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2008年

変わりゆく「フォーマット優劣論」


D700の撮像素子。35mmフルサイズにほぼ等しい36×23.9mmのCMOSセンサーを採用

 ニコンが35mmフィルムと同じ撮像面積を持つセンサー、いわゆるフルサイズセンサー(ニコン式に言えばFXフォーマット)を搭載するミドルクラスのデジタル一眼レフカメラ「D700」を発売したが、ご存知のように、この後にはソニーαシリーズのフルサイズ機投入が予定されている。加えて、キヤノンも昨年からEOS 5Dの後を受ける製品を開発していることを明言しており、近い将来、こちらも発表されることになるはずだ。

 “中判一眼レフを開発したら、その後はフルサイズも……”と意欲を見せているペンタックスも数に入れるなら、センサーサイズがマウント規格とセットで決められているフォーサーズを採用するメーカー以外は、(ペンタックスはやや遅くなるだろうが)すべてフルサイズ化されることになる。

 今年後半、店頭ではエントリークラスの激しい戦いと同様、“普及型フルサイズ機の戦い”が繰り広げられることになるのだろう。しかし、フルサイズセンサー機の低価格化と普及が、デジタル一眼レフカメラが目指すべきゴールなのかというと、そのように思っているメーカーは1社もないはずだ。

 これからは、フォーマットサイズを用途と目的に合わせ、自由に選ぶ時代になるだろう。


フルサイズ待望論とAPS-Cサイズの台頭

 振り返ると一眼レフデジタルカメラの黎明期は、フィルム時代に設計・熟成された銀塩一眼レフカメラの持つ性能や機能性を、デジタルの時代にもそのままの感覚で使いたいという欲求を満たすことから始まった。

 それはシャッターが切れるまでのタイムラグであったり、ファインダーの見え味だったり、数値に表れないような気持ちの良さ、画質などもあったが、当時から話題に上がることが多かったのが、フルサイズセンサー待望論だった。

 半導体製品である撮像素子は、面積が広くなるほど、ひとつのウェハからの収量が少なくなる上、歩留まりも下がる。加えて高精細な回路を露光する装置は、当時最大のものでもAPS-Cサイズが限界だった。現在でもそれは同じだが、歩留まりの向上やウェハサイズの拡大などにより、フルサイズセンサーもやっと実用域に入ってきたというのが、ここ1~2年のこと。

 ところが、フルサイズセンサーのコストが、やっと現実的な領域にさしかかってきた昨今、デジタル一眼レフカメラを取り巻く状況は変化した。

 フルサイズセンサー待望論が、特にハイエンドアマチュア層に根強かったのは、銀塩一眼レフカメラで慣れた焦点距離と画角の関係、あるいは焦点距離と被写界深度の関係に慣れていたからだ。加えて35mmフィルムを前提に構築されていたレンズシステムでは、APS-Cサイズセンサー機において広角側のレンズ選択肢が狭いといった問題もあったからだ。

 しかし、現在はAPS-Cサイズセンサーを前提としたレンズが多数存在する。加えてユーザー層も大きく変化し、今や“フルサイズ”の一眼レフシステムを知らないユーザーの方が多いほど。一眼レフカメラの中にあってマイノリティだったAPS-Cセンサー搭載機は、今や圧倒的な多数派だ。この状況下にあっては、フルサイズの方が特殊なカメラとも言えるのが現状だ。

 もちろん、撮像素子の大きさは大きな利点ではある。実効感度の面においても、高画素化という面においても、フルサイズセンサーは圧倒的に有利だ。受光部が大きくなるのだから当然と言えよう。

 しかし、この状況は技術的なブレークスルーによって一変する可能性がある。


流れを変えるか「裏面照射型」

 6月にソニーが試作を完成させたことで話題になった「裏面照射型」と呼ばれるセンサーを憶えている方も多いと思う。通常のCMOSセンサーは光を電荷へと変換するフォトダイオード層の上に、配線やアンプなどを形成する層を重ねて作られる。このため、回路で遮られる分だけ開口率が下がる上、斜めからのの入射光を100%フォトダイオードに導くことができない。

 そこでセンサーの裏面に露出させたフォトダイオードを露光させることで大幅に開口率を上げたのが裏面照射型センサーだ。開口率が大きく向上することから、高感度時の画質向上が著しいと考えられるが、実際、ソニーの発表では試作センサーにおいてS/N比が8dBも向上したという。さらに斜めからの光を邪魔する配線が存在しないため、光の射入角が浅くなることでフォトダイオードに光が届かなくなる問題も解決できる。


CMOSセンサーおけるに表面照射型と裏面照射型の断面比較(ソニー提供)


 歩留まりが高くないうちは、携帯電話やコンパクトカメラなど、小型の撮像素子で導入されることになるだろうが、いずれはノウハウの蓄積により、大型のセンサーも作ることができるようになるだろう。

 裏面照射型センサーはソニーだけでなく、オムニビジョンも開発完了を5月に発表しており、同社の発表によればすでにサンプル出荷を開始しているようだ。ソニーがまだ製品にもなっていない試作センサーの製造成功を発表したのは、おそらくオムニビジョンの発表を受けてのものだろう。

 しかし、裏面照射型センサーはオムニビジョンだけのものでも、ソニーだけのものでもない。同様の構造を用いることで、画素の微細化に対応するというアイディアは、他のセンサーメーカーも取り組んでいるテーマだと聞いている。

 出荷のタイミングはセンサーメーカーごとに異なるだろうが、いずれ、カメラ向けCMOSセンサーは(ローエンド製品向けを除き)裏面照射型へと移行していくことになるだろう。

 CMOSセンサーのS/N比が大きく向上すれば、サイズの小さいフォーマットが持つ弱点が大幅に緩和される。銀塩フィルム時代も、フィルム性能の向上とともに、小さなフォーマットへの移行が進んだ。無論、大きなフォーマットが持つ利点が失われるわけではないが、S/N比が改善されることで小さなフォーマットの利点がより際だってくるとは言えるのではないだろうか。

 裏面照射型センサーが一眼レフカメラ向けにも使われるようになれば、APS-Cセンサーで充分だという人が大幅に増加するに違いない。繰り返すが、フルサイズの良さがなくなるわけではなく、より小さいサイズのセンサーでも充分と考える人の割合が増えるということである。いや、APS-Cどころではない。これまで高感度時のS/N比が悪いことで辛酸をなめさせられてきたフォーサーズこそが、裏面照射型センサー時代に元気になるのではないだろうか。

 撮像素子技術のブレークスルーは、“センサーサイズ”で見た時の勢力図を大きく変えてしまうパワーがある。しつこいが、フルサイズフォーマットがダメになるという話ではない。用途や目的に合わせて、S/N比という要素をあまり考慮せず、最適なフォーマットサイズを選べるようになるということだろう。

 そんな折、オリンパスとパナソニックが発表したマイクロフォーサーズは、実によいタイミングでアナウンスされた。


可能性を広げる「マイクロフォーサーズシステム」

マイクロフォーサーズシステムのロゴ。具体的な製品発表の時期は未定
 おそらく2年ほど前だったと思うが、筆者はオリンパスのカメラ開発に携わる人物と「今のフォーサーズはサイズが大きすぎて、フォーマットサイズの小ささを活かせていない。バックフォーカスを詰めて、ペンタックスのオート110のようなコンパクトシステムは作れないものか。レフレックスじゃなく、コンタックスG2のようなシステムでも構わない。その方が、絶対に多くの人が“欲しい”と思うユニークな製品になる」といった話をしたことがあった。ご存知の方も多いと思うが、フォーサーズのセンサーサイズは、かつての110フィルムとサイズがほぼ同じ。110フォーマットフルサイズセンサーと言えなくもない大きさだ。

 その時は「バックフォーカスを詰めるの?どれくらい? う~ん……」と、あまりよい反応ではなかった(デジタル時代の最適フォーマットとして生まれたフォーサーズだけに、バックフォーカスを詰める(≒フランジバック短縮)ことに抵抗があったのかもしれない)。その後わかったことだが、同じようなことは誰もが考えるようで、同様の提案は何人もの人がオリンパスにしていたそうだ。


 5日に発表された追加規格の「マイクロフォーサーズシステム」では、フランジバックが約半分になり、マウント径も6mm縮小するという。これではオリンパスが一貫して主張してきた、テレセントリックについての優位性が薄れる印象を与えかねないだろう。しかし、裏面照射型センサーやローパスフィルタレス化といった将来の技術像を考えると、フォーサーズ規格が決まった当時ほどには、光学的なテレセントリック性能は重要ではなくなると考えられる。

 いや、ここまで大胆な新マウントともなれば、あるいは新型センサーの完成を見越した上での新マウント発表とも考えられる。将来のビジョンもなく、新しいマウント規格など発表するはずもない。


ボディとレンズの大幅な小型化が見込めるという

マイクロフォーサーズシステム規格では、フランジバックとマウント径が縮小


 マイクロフォーサーズはフランジバックの短さから考えて、クイックリターンミラーを採用しない、電子式ビューファインダー専用規格になるとみられる。発表内容でも「レンズ交換式デジタル一眼システムの大幅な小型・軽量化を実現できる……」と書かれ、、デジタル一眼“レフ”システムという言葉とは明確に区別している。

 高速コントラストAFの性能向上の見込み、センサー技術の進歩、それに画像処理プロセッサなどの高速化によるEVF品質の向上といった将来のトレンドを見越した上だとするなら、“デジタル一眼”の可能性を大きく広げる画期的な製品になるかもしれない。



URL
  バックナンバー
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/trend_backnumber/

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オリンパスとパナソニック、「マイクロフォーサーズシステム」規格を発表(2008/08/05)
ソニー、感度が従来比2倍のデジカメ向けCMOSセンサー(2008/06/11)



本田 雅一
PC、IT、AV、カメラ、プリンタに関連した取材記事、コラム、評論をWebニュースサイト、専門誌、新聞、ビジネス誌に執筆中。カメラとのファーストコンタクトは10歳の時に親からお下がりでもらったKonica EE Matic。デジタルカメラとはリコーDC-1を仕事に導入して以来の付き合い。

2008/08/07 11:39
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