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【写真展リアルタイムレポート】
「エプソンカラーイメージングコンテスト」

~デジタル時代の新人作家発掘イベント
Reported by 市井 康延

国際フォーラムでは、壁一面の展示だったが、エプサイトではさらに広いスペースが使えるので、また違う作品世界を見せてくれるはずだ
 新人作家の登竜門のひとつとして定着した観のある「エプソンカラーイメージングコンテスト」。2005年の「受賞作品展」が東京・有楽町の国際フォーラム ロビーギャラリーで今日、2月6日(月)20時まで開催中。さらに2月8日(水)~3月19日(日)には、場所を東京・新宿のエプサイトに移し、「カラーイメージングアワード」でグランプリを受賞した西村美智子さんの「Wonderland」と、グラフィック部門優秀賞の桑原英里(DONA)さんの「PARADISE」を展示する。10時半~18時。会期中無休。


応募者総数28,631人、半分は海外から

カラーイメージングコンテストの歴史を教えてくれたクリエイティブイメージングセンターの佐藤一幸課長
 少々、歴史を振り返ってしまうと、「エプソンカラーイメージングコンテスト」がスタートしたのは1994年。この年は、リクルートがプロデュースする新人賞(ガーディアン・ガーデンの「ひと坪展」)で蜷川実花さんが入選し、翌年には野口里佳さんがグランプリ、中野愛子さんが入選した。そしてキヤノンの写真新世紀ではHIROMIXが大きく世の中へ羽ばたいていった年だ。そのころのインクジェットプリンタの主業務は、オフィスのカラー文書を出力する機械であり、アートと接点はあまりなかった。

 以来、プリンターとカメラの技術革新と、この新しい表現ツールを手にしたクリエーターたちの模索の時間が続いた。エプソンがインクジェットプリンタで「フォト画質」を謳い始めたのは1997年頃からだが、コンテストに応募される作品が質、量ともに花開いてきたのが2002年頃からだ。前年から新設した「ファミリースナップアワード」が一般層の参加を広げ、応募者が1万人の大台に乗った。

 2003年からは自然をテーマにした「ネイチャーフォトアワード」が新設され、翌年、さらにポートレート、スナップを題材にした「ヒューマンライフフォトアワード」が加わった。既存の写真愛好家を取り込みながら数を増やし、現在は「ネイチャー&ヒューマンライフフォトアワード」として5万点を越す応募を集めている。2005年は海外からの参加が約半数を占めるに至り、応募者総数で28,631人に達している。

 過去のグランプリ受賞者を見ると、2001年には、海外の旅の一瞬一瞬を切り取るかのように、デジタルカメラで撮影して、「デジタル時代の新しい表現」と話題を呼んだ石塚元太良さんの「World Wide Wonderful」、翌年は、さらにその表現を推し進めた観のある内原恭彦さんの「Bit Photo 1992-2002」が登場した。さらに翌年は一転して、被写体を作りこみ、ユーモラスな虚構空間を作り上げた清真美さんの「熱帯家族」、「新釈肖像写真」が写真部門の優秀賞に入っている。

 そして昨年、銀塩写真以上にアナログな雰囲気が高く評価された永津広空さんの「closing doors」がグランプリを受賞したのは記憶に新しいところだ。受賞作品の一部を垣間見ているだけだが、デジタルカメラという新しいツールが表現者にどのように活用されてきたか、その変化がうかがえるだろう。

 これまであげた受賞作品はすべてカラー。インクジェットはモノクロが苦手との「定説」があり、それに証明するような結果ではあるが、ここにきてそこにも技術革新の手が入り始めている。3種類の黒インクにより、豊かなモノクロの階調表現を可能にする「PX-P/K3インク」が開発されたことだ。この新しいツールが、今後のデジタル表現に何らかの影響を与えることは確実だろう。


ブック形式での応募がほとんど

有楽町の国際フォーラム会場では、特設カウンターが作られ、各入賞者の作品集を手にとって鑑賞できた。エプサイトでももちろん見られるはずだ
 今年のカラーイメージングアワードのトピックは、写真部門の入賞者のほとんどが作品集という形式(ブック形式)で応募していることと、1冊の作品点数が100点を越えていたのが11点もあったことだ。ブック人気はコンテスト全体の傾向で、応募点数を大きく膨らませている。

 グランプリを獲った西村美智子さんの「Wonderland」は305ページからなる作品集だが、「その1点1点から目の力が伝わってくる」(藤原新也さん)と評価されている。多くの枚数が撮影できるフットワークの軽さが、デジタルカメラの特徴のひとつだったが、その作品の中身と意味は先の石塚、内原さんの場合とは違ってきているようだ。


 「写真を本格的に始めたのは、昨年の1月からなんですよ」と西村さんはいう。中学時代から写真を撮るのは好きで、コンパクトデジタルカメラは使っていたのだが、「それはあくまで遊びの範疇」だったからだ。

 その割には、それまでにデジタルカメラを11台使いつぶしたらしい。もっぱら、友だちの顔を撮り、A4サイズに16分割にしてプリントアウトし、ノートにまとめていった。

 「いまが一番可愛いときなんやから、残しとかなきゃもったいないで」といったノリで、制作したノートは15冊。プリントアウトした紙を貼るので、ノートは、もとの何倍にも厚くなって、西村さんの部屋にある。


グランプリ受賞者の西村美智子さん
西村さんの作品。「貴方の視線は、虚構的な世界も自分で日常歩いている世界も同じに見ている。そこが面白くて新鮮だ」(藤原新也評)

 最初、彼女が大学で目指したのは、服飾デザイン。が、早々に、服を作ることよりも、服を作るために使う写真のほうに興味が惹かれていった。

 「写真は毎日でも撮りたいと思ったけど、服は毎日作りたいとは思わなかった」とはご本人の弁だ。

 本人曰く「形から入るヒト」であることから、本格的に写真を始めるために、デジタル一眼レフ「ニコンD70」を購入した。が、最初はほっぽらかし状態。というのもピントの合わせ方から、操作方法、カメラのイロハを何も知らなかったからだ。

 その先生役になってくれたのが1年先輩の田福敏史さん。写真コンペで入選経験のある彼から、写真の基礎を教わった。そのあとは日々、365日、出かけるときはD70を首から下げて歩き、気に入ったシーンを撮影していった。

 「すごくケチなんですよ。たとえばディズニーランドに行ったら、ようけい、写真を撮っておかないともったいないと思う。思い出だけじゃ満足できない。写真という形にして、初めて満足できるんです。だから日常のなかでもそう。いいシーン、撮りたい風景があったら残しておかないと気がすまない。だからいつでもカメラがないともったいないと思ってしまう」。

 作品を作るにあたって考えた構成が、大学の友だちを被写体にした「ソーイングセット」というチャプターと、彼女がいいと思ったモノ、ヒト、風景を真ん中に持ってきてアップで切り取る「ワンダーランド」の2本柱だ。カラフルなソーイングセットの世界は、光沢紙を使い、対してワンダーランドはマット紙を選んだ。

 「服飾デザイナーである彼女たちは、服を作るソーイングセットで世の中とつながっている。そんな気持ちも込めたタイトルなんです。ブックでは、このふたつの世界を別々に並べたあと、このふたつをまぜこぜにした章を作ってみました。交じり合うことで、相乗効果が生まれないかと期待したんです」。

 そして、このアイディアも師匠である田福さんの考えだとか。ちなみに田福さんもこのコンテストに応募したが、入選にとどまった。弟子へのアドバイスに力を注ぎすぎてしまったのかもしれない。なお彼の作品「Taffy's Memo ‘vol.1、vol.2」は648頁2冊組で、数では西村さんをはるかに引き離している。

 閑話休題。西村さんの話に戻す。正確にはわからないが、撮影カット数は3万点。その中から約300点を選び抜き、プリンタで刷り出した。参考までに作品集1冊の制作費はインク代と紙代で約5万円。

 西村さんにとって、ブック形式での作品化は、これ以外ない形での選択だったという。たくさんのイメージの集積でしか伝わらない世界。今回の2つの入賞発表展では、セレクトした作品を壁面に並べるほか、作品集もカウンターで鑑賞できる。デジタル時代の表現を考察しつつ、イメージの奔流に身をゆだねてみよう。


出でよ熟年アーティスト

本文中には出ていないが、準グランプリは13歳の少年が受賞。そのイメージの広がりと、線の力強さ、鋭さは圧倒的だった
 蛇足だが、各コンテストの応募者年齢分布を見ると、ピーク年代がカラーイメージングアワードは20代、ネイチャー&ヒューマンは60代、そしてファミリーは女性が過半数を超えて30代となっている。ばっちり想定の範囲内の応募者傾向だ。

 が、それ以外の年代でも才能を発揮している人はいるのだ。「去年のイメージングアワード入賞者で、年配の方がいらっしゃいました。学生時代、アートを学び、仕事、子育てにひと区切りが付いたことで、再びアートを楽しみ始めたそうです。こうした熟年のアーティストが今後、増えていってほしいし、実際、増えるのではないかと推測しています」と佐藤課長はいう。だからこそ、幅広い年代の人に、この入賞発表展は足を運んでもらいたいと思う。



URL
  カラーイメージングコンテスト
  http://www.epson.co.jp/contest/



市井 康延
(いちい やすのぶ)1963年、東京都生まれ。あの北島商店の肉を食べて育つが、水泳は大の苦手だった。写真とは無関係の生活を送り、1995年から約9年間、フォトギャラリーのスケジュール情報誌の制作に携わる。「写真に貴賎はない」が持論。

2006/02/06 15:26
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