のないラインナップを構築したと言えるのではないだろうか。



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( 本田 雅一 )
2005/12/01 01:02
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