ギャラリー冬青、藤田満写真展「在所」


 ギャラリー冬青は、藤田満写真展「在所」を4月1日から開催する。

在所それとも電信柱

 1月の小雪のちらつく日、佐賀嬉野市と鹿島市を分ける山地の高所集落を撮影していたら、通りがかった地の人が、車のナンバーを見ながら声を掛けてくれた。
 隼人瓜が今年は沢山採れておいしいから持っていかないか、という。きっかけはなんであれ、郷の人と知りあうのは嬉しいので付いていった。斜面を50mほど降った農家の脇の水気のたつ藁むろを掻き分けて、好いだけ持っていってくれと言う。夏みかん位のを三つ抱えて礼をのべると、さらに15-6個ほどをビニール袋に入れて車まで運んでくれた。またこちらに来たときには寄ってくれと言う。ひとり暮らしだそうだ。たがいに名も知らぬまま首肯き合って別れた。ただこの人の方言には、佐賀の経験が深いはずの私も少し困った。

〈在所〉という言葉が日常の会話や文章に見られなくなり、その意味を辞書に頼るようになって久しい。けれど在所は生きている。地方・地方のどこにでも、風土に根ざした嘘ではない風景をじっと湛えている。斎藤茂吉の歌「最上川の上空にして残れるはいまだうつくしき虹の断片」を口遊むと、このことを言い表して紛れもない、ということに気がつく。

 ながく写してきた田舎の写真をあらためて見直すと、どの写真にも電信柱と電線が交差して意味もなく写っている。
 それはとくに気に留めたというわけではなく、在るものはそのまま、除け者にせずに写しこんだ結果なのだが、ピントグラスの逆さ電柱に誘われてその先へ行ってみる、ということも確かにあった。
 私の知るロマンチシストの写真家某氏は〈この電線はながれる星のようだ〉と言ってくれた。それはきっとお世辞にちがいない。

(作者より)

  • 名称:藤田満写真展「在所」
  • 会場:ギャラリー冬青
  • 住所:東京都中野区中央5-18-20
  • 会期:2011年4月1日〜2011年4月23日
  • 時間:11時〜19時
  • 休館:日曜・月曜・祝日

(本誌:折本幸治)

2011/3/18 00:00