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第3回 MiccyonとTaffy
「Webは“悲しき玩具"のような気がします」


撮影:Miccyon

撮影:Taffy

 Miccyonこと西村美智子さんとTaffyこと田福敏史さんは、神戸芸術工科大学の学生だがキヤノン写真新世紀やエプソン・カラーイメージングコンテストなどで受賞し、今注目されている若い写真家たちである。2人はWebでも積極的に作品を発表しており、ぼくもまず最初にWebで彼らを知った。

 それに加えて、TaffyとMiccyonは恋人どうしでもある。彼らのWebを見ているとわかるのだけど、どこに出かけるにも一緒で、デートでもお互いの写真を撮りあっているようだ。そして作品制作について話し合ったり影響を与え合ったりもしているらしい。もちろん、TaffyもMiccyonも独立したオリジナルな作風を持った写真家ではあるのだけど、写真家同士のカップルというある意味スリリングな関係の2人にも興味がかきたてられる。

 兵庫県に住む2人がエプソン・カラーイメージングコンテストの授賞式のために東京を訪れた機会に初めて会って、いろいろ話をうかがった。


西村美智子(Miccyon、ミッチョン)
1984年生れ
神戸芸術工科大学ファッションデザイン科在学中
2005年度エプソン・カラーイメージングコンテストグランプリ受賞
http://d.hatena.ne.jp/MICCYON/


MiccyonのWebサイト「Miccyon in Wonderland」 Miccyon(撮影:Taffy)

田福敏史(Taffy、タッフィ)
1979年生れ
神戸芸術工科大学視覚情報デザイン学科
2005年度キヤノン写真新世紀 佳作 奨励賞(森山大道選)
2005年度エプソンカラーイメージングコンテスト 入選
http://toshifumitafuku.net/


TaffyのWebサイト「Toshifumi Tafuku homepage」 撮影:Miccyon

-- 2005年度のエプソン・カラーイメージングコンテストでMiccyonはグランプリを、Taffyは入選を射止めたのだけど、その感想は?

Miccyon 私はまさかグランプリを取れるとは思ってなかったです。でもこのコンテストは落選したら応募作品を返却してくれないので、せめて入選はしたいと思っていました。

Taffy Miccyonがグランプリで、ぼくは入選だったので、正直言うと3日くらいは落ち込みました。気持的にやばかったです。

Miccyon 逆にキヤノン写真新世紀では、Taffyは佳作入選で、私は選外でしたけど、まあそんなもんかくらいで、特に落ち込んだりはしませんでした。

-- 審査員の藤原新也さんに「赤ちゃんの眼」と言われたそうですね。

Miccyon 赤ちゃんが生まれて初めて見るモノを初めて撮ったような写真だ、ということらしいです。

-- 古い美意識や価値観に縛られない先入観のない写真ということなんでしょうね。たしかにMiccyonの写真は、多くの人が「絵にならない、写真にならない」と無意識に切り捨ててしまうようなありふれたモノを大胆でオリジナリティに富んだ切り取り方で写真に収めていると思います。

Miccyon 赤ちゃんの眼で撮った写真の割には、本にまとめる編集能力があるのが不思議だといわれましたが、それはTaffyのおかげなんです。

Taffy 写真集の構成やタイトルなんかは話し合いながら決めていきました。藤原新也さんからは「彼氏のほうの作品は大人の眼だ。悪くはないけど、どこかで見たことのある写真になっている」と言われました。


撮影:Miccyon

-- 2人はどのようなきっかけで写真を始めたのですか?

Miccyon 私は中学生くらいからいろいろなデジタルカメラを使って写真を撮っていました。これまで5、6台くらいのカメラを使ったんですけど、最初のはたしか28万画素でした。友だちに可愛い子が多かったので彼女たちの写真を撮っては無印良品のA5のノートにスクラップしてたんです。薄いノートのページに写真を貼り付けていくとこんなに(5~6cm)厚くなってしまうんです。そういうノートが13冊くらいあります。もちろんそのころは写真家になろうとかそういった意識はなくて、プリクラ帳を作る感じというか、可愛いものをコレクションしたいという気持だったと思います。

Taffy そのスクラップブックを見たとき、「これはすごくいい。これこのまま出してもコンテストで受賞できるんじゃないか?」と思いました。技術的にどうこういうのじゃなくて、とにかく写真が好きでたまらないという感じが強く伝わってきました。

Miccyon 大学はファッションデザイン科に進んだのだけど、それはモノを作りたいという気持と華やかな世界へのあこがれからでした。ただこの科は専門課程になるとかなり忙しくて課題制作以外はほとんど何もできなくなってしまうんです。写真撮れなくなるのはいややな、と思って3年への進級時に迷いが生じていたのだけど、その時Taffyが自由に写真を撮っているのを見て、うらやましいなと思ったのが写真を専門にやっていこうと思ったきっかけだったかもしれません。

Taffy ぼくは高校を出てから音楽をやるために上京してバイトしながらバンドをやったりしていたんですけど、結局バンドのほうは上手く行きませんでした。22歳で神戸芸術工科大学のデザイン科に入ったんですけど、デザインにもあまり興味が持てず挫折してしまいました。在学中は報道写真のバイトをしていたんですが、それもひとつのきっかけとなって写真をやってみようかと思いました。

Miccyon 大学の写真部でTaffyと初めて出会ったんですけど、そのころ私は他の写真家の写真も見たことないし、写真の事は何も知らないままめちゃくちゃ撮っていたんです。自分でもいまひとつぴんとこなくて、どうすればいいのかわからなかったんだけど、Taffyにいろいろ教えてもらったりアドバイスをもらったりしました。たとえば、撮りたいものがあったら、近寄って真正面からフラッシュを焚いて全部横位置で撮ってみたら、というのも実はTaffyのアドバイスなんです。

Taffy ぼくは当時Miccyonが持ってたD70を借りて使っていてデジタル一眼レフもいいなと思って、そのあと自分でもギターを売って同じD70を買いました。
ぼくは他人へのアドバイスというのはけっこう的確なことを言えるんですよ。でも師匠とかプロデューサーとして指導したというんじゃなくて、あくまで2人で相談しながらということです。

-- ふたりとも写真をやっているカップルだと、写真について意見が対立したりケンカになったりしませんか?

Miccyon わたしは話は聞くけど、気に入らないことは左から右に聞き流すんで大丈夫です。

Taffy ケンカはしませんね。


撮影:Taffy

-- Webを始めたきっかけについて教えてください。

Taffy ぼくは以前はWebなんてほとんど見てなかったんですけど、雑誌なんかで写真家のサイトというものがあるのを知って見るようになりました。自分でやろうと思ったきっかけは内原さんのWebを見て、「これなら自分でも作れそうだな。」と思ったんです。すごく単純で、スリーコードだけでできるパンクみたいなもんだと思いました。

-- いわゆるWeb写真界隈のページもくまなく見ているんでしょうか?

Taffy けっこうチェックしまくってますね。ただ、写真サイトだからといって写真だけを見ているのではなくて、日記やblogなどのテキストも読んでいます。言うなれば人間観察的な興味で、どういう人間がどういう写真を撮るのかというような興味で見ています。

-- 他のWebから影響を受けたりしますか?

Taffy というか、影響を受けないように似てしまわないようにしたいです。たとえば夜景を撮る人がたくさんいますが、そういうのを見ているとおれは夜景は撮りたくない、と思ってしまいます。

-- Web写真界隈について語ってください。

Taffy ぼくは最近はWebというものに少し否定的ですね。Webは石川啄木の言葉である「悲しき玩具」のような気がします。つまり金にもならなくて、ただ心をなぐさめるだけのもののような。Webそれ自体が作品という考え方は新しいかもしれないけどまだ確立していない気がします。もちろん自分のWebを見てもらいたいし、他人のWebも興味深く見てはいるけど、それだけだと未来がないのではないでしょうか?

Miccyon わたしは他人のサイトはあまり見てないです。


撮影:Taffy

-- 「Webとは悲しい玩具」というのは手厳しい言い方のようですが、考えてみると石川啄木は「歌は自分にとって悲しき玩具である」と言っているわけであって、「悲しき玩具」というのは、同時にその人にとって手放す事のできないとても大切なものであるとも言えますね。

 ところで2005年に、北山勝寿さん( http://kp4.jp/ )がネット上で「決闘Web写真」というコラボレーションを行いました。中平卓馬と篠山紀信の共著「決闘写真論」をもじって名づけられたこのイベントは、複数の写真家がひとつのblog上にそれぞれ写真をアップロードしていくというコラボレーションです。北山さんが自分のWeb上で告知するとあっという間に多くの人が集まりましたね。


Taffy 特にメールで呼びかけたわけでもないのに、今まで知らなかった写真家たちが全国津々浦々から参加しましたね。決闘といってもルールがあるわけでも審判がジャッジするわけでもない、イベントというかお祭みたいなものでしたね。

-- ぼくも参加して何枚か写真をアップロードしたんですけど、いまひとつ面白くなかったのです。なぜなら、参加者がアップロードする写真は、彼らが日々自分のWebにアップロードしている写真とたいして変りばえがしなかったからです。そもそも「決闘Web写真」という場所を設けなくとも、各人がてんでんばらばらに自分のWebサイトに写真を載せていること自体がある意味決闘Web写真になりうるわけで、なにも一箇所に写真を集める必要はない。

 あるいはコラボレーションということをもう少し明確にするには、普段自分のサイトに写真を載せるのとは違った見せ方やセレクションを工夫すべきではないか、と思いました。「遊びだとしてももう少し本気で遊ばないと面白くない」というような批判を自分のはてなダイアリーに書いたんですね。そうすると、それを曲解して「決闘Web写真」という試みにケチをつけるような人もでてきた。ぼく自身は「決闘Web写真」を攻撃したり参加者を傷つける意図はまったくなかったのですが、Taffyもぼくの書き込みを読んで不快な気分になったとあとで聞かされました。


Taffy 当時ぼくは気分的にナーバスになっていた時期なんですけど、内原さんの書き込みでけっこう煽られてしまい、「決闘Web写真」に連続で100枚の写真をアップロードしたりしてしまいました。Webというのは相手の顔が見えなかったり、意志の疎通が上手く行かなかったりして心理的に暴走してしまうという怖さがありますね。


撮影:Taffy

-- 「決闘Web写真」は試みとしてはおもしろかったのですが、やや竜頭蛇尾な終わり方になってしまいました。ただ、あのイベントではっきりしたのは、写真サイトをやっている人たちは、みんなお互いのサイトを実によく見て素早く反応しているということでした。いわば「決闘Web写真」によって「Web写真界隈」というものが浮き彫りになった感はあります。

 Miccyonは以前「はてなダイアリー」を使って毎日たくさんの写真をアップしていたけど、そこを閉じて新たなページを始めたのはなぜですか?


Miccyon 前のページは大学の友だちの写真やその子たちの書き込みが載っているので、そういった個人情報を悪用されるのがこわいな、と思って閉鎖しました。以前はわたしのページはそんなにアクセス数もなくて一部の人しか見ていなかったのだけど、コンテストで受賞した影響で全然知らない人が見に来るようになると、どういう反応が生じるかわからないので。

-- Miccyonはまだ1年大学が残っていますが、Taffyはもう卒業ですね。これからの予定を聞かせてください。

Taffy 卒業したら東京に移り住んで、フリーランスで写真家としてやっていきたいと思っています。デジタルカメラをやめるつもりはないですが、銀塩フィルムも併用しながら写真を撮るつもりです。ぼくはアルバイトで生計を立てながら作品としての写真をやっていきたくはないので、大森克巳や川内倫子のようにコマーシャルな仕事もしながら作家として自分の作品も撮っていきたいです。具体的にはまだどうすればよいのかわからないですが、雑誌などに持ち込みするところから始めるつもりです。

Miccyon 今年は大学の4年生になるんですけど、授業も少なくなったので夏休みにはTaffyに会いに東京に行こうと思っています。


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【写真展リアルタイムレポート】
「エプソンカラーイメージングコンテスト」(2006/02/06)




内原 恭彦
(うちはら やすひこ)1965年生。東京造形大学デザイン科中退。絵画やCGの制作を経て、1999年から写真を撮り始める。
2002年エプソンカラーイメージングコンテストグランプリ受賞、2003年個展「BitPhoto1999-2002」開催、2003年写真新世紀展年間グランプリ受賞、2004年個展「うて、うて、考えるな」開催
http://uchihara.info/

2006/04/20 01:30
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